業界動向
荒波に揉まれる展開の韓国ゲーム業界。昨今のキーワードは「終了」と「訴訟」
・Dynamis One,新作「Project KV」の発表からわずか18日で制作中止を発表。「ブルーアーカイブ」との類似性が波紋を呼ぶ
・NCSOFT,第一審で勝訴した「R2M」と「リネージュM」の著作権訴訟で,賠償金を600億ウォンまで拡大してWebzenに提訴
・Smilegate,資産管理会社による1000億ウォン規模の損害賠償訴訟がはじまる。転換社債を負債とみなすかどうかが争点に
新作ゲームの情報公開は,ゲーマーにとって新たな楽しみが増えるわけで,どの国のゲームユーザーにとってもワクワクするものだ。半面,ゲームのサービス終了は残念なニュースの筆頭だ。会社的にはサービスを維持できない状態だから決断したのだろうが,ゲームに愛着を持って最後まで残っているユーザーからしたら,もはやゲームの世界に入れないという寂しさを感じざるを得ない。
最近の韓国ゲーム市場では,新作ゲームの情報公開とサービス終了に関連して,大きな問題が起きている。新作の情報公開とサービス終了は,まったく逆の意味を持つが,今回に関しては一つの単語が両者を横断している。その主役は,WebzenとDynamis Oneだ。
Webzenのサービス終了と,その行動の問題点
MMORPG「MU」で有名なWebzenが最近,複数のゲームのサービス終了に関連してユーザーの怒りを買っている。課金を誘導するイベントを開催した直後に,サービス終了を発表したからだ。
特にMMORPG「MU Origin」では,9年間のサービスを終了すると発表し,その返金対象を「保有している有料アイテム」に限定すると告知した。
長期的なゲーム運営を示唆するようなコンテンツを公開しておきながら,突然のサービス終了を発表したことにユーザーが反発している。さらに,終了発表後も現金アイテムを消費するイベントを行ったことで,ユーザーはWebzenに対する団体訴訟を準備し,公正取引委員会にも調査を要請している。
しかしそれでもなおユーザーの怒りは収まらず,課金を誘導するために行われた課金イベントで,上位を席巻して消える"スーパーアカウント"についてもプレイヤーから解明を要求された。
そんな「MU Origin」以外にも,日本の有名IPである「陰の実力者になりたくて!」をベースに作られたモバイルRPG「陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン」(iOS / Android / PC)のサービス終了発表にも問題があったことが判明した。
「陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン」は,2023年10月に韓国でリリースされ,2024年8月22日にサービス終了を発表した。10月頃にサーバー終了が予定されているので,1年で満了してサービスを終了することになる。
本件については,2024年7月末ごろに,当該ゲームが10月にサービスを終了するという内容のお知らせが流出し,オンラインで広まり始めた。これを見たユーザーはその内容をWebzenに問い合わせ,Webzen側は「検討中のそのような事項はない」というスタンスを明らかにした。
そして8月22日に最後のキャラクターである「エリザベート」がリリースされたが,なんとWebzenは,メンテナンス後にキャラクターリリースと同時にサービス終了を発表した。Webzenは今年初めからキャラクターのリリース予定を早めており,先行してリリースした日本にアップデートコンテンツを間に合わせるようにしたこの動きが,プレイヤーにとっては欺かれたように感じられたのだろう。
払い戻し対象も「MU Origin」の初期告知と同様に,使用せずに保有しているアイテム(有料幻魔石)に限定した。ユーザーは日本またはグローバルサーバーへのアカウント移転を要求したが,Webzen側はこれを無視しているという。このような状況に「陰の実力者になりたくて! マスターオブガーデン」と「MU Origin」のプレイヤーは連帯して訴訟を進めるかもしれない。
「Project KV」が,新作発表してわずか18日で制作中止と発表。「ブルーアーカイブ」との類似性が波紋に
Dynamis Oneは,Nexon Games MXスタジオで「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」(iOS / Android)の日本地域PDと韓国PDを務めたパク・ビョンリムPDが,2024年4月に退社後に設立した開発会社だ。設立後に公開した会社のロゴには「オタクの夢を実現させる」というフレーズがあり,商標権を申請したゲーム名である「Project KV」は日本語で表記した。それくらい日本市場をターゲットに新作を開発しているという意思を示したわけだ。
会社設立後,「ブルーアーカイブ」のディレクタークラスのコアメンバーが次々とDynamis Oneに加わったことも目立つ動きとなった。アートディレクターのキム・イン,シナリオディレクターのヤン・ジュヨン,ゲームデザインディレクターのイム・ジョンギュをはじめ,ゲームのイラストを担当したDoReMi,Mx2Jなど,様々な人物が参加した。
このあたりまでは,ユーザーの反応は期待が大きかった。韓国と日本で大成功を収めた「ブルーアーカイブ」を作ったメンバーが集まっただけに,それに匹敵するような新しいゲームが期待されていたのだから。
特にユーザーが指摘するのは「ヘイロー」だ。「ブルーアーカイブ」IPの視覚的象徴性として掲げられているのが,キャラクターの頭上にある円形の枠である「ヘイロー」だが,それと同じ概念の「光輪」が登場したのだ。
isakusan氏をはじめとした元「ブルアカ」スタッフたちが手がける「Project KV(仮称)」,キャラクターや世界観などが明らかに
Dynamis Oneとスタジオアラヤは2024年9月1日,新プロジェクト「Project KV(仮称)」のティザーPVとティザーサイトを公開した。複数の寮が集まる「学寮都市カピラ」を舞台に,日本刀を携えた少女たちの青春物語が始まる。ティザーPVでは,寮やキャラクターの情報が明らかになった。
そのため,「Project KV」を「ブルーアーカイブ」の続編またはスピンオフゲームと誤解するユーザーも出てきた。これに関連し,MXスタジオのキム・ヨンハ総括PDは,「Project KV」は「ブルーアーカイブ」の外伝ではない」という日本語の投稿をリポストし,直接的にも間接的にも関連性がないことを表明していた。※
さらに,開発の主要人物達の合流は2024年5〜6月ごろだと言われているが,その合流した時期に比べて成果物があまりにも早く出ている点も疑惑を強めている。韓国の匿名職場コミュニティアプリでは,今回の問題に関連した人物が退社前に長期在宅勤務と長期休職をしたため,この時からすでに作っていたのではないかという推測が提起されたことがある。
※2024年9月17日 19:48 初出時,事実誤認がありました。お詫びして訂正いたします。
このような状況は,Nexonにとっては経験済みだ。現在,法的紛争が進行中の「Dark and Darker」は,開発中のプロジェクトの主力スタッフが退社して新会社を設立し,ここにプロジェクトスタッフが加わっていった。そして,開発中のプロジェクトと似たようなゲームをかなり早い時期に発表していた。
「Dark and Darker」の場合,まだ訴訟が進行中なので,結論がどうなるかは分からないが,Nexonの立場から見ると,似たような状況が再び起こったと見ることができる。もちろん核心的な部分で違いはあるが,道義的な部分で同じように感じているだけに,ユーザーのマインドはどんどん悪化している。
ユーザーの否定的な反応は,韓国よりも日本でより大きく出ているようだ。日本のユーザーが盗作に敏感だという部分もあるだろうが,日本の2次創作物市場で強力なIPとして浮上した「ブルーアーカイブ」に対するユーザーの愛情が垣間見えているのかもしれない。
さらに,「Project KV」のキャラクターや世界観に別の設定を入れてからかうなど,IPに対するイメージがどんどん悪化し始めた。このような状況が続いて,結局Dynamis One側は開発中止という決断を下した。
去る9月8日,Dynamis Oneは,同社の公式SNSを通じて「問題と騒動でご心配をおかけした点、深くお詫び申し上げます」という謝罪とともに「Project KV」の開発中止を発表した。公式に作品詳細を公開してからわずか8日後のことだ。
Dynamis One側は「弊社の至らなさにより生じた多くのご懸念、お声に関しまして、どのような決定をし、お答えするべきか深く悩みました。私たちの未熟さが皆さまにこれ以上のご迷惑をおかけしないため、「プロジェクトKV」を中止することにいたしました。」と明らかにした。
非常に短期間で話題となった「Project KV」の問題は,こうした顛末を迎えた。Dynamis One側は内部を再整備した後,新しいプロジェクトを準備するものと思われる。ただ,最初の一歩から大きな論争を巻き起こしただけに,次期プロジェクトに対するプレッシャーが大きいと予想される。
Dynamis Oneの新作の問題,そしてWebzenのサービス終了の問題は,結局「企業がユーザーをどのように考えているか」を示す事例と言える。自社のゲームを楽しみながらお金を使ったり,自社の歩みを応援していた人たちに,失望を与える状況が起きたのだ。
オンラインとモバイルゲームは,結局のところサービス産業の一種であり,ユーザーのことを考え,彼らが望む方向を見据えつつ,企業とユーザーの進みたい方向の調整をしながら運営が行わなければならない。それがうまくいけば,ゲームはもちろん,ユーザーが会社に愛着を持ち,お金を出してくれるようになるのだ。
もし謝るべきことが起きたらキチンと謝り,また別の論争へと飛び火していくのを防止しなければならない。そうしてユーザーの信頼を回復しなければ,ユーザーは彼らのゲームから離れてしまうかもしれないのだ。
NCSOFT,第一審勝訴した「R2M」と「リネージュM」の著作権訴訟を,賠償金を600億ウォンまで拡大してWebzenに提訴
NCSOFTとWebzenの間で進行中の著作権訴訟において,請求額が600億ウォンに確定した。
NCは9月6日,Webzenを相手取った著作権侵害中止などの請求訴訟の過程で,請求趣旨および請求原因変更申請書を提出し,請求額を確定したことを明らかにした。
この訴訟は,2021年6月にNCがWebzenを相手に提起したもので,WebzenのモバイルMMORPG「R2M(R2 Mobile)」(iOS / Android)がNCの「Lineage M」(iOS / Android)のコンテンツとシステムを模倣したことが理由だった。当初の損害賠償請求額は11億ウォンだ。
2023年に一審の結論が出され,NCが勝訴した。ソウル中央地裁は著作権侵害ではなく不正競争防止法違反に基づき,WebzenにNCへの10億ウォンの支払いと「R2M」のサービス停止を命じた。Webzenは仮処分申請を行い,現在もサービスを継続している。
韓国ゲーム市場に,著作権を積極的に保護する動き。開発ムードに変化が訪れる
ゲームに「パクり」は付きものだし,日本を含めた世界のゲーム業界で,それらがまったくなかったことはないはずだ。しかしどこからが「パクり」でどこまでがOKなのかの線を引いた人は,まだいない。この判決が,その端緒となるのだろうか。
NCは,一審の請求金額は実際の被害額の一部に過ぎないとして控訴を行い,請求範囲の拡大を予告していた。2023年9月に控訴を提起し,今年5月に第一回弁論が行われた。
そして今回,NCは請求額を600億ウォンで確定し,Webzen側に通知した。これは「R2M」の著作権侵害によるNCの被害額の最終算定額である。NCは一審で言及された10億ウォンの即時支払いと,残り590億ウォンおよび年12%の利子の支払い,さらに「R2M」のサービスおよび広告の中止を要求している。これに対しWebzen側は「訴訟代理人と協議し,法的手続きに則って対応する」と述べている。
9月12日に行われた第二回弁論では,NCとWebzenの間で激しい議論が交わされた。NCは「Lineage M」と「R2M」の実質的な類似性よりも,「成果物の盗用行為」に焦点を当てて主張を展開した。NC側の代理人は「R2M」の「Lineage M」模倣は開発初期段階から計画された結果物とし,「被告は原告のゲームと類似して発売した後,必要な要素だけを追加した」と述べた。
一方,Webzenは,NCが主張する成果物自体が虚構だと反論した。「原告が主張する5つのシステムの組み合わせを導入するためにどのような投資と努力をしたのか全く証明できていない」とebzen側の代理人が指摘した。
裁判所は両社の主張を聞いた上で,Webzen側に対して「複数のゲームのルールをうまく組み合わせて新しいゲームを作り,抽象的な部分を魅力的にすれば,これは模倣を超えた成果ではないか」という疑問を呈した。そして,Webzen側に追加の反論資料の提出を求めた。
次回の弁論期日は10月24日に決定され予定されている。
Smilegate,資産管理会社による1000億ウォン規模の損害賠償訴訟が開廷。転換社債を負債と見なすかどうかが争点に
MMORPG「LOST ARK」の開発元であるSmilegateは,資産運用会社との法的争いに巻き込まれている。2023年11月,Rhinos資産運用がソウル中央地方裁判所でSmilegateを相手取り,契約違反に関連する損害賠償と支払いを求める訴訟を起こした。その第一回目となる公判が,この8月22日に行われたのだ。
事の発端は,2017年に遡る。
Smilegateは200億ウォン相当の転換社債(CB)を発行し,Rhinos資産運用がこれを投資案件として購入した。この投資条件には,CBの満期直前の会計年度の純利益が120億ウォンを超えた場合,Smilegateが株式公開(IPO)を行うという条項が含まれていた。
2022年,RhinosはSmilegateの2022年度純利益が120億ウォンを超えたと主張し,2023年にIPOを開始するよう要求した。この要求は,2021年に「LOST ARK」のプレイヤー数が大幅に増加し,Smilegateの収益が急増したことが背景にある。なお同社は,2022年に7369億ウォンの売上高と3641億ウォンの営業利益という印象的な数字を報告した。
Rhinosは,2023年11月のCB転換期限前にSmilegateが上場し,IPO後に株式を売却して利益を最大化することを望んでいた。しかし監査の結果,同社は1426億ウォンの純損失を計上していたことが判明した。これは,CBを負債として認識する会計基準によるもので,デリバティブ商品の評価損失が推定5357億ウォンに上ったためだ。
Rhinosによると,この純損失は単なる会計上の問題であり,SmilegateはCBを負債ではなく資本として認識することもできると主張している。彼らは,同社が意図的に上場を回避したことで1000億ウォンの損失が生じたとして,法的措置を取った。Rhinosはまた,負債分類が適切だったかどうかを確認するため,監査報告書へのアクセスを要求した。
これに対しSmilegateは,上場条件は純利益目標のみに基づいており,特定の評価額に達した際にIPOを義務付ける契約上の合意はなかったと反論した。また監査報告書の開示要求に対しても,無関係な情報が漏洩する可能性を懸念して反対した。その結果,両者は要求される情報の範囲を制限することで合意した。次回の公判は11月7日に予定されており,どうなるのか行方を見守りたい。(著者:パク・サンボム,ザン・ヨングォン)
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