連載
そうだ アニメ,見よう:第221回はシリーズ第七期「夏目友人帳 漆」。人と妖怪の交流を描いたロングヒット作品。ちょびひげの正体も判明
漫画家・緑川ゆき氏による「夏目友人帳」(花とゆめコミックス/既刊31巻)は,2007年から月刊「LaLa」で長期連載を続けている作品だ(初出は「LaLa DX」)。コミックスの国内累計発行部数は1700万部を突破し,劇場アニメやOVAなど,さまざまなメディアに展開している。TVアニメも2008年の第一期放送を皮切りに,何度も新シリーズが制作され,現在第七期が放送中だ。
というわけで,「そうだ アニメ,見よう」第221回のタイトルは,TVアニメシリーズの第七期「夏目友人帳 漆(しち)」(毎週月曜24:00〜テレビ東京ほか)。制作は朱夏,シリーズ構成は「シドニアの騎士」や「大雪海のカイナ」の村井さだゆき氏,監督は「学戦都市アスタリスク」や「劇場版モノノ怪 唐傘」の伊藤秀樹氏が担当。第一〜四期の監督,第五,六期の総監督を務めていた大森貴弘氏が,引き続き総監督となる。
「夏目友人帳 漆」
友人帳は,強力な妖力を持っていたレイコが,妖怪たちと勝負して負かした結果,奪った名を集めた契約書の束だった。友人帳は「多くの妖を使役できるもの」として妖怪たちのあいだに噂として広まっていたのだ。
妖怪たちに襲われた貴志は,レイコのことを知る妖怪・斑(まだら,CV:井上和彦)と出会い,「俺が死んだら友人帳はお前にやる」という約束を結ぶ。“招き猫”を依り代にした斑は「ニャンコ先生」と呼ばれ,貴志の用心棒となるのだった。
こうして,貴志たちは友人帳から名を取り戻そうとするものや,友人帳を奪おうとするもの,さらに相談事を抱えるものなど,さまざまな妖怪たちと関わりを持つことになった。
そうした妖怪関連をきっかけに,高校のクラスメイトで僧侶の息子の田沼 要(CV:堀江一眞)や,祖父から妖に関する秘術を受け継いだ少女・多軌 透(CV:佐藤利奈),「祓い屋」でありイケメン俳優でもある名取周一(CV:石田 彰),祓い屋の大家「的場家」の現当主・的場静司(CV:諏訪部順一)とも縁を結ぶことになる。
レイコと同じく,普通の人々と異なる力と理解されない孤独を味わいながらも,彼女が得られなかった“大切な人たちとの繋がり”を得た貴志は,自分を引き取ってくれた藤原夫妻や友人たちとの「大切なもの」を守るため,ニャンコ先生と共に日々奮闘するのだった。
妖怪たちに名を返す物語
普通の人には見えない不思議なもの“妖怪”。その姿を見ることができ,話を聞くことができる主人公の貴志は,幼いころに両親に先立たれた孤独な少年だ。その能力のせいで「気味が悪い」と疎まれ,親戚の家をたらい回しにされてしまう。
どこかの妖怪ものの主人公のように,彼らを払いのける力があるわけでもなく,ただ恐ろしい妖怪たちをやり過ごすだけの日々は,子供心にどれだけの影響を与えただろう。
そんな少年が,片田舎に住む遠縁の夫婦に引き取られ,そこで初めての理解者ともいえるニャンコ先生と出会う。やがて,人間はもちろん,妖怪たちとも知り合いになり,恐怖と孤独で委縮した心もほどけ,徐々に打ち解けていく。
本作は,祖母の遺産「友人帳」を守りながら,そこに名を縛られた妖怪たちに名を返す日々を送る少年の姿を描いている。そして,人と妖怪,妖怪同士の交流を通じて,彼の成長を綴った作品でもある。
80話以上のエピソードの中から2篇を紹介
各エピソードは,1話完結,もしくは複数話連続で描かれる。毎回妖怪絡みのストーリーが展開され,新たな人物や人ならざるものが登場する。中には悪意のある妖怪などもいるが,基本的には友好的だ。
妖怪たちは,姿を見せなくなった友人探しや,失せ物探し,神事の手伝いなど,貴志にさまざまな相談事を持ち掛ける。それを貴志とニャンコ先生が解決していくわけだが,どのエピソードもほんわかとしていながら,どこか切ないテイストを感じさせる。
それは彼ら妖怪の持つ純粋さや,寿命がないゆえのギャップ,そして群れることのない妖怪ならではの孤独からくるもの。そんな気持ちが伝わり,しんみりとした気持ちにさせてくれるのだろう。
これまでの第一〜第六期までに,OVAも含めると80話以上のエピソードが放送されてきた。今回は,その中でも筆者の印象に残った2篇を紹介したいと思う。
●第三期四話「幼き日々に」
貴志が幼いころに出会った,ある妖怪のことが語られる。田んぼの傍の木の上で過ごし,たまに通りかかった子供にちょっかいをかけるだけの退屈な生活をしていた妖怪が,ある日自分のことが見える少年・貴志に出会う。うれしくなった妖怪は,執拗に貴志のことを追いかけまわすのだが……。
孤独な妖怪と貴志が出会うが,お互い相手に近づく方法が分からない。そんな“ヤマアラシのジレンマ”的状況に陥った2人のちょっぴり切ないお話だ。不器用な2人にやきもきしつつ,人と妖怪の関係性の難しさを考えさせられる回だった。なお,最後の“あるシーン”がお気に入りの理由なのだが,そこはぜひ自分の目で確認してほしい。
●第五期十話「塔子と滋」
貴志が居候している藤原夫妻,滋(CV:伊藤栄次)と塔子(CV:伊藤美紀)に焦点を当てたエピソード。子供のいない夫婦が,行く当てのない貴志を引き取り,そして受け入れていく様子が描かれている。
塔子の視点で語られ,貴志と同居する前の2人の暮らしぶりや,引き取るきっかけなどが掘り下げられている。TVアニメ化15周年記念イベントとして実施された「人気話数投票企画」で,1位になった回でもある。2人の温かさに胸を打たれたファンも多かったようだ。
ちなみに,第三期十二話「帰る場所」とストーリーがつながっているので,そちらから先に見ることをオススメする。
第七期では“ちょびひげ”の正体が判明!?
そしてTVアニメ第七期では,不思議な粘土細工が登場する「破片は愁う」や,祓い屋・名取周一が再登場する「とおかんや」など,今回も心温まるさまざまなストーリーが,アニメ化されている。
中でも,シリーズ常連の妖怪である“ちょびひげ”の正体が判明する「ちょびの宝物」は見逃せないエピソードだ。これまでニャンコ先生や「犬の会」の面々に助けられてきた貴志が,自分の力で何かを成し遂げようする,成長の回ともなっている。
妖怪との激しいバトルや,激しい恋物語などがあるわけではないが,しっとりとした“人と妖怪の物語”が楽しめる本作。秋の夜長に,のんびり楽しむのにおススメの作品だ。
TVアニメ「夏目友人帳 漆」公式サイト
TVアニメ「夏目友人帳 漆」公式X
放映データ |
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2024年10月〜 |
毎週月曜24:00〜テレビ東京ほか |
キャスト | |
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夏目貴志:神谷浩史 | |
ニャンコ先生/斑:井上和彦 | |
夏目レイコ:小林沙苗 | |
名取周一:石田 彰 | |
田沼 要:堀江一眞 | |
西村 悟:木村良平 | |
北本篤史:菅沼久義 | |
笹田 純:沢城みゆき | |
多軌 透:佐藤利奈 | |
藤原塔子:伊藤美紀 | |
藤原 滋:伊藤栄次 | |
的場静司:諏訪部順一 |
スタッフ | |
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原作:緑川ゆき「夏目友人帳」(白泉社「LaLa」連載) | |
総監督:大森貴弘 | |
監督:伊藤秀樹 | |
シリーズ構成:村井さだゆき | |
キャラクターデザイン:髙田 晃 | |
妖怪デザイン・アクション作監:山田起生 | |
総作画監督:髙田 晃 田中織枝 | |
美術:渋谷幸弘 三宅真央 | |
色彩設計:宮脇裕美 | |
画面設計:田村 仁 | |
撮影:平本瑛子 | |
編集:関 一彦 | |
音楽:吉森 信 | |
オープニングテーマ:柏木ひなた「Alca」 | |
エンディングテーマ:近藤利樹「こまりわらい」 | |
アニメーション制作:朱夏 | |
制作:NAS | |
製作:「夏目友人帳」製作委員会 | |
(C)緑川ゆき・白泉社/「夏目友人帳」製作委員会 |
■Blu-ray&DVD情報
『夏目友人帳 漆 1』
発売日 :2024年12月25日(水)
収録話 :第一話・第二話
【完全生産限定版特典】
・イベントチケット優先販売申込券(昼公演)
日程:2025年3月2日(日)
出演:神谷浩史・井上和彦 ほか
会場:関東近郊
・描き下ろしイラスト使用デジケース
・特典DISC:「劇伴コンサート〜いとうるわしき夢より〜」神奈川公演 配信映像
・ジャケットイラストカード
・特製ブックレット
※商品の仕様は予告なく変更になる場合がございます。
URL:https://www.aniplex.co.jp/natsume/season7/
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