連載
今は“無駄なこと”が不足しているから,僕らは「ニコニコ超会議」をやったんです――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第6回
「世迷い言を本気で語る人」の力
4Gamer:
しかし,最初はチケットも500枚しか売れなかったという状況が,何をキッカケにそんなに好転したんですか?
川上氏:
やる内容がハッキリして,細かいスケジュールが出始めたあたりからですよね。その頃から俄然,注目度が高くなっていきました。
横澤氏:
4月7日にニコファーレで発表会をやったんですけど,そこでイベントの全貌が見えてきて,ユーザーさんも「なるほど,こういうことなんだ」みたいなね。
川上氏:
だから,最後の一か月間は本当に勢いがうなぎのぼりな状態で。それまではつらかったですよ。ジワジワと少しずつ浸透させていくって感じだったから。
4Gamer:
僕がニコニコ超会議を見ていて,「これは興味深いな」と思っていたのは,明確な“目玉コンテンツ”がないことなんです。どのブースにも人だかりが出来ていて,それこそ一見すると「ここまで来て,それをやりたい?」みたいなものでさえ,多くの人で賑わっていた。普通,企業がやる大規模なイベントって,やっぱり目玉があるじゃないですか。でも,ニコニコ超会議はその辺からしてもう違うんだなぁと。
横澤氏:
そこは僕も凄く意識していて,実際,運営側としてもあえて目玉は作らなかったんですよ。というのも,価値観が本当に多様化してしまっている現代で,ニコニコ動画がこれだけの支持を得ているっていうのは,やっぱりそれぞれのクラスタやカテゴリーごとにMAXの面白さというものがあって,そのMAXをうまく作れているからだと思っているので。
4Gamer:
なるほど。
横澤氏:
だから,ニコニコ超会議はカオスなイベントではあるんだけど,「自分なりの目玉がある」っていう状況をどう作るかは凄く考えました。ある人は枝野さんが目玉かもしれないし,他の人はネコミミが目玉かもしれない。歌ってみたかもしれないし,踊ってみたかもしれない。
あべちゃん:
俯瞰で全体を見たら,何がなんだかサッパリわからないイベントだけど,そこがよかったですよね。
横澤氏:
まぁだからこそ,プロモーションが大変だったわけですけどね。実際,ニコニコ超会議を表す言葉が“文化祭”ぐらいしか思いつかなかったし。
川上氏:
そうだよね。でも個々のイベントだって,本来はもっと小さなスペースでやってもよかったんだけど,ああいう場所でやることによって,もっと他の人に見てもらえるだとか,もっと多くの人とつながれるかもってニーズを満たせたかなって感覚はあるんですよ。自分の小さな趣味でやっていることでも,それでもっと他人とつながりを広げたいって気持ちはやっぱりあるんだよね。
あべちゃん:
あの「集まれば強くなる」っていうキャッチフレーズは,まさにその通りでしたよね。
横澤氏:
あと,これは実際にやってみるまで分からなかったことですけど,当日,凄く感じていたのは「リアル空間のMADができたな」ってことなんです。例えば,ビリーが会場を練り歩いて,その写真を撮った時に,後ろに踊ってみたとか,アルパカとかが映っている。これって完全にMADだよなぁと。
コスプレイヤーがさ,自衛隊の装甲車に乗るわけでしょ。それがすでにMADだよね(笑)。
4Gamer:
「自宅警備隊が自衛隊と遭遇!」みたいな話題もありましたね。
横澤氏:
ああいうのを見ていて,「リアルなMAD空間を作れたな」って思ったんです。
川上氏:
まぁ昔から「ごった煮ショー」ってのはあったわけだけど,そもそもニコニコ動画っていうサービスは,現実だったら絶対に会話を交わすことはないだろうなっていう人達が,みんなで一緒になって楽しんできたサービスでもあるんですよね。それが5年前の,元々のニコニコ動画の姿だったわけですよ。
でも,サービスの規模が大きくなっていくにつれて,段々と趣味が細分化されていって,さらにそれが派閥争いするようになって。昔みたいに,一つの動画でみんなが盛り上がるムーブメントっていうのは,なかなか起こりにくくなってきていたんです。
4Gamer:
そのあたりは,コミュニティサービス全般の難しさですよね。
川上氏:
だから,もう一度そこを一体化させよう,みんなで盛り上がれる体験を作ろうっていうのが,今回のニコニコ超会議の一番大きな目的の一つだったんです。
あべちゃん:
「混ぜるな危険」ですよね(笑)。
川上氏:
だけど,それをやってみようよっていうね。ネット上でそれぞれのカテゴリを混ぜるのは危険というかもう無理だったから,リアルで無理やり混ぜてやろうと。それがうまくいくかどうかは正直わからなかったけど,結果としてはうまくいったよね。
あべちゃん:
僕が会場をまわっていて面白いと感じたのは,自分が好きなカテゴリーのブースに行って,ふとその隣を見ると,全然違う興味のないカテゴリーのブースがあって,でも「なんか面白そうなことやってんなー」っていう感覚なんですよね。これがニコニコ動画なんだなぁと。ニコニコ動画のメニュー上でも動物ボタンのお隣さんには料理ボタンがあって,そこをクリックすればいろんなコンテンツがあるんだけど,それをリアルで再現するとこうなるんだというか。
横澤氏:
その意味でいうと,ブースもわざと華美にしなかったんですよね。そこにはちゃんとメッセージがあって,「ユーザーさん達自身にコンテンツになってほしかった」から。ニコニコ動画ってお客さんがあってこそというか,ユーザーさんが作り上げてきたサービスだと思うんですが,だからこそ,僕はそこで勝負したかったんです。
4Gamer:
結果としては,大盛況だったわけですけれど,振り返ってみての反省点なんかはあるんですか?
川上氏:
終わりよければすべてよし……ではあるんですけど,まぁ色々と問題はありましたよね。でも,少なくともイベントそれ自体(当日)では,僕らの想定を大きく超えるようなトラブルは起こらなかったと思っています。もしまたやるってこと――やるかどうかはわからないですけど――になったら,次はもっとうまくやれるんじゃないかな。
あべちゃん:
僕は,主にニコニコ超パーティーの方を担当していたんですけれど,反省すべきことといえば,やっぱり演目の尺を詰め過ぎたっていう部分ですね。6時間のイベントに対して,5時間59分の尺で構成を組んでしまって……(笑)
4Gamer:
それはちょっと,最初から無理がありませんか(笑)。
※普通のイベントでは,休憩時間などを考慮して,多少余裕をもった構成が組まれることが多い
あべちゃん:
でも,ニコニコ動画の5年間の歴史の中で培われた作品だったりとかユーザーさんだったりとかっていうのを,余すことなく漏れることなく出そうと思うと,どうしても「これは外せないんだ!」みたいな状態だったんですよ。で,ある曲を削ると「この思い出の曲を削っていいんですか?」みたいな話になって。やっぱりやるならベストで行きたいじゃないですか。多少のリスクがあっても,僕はBest of Bestを狙いたくて,冒険をする方を選んだわけです。
川上氏:
まぁそういう意味でも,ニコニコ超パーティーは,運営がプロとして作ったイベントじゃなくて,完全に“ニコ厨”が思いついた夢の企画だったよね。「ぼくがかんがえた,いちばんいいニコニコ大会議」みたいな(笑)。
あべちゃん:
えへへ。
川上氏:
今回,あべちゃんには責任ある立場で仕事をやってもらって,とても頑張ってくれたと思うんだけど,最初にあべちゃんに会った時のことが,今でも凄く印象に残っているんですよね。
4Gamer:
何かあったんですか?
川上氏:
彼に最初に会った時に,彼は「ニコニコ動画を通じて,僕は世界に愛と平和を届けたい」みたいなこと言ってたんですよ。で,その時の言い方とか,表情だとかを見て,「あ……こいつ本気(マジ)だ」って思ったの(笑)。
一同:
(爆笑)
僕はいつだって本気(マジ)ですよ!
横澤氏:
いつも言ってるよね(苦笑)。
川上氏:
いや,でもさ。そういうのって口先だけで言っているかどうかは分かるじゃないですか。そして実際,口先だけでそういうことを言ってる人も多い。例えばだけど,「Googleを超える世界一のベンチャー企業を作ってやる!」とか。
横澤氏:
ああ。
川上氏:
お前,本気でやれると思ってるのかっていうね。そういうのってあるじゃないですか。同じ大言壮語でも,なんかね,自分の信じてない言葉を使う人って世の中には大勢いるんですよ。でも,あべちゃんはそうじゃないなって,その時に直感して。それが凄いなって感じたんです。
あべちゃん:
僕の最終目標ですからね。
川上氏:
だって「ニコニコ動画を通じて世界に愛と平和を届ける」っていうのが,本当にできると思ってるわけでしょ?
あべちゃん:
Yes, I do!
川上氏:
……うんまぁ,それはハッキリ言ってある種の世迷いごとだとは思うんだけど。
あべちゃん:
世迷いごとって……(笑)。
川上氏:
でも,基本的には世迷いごとだとしても,ニコニコ動画の可能性の中には,本当にそうできるかもしれないと思わせる部分が何パーセントかはあるとも思うんですよね。ニコニコ動画には確かにそういうポテンシャルがあるんですよ。可能性は低いかもしれないけど,確かにある。それは僕も思っている。あべちゃんは,ニコニコ動画のそういう部分を見てる人なんだなって思ったんです。
あべちゃん:
はい。
川上氏:
僕はそういうのって,とても大きな力になると思うんですよ。新しいことやる時にはとくにね。
「ニコニコ動画=2ちゃんねる」ではない
4Gamer:
そういえば,ニコニコ超会議は,かなり若いお客さんが多かったように見えますが,お客さんの年齢層とかのデータってあったりするんですか?
川上氏:
10代〜20代前半くらいが多かったんじゃないかと思いますよ。
4Gamer:
先日の発表会でも,ニコニコ動画の世代別カバー率で,20代が75%を超えているというお話がありましたけど,それってある種のクリティカルマスを超えている状態ですよね。
川上氏:
プラットフォームっていうのはそういうもんでしょう。
4Gamer:
でも,今の時代,ある世代の75%をカバー出来ている媒体/プラットフォームってなかなか無いと思うんですよ。それこそ,昔のゲームハードとか少年誌にはあったかもしれませんが。ニコニコ動画というのは,もしかしたら「現代におけるそういうもの」になっている,なりつつあるのかなと。
川上氏:
最近,いろんな媒体で10代〜20代の視聴者/読者が増えてないって言われてますけど,そこの部分って,実はニコ動が占めてるんだとは思います。
あべちゃん:
ただ,一口にニコ動といっても,みんな好きなものが違うんですけどね。
4Gamer:
みんなバラバラなんだけど,でも大枠では,一体感というか連帯感みたいなものがニコニコ動画にはありますよね。2ちゃんねるの「ねらー」のとか,ニコニコ動画の「ニコ厨」とか,あれって一体なんなんですかね?
川上氏:
ニコニコ動のユーザーは,帰属意識というか,そういうものを持っている人が多いですよね。自分のハンドルネームの後ろに「@2525」って付けたり。これってたぶん,ほかのネットサービスではあんまりない現象だと思うんですよ。
4Gamer:
確かにTwitterやFacebookでは,そういう帰属意識ってあまりないですよね。
川上氏:
僕らがこのサービスに「ニコニコ動画」って名前をつけた時って,とにかく「ふざけた名前を」って考えていたんですよね。で,「どうせ後で変えるし」とか思いながら,いい加減な名前にしたんだけど,そのことによって,逆に凄い違和感のある名前というか,ブランドができてしまって。そこに対して,ユーザーが「自分の場所だ」っていう風に共感した側面はあると思う。
4Gamer:
昔からネットコミュニティの存在意義というか在り方っていうと,秘密基地的なものっていうんでしょうか。自分の同志を探すみたいなイメージってあったと思うんですよね。
横澤氏:
まぁ実際,「秘密基地」って感覚はありますよね。
あべちゃん:
ありますねぇ。
川上氏:
ニコニコ動画のコミュニティって話でいうと,2ちゃん用語がよく使われてるから,世間一般的には「2ちゃんねるからユーザーが流入した」「2ちゃんねる発祥のサイトで,初期は2ちゃんねるのユーザーばっかりだった」って話になってるじゃないですか。
4Gamer:
え,違うんですか?
川上氏:
うん。僕はサーバーのアクセスログとかをずっと見ていたから分かるんだけど,実は2ちゃんねるから来たニコ動のユーザーって,最初からずっとそんなに多くなかったんです。割合でいうと,まとめサイト(2ちゃんねる本体以外の)とかを含めても,全体のせいぜい20%という感じで。
4Gamer:
どこからの流入が多かったんですか?
川上氏:
一番多かったのはmixiでしたね。あと検索エンジンでいうと,Yahoo! JAPANから来る人が多くて,Googleから来る人は少なかったかな。
4Gamer:
へぇ。それは意外ですね。mixiは当時活発なコミュニティだったんで分かるんですけど,GoogleよりYahoo! JAPANからの流入が多いってことは……。
川上氏:
そう。初期のニコニコ動画って,実はわりと“一般の人”の割合が多かったんです。最初のYouTubeに乗っかっていた時代がいちばん普通の人が多かった。それこそ,僕はエイベックスの人から「どこがやっているかわからないけど,ニコニコ動画っていう,とにかくすんげぇ面白いサイトがある!」って社内で話題になっていると教えてもらったことがあるし(笑)。
4Gamer:
でも,ひろゆきさんが2ちゃんねるにスレッドを立ててニコニコ動画を話題にしたりって話もあるじゃないですか。
川上氏:
ひろゆきが2ちゃんねるにスレを立てた時って,その一瞬はVIPPER(※)達がやってきたんだけど,2〜3日で文句言って帰っていったんですよね。で,その後,ニコニコ動画は他の方面から盛り上がって,それをITmediaさんが記事にしたタイミングで,また2ちゃんねるからのアクセスが急増したんです。だから,2ちゃんねるからのアクセスが増えたのって,ある程度有名になってからなんですよ。これ,みんなが想像するのとは逆で。僕は毎日アクセスログでリファラーのドメインを集計していたので分かるんですが。
※ 2ちゃんねる内の人気掲示板の1つ、「ニュース速報(VIP)板」に常駐しているユーザーのこと
4Gamer:
なんか,ニコニコ動画って2ちゃんねるの系譜で語られることが多い――というか,つい先日,僕自身がそんな話を書いたばかりなので,そこはちょっと驚きました。
川上氏:
いや,ニコニコ動画には2ちゃんねるの文化がたくさん流入しているし,2ちゃんねるの系譜っていう話自体は正しいんですよ。でも,今説明したように,ニコニコ動画の最初は盛り上がりは,実は2ちゃんねる以外の場所だったというね。あぁでも,これってニコニコ動画の大きな特徴だと思うんですけど,ニコニコ動画ってみんながみんな,「自分達が大きくした」「自分達しかいない」と思ってる人がとても多いんですよね。
4Gamer:
ああ,ワシが育てた的な。
川上氏:
そうそう(笑)。これは凄くいい面もあるけれど,そのことによるいざこざも多いですけどね。
ニコニコ動画の一体感の原点
4Gamer:
お話を聞いていて改めて思ったのですが,ニコ動ユーザーの一体感というか,連帯感の源がある種の“帰属意識”だとして,そういう気持ちが生まれる要因って,そもそもなんなんでしょうね。
川上氏:
それはやっぱり,サービスの背景に“ドラマ性”があるからじゃないですか。
4Gamer:
ネットサービスなのにドラマ性,ですか?
横澤氏:
川上さん,いつもその話をしますよね。ニコ動は「劇場型ネットサービスだ」っていう。
川上氏:
そうそう。ニコニコ大会議をやった辺りから,これはもう「ドラマで押し切るしかない」「劇場型のネットサービスでやっていこう!」と考えていて。
4Gamer:
劇場型……? すいません,どういうことか説明してもらえますか。
川上氏:
僕は常々,「ネットサービスで人に感動を与えることはできるのか」っていう,そういうテーマがあると考えているんだけど,そこに挑戦するのがニコニコ動画の使命だと思っていて。
4Gamer:
へえ。
川上氏:
例えば,映画や漫画やアニメ,あるいはゲームって人に感動を与えられていますよね。一方でニコニコ動画はどうか。少なくともニコニコ動画内に載っているコンテンツ(動画)の一つ一つで見れば,人に感動を与えているものがあると思うんです。でも,単に素晴らしい動画があるというだけなら,別にそれはYouTubeにだって同じ機能があるし,変わらないじゃないですか。
4Gamer:
そうですね。
川上氏:
でもニコニコ動画っていうサービス,あるいはニコニコ動画っていう“場”には,一つ一つの動画の上にさらに大きな括り(コミュニティとしての)があって,それが帰属意識だったり,ニコニコ動画それ自体へのシンパシーにつながっていると思うんですよね。そしてそれこそが,ある種の感動を与える――かどうかは断言できないんだけど――ポテンシャルになっているとも思うんです。
あべちゃん:
そういえば,僕が「ニコニコ動画は愛と平和を広げる」って思ったのは,2010年の「ニコニコ大会議in JCBで」の「Smiling(※)」の時からなんですよね。僕がそういう気持ちになったのは,あの瞬間からです。そういう風に思ってる人って,結構いると思います。
※ニコニコ動画内の歌い手であるhalyosy氏,that氏,is氏らのプロデュースにより創られたオリジナル曲。「ニコニココラボ」を銘打ち,彼らの呼び掛けに多くの歌い手・演奏者が集った。
川上氏:
あれって凄く顕著な例なんだけど,ニコニコ動画には,「ニコニコ賛歌」とでも言うべきジャンルがあるじゃないですか。いや,実際にそういうタグ(カテゴリ)があるわけじゃないんだけど,明らかに“賛歌”としか言いようのない曲が結構ありますよね。それがニコニコ動画のユーザーから絶大な支持を得ていて,定期的に新しいニコニコ賛歌がヒット曲になるんです。ニコニコ動画っていうのは,そういうサービスなんですよね。
4Gamer:
うーん,僕としてはやっぱり,「なんでそうなったんだ?」というところに興味が尽きないんですよね。
川上氏:
そこは繰り返しになりますが,ニコニコ動画自体がドラマ性を持ってしまったからだと思うんです。で,そのドラマ性が,ある種のカリスマ性というか,宗教性みたいなものを生むことになってしまった。そこはもう,僕らのマーケティングとか戦略とかの外にあるというか,なるべくしてなってしまったものというのかな。僕ら運営としても,その流れに乗っかる形で,大会議を押し進めるであったり,ニコニコ動画自体の方向性を変えたりっていう経緯があるんですよ。
4Gamer:
じゃあ,そのドラマ性の原点ってなんだったんでしょうか。
川上氏:
そこを振り返って考えてみると,間違いなく「YouTubeに切られた瞬間」が原点ですね。
4Gamer:
一時的にサービスが止まった時ですか?
※もともとニコニコ動画は,YouTubeの動画の上に独自のコメント表示させて楽しむという,いわゆるマッシュアップ(複数のWebサービスのAPIを組み合わせて,あたかも一つのWebサービスのようにすること)型のサービスだった。しかし,そのあまりのトラフィック量に2007年2月,YouTube側からアクセスが遮断された。
川上氏:
はい。YouTubeに切られてサービスが止まって,そこから復活する――っていう展開がまさにドラマで。あの時の危機をみんなで一緒に体験したときに,ある種の神話が生まれたと思うんです。
横澤氏:
だって僕らは迫害されたわけですからね。
川上氏:
そう! 迫害されたんだよね。僕らは追い出されたわけじゃん。楽園を(笑)。
一同:
(笑)
川上氏:
で,その時に居た10万人のユーザーを引き連れながら,僕らは放浪の旅に出たわけですよ。
あべちゃん:
掛け布一枚で,旗を掲げて(笑)。
川上氏:
当時は,新しく会員になりたい人がいても2か月とか待たされるような状況でしたからね。もう,弾圧されて地下活動している信者みたいなもんですよ。そして,いろいろと奮闘しながら自前で動画サーバーを用意することになるわけだけど,今度は,収益の見込みもないままに膨大な赤字を垂れ流す状態が続くわけです。
あべちゃん:
あの時期は,自分もそうでしたけど,なんかユーザーのみんながドキドキしながら見守ってたんですよね。
4Gamer:
ああ。なんか,ユーザーさんの側が心配するような空気感さえありましたよね。僕らのニコニコ動画はこの先どうなってしまうんだろう?みたいな。
川上氏:
いやぁ,だって僕らもドキドキしてたもん(笑)。明日どうなるかを,僕ら自身がまったく分かっていなかった。これって完全なドラマじゃないですか。みんな心配してて,僕ら自身も必死に答えを探していたんです。
横澤氏:
ドラマでしたねぇ……。
川上氏:
でね,あの危機をくぐり抜けた時,そこに居合わせたユーザーさん達が,みんなが“戦友”になった。そこが,ニコニコ動画という伝説とみんなの連帯感の原点だったと僕は思うんですよ。
4Gamer:
なるほど……。
川上氏:
実際,2007年っていろんな“事件”があったわけじゃないですか。運営側としても当時人気だったMAD動画を削除するという決断があって,世間には「ニコニコはもう終わりだ」みたいな言説さえありました。
4Gamer:
はい。
川上氏:
でも,そういう状況を乗り越えたからこそなのか,2007年に加入したユーザーの定着率は突出して高いんですよ。2008年よりも2009年よりも2010年よりも,アクティブユーザーの割合が高い。つまり,2007年のユーザーのニコニコ動画への帰属意識ってメチャメチャ高いんです。
横澤氏:
この間,ニコニコ動画(γ)の誕生日だったじゃないですか。だからニコファーレで発表会やった時に,会場にいる(γ)時代のユーザーの人に賓客として花をつけてあげようとしたら,会場に来たユーザーの3分の2ぐらいが(γ)時代からの人だったっていう。
川上氏:
だから,やっぱりね。あの歴史的な瞬間を共有したってところに,ニコ厨の一体感の原点があって,あそこがニコ動のカリスマ性/宗教性の興りだと思うんだよね。そしてそれがニコ動の運命を決めたんだよ。まぁ,僕らはそれを多少煽ったぐらいで。
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