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[GDC 2017]名プロデューサーとして知られるウォーレン・スペクター氏が,アクションADV「Deus Ex」のオリジナル作品を17年ぶりの事後検証
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印刷2017/03/03 22:15

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[GDC 2017]名プロデューサーとして知られるウォーレン・スペクター氏が,アクションADV「Deus Ex」のオリジナル作品を17年ぶりの事後検証

スペクター氏がGDCに参加するのは,4年ぶりのこと。ゲームのストーリーについて語った当時のセッションも本誌でレポートしているが,Vネックのチョッキからデニム生地のシャツを腕まくりしているところまで,その姿はまったく変わることがなく健在だ
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 「Ultima Underworld」や「System Shock」などのプロデューサーとして知られる業界の大御所ウォーレン・スペクター氏が,GDCで恒例の人気セッション「Classic Game Postmortem」で登壇し,2000年にリリースされた1人称視点型のアクションアドベンチャー「Deus Ex」についての事後検証(ポストモーテム)を行った。

 現在,OtherSide Entertainmentで「System Shock 3」の開発に携わっているスペクター氏は,ボードゲームのデザイナーだった経験を活かして,1989年にElectronic Artsに吸収される以前のOrigin Systemsに参加。「Ultima VI: The False Prophet」(1990年)や「Wing Commander」(1990年)の開発に携わったあと,「Ultima Underworld」(1992年)の開発で提携したLooking Glass Technologiesに出向。そこで,「System Shock」(1994年)や「Thief: The Dark Project」(1998年)の制作を担当した人物だ。
 その後,Looking Glass Technologiesが倒産したために独立を決意し,当時ゲーム業界で大きな注目を浴びていたION Stormの支部を率いて,2000年には当時はまだ珍しい「Unreal」のエンジンライセンスにより,「Deus Ex」を生み出した。

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 「Deus Ex」をプレイしたことのない人,もしくはスクウェア・エニックス傘下のEidos Montrealによって,仕切り直しが図られた新シリーズしかプレイしたことのないという人のために解説しておこう。本作は,2052年という未来のディストピアが描かれており,イルミナティといった現在の陰謀論がすべて真実だったというサイバーパンクなワールドがベースになっている。
 主人公は世界的に暗躍するテロ集団と戦う国連組織UNATCO(United Nations Anti-Terrorist Coalition)に所属するエージェント,J.C.デントンだ。

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 スペクター氏は,「コンセプトとして,Deus Exはジャンルを混合することを意図していました」と述べ,「System Shock」のゲーム性を受け継ぎながら,「Half-Life」のようなFPSでありつつ,「Thief」のようなステルスアクションも楽しめ,それでいて「Baldur’s Gate」のようなしっかりとしたストーリーとRPG要素のあるゲームとしてデザインしたという。
 当然ながら,パブリッシャである当時のEidos Interactiveのマーケティング部門は,その不明瞭なゲーム性をどう取り扱うべきか分からず,良い顔をしなかったそうだ。それでも「自分の夢見てきたプロジェクトを実現できる機会なんてそうない。皆さんも,そんな機会に恵まれたと思ったら,それに飛びついてください」と,スペクター氏は会場の若い開発者たちにエールを送っていた。

「Deus Ex」のキャラクターデザインと思われるアートワーク
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ゲーム企画に大切な「9つの質問事項」


 「Deus Ex」シリーズを始めとする,スペクター氏のゲーム開発に関する信念は,1978年にプレイしたテーブルトークRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(D&D)がすべての始まりだったという。
 その時のダンジョンマスターとなったのが,SF作家としてデビューしたばかりだった旧友のブルース・スターリング氏。スターリング氏は,のちにアメリカのSF界におけるサイバーパンク運動の一翼を担っていく存在になるのだが,スペンサー氏によると当時から「ストーリーを語るのがうまい」人物だったそうだ。そして,彼と夜通しのD&Dセッションで共有した興奮が,「他人のストーリーの中で自分のストーリーを生み出す」という,スペクター氏のクリエイティビティに対する,大きな原動力になっているという。

1978年のある夜にプレイした「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のセッションがすべての始まりとスペクター氏は語る
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 スペクター氏がゲーム企画に関わるときに大切にしているのが,「6+2+1メソッド」と呼ぶ,9つの質問事項だ。なぜ「9メソッド」ではないのか,今となっては記憶にないそうだが,もし,これらの質問に明確に答えられない場合は,自分のプロジェクトであれ部下の持ち込んだプロジェクトであれ,受け入れることはないという。

1. 中核となるアイデアを,2〜3行の文章で説明できるかどうか?
2.  なぜ,このゲームを生み出す必要があるのか?
3. ゲーム開発をする上で,自分に科すチャレンジは何か?
4. プレイヤーにとってのファンタジーとなるものは何か?
5. そのアイデアがゲームというインタラクティブメディアとどれだけ相性が良いのか?
6. プレイヤーは,ゲームの中で何をするのか?(探索をするとか,銃撃戦をするといった“動詞”になるものは?)
7. 同じようなゲームはすでに存在するのか?(存在しないにしても,それは悪いアイデアだからではないのか?)
8. このゲームで唯一のものは?(ゲームという新しいメディアに,新しいものを持ち込まないという“気力のない”ゲーム作りをするべきなのか?)
9. ゲームの中で,プレイヤーに伝えるべきことはあるのか?


 スペクター氏によると,「Deus Ex」ではこれらの質問にすべて答えることができるという。9番目の事項は,スペクター氏がこれまで手掛けてきたストーリー性のあるゲームに限定されるが,少なくとも「Deus Ex」に関して言えば,その企画が練り込まれた1990年代後半の世情をしっかりと盛り込んだ,当時としては非常に珍しいゲームストーリーとなっている。

 「Deus Ex」がリリースされた翌年には,いわゆる「9/11」として知られる飛行機テロ事件がアメリカで発生したが,テロアタックそのものは1990年代に頻発しており,しかもその当時と言えば「ノストラダムスの大予言」を始めとする世紀末論が話題になっていた。また,映画「マトリックス」も1999年に公開されて話題になるなど,ダークな未来観で覆われていたのである。
 「もし,すべての陰謀論が本当だったら?」という「Deus Ex」も,そうした世界観の中で,自分でその答えを見つけ出すという,インタラクティブメディアとしての意図が盛り込まれていたわけだ。

 実際にスペクター氏は,「Deus Ex」のコンセプトとして,以下の5つをリストアップしている。

1. もし,アドベンチャー,シューティング,そしてRPGという異なるジャンルを混合させたらどうなるか?
2. もし,白黒がハッキリとしない,あやふやな現実だけがある世界に,秘密組織のエージェントが放り込まれたらどうなるか?
3. もし,すべての陰謀論が本当だったら?
4. もし,オーギュメンテーションが一般化した時代になったら,“人間性”とは何を意味するのか?
5. もし,世界が混沌としてしまったら,秘密結社によって世界が統制されるべきなのか,それとも新しい暗黒時代に突入してしまうべきなのか?


「Deus Ex」の企画書は500ページもあったという。スペクター氏によると,「全部読んだ者は一人もいないはず」とのこと
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 もはや,マジカルな世界で,剣や魔法を使って戦うゲームを制作するのに飽き飽きしていたスペクター氏にとって,最後にキルすべきボスキャラクターもいない未来のディストピアにおいて,プレイヤーがゲーム内で行う選択によって,自分で答えが導き出されるという内容に興味を覚えたのだという。
 当時,「Deus Ex」がどれだけ斬新だったかというと,ただ単に撃ち合うだけのFPSしかなかった1990年代だったので,「自分で意思決定をしなければならないことに,キーボードを投げ出して頭を抱え込んだテスターもいた」くらいだとスペクター氏は語った。
 また,スペクター氏が「ドリームプロジェクト」と呼ぶように,「Deus Ex」はまさしく,スペクター氏のゲームというメディアに対する想いが詰まった作品だったという。

 一方で,当時ではまだ珍しい業界の慣習だった,ゲームエンジンのライセンス契約を行い,「Unreal Engine」の採用を決定したが,まだドキュメントが揃っていなかった。そのためION Storm Austinの開発者は,「Deus Ex」の開発と並行しながら1年近くも「Unreal Tournament」をプレイして,その特性を学び取るといった無駄な作業を強いられたそうだ。
 しかも,まだUnreal Engineは汎用性の高いゲームエンジンではなかったため,会話を始めとするRPG的な要素を盛り込むのには適しておらず,ダグ・チャーチ氏らを始めとするエンジニア達も,さまざまなプラグインを自作する必要があったという。

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ゲームのコンセプトが理解されず,同業者からは良く「シューターを作ればいい」と言われていたとか
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「Deus Ex」を開発したION Storm Austinのコア開発チーム。ジャンル混成だったために,当初は得意分野の異なるリードデザイナーが2人いたというが,チーム内の不協和音が生じたという

 そうした制作上の苦労もあり,完成までに切られた要素も少なくなかったようだ。当時,「Deus Ex」でリードデザイナーとして頭角を現し,現在でも「Dishonored」など同系統のジャンルの作品を生み続けるハーヴィ・スミス氏に対して,ほかの開発者達は,要素をカットする姿を野菜や肉を切りまくる様子に見立てて,“キッチンシンク・デザイナー”と喩えていたとスペクター氏は述懐する。それでも,ゲーム開発を続けることができたのは,Eidos Interactiveのゲームに対する理解があったからだと言う。

 スペクター氏は,最後に「多くの人から,過去に自分が手掛けた作品でお気に入りのものは何かとよく聞かれるけど,好きかどうかで判断はしたくない。少なくとも,Deus Exに関しては,“誇りを持っている”と表現したいのです」と語る。また,自身が開発に参加していない「Deux Ex: Human Revolution」(2011年)や「Deux Ex: Human Divided」(2016年)に関しては,「もはや知的財産が自分の手から離れているだけでなく,それが今も成長しているのです。それは凄いことだと思います」と好意的に捉えていた。
 「System Shock 3」で久々の本格的カムバックとなるスペクター氏の今後にも期待したいところだ。

2000年のE3 2000と思われるEidos Interactiveブース。この頃までには,スペクター氏のビジョンどおりのゲームになっていたというが,実は思ったよりも面白くないことに焦っていたらしい。ただ,蓋を開けてみればファンやメディアの評価も高く,現在まで語り継がれるゲームとなった
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「Deus Exは私の作品と思われているが,リードデザイナーのハーヴィ・スミス氏,そしてプログラマーであるダグ・チャーチ氏との共作であると思っている」と話すスペクター氏。チャーチ氏は,実際にはLooking Glass Technologiesに最後まで残り,「Deus Ex」には直接関わっていないが,「System Shock」のプログラマーであり,スペクター氏の友人としてさまざまな助言を行っていたようだ
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