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[AGDC 2007]BioWareのデザイナーが語る「オンラインゲームデザインの禅」
Damien Schubert氏 |
講義の冒頭で,いきなり「無の境地に入って悟りを開くという禅の思想が好きだ」と語るSchubert氏だが,その一方で「最近の開発者会議でのデームデザイン話は,まったくその境地に達していない仮定ばかりで辟易する」と,やや攻撃的な構えを見せた。それに関連し,「Ant Farming」(実験ばかりして実りのない学者タイプ),「Bean Counting」(課金制度などの話に終始するビジネスマンタイプ),そして「Crime & Punishment」(ゲームの失敗を顧客や販売元のせいにするうだつの上がらない開発者タイプ)を槍玉に挙げた。
そんなことを明け透けに言うと,業界の友人が減るのではないかとヒヤヒヤさせられるが,このドライさがいかにもアメリカ人らしい。そもそも「ゲーム開発において無の境地を悟る」という真意もよく分からないのだが,ひょっとしたら「Mederian 59」「Ultima Online 2」「Shadowbane」などが,どれも不幸な結末となったことの「無」を,ジョークとして解説しているのかもしれない。
Schubert氏のゲームデザイン論の根底にあるのは,ゲームはゲーマーのためにあるという「お客様は神様です」的な視点にほかならない。「MMORPGをプレイする人は,人生の伴侶となる嫁さん候補を探すようなものだ」と彼はたとえる。続けて「一晩だけで終わりそうな行きずりの美人ではないが,多少その気にさせる魅力はあり,付き合っていくうちにポテンシャルを感じさせる内面がある。その恋愛関係は,少なくとも出だしはスムースに進行する」と語り,聴講者に向かって「新しいMMORPGにアクセスして,まず最初にすることは何ですか? ちょっと動き回ってみたり,ジャンプしたりするでしょう? そのアクションがラグでカクカクしていたり,ジャンプができなかったときの失望は大きい。興味を持って意気込んだ途端に出鼻をくじかれるようなものです」などとユーモラスにまくし立てる。筆者の後ろからも,笑いながらも「本当にそうだよな」というヒソヒソ話が聞こえていた。
Schubert氏はさらに,CasualゲーマーからHardcoreゲーマーに至るまでのプレイヤー層を5段階に分け,その間にInterested(興味を持ったゲーマー),Committed(ゲームを続ける決心をしたゲーマー),Devoted(そのゲームばかりをプレイすることにしたゲーマー)の三つの段階を解説。こうして,彼らが新しいMMORPGを始めたときのアクティビティを抜き出し,自分の作ったゲームがどこに当てはまるかのかを試してみるよう開発者達に勧めていた。突然CasualゲーマーからCommittedゲーマーに移行させるようなゲームシステムにするのではなく,プレイヤーが自分の決断で肩入れしていけるようにうまく誘導すべきだという論点である。
Schubert氏は,この失敗例としてShadowbaneを取り上げ,「ハードコア向けに宣伝していたShadowbaneは,入ってくるプレイヤーはハードコアなタイプばかりになると思っていたが,実際には15%程度。残りの,殺されるためにゲームに参加した層は,すぐに皆やめてしまった」と分析した。
ほかにもSchubert氏は,「MMORPGは果たしてゲームなのか,それとも仮想世界なのかという議論は,まだ決着がついていない」などと話し,今回の講義内容もゲーム業界きっての論客である学者Richard Bartle(リチャード・バートル)氏や,カジュアル化を推進させているRaph Koster(ラフ・コスター)氏らを挑発しているかのようだ。
しかし,実際にはお互いのサイトにリンクしたりコメントを付け合ったりする間柄のはずで,これは公開論戦を楽しもうという,ディベート好きなアメリカ人らしい関係にも見えた。こういう知的なやり取りも,アメリカの開発者達の現状を,ある意味愉快なものにしているのである。
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Shadowbane
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Shadowbane(Macintosh)
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Copyright (C) 2000 - 2002 Wolfpack Studios, Inc. and Ubisoft, Inc. All rights reserved.
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