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コーエー代表が語る,これからのオンラインゲーム業界――コンテンツは,なんでもかんでもただで入手できればいいというわけではありません
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印刷2008/03/14 19:00

インタビュー

コーエー代表が語る,これからのオンラインゲーム業界――コンテンツは,なんでもかんでもただで入手できればいいというわけではありません

 OGCというイベントが見えてきて,かつGDC開催期間中という,ゲーム業界が忙しいまっただ中,そして4本目のオンラインゲーム「三國志 Online」が正式ローンチ目前というタイミングで,コーエー代表取締役社長松原健二氏を訪問する機会を得た。
 目立って派手な動きこそしないものの,アナログモデムしかないような時代からオンラインゲームに取り組み,マルチプラットフォームを掲げて実践し,日本のゲーム市場を牽引してきたコーエー。最近では「オンラインゲームメーカー」のイメージも強い同社は,昨今のオンラインゲーム市場の状況と,将来について,どのように考えているのだろうか。

東京大学大学院,MIT,MBA,オラクル……松原氏の略歴は,いわゆる一般的に“一流どころ”と言われがちな単語で埋め尽くされている。とはいえ,そこから喚起されるイメージとは違い,非常に気さくで話しやすい人だ。各種ゲームメディアへの登場回数が多いのは,単に「コーエー社長」であるという以外にも,理由があるのだ
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4Gamer:
 お久しぶりです。本日はよろしくお願いします。OGC(本日3月14日に開催されている,Online Game&Community service conference)が迫り来るこの状況で,たぶん松原さんの予想しないタイミングでのインタビューだと思うんですが。

松原氏:
 そうですよ,なんでGDC期間中に取材なんですか(笑)。各メディアGDCで忙しくてインタビューはしばらくないなぁ,と思っていたところでした。

4Gamer:
 OGCが近づいたら松原さんもお忙しくなるでしょうし,あえて予想外のタイミングで。
 ところで今回のOGC基調講演のテーマは「オンラインゲーム CROSS BORDER」とありますね。ここでの“CROSS BORDER”は,具体的に何を指しますか?

松原氏:
 去年は「オンラインゲーム beyond」というテーマを使ったので,しばらくは“オンラインゲーム○○”というサブタイトルでいこうかと。細かい内容は,おそらくご承知のようにこれから考えるところです(笑)。オンラインゲーム担当執行役員だった前回までと立場が違うこともあって,この一年オンラインゲームばかりを見ていたわけではないですし、逆に今までと違った角度からお話しができると思います。

4Gamer:
 確かに,立場がより上のレイヤーになると,見るところも変わってきますよね。

松原氏:
 ええ。今オンラインゲームのビジネスモデルは,アイテム/従量課金制に流れていますよね。それはそれでいいのですが,それによりもっと市場が膨らむかと思っていたら,今は踊り場で足踏み状態になっていると思っているのです。

4Gamer:
 確かに,ユーザー数こそ伸びているものの,マーケット自体は伸び悩みな感じは受けますね。というよりそもそも,一部に言われていたような夢物語のような市場の発展が,何を根拠に言われていたのかちょっと分かりませんが。
 松原さんは,何を理由に市場が拡大すると思っていましたか?

松原氏:
 一つは,コンソール機の登場です。PLAYSTATION 3やXbox 360の登場で,オンラインという機能がもっと使えるようになると予測していました。

松原氏がコーエーに参画して最初のプロジェクトが,この「信長の野望 Online」。すでに5年目に差し掛かった古参タイトルだ
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4Gamer:
 なるほど。いわゆる次世代機のオンライン機能を軸に,「オンラインゲーム」という概念自体がもっと普及するであろう,と。

松原氏:
 ええ。コンソール機のオンライン対戦やランキング機能に触れることによって,オンラインゲームに親しみができて,それが,MMOやほかのオンラインゲームに波及するのではないかと,オンラインゲームの事業を始めたころから思っていました。
 しかし,現実の日本の市場を見てみると,次世代機――ここでは高性能据え置き機のことですね――は,残念ながら200万台に達していません。この数字では,オンラインゲームというものがプレイヤーに伝わっていくパワーはまだありません。

4Gamer:
 現状の日本だけを見れば,起爆剤としてのオンラインゲームのインフラとは確かに呼びづらいですね。

松原氏:
 もちろん,時を経るごとに売れていくとは思いますが,私は,高性能据え置き機はもっと日本でもすんなり浸透して,その流れでのオンラインゲームが普及すると考えていたのです。
 でも一方で,欧米では高性能据え置き機が浸透していて,MMOみたいな形ではないですが,オンライン対戦は定着しました。高性能据え置き機の立場は,欧米市場と日本市場で開きが出てしまったのです。欧米市場は,私が考えていたとおり,高性能据え置き機のオンライン機能によってオンラインゲームの普及が進む流れに乗っていますが,日本ではまだという感じですね。

“ゲーム”とは違う分野で急激に伸びたWiiを除いては,台数的にはやや苦戦を強いられている次世代据え置き機達。ちなみに4Gamer読者のみなさんの所持比率は,Wiiが20.3%,PS3が12.5%,Xbox 360が12.8%となっている(2007年12月調べ)。普及台数を考慮すると,PS3とXbox 360――とりわけXbox――の“異様なまでの所持率”が目立つのが,4Gamer読者らしくてよい
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オンラインゲームは,もはやゲーム性だけで勝負してはならないのではないか


カプコンの「モンスターハンター フロンティア オンライン」。FFXI以降,久々にヒットした,コンソールからの“移籍組”だ 
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4Gamer:
 確かにオンラインゲーム層の拡大ということでしたら,インフラ的観点からはおっしゃるとおりですが,ソフトウェア的アプローチはどうですか? 古くはファイナルファンタジーXI,最近ではモンスターハンター フロンティア オンラインなど,コンソール機からのソフトウェア的なアプローチ,というパターンもかなり有効だと思うのですが。まぁ視点はあくまでもPC側からのものになってしまいますけど。

松原氏:
 そうですね,そっちの方向も頑張らなければいけません。しかし最近は,ゲームだけじゃないのかな,という考えもあります。

4Gamer:
 といいますと?

松原氏:
 オンラインゲームを,どうやってコミュニティ化すればいいのか,ですね。

4Gamer:
 業界につきまとう永遠のテーマですね。

松原氏:
 この2,3年のインターネットビジネスは,例えばモバゲーさんやニコニコ動画さんのように,急激に伸びているパターンが多いじゃないですか。モバゲーさんはゲームの世界に近いですが,ご存じのように,それとてゲームで収益を得ている事業ではないですよね。無料でゲームを提供して,そこに集まったコミュニティに対して広告モデルがあってビジネスが成立している。
 mixiさんを筆頭に,SNSのコミュニティサービスが出てきて,モバゲーが出てきて,ニコニコ動画のようなサービスが登場して,すべてユーザーがあれだけ短期間に集まっている。それを見ていると,ゲームという単独のコンテンツだけで集客するよりは,もっとコミュニティに基づいたサービスをしていかないと,ユーザーに広がりが出てこないのかもしれないな,と思います。

4Gamer:
 そういったものの重要性は,仕事柄重々理解しているつもりですが,やはりゲーム屋さんはゲーム性で勝負してほしいという気持ちも,個人的にはあるのですが。

松原氏:
 もちろんゲーム性は重要ですよ。我々も「信長の野望 Online」「大航海時代 Online」「真・三國無双 Online」そして「三國志 Online」とゲームコンテンツ中心にお届けをしていますが,モバゲーやニコニコ動画の数百万人という数字を見ていると,根本的に何が違うのだろう? と考えるわけです。

4Gamer:
 なるほど,分かります。

松原氏:
 それはやはりコミュニティ――わいわいと騒げる要素なのかな,と思うわけです。もちろん,無料で遊べるなどのビジネス的な要素もありますが,ゲーム単独で提供した場合と,先ほど例に出したようなコミュニティサービスを比べると,ユーザーの数が全然違うじゃないですか。決して,ゲーム性を追求することが悪いというわけではなく,オンラインゲームを日本でも伸ばしていくためには,そういった要素を取り入れるべきかなと考えているわけです。

4Gamer:
 まぁ数が多ければいいというものでもないと思いますが。しかし業界のみなさんは,当たり前にその問題を考えているわけですよね。

松原氏:
 もちろんです。誰しも,オンラインゲームとコミュニティとの関わりというのは考えていると思うのですけれど,じゃあなぜ何百万人という数字にならないのでしょうか。無料で提供して人が来るのなら,すぐに広告モデルにすれば良いのですが,そういうわけではないだろうと思います。やはり現状のMMOのプレイヤー層は,カジュアルよりもミドル〜コアプレイヤーが多いじゃないですか。そうすると,ビジネスモデルを中心に思考するのではなく,オンラインゲームを楽しんでもらえる層を広げるためにはどうすればいいのか? ということを考えて……とか。

4Gamer:
 それがまとまれば,3月14日に講演される感じですね?(笑)

松原氏:
 そのとおりです(笑)。そういう問題意識はずっと持っているのですけどね。私の経歴が生粋のゲーム屋じゃないからこそ考えているのかもしれませんが。

4Gamer:
 確かに,ピュアなゲーム屋さんからはちょっと外れた思考ですね。

松原氏:
 むろん,コーエーの主軸は「ゲーム」です。ゲームとしてのアプローチで考えて今までずっとやってきましたが,片や,ここ数年でそういったコミュニティ系のものが多く出てきている。どうやって良いゲーム(コンテンツ)を作ってより多くのお客さまに楽しんでいただくかというアプローチだけではなく,それ以外の部分もクローズアップされ始めたのではないかと思っているわけです。もちろん良いコンテンツを作ることも,継続してやらねばならぬことですが。

コーエーのMMORPGの中でも最も異彩を放つのが,「大航海時代 Online」だ。“フィールドに出てひたすら敵を叩いて経験値を稼いでレベルアップする”という,いささか退屈気味のお約束から大きく離れたそのゲームデザインは,業界にもファンが多い
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4Gamer:
 “ゲーム”という立ち位置から眺めた場合,それに成功している人はまだいませんね。

松原氏:
 そうですね。3Dのアバターの世界を作れば流行るのかというと,業界のみなさんならたいがいお分かりのとおり,そうではないですよね。それが意図したものであれ、しないものであれ,「コンテンツ」が必要なのは明らかなのです。

4Gamer:
 コンテンツがなくても人は来るとか,コミュニティそのものがコンテンツであるとか,エンターテイメント関連の人じゃない人が増えたせいもあって,様々な意見がありますが。

松原氏:
 見解や立ち位置の違いから色々なことが言われていますが,一つ確かなのは,お客さまが来る魅力を持っており,その魅力を訴えるものが必要だということです。それを「ゲーム性」にのみ頼っているのが現状のオンラインゲーム業界なのですが,一方的にそこに頼る形じゃなくてもいいのではないかな,と思うわけです。

4Gamer:
 アプローチの方向などの細かいところは違いますが,ダレットの「ストリートファイター オンライン マウスジェネレーション」あたりが割と近い発想かもしれませんね。

松原氏:
 そうですか。ダレットさんには注目しています。

4Gamer:
 実際にダレットがどう考えているのか正確なところは分かりませんが,あれはおそらくコミュニティの構築を基本コンセプトに,「ストリートファイター」という素材を載っけただけだと思うんです。ストリートファイターという冠がむしろ後付けで,言い方は変ですが,あの歴史的IPを“どううまく殺すか”を考えて作ったものに見えるんですよ。

松原氏:
 なるほど。しかしダレットさんは,この1年でずいぶん積極的な取り組みをされていますよね。「モンスターハンター フロンティア オンライン」は言わずもがなですが,3Dならぬ2.5Dの「ダレットワールド」など,手は確実に打ってこられている印象です。

4Gamer:
 ダレット……というかカプコンは,昔からオンラインには割と積極的でしたよね。マルチマッチングBBとか。

松原氏:
 そうですね。当初は“ダレット的なサービス”の姿が私にはいま一つ見えなかったのですが,ここ1年くらいで本当に形になってきましたね。

コーエーならではの,「オンラインゲーム」を広げていく手法


元々「システム屋さん」の松原氏は,オンラインゲーム事業に対しての目は厳しい。余談だが,4Gamer読者のみなさんに馴染みの深いところでは,大航海時代 Onlineの渥美氏,三國志 Onlineの上野氏などは,バリバリのプログラマ出身だ。いまどきのオンラインゲームパブリッシャと話をしているとすっかり忘れてしまうが,昔のゲーム業界の人達は,みな当たり前にプログラマ出身だった
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4Gamer:
 しかしいわゆる今インターネットで流行っているものというのは,mixi然り,ニコニコ動画然り,広義の意味でのコミュニティエンターテイメントですよね。Webサービス側からのエンターテイメント――というよりゲーム――へのアプローチは結構強いんですけど,ゲーム側からWebサービス側へのアプローチというのはあまりありません。

松原氏:
 そうですね。当社も,根っこはゲームらしさを作る方向にあると思うのですよ。GAMECITYというポータルを持っていますが,ポータルとしての機能は,ほかのSNSやコミュニティサイトと比べるとまだ揃っているとは言えません。

4Gamer:
 でもそもそもGAMECITYは,顧客利便性向上のための課金ポータルで始まったわけですよね。

松原氏:
 元はそうですね。機能が揃ってないからといって,あそこにコミュニティの機能を付加すればいいのかというと,それだけというわけにもいかない。取り組みたい事業を簡潔に述べると,オンラインゲームを大切にしつつ,ポータル――なんと呼ぶかはまだ分かりませんが――にお客さまにどんどん来ていただけるような仕掛けを作ることが狙いです。具体的な内容をお話できる段階ではありませんが,コンテンツとコミュニティサービスの融合したものを,どうすればもっとお客さまに楽しんでいただけるのだろうというものを,見せなくてはなりません。

4Gamer:
 しかしコーエーといえば,Wiiなどのコンソール機でも色々なタイトルを持っていますが,多くのプレイヤーから見れば「歴史物のゲーム会社」ですよね。それはたぶん,少なくともここしばらくは覆らないイメージで,それがある意味コーエーの強みになっている,と。そういう,ほかのメーカーさんとはちょっと違う周辺環境を考えると,いま松原さんがおっしゃっていたことは,割と難しい方向ではないですか?

松原氏:
 各コンテンツの中身だけ見ると確かにそうですね。ここでやりたいことは,コーエーファンのみなさまに対して,オンラインゲームを軸に「横串」を通すようなサービスなのです。

4Gamer:
 戦国であれ三国志であれネオロマであれ,コーエーファンって確実にいますしね。なるほど,それでしたら理解できます。

松原氏:
 例えば「信長の野望」シリーズを楽しんでくださっているお客さまであっても,「信長の野望 Online」はプレイしたことがない方もいらっしゃる。もしかしたら,知らない方もいらっしゃる。当然,オンラインゲームをやってみようと思わない方はいらっしゃるでしょうが,何かしらのアプローチでその間をつなぐ橋渡しをしたいと思っているのです。ジャンル違いの風通しを良くする,ということでしょうか。

4Gamer:
 話の流れ的にコミュニティ重視の方向かと思ったんですが,そういうわけではなさそうですね。

松原氏:
 例えば「信長の野望」シリーズのプレイヤーさまに,どうにかして――そこが難しいのですが(笑)――我々のサイトに来ていただいて,「携帯ゲームもありますよ」「オンラインゲームもありますよ」,もしくは「三國志や大航海時代もありますよ」という情報を提供していく。それが,目指しているところです。言葉にすると非常にシンプルですが。

4Gamer:
 あくまでも私の個人的な感覚ですが,昔からのコーエーファンの人だと,オンラインゲームなどはあまりプレイしてなさそうに感じます。

松原氏:
 そういう方でも,きっとインターネットにアクセスするインフラはお持ちでしょうし,我々のサイトに来ていただいて,そこを通じてオンラインゲームというものに入っていってほしいのです。そもそも我々自身,コーエーファンと呼ばれる方達に対して100%近いカバー率――アピールのカバー率という意味ですね――を持っているかと言われれば,そんなことはありません。なんとかしてプレイヤーのみなさまとの距離を縮めて,それによって,もっとみなさんに満足をご提供できるのではないだろうか,と思っているわけです。

上段左から,「信長の野望・覇王伝」「Mobile三國志3」「Mobile水滸伝」。下段左から「Mobile大航海時代2」「Mobileアンジェリーク」「Mobile太閤立志伝」。4Gamerでも何度か紹介しているが,実は存在を知らない人も多いかもしれない。基本的に,コーエーが得意とするゲームジャンルは,非常に携帯向きのゲームである気がしてならないのだが,どうだろう。想像を遙かに超える携帯コンテンツのラインナップは「こちら」を参照
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4Gamer:
 いわゆる日本の普通のオンラインゲームパブリッシャとは,やはり視点が違いますね。

松原氏:
 古くからやっていますからね(笑)。
 先ほど申し上げたように,今までは,インフラが整って次世代機のオンライン機能が揃えば,なんとなくオンラインゲームファンが入ってきて,その盛り上がった中でビジネスをすれば良いというインフラ頼りの思考でした。ブロードバンド接続がこれだけ普及した今となっては,その延長でオンラインのゲームに興味を持ってくる人が,コンソール機のオンライン化も含めて増えるだろうと数年間思っていたのです,

4Gamer:
 しかし実態は,そうはなりませんでしたね。

松原氏:
 実態もさることながら,実はそういう考え方自体がいけなかったのではと思っています。コーエーは,自分達で増やさなくてはいけないのです。もちろん,自分達で増やさなきゃいけないということは,以前から考えてはいましたが,よりそっちの方向にフォーカスしなきゃいけない,というのが最近の思いです。

4Gamer:
 とはいえ,先ほどのお話を聞いている限り,松原さんのおっしゃる「ポータル」は,普通に考えて作ろうと思ったら,市井に溢れるただの“ゲームポータル”になりませんか?

松原氏:
 そうなんですよ。そこが頭を悩ませているところです(笑)。
 ゲームに限らずWeb上のポータルサービスというのは,差別化というものを第一に考えてそこに膨大な時間を取るよりは,ちょっと新しいものを早くやると,ほとんどそこがマジョリティを取ってしまう状況ですよね。SNSも動画サイトも販売サイトも。

4Gamer:
 そのサービス自体のクオリティや使いやすさもさることながら,ハンゲーム然り,価格コム然り,楽天然り,mixi然り,ヤフオク然り,「最初にうまくやったもの勝ち」については同意します。そして,上位2,3社以外はまったく話にならない状況に陥ってしまう。

松原氏:
 彼らがなぜ強大になって生き残ったかというと,もちろんそれぞれに良いものではあったのでしょうが,何しろ早かった。それが重要なポイントのひとつです。

4Gamer:
 恐らくオンラインサービス界隈の業界で働いている人は,みな考えていると思います。

松原氏:
 そうでしょうね。
 とすると,最初にある程度のお客さまのニーズを捕まえることが重要なのです。全部を狙ってはダメです。もちろん,より多くの方に使っていただくサービスを提供していくことは重要なのですけれども。

4Gamer:
 しかしコーエーは,すでに「差別化」の必要はないですよね。ゲーム業界においては,そもそも存在が差別化されてると思うのですが。

松原氏:
 そうかもしれませんね。差別化ということに関していえば,昔から他社さんと違うコンテンツ――「信長の野望」や「三國志」――が主軸になっている。それだけでもうコーエーのカラーとなるようなサービスを提供していたのは事実です。
 やっぱり社内の作り手は,差別化要因をものすごく気にするのです。それはそれで非常に良いことですが,片やオンラインのサービスは,誰もが想像だにしないすごい差別化をゆっくり作るよりは,ちょっとの差別化で素早くいったほうが良いのです。そういうものにも取り組んでいかないと,結局我々は,オンラインの中でいつまでもニッチなものになってしまいコーエーファンのみなさんに届けたい,楽しんでいただきたい,と思うものがあるのに,それができないままで終わってしまう。
 そういう点では,コーエーらしくないところにも挑戦していこうというのは確かな部分です。でもそのままやったら,先ほど言われたように“どこかで聞いたようなサービス”でしかなくなってしまいますよね。やはりそこには知恵を絞らないといけません。

4Gamer:
 とりわけオンラインゲーム業界は,まだハンゲーム単独首位が顕著ですしね。

松原氏:
 そうですね。我々はそのような状況下でどうやってしっかりとお客さまを取り込むかを,考えなければいけない。明らかに,2番手以降は全然駄目だというモデルがあるなら,同じことをやっていては厳しい。少し新しい,でもそれで十分というものができれば,それはそれで良いと思っています。

4Gamer:
 ゲームを集めてIDを共通化するのも確かに便利ではありますが,それではもはや生き残っていけませんし。

松原氏:
 ええ。そういうものを含め,オンラインゲームというものを取り巻く環境は変わってきていて,それがちょっと踊り場的だと申し上げたいのです。その中でどういう取り組みをしていくかという部分が,今後のオンラインゲーム業界の中でも競争が激しくなるのではないかと。
 もちろん,良いコンテンツを提供していくということは基本中の基本なのですが,それプラス何か……という部分が顕著になってきているのではないでしょうか。前々から言われてはいましたが,ここ1,2年はかなり顕著ですね。

世界展開を見ざるを得ない日本のメーカー


ゲーム性を正義とするこの業界においては,あまり言われない「グラフィックスは非常に大事」との言葉が,松原氏の口から聞こえてきた。しかし理由を聞いてみれば,なるほど納得である
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4Gamer:
 PC系のメーカーさんはもちろんですが,コンソール業界も厳しそうですよね。次世代機も,普及台数だけ見ればお世辞にも“絶好調”とはいえないですし,ニンテンドーDSが飛び抜けて売れているといっても,今までのゲーム機とは明らかに売れ方が違うものです。そもそもコンソール業界は,基本的にはプラットフォーマーが一人勝ちの構図になるわけですし,リスク少なめで予算をかけられる単独統一プラットフォームがない昨今の現状では,多くのメーカーが焦りを感じているように思えます。

松原氏:
 コンソールビジネスは,まさに今時代が動いているので,チャンスではあるのですけれど,確かに大変ですね。一つのプラットフォームで大半が占められた時代が終わってみたら,高性能の据え置き機があって,Wiiのような普及型の据え置き機があって,携帯ゲーム機があって携帯電話があって,さらに“オンライン”という要素まである。全方位で見据えないといけないですよね。当社は事業的に全部取り組んでいますけれども。

4Gamer:
 コーエー規模ならいざ知らず,普通はデベロッパとしてはリスクが高いんじゃないでしょうか。一人勝ちのプラットフォームがない分。

松原氏:
 ええ。しかも高性能据え置き機を見てみると,日本の市場がまだ小さくて……。真・三國無双5は,日本で売上げでもトップクラスですが、それでも40万本です。しかし欧米を見てみると,Call of Duty 4が普通に350万本とか。文字どおり桁が違いますよね。

4Gamer:
 無双は,以前は100万本タイトルでしたしねえ。

松原氏:
 そうですね。それを考えると、ちょっと「うーん」という感じですよね。しかしPS3は,欧米で確実に普及が進んでいるので,これからの可能性は大きいと思うのです。

4Gamer:
 欧米での次世代機の普及が進んでいるのは知っていますが,肝心の日本は……例えばPS3は150万台くらいでしたっけ? うーん,オンラインゲームのプラットフォームとして見ても,ちょっと厳しい台数ですね。

松原氏:
 まぁ日本市場だけで見れば,確かに厳しいですよね。

4Gamer:
 そうはいってもコーエーは日本のメーカーですよ。

松原氏:
 ええ。世界市場で見てみると,確かに欧米は,PS2から高性能据え置き機へ完全にシフトしましたよね。しかも日本のマーケットの4,5倍という数字で。
 我々から見ると,高性能据え置き機は主軸として絶対にあるものなのですが,そのマーケットの多くが海外なのです。

4Gamer:
 敢えて冷静に言わせていただくと,現状の日本では,少なくともPS2のときよりは圧倒的に少ない数のゲーマー「だけ」が,PS3に5万円(編注:現在は4万円のモデルもある)を払う魅力があると判断しているわけですよね。

松原氏:
 その問題に関して意見を持っているのは,当然私だけじゃないと思うのですが,私が思うに,高性能機のメリットが一番分かりやすいのはグラフィックスですよね。

4Gamer:
 「グラフィックスの凄さこそが,高性能機の最も分かりやすい特徴である」ということですね。

松原氏:
 そうです。「ゲームはグラフィックスである」ではありません(笑)。
 それで,そのグラフィックスの凄さという部分に立って,それを強く訴えられるゲーム性を受け入れる土台が,日本にあるのか,欧米にあるのかと考えると,ちょっとハッキリしますよね。
 綺麗なグラフィックスをユーザーが好む嗜好性というのは,明らかに欧米のほうにあります。FPSとか,アクションゲームの類を見てもそうですよね。日本は,ストーリーや可愛らしいキャラクターといったものを重視する傾向にあるのか,そこまでの高性能なグラフィックスを必要とされていないのですよね。もしくは,それを活かしたコンテンツがまだ出来ていないか。

4Gamer:
 なるほど。おっしゃることは分かります。

「グラフィックスの凄いゲーム」の代表例として,ここではCrysisとCall of Duty 4をチョイスしてみた。CoD4はコンソール版もちゃんと売れているようで,氏の言う“凄さのアピール”は成功しつつあるのかもしれない
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松原氏:
 活かしたコンテンツというのは,ストレートなCGで世界を表現しているという意味です。1,2年経ってくると,CGだけではなくて開発環境のレベルが全体的に底上げされてきて,色々な表現ができるようにはなると思うのですが,最初に高性能をアピールするための要素といったら,やはりグラフィックスだと思うのですよ。例えばNBAをあれだけリアルに表せるCG,とでもいいましょうか。
 そのリアルなCGが日本で受けるとか受けないとかというよりは,日本のプレイヤーのみなさんの好む形で,ゲームシステムとうまくつなげて表現できるコンテンツじゃなきゃ駄目ですよね。それこそが,高性能機が最も分かりやすい形でアピールできるポイントだと思うのです。

4Gamer:
 PS2の末期も,アニメ系な絵柄のゲームばかりでしたね。

松原氏:
 デフォルメ系で良いとなると,3Dの高機能というものは,どうしてもフォーカスされづらくなりますよね。

4Gamer:
 そして負のスパイラルが起こる,と。

松原氏:
 3Dのアニメ映画なんかも,日本では思ったほど流行らないですよね。アメリカでは,3Dアニメーション映画が当たり前になっているのに。現時点でのゲーム自体の作り方を見て,世界マーケットで勝負していこうと思ったら,日本のことを考えるよりも,欧米のテイストに合わせないとならないのですよね。そういう部分が,PS2の時代と変わってきているのだなと考えさせられます。

4Gamer:
 ……そういった話を,OGCで講演するんですか?

松原氏:
 今お話していたようなことは,オンラインゲームとはちょっと関係ない話でしたね(笑)。何をもって“CROSS BORDER”と呼ぶか,まだちょっと決めかねています。
 普通に“border”という場合は,地域的な意味を込めるのですが,そのような意味から見ると,アジアを含めて欧米思考にならないと生き残っていけませんよね。そしてもう一つが,コンテンツだけを考えるのではなくて,オンラインとしてのサービスまでを考えて,コンテンツとサービスの境目を越えないと駄目ですよ,という部分。その二つのどっちにフォーカスして話そうか,講演の日までには決まっているでしょう(笑)。

4Gamer:
 聴講している人の層を考えると,後者のほうがしっくりくるかもしれないですね。

松原氏:
 OGCですしね。ただ,ゲーム業界の国際化と多様化という意味でのCROSS BORDERは,コンソールゲーム市場を見れば明らかなので,おっしゃるとおり,後者のほうでしょうね。
 どうやってコンテンツとサービスをシームレスな関係にして,先ほど申し上げた横串を刺すものを作り,ユーザーに対しての広いサービスを提供できるか。ユーザーに対するアプローチの幅を広げるという意味でのCROSS BORDER,ですね。

コンテンツは,なんでもかんでもただで入手できればいいというわけではない


4Gamer:
 しかしアプローチの幅を広げているのが,クライアント無料/基本無料という,シンプルかつ安直な道しかないというのが気になりますね。

松原氏:
 我々のビジネスというものは,コンテンツを作ってお客さまに届けて,その“創造性”を対価としていただくものです。一方で,みなさんよくご承知のようにインターネットという,コンテンツを無料で享受できるサービスができているのも事実です。しかしやはり我々としては,そことはある程度明確な線引きをしたいな,と思っています。

4Gamer:
 大いに賛同です。

松原氏:
 無料で楽しめるコンテンツと,創造性があって「お金を払ってでもやりたい」と思っていただけるコンテンツは,違うものだと思うのです。もちろん,古くなったものや,ある程度償却の終わったものをプロモーションの意味でご提供するなどはありえます。そういうものを含めても,コンテンツがお客さまに楽しんでいただくその対価,というビジネスの根底はキープしていくと思います。
 ある面,無料のオンラインサービス,広告モデルという単純なあり方だけじゃないと思うのです。我々はそういう点では,コンテンツというものを作ることしか取りえがないとも言えますけれども。原点は保ちつつ,やはり時代の流れというか,お客さまの求める方向がある程度そっちにあるのではないかなと。

4Gamer:
 しかし今の日本のオンラインゲーム業界には“作り手”があまりいないですよね。大手有名どころの会社はまだしも,業界全体へのメッセージとしては,現状では少し難しいような気がするのですが。

松原氏:
 規模は小さくても頑張っていらっしゃるところはありますが,確かにパブリッシングがメインのところが多くなってきましたね。
 作る側への参入障壁が高いように見えているのですかね。もちろん,我々だって簡単に作れたわけではないのですが。

4Gamer:
 むろんそれが悪いわけではないですが,たいがいは何かを持ってきて運営するだけですからね。……とはいえ,そもそも作るまでのお金の問題が,あまり解決されてない気がします。これだけ色々な外部産業からお金が流入しているのに。ファンドなども事実上ほとんど機能していないですし。そういう部分をまず整えるのは,大事なことのような気がします。

松原氏:
 信Onがサービスインしてから5年近く経っていますが,もっとみなさんオンラインゲーム開発に参入してくるかと思ったらそうでもないですね。

4Gamer:
 実は数年前とほとんど状況が変わってないんですよね。

松原氏:
 例えば,ガンホーさんみたいにパブリッシャから転身してデベロッパに取り組んでいるところとか,ああいう形での作り手側というのは増えてほしいですね。

話題に挙がった,ガンホー直近の“開発作”である「北斗の拳ONLINE」。発表から登場までがずいぶんと長引いてしまった作品だが,事実上のエンジン載せ替えで再起を図る 
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4Gamer:
 まぁ大手さんだからこそ慎重なんだとは思いますけど……。
 とはいえ,いま国産メーカーで,オンラインゲーム業界において一定の知名度を誇る会社というのは,やはりずいぶん昔から色々とチャレンジしてますよね。コーエーは言わずもがなですが,カプコンにしてもスクエニ(スクウェア・エニックス)にしても,それはもう,色々な挑戦をしているし,色々な失敗もしている。だからこそいま君臨できているんだと思いますが。

松原氏:
 コーエーに入って「信長の野望 Online」を始めたころは,会社の中でもあれが黒字になるどころか,サービスインするかどうか信じられなかった人もいっぱいいたと思いますよ。「本当にMMO作るの?」みたいな感じで。みんなUltima OnlineとかEverQuestを当然想像していて,なんだか全然違うジャンルで大変そうだなぁ,という感じはあったかもしれませんが(笑)。
 私が外部から来たこともあって「まぁやってみましょう」という感じで,へこたれつつ……。かなりの開発費を使って作らせてもらって,それが今や曲がりなりにも優等生ビジネスになりました。とりあえず,へこたれずにやるものですね。

4Gamer:
 へこたれない,というのはシンプルな結論で,かつ真実だとは思いますが,大手メーカーから“これからの会社”へのメッセージとして考えると,キャッシュの問題はどうすればいいですかね。お金があっても挑戦しない大手メーカーさんというのは,それはそれでポリシーなりビジネスプランなりの問題だから別に良いのですが,お金はないけど「作ったる!」と思っているところのほうが重要な気がします。
 そういうときのために,ちゃんとファンドなりが動くべきだと思うんですよね。現実的に,そういうやる気があって小さいデベロッパが「20億必要だから貸して」ということはまずないでしょうし。

松原氏:
 ファンド会社の方は,最後は映像となるような――映像として提供して,しかも2次使用できるような,そういうコンテンツに対するこだわりがあるのですよね。それがあれば,二次使用料を切り売りできますし。
 でも現状のたいがいのオンラインゲームは,そんなことできないじゃないですか。しかも,サービスインしたらランニングコストが絶対にかかる。こういうものを,ファンドとしてどう捉えますかという問題ですね。サービスインはしたけど,毎月数千万円のコストがかかりますと言ったら,ファンドの運用者から見たら,本当はいくらかかるのかまったく分からない世界なのですよね。

4Gamer:
 確かにまだノウハウや運営の知識が確立されて共有化されているようには思えないですしね……。

松原氏:
 ですから,より詳細に見ないといけないですし,ゲームに詳しい人でないと見極められない。まぁ例えば「そういうものなんですね」となったとしても,そこでどうスキームを作るのかが分からない。アニメとか映画にはないスキームを考えないと,ファンドとして成り立たないでしょうね。

4Gamer:
 なるほど。いまあるオンラインゲーム系のファンドって,「設立から○年経っていること」「確固たるビジネスプランがあること」「○年分の決算書を見せられること」とか,少なくともこれから頑張ろうとしている会社のためのものじゃないですよね。決算書なんかあるわけないのに(笑)。
 しかもおっしゃるように,ゲームを知っている人がほとんどどこにもいないから,効果的なお金の投下ができるはずもなく。……うーん,VC(ベンチャーキャピタル)系が頑張ってくれるとかっていうのがいいんですかねえ。

松原氏:
 コーエーは,ほとんど自社でやっていますよ。

そんなコーエーの最新MMORPGが,この「三國志 Online」。紆余曲折あったが,製品稼働の始まった現在は,多くのプレイヤーで賑わっている。深夜帯に人が目に見えて減るように感じるのは,社会人プレイヤーが多いがゆえ,か。なお14日のOGCの基調講演で,登録者数が約12万5000人,月額課金を支払っているアカウント数が2万であることが明かされた
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コンテンツそのものの価値を見失ってはいけない


非常に物腰柔らかな松原氏だが,質問に対する答えはよどみなく,かつ次々と話が展開していく。こうも次々と広がっていくと,きっと横で聞いている広報担当は冷や汗ものに違いない
画像集#026のサムネイル/コーエー代表が語る,これからのオンラインゲーム業界――コンテンツは,なんでもかんでもただで入手できればいいというわけではありません
4Gamer:
 そんなこんなで,最初に松原さんがおっしゃったように,業界としていったん“踊り場”に差し掛かった印象はありますし,開発や運営など,パブリッシャ側で見た場合にも,全体としては,想像したほどの発展をしていなさそうな印象です。
 伸びていく先がないというか,なんとなく予測できる将来像,がないですよね。もちろん,大手の良いコンテンツが出てくればそれなりに市場は盛り上がっていくでしょうが,それは歴史の繰り返しに過ぎませんし。現在から近い将来に関して,何か見解はありますか?

松原氏:
 オンラインゲーム業界というのは,いわゆる“MMORPG”然としたコアプレイヤー向けのものと,カジュアルでアイテム課金的で基本プレイ無料,みたいなものの大きな2種がありますよね。
 月額課金を主としているからよく分かるのですが,基本プレイ無料というビジネススキームを選択すると,コンテンツの監修というものが,基本的にかなりリスキーになるのですよ。コンテンツに掛けられるお金が少なくなると,ゲームとして優れたコンテンツができなくなるのは必然ですが,私としては,これは止めたい流れなのです。コンテンツを作る側としては,仕事がなくなる――というのは言い過ぎにしても,自分達のやりたいことができない,自分達の持っている創造性を活かせないという話になりますよね。

4Gamer:
 おっしゃるとおりですね。アイテム課金というモデルが,一体どのように成立しているのか――収益,という意味ではなくて,です――いつも不思議に思っています。以前,アイテム課金をビジネスモデルにしている会社のぶっちゃけ話を聞いたとき,想像を超えて売り上げが下回った場合は,まず「広告」,次いで「運営などの人件費」を削ると言っていました。1番目はまだしも,2番目は削っていいものなんですかねぇ。

松原氏:
 予想とのブレが短期スパンで起こるので,結構クリティカルですよね。それが全部私の杞憂で,しっかりと広告で儲かりますとか,プレミアム課金で十分儲かりますとかだったら,まったく問題はないんですが。でも世の中は想像以上に短絡的ですし,単に水が低きに流れているかのような雰囲気を,ちょっと感じているのです。

4Gamer:
 ゲーム内広告もまだまだ発展途上だし,ほかの有効なビジネススキームが見つかっていないことは大きいですね。

4Gamerアンケート調査のデータを元に,いくつかのオンラインゲームを,年齢別,PCスペック別にポジショニングしてみた図。読者のみなさんであればよくご存じのように,この中の大半のタイトルはアイテム課金制を採用している。まずパッケージをタダにして,次いで月額課金をタダにして,そうやってゲーム業界に立ち位置を確立したオンラインゲームは,この先一体どうやって生き延びていくのだろうか
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松原氏:
 話を戻しちゃいますが,そこで敢えて「CROSS BORDER」ですね。コンテンツはコンテンツでもちろんしっかりしなくてはいけませんが,ほかのサービスをも抱え込んだ形で“有効性”を持たなければいけないと思います。そういう風にしていかないと……。
 極端な例えですが,コンテンツはお客さまがタダで享受できるものだとしましょう。そして,それを広告モデルで回すことにします。となると,我々は地上波テレビのようなインフラを作らなければいけませんね。

4Gamer:
 広告というものが持つ価値と本質的な意味を考えると,極論はそうなるかもしれませんね。

松原氏:
 では,地上波テレビのようなインフラを作ったとしましょう。そこで広告で大きな収入を得て,コーエーチャンネルみたいなものも持ったりして,「ここの広告は○○円です」とか,代理店さんなどと一緒にビジネスをしたりして……そうじゃないですよね,きっと。

4Gamer:
 ビジネスの理屈としてはとてもよく分かりますが,心情的にはあまり納得できません。

松原氏:
 そうです。そちらを目指すのも良いかもしれませんが,ゲーム業界というものを考えたとき,やっぱり直感的に違う気がするのですよ。
 ゲームは,インタラクティブであるという部分から見ても,やはり働きかけることによって享受できるコンテンツです。そういう点で,テレビ番組みたいな広告モデルで成り立っているコンテンツビジネスとは,だいぶ違うのではないかと思うのです。どうしたって,ある程度の顧客層にターゲットを絞って,ある程度の時間を割いていただいて,それでいて楽しんでいただけなくてはいけない。連続テレビ小説みたいに,15分見たから今日はゲームやったぞ! というわけにはいかないですよね。
 やはりゲーム業界というものは,コンテンツの価値というものをお客さまに納得していただく形というものがあるべきもので,その形こそ変わっていくかもしれませんが,続いていくと思うのです。

4Gamer:
 最近のゲームコンテンツや,開発者の人が一生懸命作ったバイナリファイルの価値の下落たるや,目も当てられない惨状ですしね……。
 作り手としてのコーエーの,これからの活躍に期待しています。本日はありがとうございました。


 いまさらここで筆者が声を大にして言うまでもないことだが,オンラインゲーム市場は,明確に真価が試されるフェイズに差し掛かっている。まるでバブル期のような盛り上がりと,それに追従した各種パブリッシャの熾烈を極めた戦争は,2007年の1年間で相応の終結を見たといえるだろう。アンケートを見る限り,4Gamerを読んでくれている読者のほとんどはゲームが好きで,そのさらに多くがオンラインゲーム好きであるわけだが,そんなみなさんであればうっすら感じているように,昨年1年で“ヒット作”と呼べるほど人を集めたタイトルは,ほとんどない。ザッと数えて日本市場だけを対象に見ても,200タイトルほどが動いたにも関わらず,だ。
 それはおそらく,単にゲームの数が増えてユーザー数が上限頭打ちになったからではない。もはや,オンラインであることそれ自体が称賛されて評価された時代は過ぎ去り,コンテンツそのもののクオリティで勝負する時代――あるべき姿,というべきか――に突入したのだ。

 オンラインゲームを,一瞬の「PCでの娯楽」として捉えるならば,ニコニコ動画やmixiは言うまでもなく,blog,Twitter,楽天,ヤフオクなど,ライバルとなる娯楽はほかにも山のようにある。オンラインゲームメーカーの中には,今でも同業他社をライバルだと思っているところが多いが,一歩引いた視点で見るならば,本当のライバルは,オンラインゲームメーカーではない。24時間という,万人に共通の有限なものを消費してもらうには,ほかの娯楽と勝負しなくてはならないのだ。松原氏の提唱する「コミュニティ要素」というものは,その部分を一種内包して具現化しようとしているものだといえるだろう。

 また,オンラインゲーム開発のノウハウが皆無だった日本の開発者達も,着々と知識を蓄え,それが開花し始めたのも2007年の特徴だ。それによって,欧米や韓国のコンテンツを買ってきて矢継ぎ早に運営していた“一大輸入産業”は終焉を迎えたともいえる。ここで民族主義を唱えるつもりは毛頭ないが,ゲームがエンターテイメントで一種の嗜好品である以上,日本人が日本人のために作ったコンテンツは,やはり強い。

 その「日本人が日本人のために作るオンラインゲーム」を,先頭切って具現化しているのがコーエーだ。やんわりと“安易なアイテム課金”に警鐘を鳴らしつつ,コンテンツの価値下落に懸念を示した松原氏。本記事が載るころには,すでにOGCにおける氏の基調講演は終了しているはずだが,新たなポータル構想を筆頭として,氏が舵取りをする“2年目のコーエー”には要注目だ。

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