インタビュー
「リアル脱出ゲーム」はどのようにして生まれ,ヒットしたのか。企画会社SCRAP代表に聞く,ハマるゲームの作り方
そのリアル脱出ゲームがどのようにして生まれ,現在に至ったのか。本稿では同イベントの運営を手がけるSCRAPの代表取締役 加藤隆生氏と,先に紹介した「ある使徒からの脱出」で,印刷物のデザインを担当したデザイン会社カイブツのデザイナー,石井正信氏にお話をうかがってきた模様をお届けする。
「ある使徒からの脱出」の裏話なども交えつつ,ネタバレありの制作秘話も満載の内容となっているので,前回の記事を読んでいない人は,ぜひそちらからご一読を。
関連記事:
「リアル脱出ゲーム」公式サイト
女子大生の一言から始まった「リアル脱出ゲーム」
4Gamer:
本日はお忙しい中,ありがとうございます。今回取材させていただいたリアル脱出ゲームというのは,さまざまな側面をもったイベントだと思うのですが,今回は主に「ゲーム」という切り口からお話をうかがいたいと思っています。
加藤隆生氏:(以下,加藤氏)
はい,よろしくお願いします。
4Gamer:
まず最初に,リアル脱出ゲームを始めたきっかけについて教えていただけますか。
元々SCRAPは“読んで街に出よう”というコンセプトのフリーペーパー「SCRAP」をずっと作っていた会社です。フリーペーパーというのは,街に出ないと手に取ることのできないメディアですから,読者というのは基本的にアクティブな人達です。なので,読んだら皆が街に出て行きたくなるような特集を組んで,それと連動したイベントをやる。そうすることで街に“渦”を作る,ということを考えていました。
4Gamer:
SCRAPは,確か京都の会社でしたよね。
加藤氏:
そうですね。で,「謎」特集というのをやった時に作ったのが,「リアル脱出ゲーム」の第1回です。京都の小さいギャラリーを借りてやったんですよ。
4Gamer:
「脱出ゲーム」をリアルでやってみようというアイデアは,特集を組むときすぐに思いついたんですか?
加藤氏:
企画会議のとき,隣にいた女子大生のボランティアスタッフに何の気なしに聞いてみたんですよね。「最近気になってることある?」って。そしたら「今ワタシ,脱出ゲームにめっちゃハマってるんです」って。
4Gamer:
それはパソコンのブラウザ上で遊ぶ,いわゆるFlashゲームの?
「CRIMSON ROOM」とかね(笑)。今のゲームってグラフィックスとかすごく進化していて,RPGを解くのにも60時間かかるとか普通じゃないですか。それがもう,30歳を超えたらついていけなくなっちゃうんすよね。
でも15分とか20分だけ集中して謎解きをする脱出ゲームはすごく面白い。やってることは,もうファミコンかスーパーファミコンかってくらい単純なんだけど,最初プレイしたときは本当に興奮したんですよ。友達とかと「あれくらいのゲームが10とか20個入ってるゲームがあったら即買うよなー」みたいなこと話してて。
4Gamer:
確かに,原点回帰的なゲームですね。
加藤氏:
そう。で,そんなことを思ってた時に女子大生がハマってるって言うんで,「えっ,俺もめちゃハマってる! あれはやった?」みたいにワーっと盛り上がって。1つのゲームでこんなに世代を超えてコミットする体験ができるとわかり,これはすごいぞと思いました。
4Gamer:
言われてみると,世代を超えて愛されるゲームって,けっこう難しい気がします。
加藤氏:
漫画やアニメなら,けっこう世代を超えやすいんですけど,ゲームってリアルタイムでしか体験できない部分が大きくて,なかなか世代を超えないんですよね。技術によってどんどん移り変わっていくものですし。
だから,この体験を使って何かできないか,というところから,その場でパッと思いついたのがリアル脱出ゲームです。
4Gamer:
なるほど。いやもう「リアル脱出ゲーム」って名前自体が,ものすごくキャッチーですよね。その響きだけで,もうだいたいどういう遊びなのか分かる。しかも分からない部分は想像力が働いて,余計にワクワクしてくるという(笑)。
加藤氏:
そう。このタイトルを思いついたのが,最大の発明だったんじゃないかって(笑)。どこかでずっと,物語の中に入れるような遊びがやりたいな,と思っていたんです。たとえば「HUNTER×HUNTER※」のグリードアイランド編とか,「レベルE※」のカラーレンジャーの話とか,ああいうの。
※共に冨樫義博氏の漫画作品。いずれも具現化されたゲーム世界に飛び込んだ(あるいは飛び込まされた)主人公達が,その世界の“クリア”を目指すという筋書きとなっている。
4Gamer:
ああ,あのシチュエーションは確かにあこがれますね(笑)。そう言われると,これだけ人気の理由というのも納得です。今は全国各地で開催されているリアル脱出ゲームですが,反響は最初から大きかったですか。
加藤氏:
そうですね。1万人になるくらいまでは,だいたいキャパを倍々で増やしてたんですけど,それが全部1,2日で売り切れるってことが起こり続けて。でもここまで大きくなるためには,超えなきゃいえけないハードルが幾つかありました。
4Gamer:
それは?
加藤氏:
一番大きいのは人数ですね。最初は「部屋に5人閉じ込めて,5人で協力して謎を解いて脱出する」という形式だったんですが,それで参加者を増やすのにはどうしても限界がある。
今回の「ある使徒からの脱出」なんかは,めいめいに問題が渡されて,パネルをメモしながら謎解きをしていくという形です。協力はもちろんできるんですけど,形式としてはいわば個人戦。この個人戦パターンを思いついて,1万人をさばき切れるようになるまでは,すごく大変でしたね。
「リアル脱出ゲーム」の作り方
4Gamer:
ではその「ある使徒からの脱出」について,詳しくお聞きしていきたいと思います。まずリアル脱出ゲームを作るときは,最初にタイトルから決めると聞いたんですが,今回もそうなんですか?
加藤氏:
そうですね。時間配分でいうとタイトルを決めるのに1か月くらいかかって,コンテンツは10日間くらいで作っちゃう,というのがいつもの流れです。
4Gamer:
ええっ,10日ですか。……ちょっと順を追ってみたいんですが,今回のイベントの場合だと,まず「ヱヴァンゲリヲン新劇場版(以下,エヴァ)とのコラボで,富士急ハイランドを舞台にする」という企画が決まったわけですよね?
加藤氏:
そうです。最初にエヴァ側の担当者から「何かやりませんか」という話をいただいて。「実は富士急さんと仲が良くて」というので,富士急ハイランドを見学に行ったら,すごくリアル脱出ゲーム向きの場所だった,と。
4Gamer:
そこから,タイトルを考えるのに1か月?
加藤氏:
うーん今回はタイトルというか,まずベースにエヴァという存在があったので,設定をどうするかというのが大変でしたね。普段だったらルールから何から自分達で作ってしまえばいいんだけど,今回は世界観は壊しちゃだめだし,かといってリアル脱出ゲームのフォーマットを崩すわけにもいかない。
4Gamer:
それはそうですよね。
エヴァの魅力って,僕は大きく二つに分かれてると思うんですよ。一つは謎解きの部分――例えば「ゼーレの目的とは?」とか「アダムの正体って?」とか,主に設定にまつわる部分ですね。
そしてもう一つが,少年達の心の動きであるとか,まさに中二病的な世界観の部分です。で,今回はそういう中二病感はいっさい排除しようと。なのでポスターにも脱出ゲームのプロットにも,チルドレン達はほとんど絡まないようにしています。
4Gamer:
それはなぜ?
加藤氏:
中二病特有の,心の不安定さとか,誰もが共感できるダメさとか,そういった部分を,2時間前後の公演の中で表現するのは無理だろう,と思ったんです。
例えばチルドレン達と一緒に謎を解いていくような構造にしたとして,プレイヤー達のモチベーションをどこに持っていくかという部分を作るのが,すごく難しい。「シンジ君のために頑張る」とか「綾波に好かれるために頑張ろう」とか,そういう形にまで持っていけたなら,素晴らしいとは思いますが,そんな微妙な感情の襞(ひだ)にプレイヤー全員をコミットさせるのは,まず無理なので。
4Gamer:
それだとエヴァを知っていることが前提になってしまいますね。
加藤氏:
あとぶっちゃけて言うと,一歩間違えると火傷すると思ったので(笑)。
4Gamer:
ああ(笑)。「僕の綾波はこんなんじゃない!」とか言われても……。
加藤氏:
なので,いわゆるエヴァっぽさをというのを記号化して,演出として使うに留めたんです。使徒が襲ってくる,脱出経路をMAGIが見つけ出したけど,使徒の攻撃によってその経路は暗号化されている。そんな設定にすれば,プレイヤーはエヴァの世界観に没入できるし,モチベーションも明確になる。なにせ自分の身が危ないんだから。
4Gamer:
確かにオープニングで流れたミサトさんのナレーションや,お馴染みの警告音なんかは,それだけでもうエヴァの世界に入ってしまったような気がして,すごく盛り上がりましたね。
ではその枠組が決まった後は,どうゲームを組み立てていくのでしょうか。
加藤氏:
まずはフレームを作るところからですね。富士急ハイランドが閉まったあとから開始のイベントですので,終バスの時間とかスタートの時間から逆算して,「プレイ時間は80分がギリギリ」「じゃあ80分ならこれくらいは歩けるよね」というところが決まります。すると「これだけ歩けるなら,これくらいの謎の分量がちょうどいいね」という風に,できることが大体決まってくる。その次に,一番の山になる部分の謎を考えていきます。
4Gamer:
なるほど,逆算していくんですね。
加藤氏:
場合によりますね。全然制約がないなら,下から積み上げていくのもいいんですが,今回はラストシーンを「EVANGELION:WORLD」にすると決めてました。動線上も,あそこからなら裏から成功者を出して,失敗した人達とまったくすれ違うことなくステージに誘導できます。なので今回は,そこに向かうまでの道筋を,細かく肉付けしていく,という形になったわけです。
4Gamer:
個々の謎というのは,何人くらいで作るんですか?
加藤氏:
大体4,5人でここ(SCRAP事務所)に集まって考えてますね。今回は,実は「印刷費を節約しよう」というコンセプトがあって,首から提げた職員証だけで,すべての謎が解けるようにしていくことを考えていたんですよ。だから,あれを折ったら別の何かが出てくる,というのが最初に考えた謎です。
4Gamer:
あれ,でも実際には職員証のほかにも,いろいろ印刷物はありましたよね。マップとか……。
加藤氏:
はい(笑)。あとから冷静に考えると,やっぱりマップは必要だとか,いろいろ出てきますから,結局印刷代は膨大になってしまったんですけど。ともあれ,「折る」って答にたどり着けた人は,きっとすごく嬉しいだろうから,それが一番のキーになることは,最初に決まっていたんです。
■デザイン面の苦労
「折る」という今回のキーワードが出てきたので,デザインを手がけた石井さんに聞いてみたいのですが,これって結構大変じゃないですか? すぐにバレるようなデザインではダメですし,かといってあまり凝りすぎると,今度はミスリードになりかねないという。
石井正信氏:(以下,石井氏)
そうなんです。最初ここに集まったときの,加藤さんの「ここを折ろうと思うんだけど,いけるかな?」という言葉から始まったんですが,おっしゃるとおりの色々な要素があって,難しかったです。
でもエヴァという枠組がまず最初にあったので,絵の方向性なんかは割とすんなり決まりました。あとは余分なものを足したり引いたりして,ミスリードもちょっとはさせつつ,でもさせすぎず……みたいなバランスを取る作業でしたね。
加藤氏:
すごいんですよ,深夜の12時とか1時くらいの会議で,僕が「ここをこうやって折ったら文字が出てきてほしいんだけど,文字が出てくるってことはバレないように,裏側にはこんな感じで文字があって」と説明したら,その場でノートPCをカタカタやって作り始めて,「こんな感じだったらどうですか?」ってその場で出てくる。スゲーなと思いましたね。
4Gamer:
それはすごい。それに,公演中にも封筒の刷り色を変えるなど,あちこち細かいところを変えてらっしゃいますよね。
デバッグによる変更点(1)
封筒の文字は,公演初日は蛍光の黄緑色で刷られていたが,読みづらいとのことで2日目からは黒色で刷り直された。宣伝チラシと同じ「初号機色」を使ったのだが,封筒の紙との折り合いが悪くてインクが染み込んでしまい,思ったように発色しなかったのだ。もとの封筒は物販用の袋として再利用されている。
初日だけ使われた蛍光色の封筒。確かに読みづらい
またかつて雨の中でイベントをやった際の経験を反映して,雨の日には雨用の紙が使われるようになっているとのこと。今回の公演でも紙が濡れてふやけてしまわないよう,コーティングが施されたものが使用された。
石井氏:
いろいろ変わってます。封筒はちょっと黒歴史なんですけど(笑)。デバッグ公演※の後に皆で打ち合わせしたんですが,そこで最後の問題の難度が高すぎるという話になりまして。
※デバッグ公演:主に関係者を集めて行われる,いわばリハーサル公演。本公演と比べて料金は安いものの,バグによってゲーム中に謎が変更されることもままあるという。
4Gamer:
デバッグ公演のときは,最後の問題が違ったんですか?
加藤氏:
違いました。「心と心をつなぐ〜」というくだりがなかったんですよ。だから,どこで折るかは,マップと文字が合うようにカンでやるしかないという。
4Gamer:
ええっ,それは難しすぎるような。
加藤氏:
だから最初に出すヒントも違ったんです。1回目は折って“イチジク”を隠すじゃないですか。なので2回目は「1回目にやったことと逆のことをしてください」っていうヒントでした。“イチジク”が見えるように折る,ということだったんですけど……「そんなの誰も解けない」って言われちゃって,確かに俺も解けねーなと(笑)。
おかげでデバッグ公演では脱出成功者もほぼゼロという状況で,最後の最後で8人くらいに追加のヒントを教えて,脱出してもらう感じになりました。
4Gamer:
ちなみにデバッグ公演に参加した人数は?
加藤氏:
400人くらい来てくれたのかな。その日はあまりに難しかったから,最後の誰が死んでいて誰が生きているかってくだりはやらなかったくらいです。
石井氏:
それで本公演では,折る場所をハッキリさせて難度を下げるために,あの赤いカードのデザインが変更されているんです。
4Gamer:
ああ,つまりデバッグの時は,繋ぐべき心と心がなかった?
加藤氏:
そう。だからデバッグ公演が終わったその日のうちに,あのわけわからん詩を書いて(笑)。
石井氏:
帰りの車の中でSCRAPの皆さんと「“心”がつく言葉は?」って言って,必死で考えたんですよ。
4Gamer:
デバッグ公演は,確か10月30日でしたよね。そこから修正して11月2日の初演に間に合わせるとすると,そうとう大変なのでは。
加藤氏:
めちゃめちゃ大変でしたよ。そのほかにも細かい修正はあったので,もう活動限界ギリギリで(笑)。
石井氏:
最後に入稿するときなんか「あと10分以内で送って下さい!」とか言われて。脱出ゲームのラストみたいな感じで,心臓バクバクでした(笑)。
デバッグによる変更点(2)
謎の書かれたパネルの文言も,本公演中に変更が行われている。デバッグでは「ネルフ職員は抹殺される」だったヒントが,「ネルフ職員のみ抹殺される」と書き直されたとのこと。これは「ネルフ職員でない人の処遇が曖昧だ」というスタッフの意見を受けたもの。誰もが納得できる結末にするため,こういった細かい変更はよく行われるそうだ。
謎の書かれたパネルの配置も,地味ではあるが変更点の一つ。初日は左の写真のように,柵に縛り付けてあったパネルだが,人が密集すると後ろから見えないことが分かり,2日目以降は高い位置に設置された
4Gamer:
なるほど,裏ではものすごい苦労があるんですねえ。ちなみに今回はエヴァがテーマということで,そのほかのデザイン面でも色々苦労はあったんじゃないかと思うのですが。
石井氏:
僕は元々エヴァが好きだったので,ある程度のイメージは自分の中でできていました。ただエヴァのデザインって,なんというかシンプルではないんですよね。斜線だったり角がちょっと削れてたりといった感じで。そういうディテールを入れていくと,どんどんエヴァっぽくなるんですが,やればやるほど変なミスリードが起きてくる。
4Gamer:
「この角が削れてることに,何か意味があるに違いない!」とか。
石井氏:
そうです。デバッグ公演のときは,そういう意味深なものを入れすぎてしまっていて。マップと赤いカードに同じ記号が2つ付いていて,それ自体に意味はなかったんですが,何かあるに違いない,と思ってしまった人がいたみたいです。
でもそういうちょっとしたテイストを加えないと,エヴァっぽくなくなってしまうので,その辺りの線引きが,難しくも楽しかったですね。
4Gamer:
謎を作る方では,エヴァだから,という事で気をつけたことはあるんでしょうか。
加藤氏:
一応,出てくる言葉がエヴァっぽくなるようには考えましたけど。でも謎を作るときに気をつけたのは,逆に「エヴァっぽさに引きずられてパズルのクオリティが下がるくらいなら,エヴァのことは忘れよう」ということです。むしろ「浸食攻撃で暗号化されている」という言い訳があるんですから,出てくる謎はなんだっていいわけですし。
4Gamer:
確かに。
加藤氏:
だから一番クオリティが高い謎にしようと考えた結果,ネルフのロゴに謎が仕掛けられてるというところに落ち着いたときは,すごく美しいと思いましたね。あのロゴマークがデザインされたのって,もう10年以上前だと思うんですが,それを折ったら別の言葉が出てくるって,「これってまさか当時から考えられてたんじゃ!?」みたいなね(笑)
4Gamer:
あれがイチジクの葉だというのは,エヴァファンじゃないとすぐには思いつかない気がするんですが,そこは心配しなかった?
加藤氏:
まあ少しはありましたけど,封筒にも書いてありますから。リアル脱出ゲームを作るにあたって最大の約束事は,「知識がないと解けない問題は,絶対に出さない」ということです。
とはいえ今回はエヴァの大ファンがたくさん来てくれるわけですから,その「知ってる欲求」もちょっとは満たしてあげたい。あれがイチジクだって知ってるのは,コアなファンの中でもほんの何割かのハズです。その人達がパッと見て気付けたら,それはやっぱり嬉しいじゃないですか。
4Gamer:
そこはちょっとしたサービスだと。「MAGMA」の謎も,「マグマダイバー」からきているわけですよね?
加藤氏:
マグマの謎はどうやって思いついたんだったかな……。確か僕が適当にマップとカードを合わせてみたときに,「FUJIYAMA」の「MA」だけ見えたんですよね。それで最後が「マ」で終わるエヴァ関連の言葉を探してみたら,うまいことMAGIとくっついてMAGMAになった,と。ほんとに偶然です。
4Gamer:
なるほど。そういう個々の謎は,スタッフの皆さんで知恵を出し合って作られるんでしょうか。
加藤氏:
ええ。でも今回は細かい謎って,そんなにはなかったので。珍しく全部僕が作ったのかな。クロスワードのようなものは,いつもだったら今回全体進行をやってた,千石さんとかが作ってくれます。僕は数学的な謎は一切作れないので,別解があったらダメとか,細かいのは苦手なので。
イベントの要「全体進行」という仕事
表からは見えないが,リアル脱出ゲームには,毎公演「全体進行」と呼ばれる仕切り役がいる。取材した日に全体進行を務めていたのは,ボードゲームのデザイナーでリアル脱出ゲームの謎監修などもしている千石氏。
ゲーム中は「今,どこそこのゲートを最速で突破した人が出た」とか,「携帯の落とし物をした人がいる」といった,あらゆる情報がインカムを通して千石氏の元に集まり,その情報を元にスタッフ間でさまざまな調整がおこなわれるのだ。
以前の脱出ゲームで救護室を謎解きに使うシチュエーションがあったため,今回もお客さんが救護室に飛び込んできてしまうことが懸念された。写真は,それを防ぐため「立入禁止」のボードを入口に貼る千石氏
■難易度はどう調整する?
4Gamer:
先ほどもデバッグ公演の謎が難しすぎた,というお話しがありましたが,リアル脱出ゲームって,難易度の調整がすごく絶妙だと思うんですよ。これはどうやって調整しているんでしょうか。
加藤氏:
いやあ……それは分からない(笑)。
4Gamer:
ということは,長年の勘みたいなものなんですか?
加藤氏:
うーん,でも最近気をつけてるのは,難度よりも綺麗かどうか,かもしれません。今回だって,成功率が数%なんて,普通のイベントだったら皆怒っちゃいますよね? 市販のゲームで「エンディングに行けるのは1%です」なんて,そんなの誰が買うんだって話です。でもリアル脱出ゲームの場合は,最後の解説を聞いて「なるほどそれは綺麗だ」って99%の人が思うなら,難しくたって構わないんです。逆にたとえ50%の人が脱出できたとしても,残り半分の人が答を聞いて「そんなの,ひどくない?」って思ったとしたら,それは簡単だとしても失敗だと思ってます。
4Gamer:
なるほど。
加藤氏:
ちゃんと論理立っているかどうか,その謎を解くためのヒントがちゃんと提示されてるかどうかが大事で,難易度はあとからついてくるものなんじゃないかな。
4Gamer:
実は今回の取材の前に,SCRAP広報の上砂さんから「最短で突破しちゃうような人は正直そこまで相手にしていなくて,8割の人に『もう少し時間があればできたのに』と思ってもらえるように注力している」というお話をうかがったんですが。
加藤氏:
上砂さんは宣伝担当なのでそう言うだろうけど,その謎を作ってる僕等としては,あいつら(最短で突破する人達)も含めて,叩きのめしてやりたいと思ってますよ(笑)。基本的に,やっぱり解かれたら悔しいですからね。
4Gamer:
今回の「ある使徒からの脱出」では,最短記録はどれくらいなんでしょうか。
加藤氏:
45分ですね。
4Gamer:
ああ,それは私がお会いした方達ですね。熟練の猛者なのかと思ったら「運良くひらめきました」って言ってました。
加藤氏:
1200人もいれば,たまにはひらめいてパパッと行っちゃう人もいます。でもそういう人が次も早いかと言えばそうでもなくて,前はトップだったけど今日は全くダメでしたって人がけっこういる。そこも面白いところですね。
4Gamer:
だから,一概に難易度とは言えないと。
加藤氏:
そうです。正直な話をすると,3割の人に脱出されたとしたら,おそらくはステージには乗りきらなくなってしまうわけで,難易度の調整というのはやっぱり必要なんです。でもそればっかりに気を取られていると,肝心な面白さが減ってしまう。
4Gamer:
上砂さんのお話しでは,だいたい1割くらいの脱出成功者が出るような調整にしているということでした。
加藤氏:
やっぱり謎を解いて,次の場所に行ったら何かがあるという驚きと快感を,まずは知ってもらいたいので,前半は簡単にしています。最初の30,40分はポンポン謎が解けるから,どんどん進める。「お,いい感じじゃない? 俺賢いんじゃね?」みたいな感じになって,後半で壁にぶつかるわけです。そこで悩んで,クリアできたらすごく嬉しいし,ダメだったとしても次こそは,という気分になる。そういう仕掛けになっているわけですね。
初心者への救済措置
今回の公演では,本文中で触れられた難度調整のほかにも,救済措置が用意されていた。これはゲーム開始から40分が経過した時点で,最初の5つの謎が解けなかった場合には,会場内の「フードコート」に行けば,答を教えてもらえるというもの。
フードコートには何名かのスタッフが待機しており,分からないところを個別に説明してくれる
アドバイスを聞き,顔を輝かせて次の謎に向かうお客さんを見送る進行スタッフの千石氏。「いつもすごく感謝されるんですけど,言ってしまえば,落とし穴を掘っておいてそこに落としたうえで『どうぞどうぞ』って手を差し出したらすごく感謝された,みたいな感じなんですよねぇ……」と苦笑い。
また,このほかに「暗躍部隊」と名付けられたスタッフが存在しており,彼らは会場を回遊して,序盤の問題が解けなくて困っている人達にヒントを出す手助けをする。ゲームやパズルになじみがない参加者は,最初からまったく進めないこともあるそうで,こういったシステムが彼らをサポートしている。
- 関連タイトル:
リアル脱出ゲーム
- この記事のURL:
(C)SCRAP All rights reserved.