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[GDC 2014]若さの限り走り続けたあの日々。80年代のゲーム業界に大きな足跡を残したLucasFilm Games同窓会
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印刷2014/03/22 00:24

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[GDC 2014]若さの限り走り続けたあの日々。80年代のゲーム業界に大きな足跡を残したLucasFilm Games同窓会

画像集#003のサムネイル/[GDC 2014]若さの限り走り続けたあの日々。80年代のゲーム業界に大きな足跡を残したLucasFilm Games同窓会
 2013年にThe Walt Disney CompanyがLucasfilmを買収したアオリで,その30年あまりという歴史に幕を閉じた,Lucasfilmのゲーム部門,LucasArts Entertainment(以下,LucasArts)。その前身となるLucasFilm Gamesが,1984年の「Ballblazer」や1986年の「Labyrinth」を経て,1987年の「Maniac Mansion」で,スクリプト言語「SCUMM」(Script Creation Utility for Maniac Mansion)を生み出し,“アドベンチャーのLucasFilm”というイメージを確立したのを覚えているオールドゲーマーも少なくないだろう。

 Game Developers Conference(以下,GDC)の人気セッションである「Postmortem」(振り返り,事後検証)シリーズは,基本的に個々の作品を開発者が振り返るものとなっているのだが,GDC 2014ではシリーズ初となる「スタジオの事後分析」が,LucasFilm Gamesの初期メンバーによって行われた。本稿ではその内容をレポートしたい。


LucasFilm Gamesの創業メンバーが当時を振り返る


画像集#004のサムネイル/[GDC 2014]若さの限り走り続けたあの日々。80年代のゲーム業界に大きな足跡を残したLucasFilm Games同窓会
 LucasFilm Gamesは,Star Warsシリーズによって映画業界の頂点に上り詰めていたGeorge Walton Lucas, Jr.(ジョージ・ルーカス)氏の肝煎りで,1982年に立ち上げられたスタジオだ。今回集まったメンバーは,このLucasFilm Games創設メンバー10名中の6名となる。具体的には,司会を務めたNoah Falstein(ノア・ファルシュタイン)氏と,Peter Langston(ピーター・ラングストン)氏,David Fox(デイビッド・フォックス)氏,Steve Arnold(スティーブ・アーノルド)氏,Chip Morningstar(チップ・モーニングスター)氏,そしてRon Gilbert(ロン・ギルバート)氏。本セッションは,Falstein氏が一人ずつ順番に紹介しながら,LucasFilm Games時代を振り返るスタイルになっていた。


■Peter Langston氏

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 1965年からUnixベースのゲーム制作を行っていたというLangston氏は,大学在籍中の1971年にストラテジーゲーム「Empire」を制作。1973年には「誰かが出した質問に,別の人が答える」というコミュニティベースのプログラムを作り出し,その思想がある超有名企業の社名になったりもしている。そんな経緯からか,Lucas氏直々に雇用されることになったそうだ。

 Langston氏の話によると,Lucas氏からゲーム会社を作る理由として説明されたのは税金対策だったらしい。映画制作会社は借金を重ねて映画を作り,その配給が始まると突然のように大きな資金が舞い込むことになるのだが,手元に残った資金をうまく運用することの必要性から,コンピュータ部門を設立したのだという。
 今では数年単位の時間をかけてゲームを作ることも珍しくないが,1980年代は,1年で数本を作るゲーム開発者も少なくなかった。そこで,「より短い期間で作品を生み出せるゲーム開発に白羽の矢が立った」わけだ。

LucasFilm Gamesの処女作となったBallblazer
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 LucasFilm Gamesにおける最初の2作となるBallblazerと「Rescue on Fractalus!」を手掛けたLangston氏は,「私の大きな任務は,ゲーム業界の最先端の技術を確立することだった。ただ,まだまだAtari 2600やCommodore 64が主流の,技術がどうこうなんて言ってられない時代。『バイト』ではなく『ビット』単位で物事を考えなきゃいけないような頃の話だ」と当時を振り返っていた。しかしそんな状況にあっても,Langston氏はBallblazerにおいて,シーンのムードによってBGMが自動的に変化する「Algorithmic Composition System」を生み出している。

 Langston氏は90年代にはゲーム業界を引退し,現在は大人向けの音楽学習セミナーを経営しているという。


■David Fox氏

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 Fox氏は,LucasFilms Games時代に,デザイナーやプログラマー,そしてプロデューサーとして,ほとんどすべてのプロジェクトに関わった人物だ。地元の大学では心理学を学んでいたが,本の執筆のためにLucasFilmへ出入りしていたところでゲーム部門結成の話を聞き,Atariにも取材をした経験があったことから,「LucasFilms Games初のデザイナーとしてうまく潜り込んだ(笑)」という。結成メンバーでは唯一子供を持つ父親だったこともあり,Falstein氏らにとって,兄貴分のような存在だったらしい。

 ゲーム業界が存続するなんて誰も考えていなかった当時,Fox氏がLucasFilm Gamesに入社した一番の理由は「Star Warsのゲームを作りたかったから」。ただ,「それが許されることはなく,それが非常に苦い思い出として残っている」と,冗談交じりに話していた。

 現在は人工知能に関する研究に取り組んでおり,iTunes用のアプリも開発しているという。


■Steve Arnold氏

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 LucasFilm Gamesの設立メンバーの中でただ一人,入社以前に別のゲーム会社で働いていた経験を持つのがArnold氏だ。ゲーム会社を立ち上げたところで,何をしていいのか分からないLangston氏やFox氏は,“元Atari”というArnold氏の経歴がまばゆいばかりだったという。
 実際,LucasFilm GamesにおけるArnold氏は,部門長として陣頭指揮を執ることになった。現在,3Dアニメ映画界で押しも押されもせぬ存在であるPixar Animation Studiosの前身であるThe Droid Worksも,Arnold氏が育てた部門だそうだ。

X-Wingのコクピットを模して開発されたというRescue on Fractalus!
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 さて,Fox氏が「Star Warsのゲームを作りたかった」と述べたのを前段で紹介したが,その点についてArnold氏は,「実際には(LucasFilmからの許可は下りないため)Star Warsのゲームは作れない。この制約が,我々の目をほかに向けさせてくれたのかもしれない。映画に関わってもいないのにLucasFilmの看板が後ろ盾になっていたのは,経営や技術開発では非常に有効だった」と回想している。
 実際,映画製作部門の人間からは,「自分の意見が脚本に活かされることはない。ただ,ほかの人の考えたことを具現化する手伝いをしているだけ」という話を何度となく聞かされたらしく,「自分のストーリーや世界を作り出して,それをLucasFilmのブランドで売れるんだから,考え方によっては素晴らしいことだった」(Arnold氏)。

MMOゲームの先駆けとしてゲーム業界に大きな功績を遺したとされるHabitat
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 LucasFilm Gamesの在籍中にArnold氏がプロデュースしたのが,日本でも知られる「Habitat」だ。アバターを用いたチャットという,オンラインRPGの先駆けともいえるデザインが採用されたHabitatは,提携先の「Quantum Link」(現AOL)が従量課金制だったにもかかわらず多くの人がアクセスしすぎてサーバーに多大な負荷をかけてしまい,結局,長続きしなかったが,その先見の明は評価されるべきだろう。

 Arnold氏は,主に健康産業をターゲットにした投資会社を1996年に立ち上げ,大きな成功を収めているという。


■Chip Morningstar氏

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 Morningstar氏は,Habitatのプロジェクトリーダーとして手腕を振るった人物だ。2001年には,同僚のRandy Farmer(ランディ・ファーマー)氏とともに,GDC併催の「Game Developers Choice Award」で,業界を開拓した功績に対して贈られる「First Penguin Award」を受賞した経験を持っている。ゲームキャラクターを「アバター」と呼んだのは,氏が最初とのことだ。

 「小さな規模で,常にゲーム業界の先陣を切り,赤字にならないように」とLucas氏から難題を突き付けられていたというLucasFilm Gamesの面々だが,「Habitatの開発で素晴らしかったのは,『他人の資金で,壮大なプロジェクトを実現できた』ことだ」と,Morningstar氏はジョーク混じりに振り返った。
 自らのことを「自分の考えを人に伝えるのが大好きな,おしゃべり」と位置づける氏が,あるときCommodoreの幹部の前で,ふと思い浮かんだHabitatの基礎をまくし立てたのが功を奏して,資金提供のオファーがあったのが,Habitatのスタートだったとのこと。ほとんど棚からぼた餅的に「オンラインRPGの生みの親」になったわけだ。

 現在Morningstar氏は,コンサルタントや執筆業を行いつつ,「当時よりもずっと静かな暮らしをしている」とのことだった。


■Ron Gilbert氏

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 1987年のManiac Mansion以降,2Dアドベンチャー時代のLucasArts作品のほとんどに利用されたスクリプト言語であるSCUMMを開発し,「Monkey Island」の功績で現在もゲーマーたちに知名度が高いGilbert氏は,今回集まったメンバーの中では最も若い50歳。今でもゲーム業界の第一線で活躍中だ。
 大学を中退して1984年にLucasFilm Gamesに入社した氏の最初の仕事は「Koronis Rift」をAtari 800からCommodore 64へ移植する作業だったという。

Maniac Mansionは,今でもゲーム史上におけるマイルストーンの1つとして数えられることが多い
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 移植作業を終えた直後から,LucasFilm Games初のアーティスト採用枠で入社していたGary Winnick(ゲーリー・ウィニック)氏と2人でManiac Mansionの開発作業に取りかかり,当時としては珍しい2年半ほどの期間をかけてSCUMMを生み出すことになったというエピソードを披露したGilbert氏は,そもそもそのアイデアは,昼食中にMorningstar氏としていた会話で,ベースコンセプト自体も翌日の昼食時間に書き上がったものだと,冗談混じりに振り返っていた。

 若い読者のためにSCUMMとは何かという話をしておくと,SCUMMベースのゲームでは基本的に,「使う」(Use)や「見る」(Look)といったコマンドがそのままメニュー化されており,コマンドとその対象を選択するという,組み合わせパズル的な謎解きを楽しめるのが特徴だった。Gilbert氏は,よりグラフィカルなSierra On-Lineのアドベンチャー作品群を常にライバル視していたそうだが,「いくら頑張っても売り上げで負けるから,スポーツで打ち負かしてやろうと一度ソフトボールの試合を申し込んだんだけど,やっぱりウチは負けちゃったよ(笑)」。


画像集#012のサムネイル/[GDC 2014]若さの限り走り続けたあの日々。80年代のゲーム業界に大きな足跡を残したLucasFilm Games同窓会
 最後に,今回のセッションで司会役を務めていたFalstein氏のことも紹介しておこう。
 氏は,1983年にLucasFilm Gamesに入社した7人めの社員で,LucasFilm Games時代の代表作はKoronis Riftや「Indiana Jones and the Last Crusade: The Graphic Adventure」。最近ではコンサルタントとしてゲーム業界で活躍する傍ら,GDCの主催組織であるIGDAの運営にも深く関わっている。また,2013年からはGoogleに「Chief Game Designer」として籍を置いており,そのためか,今回のセッションではGoogle Glassを装着しての登場となっていた。

 Falstein氏は,LucasFilm Games初期メンバーが全員揃わなかったことを残念そうにしていたが,セッションの雰囲気はまさに「同窓会」といったところ。当時の和気あいあいとしたゲーム作りの現場感が,観衆にも伝わってくるかのようだった。

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