企画記事
変化を迎えるオンラインゲーム業界で成すべきことは,何か――ガマニア,ガンホー,ゲームポット,ハンゲーム,ハンビットのそれぞれの思惑。マルチプラットフォーム化から若手の育成まで
安心である,というイメージの重要性――でも,実際に「オンラインゲーム」が悪いことってほとんどないですよね
――そこで業界のイメージアップですよ
森下氏:
言うほど悪いですかね,世間のイメージ。
森川氏:
法律的に禁止されてるわけじゃないですしねえ(笑)。いまどきの小学生がPC使う理由の筆頭はオンラインゲームらしいので,そういう意味ではPTAとかに睨まれがちではありますが。
浅井氏:
新しいものが社会に広がっていくとき――マンガとかファミコンとか――にありがちですけど,よく分からないから警戒されているという部分が多分にある気がしますね。
ちょっと前に,とある会合にオブザーバーで参加したことがあって,そこはいろいろなインターネット関係の話が出る,PTAの方とかいらっしゃる会合だったんですけど,その中の一つの議題がオンラインゲームだということで呼ばれたんですね。
とはいえそこでは,「オンラインゲームは危ないものらしい」ということをみなさんが懸命に議論してるんです。オンラインゲームがどういうものかも分からず。詐欺にあったり出会い系で使われたりして危ないから,オンラインゲームには注意しよう!という冊子を数十万部作って学校に配布する,とか。
――反駁する余地すらないですね。
浅井氏:
確かに,全体の中で極々一部ではありますが,詐欺だったり出会い系だったりハッキングだったりっていうのは,表面化しちゃってますけどね。それがあって,全体的に警戒しちゃってるというのはすごく感じます。
――でもそれってつまり,イメージがあまり良くないその理由すら分からないわけですね。
浅井氏:
なんとなく危ないもんなんじゃないの? というものに陥ってるだけにも思えます。
パク氏:
イメージがあまり良くないのは僕も個人的には重々分かってます。でも,実際に「オンラインゲーム」が悪いことってほとんどないですよね。
植田氏:
といいますと?
パク氏:
例えばハッキングとかっていいますけど,それはアイテムが欲しいとかなんとかそういう理由でハッキングをするわけであって,オンラインゲームそのものが“悪いもの”ではないですよね。ニートの問題もそうですし,RMTもそうですし,オンラインゲーム“そのもの”には関係ないですよね,どれも。
――なるほど。おっしゃることはすごくよく分かります。
そういうことを色々考えていくと,やっぱり任天堂さんのイメージ作りは本当にうまいなぁ,と思います。体を動かすとか家族と一緒に遊ぶ,とか。大体某有名RPGだって,発売時には恐喝だの殺人だのあったわけで,コンシューマゲーム機にいいイメージはなかったわけですよね,あの当時。
オンラインゲームにだって,何かそういうことができると思うんですよ。イメージアップっていうと言葉がちょっと悪いんですけど,もっと本当の姿をちゃんと分かってもらうべきというか。
浅井氏:
オンラインゲームに関わる“いい話”をあえてリリースしてみるのも,いままでほとんど誰も恥ずかしくてやってなかったけどアリかもしれませんね。ネガティブなものだけがニュースになりがちですし。
個々のコンテンツの努力と,業界全体の利益を考えた動きっていうのがそろそろあるべき……なのかな。
植田氏:
イメージというか,なんていうか,若い人が「スタイリッシュ」だと思えるイメージも大事かな,と思いますね。
そうですね。親御さんが「安心だ」と思える方向のイメージと,若い人が「お,これならやってみようかな」と思ってくれる方向のイメージと,たぶん二通りあると思うんですよね。後者のほうを目指したのが,今回の実店舗展開なんですけど。
パク氏:
うちはこの夏,すごく前者を意識しました。コミュニティサービスの「POKIPOKI」なんですけど,低年齢層のユーザーがすごく多いんです。親御さんに安心していただくために「青少年保護方針」を大きく公式サイトで打ち出したりして,健全性や安全性を猛烈アピールしたつもりです(笑)。
森下氏:
ネットカフェなんかも,昔のイメージから比べるとずいぶんキレイになったじゃないですか。なんかもう,すごく昔のゲーセンみたいな悶々としたイメージから,いまじゃなんだか岩盤浴とかあったりして(笑)。
植田氏:
あれなら泊まってもいい気がしますよねえ,確かに。
浅井氏:
……家に帰れないとか帰りたくないとかそういう話じゃないですよね?
(一同笑)
話ちょっと戻しますけど,親が安心して遊ばせられるっていうと,やはりリビングへの進出は欠かせないですよね。自分の部屋で一人でやってると,親御さんもやはり何してるんだか分からないっていう心配はあるだろうし。リビングなら親子のコミュニケーションも取れるし。僕らの世代はまだファミコンの洗礼を受けてるから分かりやすいと思いますけど。
ハンゲームさんとかがそうだけど,ポータルみたいなああいう形で,外からすぐいろいろなものが見えるようにしておくっていうのは大事なことなのかもしれない。そういうものをも含めているのが,ポータルサイトに課せられた使命なのかも。ってどんどんプレッシャーをかけてみたりして(笑)。
――ドイツにGCというゲームショウがあって,そこには「Kinder」と呼ばれる,子供向けの作品だけが集まった巨大ホールがあるんですよ。それだけでTGSの半分くらいの規模の。あるときそこにラグナロク オンラインが展示されているのを見つけたんですけど,やってるのはお爺ちゃんとおばあちゃんなんですよね。孫そっちのけで。
森下氏:
ラグナロクも,いまではおかげさまでいろんな国(編注:62か国)に展開してて,いままでは僕らも日本だけしか見てなかったのが,世界の“反応”が入ってくるようになったんですけど,世界のいい所は学んでいきたいですよね,どんどん。日本でうまくいったことは,逆に世界に広げていきたいと思うし。
そういうことは考えてはいるものの……実は日本ではまだPCっていうものそのものがハードルが高すぎるのかなぁ,とも思ったりして。諸外国では全然そんなこと感じないんだけれど。例えばゲームを遊ぶ,という部分“だけ”で考えるなら,PCの対抗馬はコンシューマ機とか――極論ニンテンドーDSとか――になるわけじゃないですか。
浅井氏:
かなり分が悪いですねえ。
パク氏:
韓国とか中国とか東南アジアとかもそうですけど,コンシューマ機がまったくない状況だったからPCがここまでゲームの道具として普及してるわけで,そういう意味では日本でのPCゲームというのは本当に厳しいかもしれませんね。ファミコン,スーファミ,PS,PS2……。それを覆すのは,やはり大変だと思いますよ。
森川氏:
あと韓国中国あたりだと,子供にPCを教えるというのは当たり前のこととして存在して,子供がPC触ってるのは偉い,みたいなのがあって。日本だと逆に,子供がPC触ってると「ウチの子は大丈夫かな」みたいな風潮があったりして。
――逆アプローチで,ハンゲームをPS3に対応させてみるとか
森下氏:
じゃあ開発はウチが……。
(一同笑)
森川氏:
そうですね。真面目な話,森下さんも言ってたように面白いかどうかだけが問題なので,その価値があるならばやるべきですよね。イメージはもちろん大事ですけど,そればかりを気にしてつまらないコンテンツだけがいっぱいできても仕方ないし,そもそも会社が生き残っていけないし。
グローバルにマルチプラットフォームに展開する――コンシューマゲームとオンラインゲームって,映画とテレビの関係なんじゃないかなぁ
――今日お集まりの5社さんは,パブリッシャ専業だったりデベロッパも兼ねていたり色々ですけど,そのあたりは何かみなさんお考えとかはありますか?
パク氏:
Hanbitって元々パブリッシャですよね。で,Hanbitを買収したT3ってデベロッパなんですよ。なんとなく昔ってパブリッシャのほうが偉いみたいな風潮がありましたけど,そういうものが変わっていくという意味ではすごくいいことだと思いますね。別にどっちが偉いとかじゃなくて,お互いの機能は持っておくべきだと思うし。
浅井氏:
ガンホーさんなんかは,パブリッシャから始めて開発会社というファンクションを持ちつつ,プラットフォームも多様化して,戦略的にすごくいい進め方をしてますよね。
森下氏:
ガンホー設立するときから,とくにPCにこだわってたわけじゃないんですけどね。僕元々コンシューマの会社にSDKを提供してた人だし。いつかコンシューマ機にもオンラインの流れが来るだろうな,とは思ってやってたんですけど,まぁそれは当時はちょっと早すぎて(笑)。
ビジネスとしてチャンスがあるのは,どう考えてもPCですよね。なにしろオープンマーケットだから制約もほとんどないし。なのでそこからスタートして,ゆくゆくはコンシューマにも,とはずっと思ってて。設立時にもラグナロクじゃなくて本当は自分達のオリジナル作品で出たかったんですけど。
なのでグローバルにマルチプラットフォームにビジネスを展開しようというのは,最近やっと実を結んだことではあるけれど,当初の予定どおりなんですよね。スケジュール感的にも,そう悪くはない。おかげさまでエミル・クロニクル・オンラインなんかも海外でいい数字を出せてますし。
森川氏:
大したもんですよねえ。
森下氏:
でもラグナロクオンラインをやるときだって,相当周りから「そんなもの売れないよ」って散々言われて,かなりへこんだりして(笑)。今までいろいろやってきましたが,うまくいったこともあり,まったくうまくいかなかったものもあり。
ウチは逆にパブリッシングに徹したいですね。やっぱりいいゲームを作る能力と,ゲームを運営する能力っていうのは全然別だと思うし,ゲームの根幹の部分の面白さについては,クリエイターさんにおまかせするというか。それをどううまく生かしていくのか,ビジネスモデルをうまく構築するのか,とそういう部分に徹していきたいな,と思ってます。
――Wizardryは?
植田氏:
……そうですね。ありますね,そういうのも。
(一同笑)
植田氏:
いやすいません,忘れてるかと思ったら突っ込みが入ったので(笑)。
そうですね,Wizも我々らしい“エッセンス”を入れようとは思っていますが,幹の部分に関しては,キチンとWizardryの世界観を出せる人に作ってほしいな,と思ってます。……ってこんなことここで言っていいのかな。
“よいWizardry Online”が出来たら,その後の部分は我々のノウハウの出番ですよね。本質的に面白い部分っていうのはロジックじゃないし本に書いてあるわけじゃないし。
浅井氏:
パブリッシングをやるとかデベロップメントもやるとかそういう言葉じゃなくて,結果的にはIPを持つのかどうか,という部分なのかもしれないですね。開発会社を内部に作るのも買収するのも,IPを持つための手法の一つですよね。外からIP買ってくるだけだとリスキーですし。
――しかし日本のコンシューマメーカーさんの最近のIPの外だしっぷり(*)は相当なものですが。
浅井氏:
結構派手に出してますよね。
(*)ザッと4Gamerで記事が見つかるものだけでも列挙してみよう。下記以外にも,F.E.A.R.やFIFA,Quake Wars,NBA Streetなど海外の会社の案件もあるが,これらがすべて本当に完成するのなら,もはや韓国は“一大オンラインゲーム請負所”の様相さえある
・ドラゴンボール
・SDガンダム
・魔界村
・THE KING OF FIGHTERS
・サムライスピリッツ
・メタルスラッグ
・ルミネス
・スーパーモンキーボール
・塊魂
・ケロロ軍曹
・ヴァンテージマスター
・イース
・Golden Axe
・Zwei!!
植田氏:
世の中はみんなIPを欲しくて欲しくて仕方ないのに(笑)。作れないとか作りたくないとか,そういう理由なんですかね。
森下氏:
実際にやろうとするとすごく難しいと思いますよ。世界を睨むとコンシューマでの展開になるだろうし,どうしても。
森川氏:
各社さん色々なことに挑戦して失敗してますね。
森下氏:
となるとコンシューマ系の開発チームを使おうとするわけで,そうするとさっき言ったような色々な問題が表面化してきて,現実的にはなかなか身動きが取れないと思います。だからやっぱり「開発と運営の一体化」というのが望ましいと思うんですよね。開発をある程度フィニッシュさせたら,次に運営フェーズのチームに引き渡したりして。
森川氏:
あと何気に無視できないのは,開発者さんって運営を嫌うんですよね。どうしても“運営のほうが格下”っていうイメージがあるのか。
浅井氏:
あぁ,そういうのはあるかもしれませんねえ。
森川氏:
自分の経験に当てはめて考えると,たぶん映画とテレビの関係なんじゃないかなぁ,と思うんですけどね。映画って監督がいて,監督の言うことが絶対の正義なわけですが,テレビは絶対にお客さんが“主”なんですよね。
――なるほど。すごく分かりやすい例えですね。
植田氏:
確かにすごく納得できる例えですね。
森川氏:
お客さんに合わせると,監督はそりゃもう怒るわけで(笑),カメラマンとかでも巨匠みたいな人とかいるわけで,なかなかそういう部分がうまくいっていないように思えます。
森下氏:
こだわりを持つのがコンシューマ系の人達の特徴ですよね。
森川氏:
それが非常に良いところでもあるからまた難しいんですけど。
求む,志と野望を持ったクリエイター達――ゲームも,「メジャー」と「インディーズ」の存在を共に許容できるようにしちゃえばいいんじゃないですかね
植田氏:
オンラインゲームは,いい意味で“ゆるい”ですからね。
こないだChinaJoyに行ったときに,とあるゲームの運営を見せてもらったんですけど,ミドルウェアみたいなものがあって,それをGMが勝手に触って,マップとかダンジョンとかアイテムとか勝手に足してるんですよ。ゲーム内世界に(笑)。
パク氏:
マップってゲーム内マップ?
植田氏:
そうです。もう正直ハチャメチャとしか言いようがないんだけど,ある意味すごく合理的で,かつ“オンラインゲームらしい”なぁ,と思って妙に感心しました。
浅井氏:
すごいなぁ,企画者がいらないんだ……。
――“ゲーム”としてはどうなんだろうとは思いますが,オンラインゲームを象徴するかのような運営方法ですね。
植田氏:
ええ,本当に。
森川氏:
その場の気分でデータとか決めちゃうんでしょうね,きっと。
森下氏:
なんだか寂しいような気もするなぁ(笑)。
浅井氏:
日本のメーカーさんってやっぱりこだわりを持っているし,それは先ほどから再三出ているように素晴らしいことなんですけど,そうはいってもここ数年,新しいゲームってほとんどないですよね。売れてるもののシリーズものとか焼き直しばっかりで。
韓国とか中国のオンラインゲームマーケットのほうが,そういう意味ではいまはまだ健全な発展の過渡期のような気もします。日本にはもう新しいものを作れる人がいないんじゃないかってよく心配になるんですよ。
森下氏:
若手の擁護をするわけじゃないんですけど,若手の人がチャレンジしたいとかこういうことがやりたい,っていうのをどうやって会社がそれをフォローするかだと思いますよ。
浅井氏:
ええ,それはよく分かるんですが,なんというか……例えば,それはあくまでも「FFみたいなゲームが作りたい」っていうのであって,独立して一発当ててやる,とかそういうものじゃないですよね。スクエニさん(スクウェア・エニックス)とかバンナムさん(バンダイナムコゲームス)に入りたい,というのもいいんですけど,もっと“志”とか“野望”を持ったクリエイターの人こそ,いまいて欲しい気がするんですよね。
――噂ではスクウェア・エニックスの新人さんの面接は,結構な割合で「ファイナルファンタジーみたいなRPGを作りたいです」って言うらしいですよ。
新しいものを作りたいって思ってる人の企画とか見ると,映像的な世界観とかばかりが強調されていることが多くて,ちょっと心配になります。昔のほうがよかった……と言うつもりはないですが,少なくとも昔のほうがバラエティに富んだゲームがいっぱいあったわけで,もうそういう時代を経験していない人が増えていて,ゲームの本質からズレたところにパワーを割く傾向があるんですよね。そんなこと心配してるのは僕だけなんですかね。
森川氏:
どの業界にもいえると思うんですけど,最初はリスクがあるから独創的な,ある意味変な人(笑)が集まってきて,その波が去ると,次には「安心したい人」がいっぱい入ってきて……みたいな。時間の流れの中でのステージの問題なんじゃないですかね。ハリウッドなんかも同じ流れですし。
それこそ「メジャー」と「インディーズ」の存在を共に許容できるようにしちゃえばいいんじゃないですかね,ゲームも。4Gamerさんでも連載してますけど。
――あの連載で出てくるゲームって結構どれもすごいですよね。ああいう人が,もし望むのであれば,もっと脚光を浴びてステップアップする場所はあってもいいかもしれない。
浅井氏:
そうですよねえ。そういうのはあったほうがいい。
……このあとも,場所を変えつつ昔話や雑談などを中心に延々と続いていったのだが,とりあえず記事はここまでとしたい。
本当はもっと違うテーマで話そうかな,と思っていたのだが,いざフタを開けて流れるがままにまかせてみたら,コンシューマ業界と,いまはPCが主軸であるオンラインゲーム業界との関連の話が多勢を占めた。コンシューマ業界の人とたまに話をすると,話題の中心は“オンライン”だったりするので,やはり良い意味でお互いに気になる存在なのだろう。
この5名が,同じ場所で公の話をしたことはないと思うのだが,それぞれに会社と個人のカラーが色濃く出ていて,大変興味深い。“ゲーム”そのものに対して熱い思いを持つパク氏と浅井氏,状況を冷静に分析して先へ先へと手を進める森下氏,その中間のポジションでキッチリと会社を舵取りする植田氏,異業種での経験を役立てて,他がやらない独自の観点で業界を引っ張る森川氏。
きっと,読者のみなさんや業界の方が読んでも興味深いものであると思う。
2005〜2006年あたりで隆盛を極め,そのあたりが過去最大の絶頂期ともとれる日本のオンラインゲーム業界は,昨今はひとしきり落ち着きを取り戻し,狂乱のような熱気も収まりつつある。併せて投資筋なども落ち着いたせいか,経済価値としても“ちょっと踊り場”などと評されることが多い業界ではあるが,座談会中で浅井氏が述べているように,渦中の人にとってはまさにここからが勝負。この一連の土砂崩れを回避できれば,また明るい時代がやってくるように思える。コンシューマだって,そういう道を辿ってきた。
個別には何度かお話をしたことがあり,それぞれに色んなことを考えているんだなぁ,と当たり前ながらいつも思っているのだが,この,一見すると雑談にしか見えない彼らのセリフをひとしきり読んでみると,思っているより冷静に状況を分析しているのが見てとれる。スクウェア・エニックスやコーエーなど,本当の意味でマルチプラットフォーム戦略――というよりはもはや多角化経営か――を執り行っている“別レイヤー”はともかくとして,事実上日本のオンラインゲーム業界のトップレイヤーに位置する5社のトップが,迷いなく,明後日の方向に走っていかずに進んでいけるのなら,業界とプレイヤーはそれを信じて待つだけだ。
個人的には常々,オンラインゲーム業界というものは「韓国オンラインゲーム業界の開発力」もしくは「国産コンシューマゲーム開発の企画力」をマージさせるしかないとずっと思っているのだが,それが想像以上に難しいこともまた,頭ではなんとなく分かっていたものの,改めてこの5人の口から聞いて理解できた次第だ。
前者に関しては,言葉や風習/慣習の問題でなかなか難しいのはよく分かるのだが,まさか同じ日本人でさえ,そこまでさまざまな問題が山積みになっているとは。いま“オンラインゲーム業界”である程度の成功を収めているコンシューマ系のメーカーといえば,スクウェア・エニックス,カプコン,セガという3社だろう。3社に共通しているのは,「太古の昔からオンラインゲームに挑戦し続けて,幾度となく失敗してきた」メーカー達だ。それらの失敗があったからこそ,いま君臨していられるわけだ。おそらく彼らも,この座談会で話題に上がったような苦労をしてきたのだろう。
わざわざここでいくつもの例を出すまでもなく,コンシューマメーカーはすでに“オンライン”へのさまざまな挑戦を行っている。森下氏曰く,日本のコンシューマ系のゲーム開発はすでに全体的に“オンライン”の方向へとシフトしつつあるようだし,氏が率いるガンホーなどを筆頭に,PC出身でコンシューマゲームにまで進出していく例も増えてくるかもしれない。
ではコンシューマ業界がオンラインに本格参入したら,PCの役割は終わるのかというと,そういうわけでもないだろう。そもそもチャットなどの“コミュニケーション”が重要なファクターであるオンラインゲームにおいては,標準デバイスを考えてもまだまだPCの優位性は続くだろうし,パッチなどの問題も多い。なにせコンシューマ業界はプラットフォーマーが完全に仕切る業界なので,必要なときに即時パッチを当てたりすることができない。それがオンラインゲームの運営にとってどれほど“痛いこと”かは,プレイヤーのみなさんであれば重々お分かりかと思う。
座談会で植田氏が触れているように「規制とルールが事実上存在しない」こともまた,PCのメリットだ。会社が,好きなときに好きなように好きなことができる。ビジネスを執り行う部分に関して言うならば,ここが非常に大きなメリットになる可能性も高い。
少なくとも数年前までは,プレイヤー層も,ゲーム内容も,お互い相容れないと思われていたPCゲームとコンシューマゲームだが,筆者が聞いている限りでも,いくつかのPCオンラインゲームはコンシューマへと移植されつつあるし,いくつかの有名コンシューマ作品がPCでオンライン化されつつもある。このあと数年間で,両者のボーダーレス化――どちらかがどちらかを駆逐する,とかそういう話ではなく――が進んでいくことはおそらく間違いない。
思ったよりも台数が伸び悩み,違う部分で“踊り場”に乗り上げたコンシューマゲーム業界と,オンラインゲームで爆発的にプレイヤー数を増やしたPCゲーム業界。4Gamerの読者も,数年前と比べると高校生と大学生の伸び率が著しい。おそらくすでに両者は,両者が望む望まざるに関わらず「同じ土俵」に上がったのだ。
数年前に4Gamerとして某大手コンシューマメーカーさんに挨拶する機会があり,そのときに「なんのサイト? ……はぁ,PCゲーム? PCってパソコンだよね。そんなにゲームなんてあんの?」と言われたことをふと思い出した。お互いがまったくノーマークで,コンシューマ業界はPC業界を格下のものと考え,PC業界はコンシューマ業界を“手の届かぬ関係ないもの”と思っていたあのころに比べると,隔世の感がある。
次世代機の熱狂とオンラインゲームバブルという,二つの妙なムーブメントが収まった今からが,PC/コンシューマを問わずオンラインゲーム業界が……というよりゲーム業界そのものが,本当に面白い時期になる気がしてならない。
――2008年8月8日収録
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