企画記事
変化を迎えるオンラインゲーム業界で成すべきことは,何か――ガマニア,ガンホー,ゲームポット,ハンゲーム,ハンビットのそれぞれの思惑。マルチプラットフォーム化から若手の育成まで
オンラインゲームを作るということ――プラットフォームがなんであれ,ユーザーにとって便利で面白ければいいんじゃないかな
森川氏:
話,日本に戻しちゃいますけど,真面目な話,PCとか携帯はスペックに幅がありすぎて作りづらいっていうのは無視できない要因じゃないですかね。
森下氏:
そうそう。
――力強く頷いてますね。
個人的にはなんでもいいと思うんですよね。プラットフォームがなんであれ,ユーザーにとって便利で面白ければいいんじゃないかな。それが携帯であれ――最近だとiPhoneとかね――,自分達が面白いと思っているものが具現化できて形になるのであれば,プラットフォームにこだわる必要はないですよね。その形になったものにユーザーさんが満足してくれて,対価を払ってくれる。それが大事なことですよね。
現状のPCオンラインゲームには,PCオンラインゲームの良さがあるわけで,それはチャットでありコミュニケーションであり,大人数で何かをする良さであり。コンシューマにも,DSにはDSの,PSPにはPSPの良さがありますよね。……でも実際に開発するにあたっての最大の問題はスペックかもしれない。
森川氏:
携帯なんかとくに,次から次へと出てきますしね。
森下氏:
そう,とても難しいです。コンシューマ機なんかもそうだけど,PCと比べて低いスペックでゲームを作ることそのものは問題ないんです。でも,あれは入らないね,これも入らないね,って色々なものを削っていく作業は,果たして前向きで有意義なんだろうか,ってPC出身の頭だとちょっと悩みますね。ビジネスモデルも全然違うものだし。
まぁ色んなことはありますけど,そこまで大変なのに挑戦しているのは,やはりユーザーにとってもっとも近い位置で,ユーザーさんが面白いと思ってくれるプラットフォームで作るべきだ,と思ってるからですね。
――“オンライン”という根っこがあることは大事なんですよね。
森下氏:
ええ,もちろん。そこで面白さの差別化を図っていきたいですよね。だってもう大手ゲーム会社に,グラフィックスクオリティで勝負できるわけないし。すいませんごめんなさい,って謝るしかない(笑)。
(一同笑)
森下氏:
グラフィックスクオリティを高めようとすると,コストも異様にかかってしまうし。そういう部分じゃない,匠の職人芸みたいなところで「お,すごいじゃん」って思わせる何かであったり,それを“オンライン”という部分に置いて事業をしていきたいと思ってます。
なんかいまみんな平均点で,頭一つ抜け出たものがないというか,みんな同じ位置に並んでいて飛び抜けたものがないので,それで閉塞感が出ちゃってるような気もします。動きが元気ないというか。ここにいる人だけじゃなくて,当然みなさん各社いろいろなことを考えているだろうから,それが具現化してくればだいぶ変わるんじゃないかな。
――この中ではもっともMMO職人っぽいガマニアさんはどうですか。
古くからやってるだけですから(笑)。
PCかコンシューマかっていう話がなんとなく主軸っぽいのでそこで話すと,ウチも別にこだわってるわけじゃないですよね。みなさんと同じで,オンラインであることがこだわり,というか。オンラインであることを考えると,いま一番ユーザーさんに近いのがPCなのかな,と思っている感じです。PCもコンシューマも,どっちにも先はあると思うんですけど。ユーザーさんがどちらを選択するか分かりませんが。
――しかしそうは言っても,まだまだ少ないですよね。日本でオンラインゲームが作れるデベロッパさん。
森川氏:
ビジネスモデルっていうか,“作り方”が違うのが一番の問題点じゃないかと思うんですよね。
浅井氏:
それが一番大きそうですよね。
森川氏:
アップデートありきのモデルなので,デベロッパさんが付き合い切れなくなっちゃうんですよね。コンシューマでやっていたような会社さんだと,パブリッシャ側でもそうかもしれない。全体がもっと活性化するには,リスクを分散するような仕組みがちゃんとできたほうがいいのかな,と思いますね。
浅井氏:
コンシューマ業界って,大手パブリッシャさんと中小のデベロッパさんで構成されてることが多いんですけど,受託で開発するというスキームが,PCオンラインゲームの場合ではうまく機能しないんですよね。いま話に出た,アップデートどうするの,とか。何をどう行うべきなのか,たぶんうまく想像できない。
森川氏:
社内でのラインの確保もしなきゃいけないですしね。
浅井氏:
とかっていうと,デベロッパ側も「じゃあ先にいくらくれます?」みたいな話になって,全然話が噛み合わなくなってくる。
(一同大きく頷く)
パク氏:
パブリッシャ側としてタイトルを決めるときに何を見るかっていうと,もちろんゲームの面白さは当たり前なんですけど,開発会社の財務構造とか見るのは大事ですよね。少なくとも今後数年間をサポートできるような体制になっているのか,とか。そういうのはとても大事です。いかにいいゲームでも,アップデートがなかったらどうしようもないですし。
――財務構造はキチンとチェックするべきですよね。いきなり人が大量にいなくなったり,社長がいなくなったり,いきなり会社ごと閉じちゃったりするところが多すぎです。最近参入してきたような会社さんは,そのあたりのチェックが甘くて痛い目に遭ってるようですし。
森川氏:
企業文化みたいなものもあるんじゃないですか? 社長がそういう体制を作るんだ!ってコミットしないと,やっぱり下の人も動けないし。
投資環境なんかもありますよね。
例えば韓国の会社なんて,小さい会社でも,新しい作品を作るぞってなったら,コンテンツファンドなりなんなりからちゃんと投資を受けられるようになってるんですよね。日本にはそういう文化はないです。
――そもそもゲームのコンテンツファンドというものが,事実上成立してないですよね。いくつか例はありましたが。
植田氏:
ええ,ええ。
――よっぽどの場合を除いては個人資産で作れるようなものじゃないですし,そういうファンドみたいなシステムがちゃんと存在しない限り,いつまでもこの状況からは脱却できない気がするんですよね。
植田氏:
そう,そういう投資環境――というか投資される環境というか――が整ってるというのが,韓国における“いいループ”のきっかけですよね。彼らも相当強気に売り込んできますし(笑)。
オンラインゲームを作ることの難しさ――「面白いゲームか儲かるゲームか,どっちかしか作れません」って真面目な顔して言うんですよ
浅井氏:
開発っていう話なら森下さんの話が聞きたいなぁ。
森川氏:
聞かれたくないっていう顔してますよ(笑)。
森下氏:
苦労しますね,本当に……。大半の開発会社さんというのは,コンシューマでは,大型タイトルを筆頭にあらゆるジャンルを得手,不得手がありながらも作れるのに,オンラインゲームに対してはまだノウハウが蓄積されていないんです。むろん万能の開発会社さんもいますが,業界全体を見渡した場合には,まだまだ「日本発のオンラインゲームを!」という環境にはなっていないなぁ,というのは実感として感じますね。
浅井氏:
ええ,ええ。そうですね。
森下氏:
アップデートのためにリソースを割いて,ほかに作れる作品を捨ててまでリスクを張って……というのが非常に苦しいんですよね。もしかしたら苦しいと感じてないのかもしれないけど,少なくともそういうものを抵抗なく受け入れてくれる文化ではない。たぶん本当は“分からない”んだと思います。野望に燃えた中小の開発会社さんが手を出すと大やけどを負う可能性は否めないし,それをサポートするシステムも業界にない。
いま数少ないながらも存在する,なんでもできる開発会社さんみたいなところがもう少し増えて,トラックレコードのようなものがどんどん更新されてくれば変わっていくとは思うんですけどね。
森川氏:
“分からない”っていうのは言い得て妙かもしれませんね。
森下氏:
我々が当たり前にやっている新規ユーザーさん獲得のための施策とか,アイテム追加とか,アップデートとか,そういうものが理解してもらえないんですよね,まだ。作ったら終了,というモデルだからそれは致し方ないんですけれど。無理に手を出すようなものじゃないですし,難しい問題ですけどね。
日本から出たオンラインゲームが世界に挑戦する,という状態に早くなってくれるといいんですが。
森川氏:
NHNもずいぶん自社で開発をやってきて,色んな失敗や成功をしてきましたけど,最近ようやく形になってきました。で,昔企画の人によく「面白いゲームを作ればいいのか,儲かるゲームを作ればいいのか指示してください」ってよく聞かれました。「どっちかしか作れません」って真面目な顔して言うんですよ。
(一同笑)
面白くなければ売り上げはあがらんだろう,と思うんですが,それでよく現場とぶつかりましたね。と同時に,何が面白いのか,という視点というか立脚点が全然違うということが見えてきました。最初から全部出さないで少しずつ出そうとか,ここはコンテンツじゃなくて運営の力で引っ張っていこうとか,そういうことがやっと最近理解してもらえるようになって,形になってきた感じです。
森下氏:
いやでも本当に,運営とかアップデートとかっていうものを経験しないと分からないと思うんですよね。最初はみんな未経験なわけですし。失敗もトラブルも経験して,やっと理解してもらえるのかもしれない。そういう人も増えてきてるし。
――しかし日本の開発者さんって,韓国や中国の場合と違ってポンポン会社変えたりしないので,業界全体から見たときにはなかなかそのノウハウが共有化されていかないですよね。
森下氏:
そうですねえ,そういうものかもしれない。
森川氏:
でもあんまり共有化されるのも,正直ちょっと困っちゃうかもしれない(笑)。
(一同笑)
パク氏:
でも森下さんがいまおっしゃったように,そういう悪い面も,もちろんいい面も経験してる人がいまどんどん増えていて,最初の話じゃないですけど全体の質が上がるのは当然のことですよね。すると,当然ユーザーさんの要求レベルも上がる。そうでなくても日本のユーザーさんは,知識レベルも要求レベルも高いのに。
まず若い人が入らないとならないのでは?――大体,植田さんだって僕だって,GM出身みたいなもんじゃないですか(笑)
パク氏:
全然話変わっちゃうんですけど,昔私が日本に引っ越してきたとき,なんていうんですか,あれ。なんか家の情報を書いてもらって警察の人が書類で持っていくやつ。
――国勢調査……じゃないですね,警察だし。でもありますね,そういうの。
パク氏:
名称は分からないんですけど,そういうのの依頼が来て。韓国にはそういうのがないから最初ちょっとびっくりして,いま考えるとすごく失礼だったんだけど「個人情報なので書く義務はないですよね」って言っちゃったんですよ。そしたら警察官の人が「もちろん結構ですよ。我々の付近のパトロールのために使うものですから義務はありません」って。
で,別にその話はいいんですけど,最終的には書いて出したときに,社名を見て「あ,私ここのゲームやってます」って言うんですよ。
森川氏:
へええええ。それはすごい。
しかも子供と遊んでるとか言ってくれて,もうなんていうかすごく嬉しかった。こういうゲームを作っていかなきゃいけないな,って思いました。いまじゃすっかり廃人だの詐欺だのってロクなイメージがないですが,そういうものは変えていかなきゃいけないと思います。保護者が見て「安心できる」と思ってもらえることはすごく大事ですよね。
MMOを廃人プレイするというのも,個人的にはアリだと思います。オンラインゲームの出発点は,事実上そこでしたし。でもこれからはそういう時代じゃないと思うし,そうじゃない作品を作っていくことが,我々の役割じゃないかと思うんですよ。そういうことは当然みなさん考えてるんだろうけど,もっともっと増えてきてほしいなぁ,と思ってます。
……ちょっと話が大きすぎました?
植田氏:
いえ,よく分かりますよ。
パク氏:
例えばすごく大仰なんですけど,「トヨタのクルマなら安心だね」じゃないけど,そういうレベルにまで達することをサービス業として目指すべきだと思うんですよね。
――今でも日本は世界有数のゲーム大国だと僕は信じてるんですけど,なんだか日本国内ではゲームに対する目ってまだまだ冷たいですよね。「大人がゲームなんかやって」という言葉に代表されますが,扱いが低いというか。取材で世界のいくつかの国に行きますが,日本が一番扱いが悪い気がします。ゲームというものに対しては。
植田氏:
それは僕も感じますねえ。日本のクリエイターだって,北米とかヨーロッパに行くと,圧倒的に扱いが違う。
森下氏:
なんででしょうね。
――そこもどうにか変えていけるといいんですけど。
植田氏:
任天堂さんとかは別格ですが,アナリストみたいな人から見たときに,ソフト開発会社っていうのはすごく評価が低いですよね。それこそ最近だと,中国のIT企業のほうが全然価値が高かったりして。
森川氏:
欧米のことはちょっと分からないんですが,例えば中国とか韓国だと,将来の夢や希望がゲーム開発者だったりゲーム会社で働くことだったり,プロゲーマーだったり,そういう状態ですよね。
翻って日本で考えると,そもそも事実上“プロゲーマー”という職業はないですし,将来はゲーム開発者になりたい! って思っている若い人が,どれほどいるのか。
浅井氏:
一時期は多かったらしいですけどねえ。最近はどんどん影が薄くなって。
でも実はそれってゲーム業界だけに限った話じゃなくて,マンガとかアニメとかも同じだったりしないんですかね。「大人なのにマンガなんか読んで」みたいな。あちらは徐々に変わってきてるわけですし,ゲームも近い将来には変わってくれるんじゃないかなぁと思ってます。
森川氏:
昔テレビ局にいたからよく分かるんですけど,ゲームがないころの“悪者”はテレビだったわけですよね。映画は芸術だけど,テレビは観れば観るほどバカになる,みたいな。
(一同笑)
――負のループに入っちゃってる感が否めないんですよね。扱いが低いから人が集まらない,集まらないから優秀な人材が増えない,優秀な人材が増えないから扱いが低い……。クリエイター,っていって僕が個人的に思いつくのは,宮本さんとか,小島さんとか,中さんとか,ウィル・ライトとか,ピーター・モリニューとか……。でもみなさんもう結構なお歳ですよね。それでなお一線を張れることは本当に素晴らしいと思いますが,でも一方で若手が誰もいないのかとすごく心配にもなり。
森下氏:
確かに若手を育てていくのは大事なことだと思う。彼ら若手に“チャレンジ”をさせてあげる環境があるべきだよね。そういうものがないと育っていかない。ウチもそういう方向で頑張ってます。
森川氏:
プロ野球みたいなものですかねえ。スターが出れば注目されるし,それで印象もずいぶん変わるし。
――例えばGMにはキャリアパスが少ない,とかよく聞きますが。
森下氏:
いやそんなことはないでしょう。ウチだっていますよ,GMからどんどん上がってプロデューサーになってる人とか。
植田氏:
いますねえ。優秀であれば,どんどん社の上のほうに上がっていきますよ。
浅井氏:
ウチにも元アルバイトGMでタイトルをプロデュースしてる人もいるし,そういう現場を知っている人がどんどん上がってきて,責任ある地位で現場を仕切ってほしいと僕自身も思ってるんですけども。
――けども?
浅井氏:
そこそこ給料もらえればいいし,あんまり忙しくなって自分の時間が取れないのもイヤだし,定時でちゃんと帰りたいし,みたいな。……こんなこと言うとおっさん臭いんですけど,“熱い人”が少ないですよね,最近。そんな感じしません?
パク氏:
まだGMの人って得てして若いし,年齢を重ねると,もっと大きなことがしたい,って思うんじゃないですかねえ。それを整えてあげるのも会社の仕事,というか。
浅井氏:
まぁ何が言いたかったかというと,「キャリアパスはありますよちゃんと」ということなんですが。……大体,植田さんだって僕だって,GM出身みたいなもんじゃないですか(笑)。
植田氏:
夜中にフラフラになりながらGMコール受けたりしてね(笑)。
浅井氏:
いまGMの現場で頑張ってくれてる人は,この先大きな可能性があると思うんだけどなぁ。
森川氏:
お客さんの気持ちを一番理解してるわけですからね。
植田氏:
ウチのGMで有名な人がいて,その人をMCにしてライブ番組作ったら,同接2000人とかいくんですよ。一人のGMの力でそこまで集客できるんだから,GMっていう仕事そのものには大きな可能性があると思いますね,僕も。
浅井氏:
……同接2000とか聞くと課金したくなってきますね。
(一同笑)
植田氏:
そもそもこの業界は,世界的に見て新しいだけあって,可能性とか広がりが異様に多い業界ですよね。日本だけでさえマーケットは広がっているのに,ちょっと視点を変えれば,そこには中国なりヨーロッパなりといった広大な世界が広がっていて。そういう意欲を持った人がいっぱい来てほしいですよね。
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