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経済メディアのNewsPicksが,なぜカードゲームを作ったのか。目指す先は読者の“ニュースを選ぶ力”を養うこと?
「NewsPicksがカードゲームになりました」
NewsPicksはオリジナル記事や番組のほか,複数の提携メディアから経済・ビジネスに関するニュースをまとめて配信しているソーシャル経済メディアだ。提携メディアからのニュースをキュレーションする場合も,単に集約するだけでなく,専門家による解説コメントや読者の感想なども合わせて掲載されるのを特徴としている。つまりはマジメな(?)経済メディアであり,一見してカードゲームとは無縁そうなのだが……いったいどういうことなのだろうか。
そのゲームのタイトルは「#キニナルニュースタグ」。近年は企業研修や教育を目的としたアナログゲームが話題になることが多く,ゲームの教育効果(ゲーミフィケーション)にも注目が集まっているので,そうした流れの中にある作品かもしれない。そんなわけで,今回はゲームの体験会に参加しつつ,制作の経緯などを聞いてみることにした。
「NewsPicks」Webサイト
自分が興味のあるニュースを探すカードゲーム
今回の体験会は,NewsPicksが実施しているユーザー向け交流イベント「NewsPicks User's Session」の一環として行われた。これは,いわゆるワークショップ型のイベントで,ユーザー間での交流を促しつつ,NewsPicksアプリの使いこなすためのレクチャーを行うことが主眼に置かれている。
「#キニナルニュースタグ」はその補助を担うもので,これを使って“自分が興味があるニュースタグ”を探すことが目的となっている。
ルールは至って簡単だ。各プレイヤーに3枚のカードがランダムに配布された状態から,「山札からカードを1枚引く」または「捨て札置き場のカードを1枚選んで取る」のいずれかを実行し,手持ちのカードと入れ替えていくだけ。
各カードには「ニュースカテゴリ」と「ニュースタグ」が記載されており,より興味が持てるものが手元に残るようにゲームを進めていく。選ばれなかったカードはすべて捨て札に送られるので,ゲームが進むほど選択肢が増えていく格好だ。
ちょっと面白かったのは,カテゴリの表記がない「???」カードの存在だ。このカードにはタグの表記がなく,興味のあるタグを直接書き込める。
記載されているカテゴリとニュースタグは,いずれもNewsPicksで実際に使用されているものだが,すべてが網羅されているわけではない。これを使うことで,自分にとってより馴染のある3枚セットを作れるわけだ。
駆け引きの要素が存在せず,ゲームそれ自体に会話を促進するメカニクスもないので,正直なところゲームとして評価するのは難しい。どちらかといえば,オフラインイベントにおける自己紹介レクリエーションに近い印象だった。
とはいえ,最終的には興味のあるニュースカテゴリを見つけることはできたので,目的は達しているといえる。どうしても受動的になりがちなワークショップに,能動的に動かざるを得ない“ゲーム”という体裁を持ち込むことには一定の効果が感じられた。
実際,プレイ後に設けられた感想戦の時間「グループ共有タイム」では,来場者が一定以上に熱心なユーザーであることも相まって,これほどシンプルなものでも,あちこちで楽しく会話が行われていた。少なくとも,単なるワークショップを“受講”するよりも楽しいのは確かだろう。
コアなゲームファンとしては気になる部分がないわけではない。しかし,普段なら目が滑るような“真面目なコンテンツ”の利用方法を伝えたり,アピールしたりするにあたっての,ある種の配慮として「ゲーム」の体裁を借りるというのも,ゲーミフィケーションのスタイルの一つかもしれない。
「ニュースを選ぶ力」を養うために作られたカードゲーム
どんなゲームなのかは分かったが,果たしてこれがなぜ作られ,実用されるに至ったのかは気になるところ。というわけで,イベントスタッフに声をかけてみたところ,本作を企画したNewsPicksのキャスティングディレクター重村真輝氏と,コミュニティマネージャーの津覇ゆうい氏に話を聞くことができた。
重村氏曰く,カードゲーム化の発想は,NewsPicksが抱える“ある問題”を解決する手段の一つとして生まれたという。その問題とは,数万本におよぶ膨大な記事の中から「自らニュースを選ぶ」という行為が,非常に難しくなっている,というもの。
重村氏は「最近ではネガティブな意味で,ニュースが“選ばれてしまっている”状況があります」と話す。確かにアルゴリズムがピックアップされた情報や,扇情的な見出しの記事ばかりが読まれている状況は,健全ではないかもしれない。本来的には,読者が能動的に情報を選別し,受け取れるようになるのが理想的だろう。
しかし昨今は,流れるニュースの総量がとにかく多く,そして速い。個人でそれらを選別するのは,簡単ではないだろう。もちろんNewsPicks側も検索性を向上させ,サービスを活用するガイドを提供するといった工夫を行っているが,それにも限度がある。なにより,機能があっても読者が煩わしいと感じてしまっては意味がないのだ。
NewsPicks User's Sessionというイベントは,これを克服するミッションの一つとして企画され,これまでにもさまざまな手法を試してきたという。その結果として辿り着いたのが,ユーザーが主体的に適切なニュースを選び取る感覚を養うカードゲームだったわけだ。
こうしたアナログゲームを使った研修会やワークショップは,ゲーミフィケーションの概念と共に近年普及を見せており,とくに新しいものではない。
しかし今回の取り組みは,そうした流れとは無関係の,重村氏の個人的な「Pokémon Trading Card Game Pocket」(iOS / Android)のプレイ経験から生まれたものだという。氏はこれまで,本格的なアナログゲームのプレイ経験はなかったそうで,今回のものも「とりあえず,発想を形にしてみよう」という軽い気持ちだったというが,会場を見る限り,参加者同士の交流を促進する効果は確かにあったようである。
今後の展開としては,社内外のほかのチームと連携をとり,法人プラン導入企業に向けたイベントでの活用や,特定の層――例えば就活生に特化したバリエーションを作成するといった運用を考えているという。
ただ,ゲームシステム自体はまだまだ模索中であり,またアナログゲームに明るいスタッフがいないこともあって,完成度としてはまだ“Ver 0.1”に過ぎない状態だという。仕様も変化し続けていて,先の任意のタグを書ける特殊カードもイベント直前に追加されたものだったそうだ。
ルールの整備だけでなく,カード自体も調整の余地があると考えており,重村氏は「よりNewsPicksらしいゲームにしていきたい」と話していた。
日々流れる膨大なニュースから,本当に必要な情報を見つけること。立場を変えて言うなら,本当に必要な記事を読者に届けることの難しさは,NewsPicksのみならず,すべてのWebメディア(もちろん4Gamerも)に共通する課題といえる。その背景には,システム的な部分からビジネスモデル的なものまでさまざまな課題があるが,ワークショップを通じて読者のほうを変えていこうとするNewsPicksの試みは,なかなかに興味深い。
その手段が,経済メディアとしては畑違いの“ゲーム”だというのだから,なおさらである。今はまだ,ゲームとして洗練されていない部分も多いと感じたが,今後の発展に期待したいところだ。
なおNewsPicks User's Sessionの開催告知は,NewsPicksの公式記事,およびFacebookなどのSNSなどで行われている。今後も定期的な開催を予定しているそうなので,参加してみたい人は,そちらもチェックしてみよう。
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