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[インタビュー]障碍のあるゲーマーはどのようにゲームを楽しんでいるのか? 当事者に聞く,ゲーム環境構築とアクセシビリティ
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印刷2024/12/14 12:00

インタビュー

[インタビュー]障碍のあるゲーマーはどのようにゲームを楽しんでいるのか? 当事者に聞く,ゲーム環境構築とアクセシビリティ

ePARAとByoWave。企業と障碍当事者がともに歩みながら拡大していく,アクセシビリティの可能性


 アイルランドに拠点を構えるByoWave社が開発した「Proteus コントローラー」(以下,Proteus Controller)は,Adaptive Controllerのように3.5mm型のデバイスを用意することを前提とした「ハブ型」ではなく,それ自体が単体で機能することを目的としたアクセシビリティ・コントローラである。

 サイコロ型のモジュールを組み合わせて形を作り,モジュールの各面にボタンやスティックを配置することで,ユーザーの一人ひとりに合った形のコントローラを(ある程度)自由に作ることができるProteus Controllerは,前編のインタビューでケイトリン氏も重要視していた「カスタマイズ性」を,これまでにないほど高いレベルで実現している(Xboxも「Designed for Xbox」プログラムを通して,開発に協力している)。

 このProteus Controllerと,開発を手掛けたByoWave社に深く共鳴したのが,日本でバリアフリーeスポーツの推進活動に取り組むePARAである。今回は,同社のCMOを務める細貝輝夫氏に,2024年の両者の取り組みを振り返るコラムを執筆頂いた。

 バリアフリーeスポーツを提唱するePARAが,Proteus Controllerを提供するByoWave社と出会ったのは2024年1月のことだ。

 「本気で遊べば,明日は変わる。」を合い言葉に障碍当事者の活躍支援を行うePARAと,エーラス・ダンロス症候群(皮膚や関節,血管など全身の結合組織が脆弱になる遺伝性疾患)の友人にゲーム環境を整えたい想いから開発を開始したByoWave社。JETRO(日本貿易振興機構)の協業連携支援で引き合わせを受けた両社は双方の価値観に共鳴し,共創の準備を開始した。今回は,ePARAが2024年に行ったProteus Controllerとのコラボ企画と,参加者の声を紹介したい。

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Proteus Controller × ePARAイメージ写真



Proteus Controller社内体験会


 2024年2月,パラeスポーツプレイヤーがProteus Controllerを直接体験する社内イベントを開催。ByoWave社のBrandon Blacoe氏がアイルランドから来日し,ePARA社員を含めて約10名がProteus Controllerを体験した。体験者の声は,以下の通りだ。

◆アフロ (脳性麻痺:ePARAユナイテッド)
 自分の可動域に合わせてカスタマイズできるのは魅力です。脳性麻痺は,同じことを繰り返し行って学習することでできることが広がるので,自分に合った組み合わせを探してもっと使いこんでみたいと思いました。

◆羽飛(脳性麻痺:ePARAユナイテッド)
 まず,海外でもアクセシブルなコントローラの開発が進んでいることをうれしく思いました。私はゲームを自己実現とリハビリの2つの用途で使っています。肢体不自由の人がもっとゲームを楽しめる環境が増えたらいいと思います。

◆外尾勝則(株式会社ePARA テクニカルマネージャー)
 カスタマイズ性とスタイリッシュさを兼ね備えたProteus Controllerは,パラeスポーツプレイヤーだけではなくガジェット好きなゲーマーの方々にも楽しんでもらえる魅力があると思います。

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Brandon氏に操作方法を教わるアフロと羽飛(ePARAユナイテッド)

 ByoWave社はこの時の様子をYouTube動画で発信している。



東北最大級の格闘ゲームイベント「HACHIMANTAI 8 FIGHTS’24」


 2024年秋。ePARAがより多くの方にProteus Controllerの魅力を体感してもらうべく,3つの企画を用意した。

 1つ目は,9月14日〜15日に岩手県八幡平市で実施したストリートファイター6のイベント,「HACHIMANTAI 8 FIGHTS’24(通称:ハチエフ)」関連記事)。

 ハチエフは,障碍の有無や環境に関係なく誰でも楽しくゲームできる機会づくりを目指している。筋ジストロフィーにより,アゴでコントローラを操作するJeni(ハチエフのプロデューサー)もまた,Proteus Controllerの可能性を感じているメンバーのひとりだ。ハチエフでProteus Controllerの試遊スペースを企画したJeniは,その意図を以下のように語る。

◆Jeni(筋ジストロフィー:株式会社ePARA イベントプロデューサー)
 障碍の特性が多種多様なように,最適なコントローラの形も多種多様です。しかも最適かどうかは,じっくり時間をかけなければ分かりません。自分に合ったスタイルを探せるコントローラの存在は,障碍を持つゲーマーにとっては大きな希望だと思うんです。ただ,実際に購入するのはハードルが高いですし,購入しても必ずしも自分に合った使い方を見つけ出せるかは分かりません。これをひとつの「バリア」としてとらえ,ハチエフがこうした「バリア」を少しでも軽くする機能を果たせたらと思い,試遊スペースをつくりました。

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ハチエフで参加者にProteus Controllerの仕組みを説明する様子


H.C.R.2024 エンジョイアクティブゾーン


 次の企画は,10月2日〜4日に東京ビッグサイトで開催されたH.C.R.2024(第51回国際福祉機器展)内のエンジョイアクティブゾーン。

 バリアフリーeスポーツ体験コーナーの一部にProteus Controllerの試遊スペースを用意した。初日と2日目の会場にはByoWave社のBrandon氏も駆けつけ,来場者の体験をサポートした。当日活動したePARAスタッフも,Proteus Controllerに触れて感じたことが多かったようだ。

◆もえ(シャルコー・マリー・トゥース病:ePARAユナイテッド)
 両手指が自由に動かない私ですが,FPSをもっとやってみたいと思っていました。Proteus Controllerの使い方を開拓できれば,プレイできるゲームタイトルも増えるかもしれないです。

◆友高隼人(株式会社ePARA テクニカルスタッフ)
 私はハチエフで初めてProteus Controllerに触ったのですが,その独自性に衝撃を受けました。おもちゃを組み立てるように自分の使いやすい形に組み換えをしている時はかなりワクワクします。自分の身体に合わせてカスタムできるのはもちろん,組み換えた後に「もっとここをこうしたら良くなるかも」と思考錯誤するのが楽しい,そんなコントローラでした。

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Proteus Controllerの操作方法を教わるもえ【ePARAユナイテッド】



H.C.R.2024 トークショー


 また,H.C.R.2024のエンジョイアクティブゾーンでは,バリアフリーeスポーツに関連した6テーマのトークショーを実施。そのひとつではByoWave社のBrandon氏が登壇し,「世界に発信する障害×ゲーム -ゲームアクセシビリティが拓く可能性-」について議論した(関連記事)。登壇を共にした2人は,そこで感じたことを振り返る。

◆加藤大貴(株式会社ePARA 代表取締役)
 ByoWave社のユーザーの声を傾聴するスタンスは,親和性が高い大きなポイントです。また,ePARAのパートナーであるYogibo社サイコム社の製品ともバリアフリーな社会を共通して目指している点でとても相性がいいと感じています。これからも国境を超えたアクセシビリティの取り組みを共創していきたいですね。

◆NAOYA(先天性全盲:株式会社ePARA アクセシビリティコンサルタント)
 これまでのようにソフト側から設定画面でキーコンフィグを変えるだけにとどまらず,ハード側から自分にとって使いやすい形でゲームを楽しむことができることに可能性を感じます。将来的には全盲ゲーマーへのおすすめコントローラなども開拓してみたいと思いました。

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H.C.R.2024内でProteus Controllerについて議論する様子



アクセシビリティ・コミュニティの重要性


 H.C.R.2024のトークショーでBrandon氏は,「ePARAのようなアクセシビリティ・コミュニティと連携したり,作業療法士のような障碍の現場で活動している人と協力を重ねたりといった活動を続けることで,コミュニティの拡大を目指していきたい」と語った。

 優れた製品の開発には利用者のニーズや課題解決に寄り添うことが不可欠な一方,十人十色の障碍特性に合わせて製品改良をしていくことは容易ではない。それを実現していくには,目指す社会や実現したい未来を共有するアクセシビリティ・コミュニティが知見やアイデアを持ち寄って,よりバリアフリーなゲーム環境づくりに向けた努力を重ねていくことが大切になっていくだろう。
(細貝輝夫:ePARA CMO)

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