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今は“無駄なこと”が不足しているから,僕らは「ニコニコ超会議」をやったんです――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第6回
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印刷2012/05/15 09:00

連載

今は“無駄なこと”が不足しているから,僕らは「ニコニコ超会議」をやったんです――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第6回

今の世の中は“無駄なこと”が不足している


あべちゃん:
 でもやっぱり,そういうカリスマ性みたいな部分も含めて,人に感動や笑顔を届けられたらいいなと思うんですよね。それがつまるところ,ニコニコ動画でLove&Peaceを広げることになると思うし。

横澤氏:
 まぁでも実際のところ,みんな「脊髄レベル」で動いてる側面も結構あるじゃないですか。理屈じゃないというか,後から理屈を付けていくといいますか。

4Gamer:
 それはユーザーが,ですか?

横澤氏:
 いや,僕ら自身の話です。脊髄で動くというのは,「これは良い」と思ったもの――やっぱり僕らも一ユーザーであるので――に対して,割と直感で「これをやったら面白いんじゃないか」みたいなことを判断して,実行しちゃうところがあると思うんです。今回のニコニコ超会議なんかはその典型で。

川上氏:
 直感か。直感に関して言うと,実は最近思っていることがあって。というのも,人間っていうのは,本来,かなり受動的な動物なんだって話があるんですよね。

4Gamer:
 ん,どういうことですか?

川上氏:
 つまり,人っていうのは考えるより先に行動してしまう生き物で,行動に対して後付けで理屈を付け足しているんだと。そういう研究があって。
 例えば,脳波を測定すると,人間の行動というのは,実際にそれを頭で考える前に動いていることがほとんどである,という話があるんですよ。ほとんど反射で動いていて,その結果を受けて自分の“意志”で動いていると,後付けで思い込んでいるという。

4Gamer:
 ああ。でもそれは,なんか少し分かる気がしますね。

川上氏:
 うん。だから人はダイエットが出来ないし,忙しい時に部屋の掃除をしてしまったりするわけです(笑)。人間は頭で考えるより,体の方で行動を選択してしまうんですよ。

4Gamer:
 身に覚えがありすぎる……。

川上氏:
 それってつまり,自分の意思とは関係ない部分で動いてしまったりする自分がいるってことですよね。

4Gamer:
 はい。

画像集#006のサムネイル/今は“無駄なこと”が不足しているから,僕らは「ニコニコ超会議」をやったんです――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第6回
川上氏:
 でもそうなると,人間の自我っていうものはなんなんだって話になると思うんです。だって,頭で考えるよりも先に人間の行動が選択されてしまうのだとしたら,例えば,自分がやりたいと思っていることだったり,やるべきだと考えていること,それらと実際にやっている行動には,乖離があるってことになるじゃないですか。

4Gamer:
 まぁそうですねぇ。

川上氏:
 要は,人間って自分の身体も心も全部をコントロールできているわけではない。だから,自我が思っている自分と実際の自分っていうのは結構違っていて,人間っていうのは,常にそこにギャップを抱えている生き物だと思うんですね。

4Gamer:
 ふーむ。

川上氏:
 だいたい,仕事だってさ。みんな「お金を得るために働くのは当然だ」と思って働くわけじゃないですか。でも本当は,働きたくないかもしれないし,別にそこまで苦労してお金は欲しくないと思ってるかもしれない。だけど,社会の仕組みだったりルールだったり,人間の行動様式として,それを「やらないといけない」と思いながら,惰性で行動してるわけじゃん。

4Gamer:
 はいはい。

川上氏:
 だけど,ある時,自分の本当にやりたいことだったり,可能性だったりにふと気が付く瞬間ってある。「ああ,僕が望んでいた/思っていたのは,まさにこれだったんだ」とかって思うわけじゃん。それに気付かせてくれるものが,僕は“コンテンツ”の重要な役割なんじゃないかと思うんですよね。そして,そういうギャップを気付かせられることによって,人間の行動って変わることがある。人生が変わることがあると思うんです。

一同:
 そうですねぇ……

川上氏:
 スタジオジブリの鈴木さんなんかは,よく「一つのコンテンツ,一つの映画が,世の中を変えることがある。僕はそれを信じてる」って言うんですよね。今は,もうそういう作品も少なくなっているのかもしれないけど,実際,スタジオジブリが創った映画っていうのは,多くの人に影響を与えたと思うし,日本の映画産業にも多大な貢献をして,本当に世の中も変えていったわけだよね。

4Gamer:
 はい。

川上氏:
 僕はずっと,そういうものを自分でも創ってみたいって思っていたんですよね。昔,着メロのサービスを作っていたとき,僕は「このサービスで人生が変わった奴はいないな」ってよく思っていたんです。着メロサイトは,最盛期で約400万人のユーザーがいたんですけど,400万っていうと,「ドラゴンクエスト」の最新作が売れた本数と同じくらいですよね。

4Gamer:
 そうですね。

川上氏:
 ドラゴンクエストっていう作品は,いろんな人の人生にけっこうな影響を与えたと思うんですよ。中には遊びすぎて「学校サボった」とかの悪い影響があるかもしれないけど,それも含めて,多くの人間の人生に影響を与えていた作品じゃないですか。でも一方で,着メロサービスでそういう人はきっといなかった。

横澤氏あべちゃん:
 ふうむ……。

川上氏:
 僕は,人の人生を変えられるかどうかが“コンテンツの価値”だと思っているんです。例えば,音楽のアーティストとかだって,ファンが1000〜2000人くらいしかいなかったとしても,その中でファンの人生をたくさん変えてるんだと思うんですよ。
 さっき話に出た「Smiling」だって,イベントでなんとなく出し物の一つとしてやってみたら,ドワンゴの社員を含めてみんなが凄く感動したわけじゃないですか。そして,「これは何かやるべきじゃないか」って,そういうことが結局ニコニコ大会議だったり,今回のニコニコ超会議につながっていったわけですよね。

横澤氏:
 そうなんですよね。あれが一つのキッカケだったと思う。

川上氏:
 それってつまりさ,Smilingという曲に出会ったことが,ドワンゴっていう会社の方向性を変えているわけですよ。一つのコンテンツが,ドワンゴという会社組織や,そこに居る人達の人生を変えたってことだと思うんだよね。だって実際,あの少し前のタイミングって,社内で「ユーザーとはこれからも距離を置こう」って議論してた時だよね。いろんな問題が山積みしすぎて,ユーザーと関わることはリスクだとみんな思っていた。それを,たった一つの曲が僕らの気持ちを変えたんです。あの曲を聞いて,僕らはユーザーをサポートしよう,彼らだけでは到達できないところまで連れて行ってあげるのが運営の使命だ,と思ったんです。

横澤氏:
 そうですね。

川上氏:
 採算は関係なかったんですよね。でも,とにかくこれをやらなきゃって(笑)。

4Gamer:
 ふむ……。

川上氏:
 それに実を言うと,あの時期,僕は「あまり気が進まないけど,本気でソーシャルゲームで勝負しにいこうか」と悩んでいたんですよね。僕は2番煎じが得意なので,まだ間に合うかなと。でも,競争相手もたくさんいるから一生懸命やらないといけないし,面倒くさいな,とか考えていたんです。
 そもそも,なんだかんだいってドワンゴだって上場企業なんだから,普段は資本主義の理屈で動いているわけですよ。だけど人間って,やっぱりそういう理屈だけじゃないんですよね。さっきの話と被りますけど,もっとやりたいこと,いいと思ったことに労力をかけるって選択肢があったっていいと思うんです。利益率が高い事業に投資するみたいな,そういった価値観だけでやっていくと,みんな同じような戦略になっちゃうじゃないですか。

画像集#003のサムネイル/今は“無駄なこと”が不足しているから,僕らは「ニコニコ超会議」をやったんです――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第6回

横澤氏:
 普通,こういうネットサービスって,5年も経てば形骸化するもんじゃないですか。だけどニコニコ動画が,ここに来てまた新しいステージへ立てたっていうのは,かなり異例のことなんじゃないかと思いますよ。

4Gamer:
 あんな規模のイベントは普通の会社はやらないと思いますが,一つの節目を象徴するものにはなっていたように思います。

川上氏:
 まぁ,遊びで“お祭り”をやるっていう話にしては,確かにニコニコ超会議はコストをかけすぎだとは思うんだけれど,そこに対する合理的な説明も実はあって。

4Gamer:
 それはなんですか?

川上氏:
 要するに「今の世の中の価値観に対するアンチテーゼ」なんですよね。

横澤氏:
 アンチテーゼ! それは僕も凄く感じていました。

川上氏:
 だって,今の世の中ってさ,まぁ不景気ってせいもあるんだろうけど,「無駄なものを切り捨てる価値観」が支配していると思うんですよね。

4Gamer:
 「節税」だとか「仕分け」だとか,テレビのニュースのトピックスを見てもそういう空気はあるかもしれませんね。

川上氏:
 だけど僕は,無駄なことも必要というか,無駄なことにもある程度の“ニーズ”が存在すると思うんです。だって人間って,実は無駄なことってけっこう好きだったりするじゃないですか。

4Gamer:
 それは確かに。

川上氏:
 だけど,今の世の中は「無駄を切り捨てる」って風潮なので,誰も無駄なことをやろうとしない。だから,今は“無駄なことが不足している状態”なんだと思うんです。であるなら,今は逆に無駄なことに価値が生まれている状況なんですよ。だって希少だから。

4Gamer:
 あ,なるほど。

川上氏:
 だから僕らは,その無駄なことを「おいしい」と思ってやってるわけです。ニーズがあるのに誰もやろうとしなくて,ウチだけでやれるなんてラッキーでしょう。それがニコニコ超会議をやった理由の一つですよね。

4Gamer:
 なんか納得してしまった……。

川上氏:
 よくさ,コンテンツの評価軸の一つとして,“時代を超えた普遍性”みたいなことって言われるじゃないですか。例えば,浮世絵みたいに何百年たっても評価されるようなものを,みんな「芸術だ」と言うんです。だけど,これが書かれた江戸時代での消費のされ方と,現代における美術品として消費のされ方って全然違うと思うんですね。

4Gamer:
 ああ,前もおっしゃっていましたよね。それは純粋なコンテンツの消費のされ方じゃなくて,単なる骨董品としての価値なんじゃないかっていう。

川上氏:
 うん。仮にそれが金銭的にもの凄い価値で評価されるとしても,それっていうのはコンテンツとしての価値じゃなくて,骨董品としての希少性だとか,歴史的な価値だとか,そういうものだと思うんですよ。だから僕は,コンテンツってその時代時代で消費されて,無くなってもいいものだと思っていて。

4Gamer:
 そういう意味でいうと,例えば美空ひばりの歌があったとして,それを当時聞いた人と,懐かしの名曲として今聞いた人とでは,やっぱり本質的に捉え方が違う気がするんですよね。ポップスにしたって,自分が中学生,高校生の頃に好きだった曲を聴くと,当時の時代背景だとか,あるいは自分の青春時代を思い起こして,なんとも言えない感情が呼び起こされたりもする。

横澤氏:
 ああ,でも。そこについてはちょっと違うんじゃないですか。僕はいつも言っているんですけど,それっていうのは「コンテンツの持つ間」の問題だと思うんですよね。

4Gamer:
 コンテンツの間?

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横澤氏:
 ええ。要するに,人があるコンテンツを受け取った時に,その当時の時代背景や自分の経験,あるいは感情だったりっていうものを,そのコンテンツに乗せて消費するっていうのかな。コンテンツの側にそういうものを取り込む部分があって,受け手側は,その隙間を埋めることとセットでコンテンツってものを消費していると思うんです。

4Gamer:
 なるほど,なるほど。

横澤氏:
 だから,コンテンツの受け取り方が人それぞれで違ったりするのは,要はそういうことなんだといいますか。だから僕は,自分で何かを作る時にも,その隙間をどう作るのかっていうことをよく考えるんです。

4Gamer:
 ちょっと学校で嫌なことがあって,その時に映画を見て感動したとか,音楽を聴いてそれが心にしみたとかっていうのも,たぶんそういうことですよね。

あべちゃん:
 そうなんですよねぇ。例えば評論をする人達って,芸術/コンテンツについて,「こういうロジックで,こういう背景であるから,これは素晴らしいんだ」って言い方をよくするじゃないですか。でも,コンテンツって別にロジックや前情報を元に評価するものではないと思うんですよね。受け取る側にとってコンテンツは,単に感じるものでいい。

川上氏:
 コンテンツってさ,やっぱり“価値を作るのは受け取る側”だと思うんですよ。でね,人を感動させるものであったり,共感を得るものっていうのは,その時代において希少なものだと僕は思うんです。ありふれてるものには,やっぱり価値がない。そして現代って,基本的にはコンテンツがありふれてるわけじゃないですか。

4Gamer:
 だからこそ,今はニコニコ超会議みたいな,ありふれてない“壮大な無駄”に価値が感じられるんですかねぇ。

満員御礼となった「ニコニコ超パーティー」。阿部氏曰く「終わった時にどれだけ泣けるか。それがきっと成否を測るバロメーターになるよねって話を直前にしていたんですが,まぁ僕がもれなくステージ上で泣いたっていうだらしない姿を見せました」
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ニコニコ動画もいずれは滅ぶ。そして伝説へ…


横澤氏:
 そういえば,僕は今30歳なんですけど,僕より上の世代っていうのはアナログなものを中心に触れてきた世代で,逆に僕より下の世代は,みんなデジタルが当たり前なんですよね。

あべちゃん:
 そうですね。

横澤氏:
 ニコニコ超会議をやっていて思ったのは,僕らは,ちょうど,アナログとデジタルの両方の良いところを肌感覚で実感できた世代で,これって凄く有利なことかもしれないなってことなんです。実際ニコニコ超会議っていうのは,まさにアナログとデジタルが融合していたコンテンツだったと思うんですが。

あべちゃん:
 僕らはアナログとデジタルのちょうど変わり目に立ち会えているんですよね。

川上氏:
 ああ。どんな業界でも,僕は端境期(はざかいき)にいる人って強いと思うんですよね。だって両方の世界を知っているから,それぞれしか知らない世代よりも,いろんな選択肢があると思うんです。Appleのスティーブ・ジョブスがなぜ偉大な業績を残せたのかといえば,やっぱり彼が端境期の人間だったからだと思うんですよ。

4Gamer:
 そういうのはあるかもしれませんね。

川上氏:
 よくデジタルネイティブだなんだっていって,昔のアナログの世界を全否定する人がいるじゃないですか。デジタルの世界じゃないとできない,まったく新しいことをやるのが正しいんだというね。そう思っている人があまりにも多いんだけど,僕はそれは大間違いだと思っていて。

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横澤氏:
 「歴史は繰り返す」んですよね。

川上氏:
 そうなんだよね。古い世界が消えて新しい世界が生まれる時って,僕は,古い世界と同じ事をやるべきなんだと思うんですよ。
 今,アナログの世界が終わりつつあって,デジタルの世界になりつつあるわけじゃないですか。で,そこで何が起きるのかというと,それは“まったく新しい何かではない”ことだと思うんですよね。多分,アナログの世界の歴史で起こったことが,デジタルの世界でもう一回繰り返されるっていうのが,これから起こる大枠の歴史の流れになると思うんです。

4Gamer:
 ああ,それはなんだかよく分かります。

横澤氏:
 今のデジタルの風潮って,昔のアナログを完全に否定することによって作られるものが素晴らしいみたいに思えるんですよね。でも,人間そのものが急に変わるわけではないし,そもそも人間そのものはアナログなんだから,発生する欲求や問題って結局そう変わらないはずなんです。

川上氏:
 うん。それにネットを見ているとさ,よく2ちゃんねるとかで,「過去ログ読め」って言うじゃないですか。「まずは半年ROMれ!」とかね。これは要するに,昔あった議論だから繰り返すな!って話だと思うんだけど,僕は,まぁそうだなと思うこともあるんだけれど,やっぱり,それは基本的には間違ってると思っていて。だって人間の数はすごく多いし,それでいて,人間が興味を持つ事柄や議論の数なんてたかがしれているじゃないですか。

4Gamer:
 そうですね。

川上氏:
 だから,僕はみんな同じ事を言っていいと思うんです。桜が咲いたら,桜が綺麗だっていうことを,もうね,100万人,1000万人の人が,同じことをつぶやいても許される世の中であるべきだと思うんですよ。そうやって人間の歴史は進んでいくと思うんです。だから,ニコニコ動画もそれでいいと思うんですよ。

横澤氏:
 そうですねぇ。

川上氏:
 それにそうしないとさ,たまたま最初に発言できた人以外は発言できないってことになっちゃいますよね。

あべちゃん:
 うんうん,そうですよね。

川上氏:
 歴史は繰り返すんです。繰り返すし,それでいい。だって,今まで誰もやってないことをやろう,それが進化なんだっていうことになったら,それは前衛芸術みたいなものだけの世界になっちゃう。どんどんついてこれる人が減るだけです。だから,僕らは同じことを繰り返すんだけども,その同じことを繰り返す時に,今の時代に合わせたちょっと良い繰り返しをやってやろうっていうのが,僕らが狙うべきことだし,やるべきことなんだと思う。
 まぁただ,否定することから,世の中の共感を得るだとか,世の中を変える力っていうのが生まれるのも事実だけど,いいものは残さなきゃ。で,みんなが思っている以上にいいものは多いんですよ。

あべちゃん:
 しかし,このデジタル(ネット化)の流れの行き着く先ってなんなんでしょうね。

川上氏:
 それは僕はいつも言ってるけど,最終的には人類が滅亡すると思ってる(笑)。インターネットが発達していくことによって,どんどん人類が主導権を握れなくなっていくと思うんだよね。現時点ですら,人間がどこまで社会をコントロールできるかっていうのは怪しいもんなんだけど,早ければ100年後くらい,遅くとも1000年後ぐらいには,人類の歴史は終わっているんじゃないかな。で,なんで終わったのかの原因として,たぶんGoogleとFacebookの名前ぐらいは登場すると思うよ。

あべちゃん:
 まぁただ,ニコニコ動画の終わりがいつになるかのは分かりませんけど,最後の瞬間には立ち会いたいなって思っているんですよね。僕が死ぬまでに起こりますかね。

川上氏:
 最終的には,ニコニコ動画は滅びるんだよ。ニコニコ動画っていうのはそういう運命なの。ただ,相手はGoogleなのかFacebookなのか分からないけど,機械文明に立ち向かう人間文明の最後の砦として華々しく散りたいよね。

あべちゃん:
 最後の砦として……。

川上氏:
 そうしてドワンゴのニコニコ動画の物語は完成するんだよ。

4Gamer:
 滅ぶうんぬんっていうのは,対株主的にはどうなんですか(笑)。

川上氏:
 いやぁ,だいたいの世の中の株主なんて,どうせ1年とか2年とか,長い人でも3〜4年の単位のリターンでしか考えてないから大丈夫でしょ。そんなに簡単に負けるつもりはないから(笑)。

あべちゃん:
 ちなみにそれは,悲劇の物語なんですか? 僕は,やっぱり「ロミオ&ジュリエット」が最高の悲劇だと思っているので,もし滅ぶなら,ぜひああいう形で滅んでほしい。

川上氏:
 えっ。ちなみに「ロミオ&ジュリエット」ってどういう終わり方するの?

あべちゃん:
 愛し合っている二人が家の事情やら何やらでロミオって街を追放になるんですよ。で,二人が一緒になる為にジュリエットは仮死の毒を飲むんです。一度死んで世間を欺いた後にロミオとニコニコしようと思ってたわけです。

横澤氏:
 でも,ロミオの方はそのことを知らなくて,本当に死んでしまったと誤解する。そして仮死状態のジュリエットが眠る祭壇の前で絶望して「僕も一緒に死のう」って本当の毒薬を飲むんです。そしてちょうどその時に,仮死状態が解けて……。

画像集#034のサムネイル/今は“無駄なこと”が不足しているから,僕らは「ニコニコ超会議」をやったんです――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第6回
あべちゃん:
 「そんな,嘘でしょう!」ってジュリエットが叫ぶ中でロミオもそれに気づきながら死んじゃう。それを看取ったジュリエットの方も,後を追っかけるようにして,ロミオの持ってる銃で自殺してしまうんです。いやぁ,最高の悲劇ですよね! 死してようやく二人は一緒になれたという。

川上氏:
 えー……と,それは,ニコニコ動画でどう再現すればいいわけ?(苦笑)。

横澤氏:
 あれじゃないですか。まず,僕たちが死ぬんですよ。「明日でニコニコ動画は終了します!」とか言って。

川上氏:
 ああ。で,あべちゃんが絶望して死ぬと。

あべちゃん:
 絶望して死ぬ!

川上氏横澤氏:
 でも「嘘ぴょーん」って(笑)。

あべちゃん:
 最悪だー!(笑)。

4Gamer:
 え,それだと阿部さんが犬死になんじゃ。ニコニコ動画も後を追うんですか?

川上氏:
 いや,ニコニコ動画は終わらなくて続くんですよ。めでたしめでたし。

横澤氏:
 悲劇でもなんでもないんじゃ。

あべちゃん:
 いやー,ニコニコ動画のドラマの中で死ねたら,僕は本望ですよ。

川上氏:
 まぁでも,ニコニコ動画が滅ぶ時は映画化して終わりたいよね。

4Gamer:
 でも,滅ぶ時ってもうお金もないんじゃ……

川上氏:
 じゃあ映画化するお金だけ残しとこうよ。積み立てておいて。

あべちゃん:
 滅び積立金。

横澤氏:
 あぁ,それもいいなとか言っちゃう俺。

川上氏:
 そしてニコニコ動画は伝説になる。それでいいじゃん(笑)。

(つづく)

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川上量生(かわかみのぶお):
ドワンゴ代表取締役会長。1968年,愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業後,ソフトウエア専門の商社勤務を経て,1997年に株式会社ドワンゴを設立。携帯電話向けサービス「いろメロミックス」などをヒットさせ,同社を東証一部上場企業へと成長させた。近年では,ニコニコ動画を成功に導くなど,独特の考え方をする実業家として知られる。2011年1月に突如としてスタジオジブリに入社し,プロデューサー見習いとして,鈴木敏夫氏に師事している。

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