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4年に一度のゲーム音楽フェス「4starオーケストラ2019」。吹奏楽,小中編成とトーク,オーケストラ+バンドの3ステージが披露された会場の模様をレポート
本イベントは,“4年に一度の開催”を掲げ,ゲーム音楽に携わる作曲家やメーカー,アーティスト,そしてファンが一体となって楽しむフェスだ。会場では,吹奏楽編成の「4star2019 ensuite Wind Orchestra Stage」,小〜中編成による演奏やトークショーなどが楽しめる「4star2019 Street Stage」,オーケストラ+バンド編成の「4star2019 Primal Orchestra Stage」の3公演を1枚のチケットで楽しめる構成になっていた。
「4starオーケストラ2019」公式サイト
4star2019 ensuite Wind Orchestra Stage
吹奏楽らしい軽快で華やかな1曲めの「MOTHER2 ギーグの逆襲」のメドレーに続いて演奏されたのは,テンポのいい「ソリティ馬」のメドレー。ステージ終了後にゲストとして登壇した作曲家の一之瀬 剛氏は「ソリティ馬」の楽曲について,「自分のゲーム音楽愛と競馬愛を込めて作曲した」と説明しつつ,今回の演奏についても「大人数でやっていただけて,感動で泣きそうになった」とコメントしていた。
「メルルのアトリエ 〜アーランドの錬金術士3〜」のメドレーの演奏前には,この楽曲の吹奏楽アレンジを手がけた作曲家の柳川和樹氏が登壇。柳川氏は,今回のアレンジについて「吹奏楽っぽくというオーダーに沿いつつ,『アトリエ』の可愛らしさを盛り込んだ」と話していた。
実際,披露された演奏は全体的には軽やかでポップだが,ときに吹奏楽らしい展開となり,「アトリエ」シリーズの多様な音楽性を反映していた。
壮大かつメロディアスな展開の「ショベルナイト」メドレーのあとは,サプライズで「洞窟物語」のメドレーが演奏された。続く「UNDERTALE」の約15分におよぶメドレーは,ゲーム本編の流れをなぞるような構成で,非常に聴き応えのある仕上がりとなっていた。
そして本ステージの最後を飾ったのは,同じく「UNDERTALE」の「Hopes and Dreams / 夢と希望」と「SAVE the World / SAVE the World」。これらの楽曲の演奏時には,Playersシートのチケットを購入した来場者が客席から参加できるようになっており,ひときわ華やかな演奏が披露された。
4star2019 Street Stage
続く4star2019 Street Stageでは,尺八奏者の神永大輔氏を中心に結成されたバンド「風とキャラバン」,このステージの公募企画で選ばれたキーボード連弾ユニット「めろらん」,そして2018年の口笛世界大会で優勝した口笛奏者のYOKOさんが,さまざまなゲーム音楽の演奏を披露。
風とキャラバンは,ケルトミュージックをはじめとする民族音楽を取り入れた独自のスタイルでゲーム音楽を演奏しており,今回はフィドル(ヴァイオリン)のjohn*氏,アコースティックギターのannie氏,バウロン(アイルランドの太鼓)のトシバウロン氏,尺八の神永氏の4人編成で出演。
また,披露された楽曲も風とキャラバンのアルバム「はじまりの風-CROSSROAD-」に収録されている「ノーラと刻の工房 霧の森の魔女」や「ワイルドアームズ」を中心に,「FINAL FANTASY」シリーズ,「MOTHER」,「クロノ・クロス」といった民族音楽風のアレンジが映える曲で構成されていた。
1曲めに披露された「MOTHER2 ギーグの逆襲」の「エイトメロディーズ」は,神永氏が1人で尺八を吹いているところに,めろらんの2人が少しずつ演奏に加わっていくという演出に。
続く「MOTHER2」の「戦闘メドレー」と「ヴィーナス&ブレイブス〜魔女と女神と滅びの予言〜」の「Waltz for Ariah」は,めろらんが見事な連弾を披露。とくに後者は,メロディの美しさが際立っていた。
ちなみにめろらんは,6月に行われた「東京ゲームタクト2019」にて意気投合し、結成されたばかりとのこと。
いずれもケルト風のアレンジが施されていたが,とくに神永氏の尺八が民族音楽風のゲーム音楽で使われる“いかにもな笛”の音に聞こえることが印象的だった。
また曲間のMCでは,YOKOさんがゲームのプレイ中,BGMに合わせて口笛を吹いていたら,いつの間にかうまくなっていたというエピソードも語られた。
ここで,上記の3曲を手がけた作曲家のなるけみちこ氏がゲストとして登壇。なるけ氏はYOKOさんの口笛について「本当に上手な人が吹いてくださると気持ちいい」と称賛。
また,なるけ氏は次に披露された「ノーラと刻の工房」の「まいにちの暮らし」と「ワイルドアームズ」の「世界にひとりぼっち」の演奏にも参加していた。
続いて「FINAL FANTASY VII」の「ゴールドソーサー」,「FINAL FANTASY XI」の「Selbina」,「FINAL FANTASY V」の「ハーヴェスト」が演奏された。とくに「ハーヴェスト」では,尺八とフィドルの掛け合いが印象的な響きを生み出していた。
「ケルト風のゲーム音楽と言えば,光田康典さんの楽曲は外せない」という神永氏の言葉とともに披露されたのは,「クロノ・クロス」の「マブーレ(ホーム)」。そしてステージの最後は,「ゼノギアス」のアレンジCD「CREID」に収録されたバージョンの「BALTO」で締めくくられた。
Street Game Music Talkshow!
4star2019 Street Stageの後半では,書籍「ゲーム音楽ディスクガイド──Diggin' In The Discs」などを手がけた田中 "hally" 治久氏と,ゲーム音楽の作曲家陣とのトークが披露された。
最初に登壇した作曲家は,柳川氏となるけ氏。柳川氏は長らく「アトリエ」シリーズの音楽を手がけているが,なるけ氏とは「フィリスのアトリエ 〜不思議な旅の錬金術士〜」の挿入歌を依頼したことがきっかけで知り合ったという。
依頼を受けた当時のなるけ氏は「アトリエ」シリーズを何作かプレイしており,柳川氏の手がけた楽曲には「綺麗なお菓子が整然と並んでいる」と感じていたそうで,そこに自分の楽曲が加わることが楽しみだったそうだ。
柳川氏は「アトリエ」シリーズにおける作曲について,「自分が学生の頃から長く続いているシリーズ。そのイメージを壊さないようにしつつ,自分の音楽性も出さなければならない」と説明。柳川氏自身の音楽性を前面に出していた時期は,シリーズのファンからなかなか受け入れられなかったこともあったそうで,現在のスタイルにたどり着くまでに紆余曲折があったようである。
一方なるけ氏は,自身の作曲スタイルについて,最初は「ドラゴンクエスト」シリーズや「FINAL FANTASY」シリーズなどのクラシックスタイルの音楽に影響を受けていたと話した。現在のケルトミュージック調の作風は,ケルト神話をベースとしたゲームの楽曲を手がけたことから始まったそうだ。
また柳川氏も仕事としてゲーム音楽を手がけるまでは,ケルトミュージックや民族音楽をとくに意識したことはなかったという。柳川氏は,「アトリエ」シリーズの作曲にあたり,ティンホイッスルを買って勉強したエピソードを披露していた。
話題は,柳川氏が学生時代に吹奏楽部でトロンボーンを吹いていたという話からさらに遡り,2人がともに幼い頃エレクトーンを習っていたというエピソードに。柳川氏がエレクトーンでゲーム音楽や歌謡曲を弾いていたと語ると,なるけ氏は「私の頃は,クロスオーバー・ジャズみたいな譜面しかなかった」とコメント。さらに柳川氏が「T.M.RevolutionやB'zの曲を弾くのが好きだった」と話すと,なるけ氏と田中氏は「作っている曲から考えると意外」と感想を漏らしていた。
続いて登壇した作曲家は,一之瀬氏と古代祐三氏。古代氏は自身について「『スペースハリアー』や『グラディウス』などの音楽を聴いてハマった,ゲーム音楽の第2世代」と表現すると,一之瀬氏は「その古代さんの作った音楽を聴いて,ゲーム音楽のノウハウを吸収したのが僕らの世代」と語った。
とくに一之瀬氏は,古代氏の作った「ドラゴンスレイヤーIV」のショップの曲が,プレイヤーの滞在時間が短い場所にもかかわらずきちんと作り込まれていることに感銘を受け,自分が関わるゲームでもそうしたサービス精神を忘れないようにしようと心がけてきたという。
しかし古代氏によると,当時は今のようにゲームのシーンに合わせて曲を作るのではなく,曲を先に作ってシーンに当てはめていくケースも少なくなかったとのこと。そのため件の曲も,古代氏自身はどこで使われるかを意識することなく作ったのだとか。古代氏は一之瀬氏に対して,「そうやっていい形に解釈してくださるのは嬉しいです」と感謝の意を示していた。
また,サービス精神を意識した結果,一之瀬氏は上司から「お前は1曲1曲に力を入れすぎる」と言われたこともあったそうだ。それを聞いた古代氏は「今は1タイトルで30〜40曲を作るが,昔はその半分くらい。そのため,1曲に込める熱量が全然違った」「打ち込みも今はわりとサクッとできるけれど,昔はそうはいかなかったので,常に肩に力が入っていた」と説明していた。
逆に一之瀬氏の作る音楽をどう感じたか問われた古代氏は,「一之瀬さんの作った曲として意識したことはなかった」そうだが,「ニンテンドーDS版の『ポケットモンスター』シリーズは全部プレイしているので,絶対に聴いている。当時,子供と一緒にプレイしながら音楽を聴いていて,すごく楽しかったことを覚えています」「今日帰ったら,一之瀬さんの作る曲には自分の影響があったんだよと子供に伝えます」とも話していた。
4star2019 Primal Orchestra Stage
フェスの締めくくりとなるステージ,4star2019 Primal Orchestra Stageでは,ゲーム音楽の公式コンサートなどでも演奏経験の多いプロミュージシャンによるオーケストラ+バンドの演奏が披露された。なおバンドは,「LaiD Back Gorilla」(レイドバック ゴリラ)である。
ゲストとして登壇した古代氏がとくに言及したのは,冒頭を飾った「グラディウス」の「Morning Music」だ。これは筐体に電源を入れ起動したときにしか流れない楽曲で,古代氏は「当時は朝イチでゲームセンターに行かなければ聴けなかった」と説明していた。
また「ドルアーガの塔」についても,「当時,謎を解かなければ先に進めないアーケードゲームなんてほかになかった。それにサウンドもすごかったので夢中になった」「PCで音楽を作るようになったのは,このゲームの曲をコピーしたことがきっかけ」とコメント。
そして「スペースハリアー」については,「筐体は動くし,画面は3Dで高速で動くし,すべてがすごかった。音楽も,最初はCDで鳴らしているんじゃないかと思うくらい音がよかった」と絶賛していた。
続いて,古代氏が作曲した「世界樹の迷宮X」の「戦場 高揚」と「戦場 そして、蛮勇は血に沈む」が披露された。この演奏には「世界樹の迷宮 SQ F.O.E band」などで活躍する上倉紀行氏がゲストギタリストとして参加し,見事なリードギターを披露。またいずれも原曲はバンド主体だが,このステージではオーケストラが加わることで,演奏はより奥行きのあるものとなった。
同じく古代氏が作曲した「クリスタル オブ リユニオン」の美しい響きに続いて,「ロマンシング サ・ガ バトルメドレー」が披露された。「七英雄バトル」を筆頭に,ゲーム音楽でも屈指の人気バトル曲が管弦楽の華やかさとバンドの演奏により,迫力を増して迫ってくる。
また,「クロノ・トリガー」の「カエルのテーマ」と「魔王決戦」のメドレーにはYOKOさんが参加し,再び口笛を披露。オーケストラとバンドの演奏に負けないほどの口笛の音が,ときに力強く,ときに物悲しい雰囲気をまとって会場に響き渡った。
続く「アナザーエデン 時空を越える猫」のメドレーでは,弦楽器とバンドの対比が生ずる部分が印象に残った。
ステージ本編最後の2曲,「ノーラと刻の工房」からケルト調の「今あたしが紡ぐ日々」とバラード調の「町の灯り」には,麻生かほ里さんがゲストボーカルとして参加。麻生さんは,これらの曲をコンサートで歌うのは初めてとのことで,こうした機会を得られたのは非常に嬉しいと話していた。また演奏では,麻生さんの伸びやかな歌声が会場中に広がり,来場者も聴き入っていた。
アンコールの1曲めは,「UNDERTALE」の「MEGALOVANIA」。そもそも原曲自体がメタル調の楽曲だが,会場ではバンドサウンドとオーケストラによってさらに激しく,かつ厚みのある演奏となって披露された。
アンコール2曲めは,「ワイルドアームズ アルターコードF」の「足跡」。原曲を想起させるアレンジの演奏に乗って,麻生さんが再びしっとりと歌い上げ,4starオーケストラ2019は幕を閉じた。
「4starオーケストラ2019」公式サイト
※撮影:中村ユタカ
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