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[CEDEC 2012]遠藤雅伸氏がゲームの手法を居酒屋端末のツールに応用。「宴会コミュニケーションツールを作ってみたら,こんな遊ばれ方だった」
本セッションでは,“居酒屋の注文端末”向けに開発したコミュニケーションツール「三択de乾杯!」がどのように遊ばれているかについて,モバイル&ゲームスタジオ 取締役会長にしてゲームデザイナーの遠藤雅伸氏が傾向と分析を披露した。
なお遠藤氏は,「コンテンツはコミュニケーションを加速させるもの」という考えのもと,最近はさまざまな形のインタラクティブなエンターテインメントコンテンツに取り組んでいるという。
5〜6年前からチェーンの居酒屋などに置かれるようになった,注文端末システム。これはそもそもどういう仕組みかというと,店内の無線LANを介して,テーブルに置かれた端末から直接厨房に注文を伝えるというものである。まあ,想像どおりだ。
ちなみにiPadをテーブル端末として利用するシステムもあるそうだが,落として壊してしまったり,客が持って帰ってしまったりというリスクが生ずるらしい。そこで一般的な専用注文端末は,非常に頑丈で壊れにくく,かつ重くすることで,酔客であっても持って帰りたいと思わないように作ってあるという。
今回の事例に用いたテーブル端末「メニウくん」は,Linuxベースのシステムが搭載されており,クライアントはFlashで動作する。マシンパワーは低く,お遊びコンテンツを作ろうにも,プログラムでルーレットを回すようなことすらできないほどだ。単純な描画なら遅延が目立たないので,遠藤氏は画面を切り替えながら進行するようなコンテンツに向いていると説明する。
遠藤氏の開発した「三択de乾杯!」は,表示された質問に三択で答えていくというコミュニケーションツールだ。ゲームではないので正解はなく,グループ内で各自の回答について,ああでもないこうでもないと盛り上がってもらうことを目的としている。
例えば,質問は「カレーに入れる肉といえばどれ?」で,回答に「牛肉」「豚肉」「鶏肉」が提示されたとすると,グループ内で「やっぱ牛だろ」「いや,豚のほうがうまいって」「本格派なら鶏一択」みたいな会話が繰り広げられることを期待するわけである。
質問はあえて普遍的なものが多く用意されている。これは,回答の傾向がグループ内で一致しても分かれても,コミュニケーションにつなげやすいよう考えられたためであり,またグループのメンバーが変われば同じ質問でも回答が異なってくるので,コンテンツとしてあっさり消費されるリスクも回避されているという。
なお遠藤氏は,この「三択de乾杯!」を開発するにあたって,「合コンでモテるにはどうすればいいか」をテーマに,研究を重ねたという。その結果,こうした会話を盛り上げたり,相手の好みや出身地/家族構成などを知ったりするきっかけとなるような内容となったそうだ。
また曜日別の動向では,最も客入りが少ないのは月曜日で,逆に客入りが増えるのは土曜日/金曜日/日曜日であることが分かる。これもイメージ的に納得がいくところだが,意外なのは水曜日にも若干増えている点だ。これについて遠藤氏は,「最近,大きな会社では,週の中日となる水曜日に飲みに行くという傾向があるので,その影響かもしれない」と推測した。
ちなみに「三択de乾杯!」は,稼動当初は全然遊ばれなかったそうだが,テーブル端末のトップ画面に「無料」の文字が入ったバナーを掲載してからプレイ頻度が上がり,全来店客の15%前後が遊ぶようになったという。
また,そもそも「三択de乾杯!」は,1回プレイしたらその結果をネタにして会話を盛り上げるようデザインされているが,それでも2回3回と連続してプレイされるケースがある点について,遠藤氏は「きちんとしたゲームとして認識されている部分もある」とコメント。
プレイ人数では,圧倒的に2人が多い。これは2人だと会話のネタが途切れてしまいがちという理由もあるが,グループで来店した場合に,そのうちの2人が試しに遊んでみて,面白いから次はグループ全員でやってみる……という流れになる傾向があるのも,重要なポイントである。
セッションの最後に,遠藤氏は「三択de乾杯!」の遊ばれ方について,以下のようにまとめた。
・注文端末の無料コンテンツは,来客グループの約15%が遊んでくれた
・試しに2人で遊ぶスタイルが一般的
・何回も連続で遊ぶ人は約15%で,2〜4人プレイが支配的
・大人数でプレイする場合は,あらかじめ親しい人同士のグループに限られる
・注文端末のコンテンツは,一般性の高いものであれば消費されにくい
今回の遠藤氏のセッションは,ゲームそのものではなく,ゲームの手法を応用したコミュニケーションツールの話である。セッション後の質疑応答では,今後,顧客会員のICカードのデータを利用して,居酒屋利用に関するデータを収集したり,あるいは「1杯無料クーポン」などを配布したりといった,ビジネスへの組み込みも視野に入れていることが語られた。
“ゲーミフィケーション”と表現してしまうと,いまだ「胡散臭い」と眉をひそめる人もいるかもしれないが,このセッションからは,ゲームの手法がこうしてリアルのビジネスに応用されていることが垣間見られるのではないだろうか。
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