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学校では伝えきれない闇バイトの危険性と対処法を,疑似体験で中高生に教える「レイの失踪」:身近なところにゲーミフィケーション 第6回
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印刷2026/02/18 13:20

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学校では伝えきれない闇バイトの危険性と対処法を,疑似体験で中高生に教える「レイの失踪」:身近なところにゲーミフィケーション 第6回

 ゲーミフィケーションとは,ゲームの持つ要素や原則をそれ以外の分野に導入して,人々のやる気を高めたり,問題解決を図ったりすることに活用する仕組みである。
 本連載「身近なところにゲーミフィケーション」では,ゲーミフィケーションを活用した製品やサービスなどを,岸本好弘氏とともに紹介していく。

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 今回取り上げるのは,Classroom Adventureの闇バイト追体験コンテンツ「レイの失踪」だ。このゲーミフィケーションコンテンツは,闇バイトに加担してしまう傾向の強い人の心理および実際のSNS環境が再現されたもので,ゲームのように謎解きをしながら,生徒・学生に当事者意識と深い気づきをもたらすことを目的としている。

 そうした「レイの失踪」について,Classroom AdventureのCo-Founder / CEO 今井善太郎氏と,Co-founder / CMO 竹ノ内尊行氏に話を聞いた。

左から,岸本好弘氏(ゲーミフィケ―ションデザイナー),竹ノ内尊行氏(Co-founder / CMO),今井善太郎氏(Classroom Adventure Co-Founder / CEO)
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SNSの投稿を手がかりに,闇バイトに関わった友人を救い出す


 「レイの失踪」は,失踪した友人・レイがSNSに残した投稿から,彼女が闇バイトに勧誘され,逃げられなくなった経緯を探り出し,首謀者を暴いて警察に通報するまでの過程をゲームプレイを通じて疑似体験するコンテンツである。

 本作は個人向けではなく,地方自治体が主催する体験会や学校の授業などを通じて,スタッフの司会進行とサポートのもと,参加者が複数人のチームを組んで体験する形式となっている。

 2025年3月には東京都と協力し,都立足立新田高校にて本作を用いた特別授業を実施したことも話題となり,以降,全国の高校で同様の施策がなされている。
 今回は文部科学省の「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」に採択されている東京都立青井高等学校にて実施された3年生向けの授業を取材する運びとなった。

岸本氏:
 Classroom Adventureの「授業×ゲーミフィケーション」コンテンツには以前から注目しており,「レイのブログ」「レイの失踪」ともに,これまでにオンラインで体験しました。
 ただし,「レイの失踪」を高校生たちが実際にどのように受け止めるのかについては,現場で確認したいと考え,今回の授業を見学させていただきました。授業後には生徒への簡単なインタビューも実施でき,生徒たちの率直な受け止め方や思考のプロセスを知る機会となりました。

 授業の内容は,ファシリテーターを務める今井善太郎氏と竹ノ内尊行氏の誘導のもと,まず生徒たちが「レイの失踪」を約1時間プレイ。その後,闇バイトによる逮捕者の約8割が10〜20代の若者であることや,SNSをきっかけとして犯罪に加担してしまうケースが急増していることなどが示された。
 そして,そうした犯罪に加担しないためには「狙われない」「騙されない」「ハマらない」の3ステップが重要であることや,通報・相談すれば警察の積極的な協力を得られることなどが紹介された。

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 ここで重要なポイントは,今井氏と竹ノ内氏が起業家であるとともに現役の大学生であることだ。つまり生徒たちと年齢が近く,言葉の選び方や例として示す話題などが共通しているので,親しみやすく,理解しやすい授業になっているというわけである。

 実際,今回の取り組みを企画した東京都立青井高等学校の鈴木英一主幹教諭によると,参加した生徒のほぼ全員がここまで授業に熱中するケースはほとんどなかったとのこと。もちろん,普段の授業中では使用を禁じられているスマートフォンに触れることや,チームを組んで「ああでもない,こうでもない」とやり取りしながら進められるといったことも,生徒が授業に熱中する理由として挙げられるだろう。

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「メッセージを伝える」「空間を演出する」ためのゲーミフィケーション


 今井氏は,親御さんの影響でこれまでほとんどゲームに触れてこなかったという。また竹ノ内氏もなかなかゲーム機を買ってもらえず,ようやく手に入れたころには学業や部活動などが忙しくなり,周囲のゲーム熱が冷めていたそうだ。

今井善太郎氏(以下,今井氏):
 Classroom Adventureには,僕ら以外にゲーマーがいるんです。僕は彼らのチームが作ったゲームを触ってみて,「これ,ゲーム好きじゃないと分かんないよ」と言う役割なんです。

 ゲームが好きな人の中には「ここは,こうやって操作する」というようなお約束があると思うのですが,僕はそれが全然分からない。「こんな遊び,要らないんじゃないかな」と言うこともあるので,「せっかく作ったゲームをつまらなくしている」と思われているんじゃないかと(笑)。

 とくに「レイの失踪」は,前作にあたる「レイのブログ」がどちらかと言えばゲームに精通している,あるいは学力の高い生徒・学生向けのメディアリテラシー教育コンテンツに仕上がってしまったことへの反省から,より万人向けの誰にでも理解しやすい内容を目指したという。

今井氏:
 学校には,僕のようにゲームのお約束を分かっていない生徒も半分くらいいるはずなんです。そういう生徒でも楽しめるように,すごく意識しました。
 これは偏見かもしれませんが,うちのゲーマーにゲーミフィケーションのコンテンツを作らせると,やり込みや伏線の回収を入れたがるんですよね。それはゲームとしては面白い要素なんでしょうけれども,理解できなかったり難しくなりすぎたりすると,プレイを諦めてしまう人が出てしまう。ゲームとして少し面白くなくなるとしても,どんな人でも分かることを重視しました。

岸本氏:
 ゲームは解けるから楽しいんです。でも作っている側はだんだん麻痺してきて,「こんなに簡単に解けたらダメだろう」とどんどん難しくしてしまう。
 次にチャレンジさせるためには,「解けた!」という成功体験を与えてあげないとダメなんです。それはゲームも,ゲーミフィケーションも同じで,今井さんのような考え方は重要です。

 また「レイの失踪」は,プレイした全員が基本的に同じルートを辿って,同じ結末にたどり着くように設計されている。1つの謎解きに複数のヒントが与えられることもあるが,どれを選んでゲームを進めても流れは変わらない。

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今井氏:
 僕としてはゲームを遊んでもらうというよりも,最終的に「闇バイトとはどういうもので,どのように若者を加担させようとするのか。それを防ぐためにはどうすればいいか」ということをメッセージとして届けたいんです。

 たとえばゲーマーチームが企画した当初の仕様では,最初から闇バイトの首謀者を特定できたのですが,それはゲームとしてはアリかもしれないけれど,過程を飛ばしてしまうために届けたいはずのメッセージが伝わらない可能性が生じてしまいます。

 今井氏は,体験者にメッセージを効果的に伝える手法として「レイの失踪」などのゲーミフィケーションを活用したコンテンツに取り組んでいるが,竹ノ内氏はまた違ったベクトルでアプローチしている。上記のとおり竹ノ内氏はゲームにこそ縁遠かったものの,「ONE PIECE」や「NARUTO -ナルト-」といった「友情・努力・勝利」を標榜する王道アニメを親しんでいたという。

竹ノ内氏:
 僕は「どうやったら人の心に届けられるか」ということに興味があるんです。だから「レイの失踪」を体験してくださった人がどうやって謎を解いたかといったこと以上に,「レイってどんな人物なんだろう?」と話し合ってもらえると嬉しいですね。

 またゲーミフィケーションは,今井のようにメッセージを伝えるための手法として使うだけでなく,空間演出の手法としても活用できると捉えています。
 テレビドラマみたいな感じで,教室を突如リアル脱出ゲームのような空間に変えて,謎を解かないと出られなくしてしまう。そういった,アニメの中の出来事みたいなことを実際に体験してもらえるのも,ゲーミフィケーションの強みです。

 「レイの失踪」を使った授業の内容や進行へのこだわりもかなり強い。たとえば授業は全体で約2時間続くため,普通なら途中で休憩を挟んでもおかしくないが,敢えて入れていない。

今井氏:
 もちろん,トイレに行きたい人は行ってもらって構わないんですけれども,全体の休憩は入れません。休憩を挟むと何か別のことに意識が逸れて,ストーリーを忘れてしまうんですよね。
 またミュージカルのようにしたいから,学校には「会場となる体育館や教室は絶対真っ暗にできる場所にしてほしい」という注文もしています。本当は生徒が会場に入るときから真っ暗で,BGMが流れていて……くらいのことをやりたいんですけれども,学校側にも事情がありますから。

竹ノ内氏:
 今井は,「真っ暗にできないなら最低でも遮光できる場所にしてほしい」と注文をつけているんですよ。あとは学校のスピーカーだと音質が悪いことが多いので,いい音を鳴らせるようたくさんのケーブルを自前で用意したり(笑)。

 今井のこだわりによって話すタイミング,話し方,話す内容などたくさんのことが,暗黙で取り決められています。ゲーム開始のタイミングや授業の終了まで,本当に細かく決めているんです。
 一番こだわっていた時期は,僕らが持ち込むペットボトルのラベルを全部剥がしていました。「ラベルがあると現実に引き戻されるから」って。今井のこだわりは,プロデューサーというよりも,イベンターや演者としてのそれなんですよね。


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中高生に社会課題への関心を抱かせるため,「同じ視点」を意識


 今井氏がゲーミフィケーションに関心を抱いた原点には,自身が東京学芸大学附属小学校で受けてきた教育がある。同校は「教育実験校」であり,役割として先進的な教育の実践およびモデル提示が挙げられている。

今井氏:
 僕は先生の指導のもと,「クラス内貨幣制度」でお金について学んだんです。毎週,住民税を納めなければならないので,給食当番などの仕事を受託してお金を稼がなければならない。それで税金を納めて残ったお金で,給食のおかわりをオークション形式で買ったりするんです。
 僕自身,貨幣制度自体は合わなかったんですが,そうやって新しい何かを試す現場は,すごく面白いと思っていました。

 そうした新しい教育に興味を持った今井氏は,中学卒業後カナダへ渡り,19歳までに現地小学校でのインターンなどを経験。その後日本に戻り慶應義塾大学総合政策学部に入学したわけだが,きっかけは「教育の効果測定」にあった。

今井氏:
 教育の効果測定にはいくつか指標がありますけれど,僕は長期的なものに注目しました。たとえば2002年度から実施された「ゆとり教育」を受けた世代は,2026年現在で20〜30代の人たちですけれども,彼らが本当に社会に影響を与えるようになるのは,50歳前後になってからだと思うんです。つまり,ゆとり教育の開始から40年近く経たないと,本当の効果は分からない。
 でも実際には,ゆとり教育は約10年間で終わりました。さまざまな事情があるのでしょうが,そういった事例を踏まえて教育の新しい効果測定の仕組みを作り,僕が受けてきたような新しい教育に取り組んでいる人達の応援ができないかと考えたんです。

 Classroom Adventureでは,最初に「レイのブログ」の開発に取り組んだ。このコンテンツでは,世間に広まっているニュースなどの真偽を検証し,その過程と結果を公表する「ファクトチェック」について学ぶことができる。また今井氏自身も,2022年にGoogleが主催したファクトチェックの世界大会「Youth Verification Challenge」にて国内で優勝し,世界では4位の成績を残している。

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今井氏:
 今,フェイクニュースは世界最大の社会課題と言われていますから,中高生にファクトチェックについて教えることができないかと考えたんです。僕も中学生のときに学校でネットリテラシーの授業を受けた経験があるんですが,3年間で一番つまらない授業だったんですよね。
 大人が来て「騙されて裸の写真を送ってしまう可能性があるから,SNSはやらないようにしよう」と言ったり,SNSで痛い目に遭った登場人物が「もう,やりません」というようなアニメを見せられたり。「こんな授業,もう寝るしかないな」って思っていました(笑)。

岸本氏:
 「レイの失踪」は,授業×ゲーミフィケーションの実践事例として,非常に完成度の高い取り組みだと感じました。制作者自身の原体験を起点に,従来の“記憶に残りにくい授業”を,学習者が前のめりに関与する体験へと転換しようとする姿勢が,コンテンツ全体から読み取れます。

 ファクトチェックを含めてネットリテラシーについて学ぶことは重要だが,自身が受けた授業のような内容では,生徒にまったく刺さらないと,今井氏は感じていた。それは今井氏が留学したカナダの学校でも同じで,アメリカ人のメンバーからも「アメリカのネットリテラシーの授業もつまらなかった」と言われたという。世界の各地で起きているこの問題をどうにかできないかと考えて作られたのが「レイのブログ」だった。

 「レイのブログ」もまた,体験会や学校の授業を通じて参加者が体験する形式を採用している。そうやって各地の学校を回っている中,教員に「生徒に何を教えたいか」を問うたところ,プログラミングや歴史以上に,闇バイトを挙げるケースが多かったそうだ。

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今井氏:
 警察の取り組みを見ても,有名人が「闇バイトは犯罪です」と言わせるポスターなどで注意喚起をしていますけれども,言っては何ですが,どれだけの中高生が見ているだろうかと疑問に思ったんですよね。
 それで世代の近い僕らが面白いものを作ったら,もっと闇バイトに関する関心が深まるんじゃないかと考えて企画したのが「レイの失踪」でした。

竹ノ内氏:
 警察官や先生みたいな立場の人が正しい話をすると,生徒達は説教くささを感じてしまうんですよね。だから僕らは,できるだけ生徒と同じ視点で伝えることを心がけています。

 Classroom Adventureは,東京都が主催するスタートアップコンテスト「Tokyo Startup Gateway 2024」の最優秀賞を受賞し,2025年1月に小池百合子都知事を表敬訪問する運びとなった。「レイの失踪」は,その小池都知事に向けたプレゼンテーションに間に合うよう,約1か月で開発されたという。

今井氏:
 「小池都知事への表敬訪問で話題になったらいいな」くらいに考えていたんですが,予想以上の事態になりました。
 「レイの失踪」をリリースしたとき,僕は大学の図書館にいたんですが,1分に1本のペースで各メディアから電話がかかってきて。電車に乗っても,駅に着くたびに降りて電話応対をしていました。

 「レイの失踪」の最初期バージョンは,体験者が1時間でエンディングにたどり着けないなどの課題を抱えていたが,ブラッシュアップを重ねて現在の形となった。授業の終了後,控え室で手直しするようなケースもあったそうだ。
 またリアリティを出すために,今井氏自身が数々の闇バイトに応募して勧誘の手口を実際に研究したとのこと。

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今井氏:
 Telegramを使ったやり取りや「辞めたい」と言うと脅しをかけてくるところなど,本当に起きていることを「レイの失踪」に入れました。
 一方で,学校の教材として使われるコンテンツですから,レイがまだ犯罪に手を染めていないストーリーの流れにするといった配慮もしています。一部,不正アクセス禁止法に触れるような表現もありますが,警視庁の依頼で注意を促す文言を追加したりもしていますね。

 ちなみに「レイのブログ」も「レイの失踪」も,“レイ”という名のキャラクターをフィーチャーしているが,これにはシリーズ化する意図があったとのこと。

今井氏:
 アメリカ人スタッフの発想なんですが,“レイ”は性別や国籍が分からない名前なんですよね。今後も「レイ」シリーズとして続けていこうと考えています。


学校での授業を中心とする活動のメリットと課題


 Classroom Adventureが重視しているのはスピード感やコストパフォーマンスだ。「レイの失踪」でもゲームパートの開発にAIを活用したり,授業中に上映するアニメパートの演出を工夫したりといった形で,効率化を図っている。

岸本氏:
 ゲームを作る立場の人間からすると,「レイの失踪」のアニメパートはすごくコストパフォーマンスが考えられていて,よく出来ています。動きが少ないながらも,セリフや効果音を印象的に使っているのでそれを感じさせない。「うまいな」と思いました。

 一方で,活動の中心を全国の中学校・高校での授業においているがゆえに,資金面では相当に厳しいという。と言うのも,今井氏や竹ノ内氏らを筆頭とするスタッフが全員現役の大学生であるため,講師としての報酬が低いからである。市場を広げるという意味では企業研修に活用できるコンテンツを作るという選択肢もあるが,1回の授業で数百人にメッセージを伝えられるという点で学校中心の活動に大きなメリットを感じているそうだ。

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今井氏:
 今回の青井高校はDXハイスクールに採択されているので,文部科学省から予算が出るといったように,国や地方自治体との連携でどうにか頑張れてはいますが,学校は基本的にお金がないんですよね。その状況下でどうやって活動を続けていくかということは,常に悩んでいます。メインのスタッフが5人だけだから,何とかやっていけている感じです。

 また,1年間に100校前後で同じ授業を行うからこそ生まれる課題や障壁も生じているという。

竹ノ内氏:
 最初はメインスタッフ5人全員で授業をやっていたんですが,次々に脱落してしまって(笑)。今では僕と今井の2人だけで授業をやっています。

今井氏:
 授業は魂を込めてしゃべらないと,全然伝わらないんですよね。同じ言葉でも,本当に伝えようと思ってしゃべらないとまったく響かない。授業をすることに飽きてしまったりして魂を込められなくなると,聞いている側も「何か脊髄でしゃべってるな」と感じ取ってしまうんです。

岸本氏:
 私も以前,専門学校で毎週4つのクラスに向けて同じ授業をやっていましたが,どのクラスで何をしゃべったのか忘れることがあるんですよね。そうなると「このギャグ,このクラスで言ったっけ?」となってしまい,2クラス目以降はどんどん面白いことが言えなくなる。同じ内容の授業を繰り返すことの難しさは,よく分かります。

 授業の進め方,あるいは体験者からの評価の受け止め方は,1年を通じてかなり変わったとのこと。もともと今井氏は「担当の教員が満足していれば,それで良し」と考えていたそうだが,今では竹ノ内氏が最初から目指していた「生徒に寄り添った内容・進行」を意識するようになっている。

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竹ノ内氏:
 先生に評価されるのはもちろん大事ですが,大人が「良し」とするものは形だけなこともあるんですよね。「形式はどうでもいいので,生徒にしっかり刺さることをやりたい」と言ってくださる先生の力になりたいと常々考えています。
 「レイのブログ」よりも「レイの失踪」のほうが生徒に受け入れてもらいやすいのは,そういった僕らのアプローチがより顕著に出ているからかもしれません。学校と協力して,形式的なものを破壊していく姿勢といいますか。

今井氏:
 学校なのに,非日常的で楽しい体験ができる授業をやりたいんですよね。終わったあと,ミュージカルに参加したくらいの気持ちで帰ってほしいんです。
 あとは「レイの失踪」でいえば,たとえ闇バイトについてあまり刺さらなくとも,近い年齢の人たちが社会課題を何とかしようとしている姿を見たことが,自分自身で何か活動する意欲につながってくれればと。

 実際,授業を体験した生徒から「自分も何かやってみたい」という反応が返ってくることもあるという。

竹ノ内氏:
 以前,授業を体験した生徒とビジネスコンテストの会場で偶然出会ったことがあるんです。「あのときの子が,僕らのように活動する側に来たんだ」と感慨深かったですね。

 大阪教育大学附属高等学校池田校舎で,新入生同士のコミュニケーションを深めるためのオリエンテーションに「レイのブログ」を採用したという事例もある。

今井氏:
 もともとのオリエンテーションでは,入学して間もなく旅行に行っていたそうです。ただ旅行は心理的ハードルが高かったり,先生が大変だったりするなどの理由から,2024年から「レイのブログ」を使った授業に置き換わりました。体育祭や修学旅行のような毎年の恒例行事に加わると考えると,すごいことですよね。


今後の課題と展望。近日中に「レイ」シリーズ第3弾の発表も


 Classroom Adventureのメインスタッフは現在,5人全員が24歳で大学に在籍しているが,そろそろ学生起業家という肩書きや,中高生に向けた教育コンテンツの開発に限界を感じ始めているという。

今井氏:
 中高生のあいだで流行しているものが分からなくなってきて,彼らと少しずつ年齢が離れていることを実感しています。
 若いスタッフに世代交代して企画を譲ったり,僕らが頑張ってキャッチアップしたり,あるいはClassroom Adventureという世界観・ブランドをもっと前面に押し出した展開をしたり……といったことは漠然と考えていますが,まだ答えは出ていません。

竹ノ内氏:
 今までは「同じ視点で作っているから,同じ視点の人が体験したら楽しいよね」という,言わばハンデをもらってやってる感があったんですよね。僕らが年齢を重ねることでそのハンデがなくなったり,学生起業家と名乗れなくなったりしたとき,まだ面白いものを作り続けていけたらいいなと思います。

 実際,「レイのブログ」の“ブログ”という単語は,もはや中高生にとって馴染みの薄いものになっている。また今井氏らが訪れた学校によっては,生徒たちがまったくXを使っていないというケースもあるそうだ。

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竹ノ内氏:
 「レイの失踪」には,リアルのSNSでやり取りされている言葉が使われているから,教科書っぽくなくて読みやすいという感想が寄せられています。ただ,5年経てば言葉づかいは変わるだろうし,僕らも「今の子は何を話しているのか分からない」となっているかもしれません。

岸本氏:
 実を言うと,私自身はそういった世代の違いを面白いと思っています。たとえば今回の授業に参加した女の子に「10万円稼いだら何に使う?」と聞いてみたところ,「化粧品を買う」という答えが返ってきました。このように価値観や情報をアップデートしていくことは大切なのかもしれません。

 そうした,今まさに直面している課題を踏まえたうえで,あらためて今後の展望について聞いてみた。

今井氏:
 直近では,「レイ」シリーズの第3弾をリリースする予定がありますので,ご期待ください。あと正直なところClassroom Adventureは,個別の社会課題にすごく興味があって,その解決に人生をかけているわけではなくて,若者にメッセージを届けたいという人たちを助けたいという気持ちが強いんです。

 「レイの失踪」も,学校の先生が闇バイトの危険性について生徒に教えようとしてもなかなか実現できなかったところに,僕らがゲームを使ってその手伝いをした。同じように,学校で教えてもなかなか身に付かない数学や歴史などをゲームにして,生徒に興味を持ってもらうのも面白いんじゃないかと思います。

 また海外では,日本のアニメやゲームはブランド化しています。とくにアジアだと,アニメというだけで熱狂的と言っていいくらい楽しんでもらえて。それで「レイのブログ」も海外で受け入れてもらえているんですが,そういったところを生かしてゲーミフィケーションで世界各地の社会課題解決にチャレンジしてみたいという思いがあります。

岸本氏:
 本連載を通じて私が注目しているのは,優れたゲーミフィケーションデザインを生み出す人が,必ずしも豊富なゲーム経験を持っているとは限らないのではないか,という点です。どのような経験や視点が,デザインに寄与しているのかを見ていきたいと考えています。
 今回の今井氏,竹ノ内氏の事例からも分かるように,ゲーム経験が少なくても,人の心理変化や動機づけを想像し,設計に落とし込める人はいます。一方で,ゲーム経験が豊富であっても,その構造やメカニズムを言語化できない場合もあります。必ずしもゲーム経験の量が,優れたゲーミフィケーションデザインの前提条件になるわけではないと感じました。

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