インタビュー
「今のオンラインゲームは気に入らない」――ドワンゴの川上氏と麻生氏が語るニコ動,そしてネットサービス
「輸出できる産業にしていくべき」PCオンラインゲーム業界とIT業界は似ている
4Gamer:
ところで,川上さん,麻生さんから見て,今のゲーム業界,オンラインゲーム業界ってどう思いますか?
川上氏:
そうですね。まずコンシューマゲーム業界に関していえば,僕は日本でもとくに優秀な人材が集まっている業界だと思うし,頑張ってほしいと思います。一方でPCオンラインゲーム業界は,産業の構造がIT業界とかと似ていて,輸入の割合がとても多い。やっぱり輸入するだけじゃなくて,コンシューマゲーム業界のように,もっと輸出できる産業に育てていくべきだと思いますね。
麻生氏:
少し政治/経済っぽい話をすると,外貨を稼げる産業って,僕はとても大切だと思うんですよね。本当に日本の豊かさみたいなものを考えていくと,内需うんぬんよりも,「世界の富の分け前を,日本がどれだけ確保できるか」という点に尽きる。とくにグローバル化が叫ばれている現代であれば,なおさらです。
だから,その分け前を取ってきてくれる自動車産業やエレクトロニクス産業,そしてゲーム産業などといった,“輸出できる産業”をどう育てるかがより重要になると思うんです。
川上氏:
それはまったく正論だね。今,ゲーム産業やアニメ産業が「厳しい」ってよく言われてますけど,日本のIT産業なんかは,輸出する産業になれてないという意味では,「厳しいどころか,まだ始まってすらいない」とよく思います。
4Gamer:
税金の無駄遣い云々も確かに大事ですけれど,結局それは,「国内で回るお金」の効率性の問題でしかないですよね。
麻生氏:
そうなんです。一方で,国内のお金(富)の総量それ自体を増やしてくれるのが輸出産業ですから,全体で見たときにまずはどちらを重要視すべきかは自明なんですよ。だから欧米では,なんだかんだと言われながらも,自動車産業を保護したりする。日本も,もっとそういう部分に意識を向けないといけないとは思いますね。
4Gamer:
そういう意味では,中国はオンラインゲームの運営を許可制にしたり,最近では,さらにその運営会社に対する外資の参入の規制(※)を発表したりして,自国のオンランゲームの保護政策を推し進めています。
※オンラインゲームの運営が許可制ということもあって,中国では,欧米や日本の企業が直接オンラインゲームを運営できなかった。そのため,欧米や日本の企業は中国企業に投資をして,間接的に自社のゲームの運営を手がけるやり方を採っていた。今回の規制は,それすらも排除するもの(投資はできるが,経営には参加できない)で,事実上,中国のオンラインゲーム市場への直接的な参入はできなくなる
川上氏:
ああいうのは,本当は国がちゃんと圧力を掛けて交渉していかないと駄目なんですけどね。
麻生氏:
アメリカなんかは,そういう市場への圧力をきっちり掛けてきますからね。
4Gamer:
エレクトロニクス産業などでは,“国際標準”をめぐる国家間の攻防が激しいと聞きますけど,産業が大きくなればなるほど,グローバル化すればするほど,そういう国との連携みたいなものが必要になってくるのかもしれませんね。
麻生氏:
今はまだいいですけれど,10年,20年というスパンで考えた場合,そういう取り組みを怠ると,ボディブローのように聞いてくるのではないかと思います。
川上氏:
競争力の強い産業って,総じて「国なんか頼りにしねぇ!」みたいなノリがありますからね。もちろん,それはそれで正しいんだけど,ゲーム産業もその成熟に合せて,違う視点を強く持つべき時期なのかもしれません。
4Gamer:
そうかもしれませんね。
最近ハマッたゲームは「Demon's Souls」
4Gamer:
なんか少し堅い話になったので,今度は緩いお話を……。
最近遊んだゲームで,「これは面白かった」というものはありますか?
川上氏:
最近だと,やっぱり「Demon's Souls」ですかね。あのネットワークの使い方は,とても斬新だったと思う。
麻生氏:
Demon's Souls! 川上会長に「一緒にやろう」って誘われてやり始めたんですけど,あれは僕も相当ハマりました。
川上氏:
気が付くと,麻生くんは4周くらいクリアしてて,差がありすぎて結局あまり一緒には遊べなかったような(苦笑)。
4Gamer:
前々から気になっていたのですけど,ドワンゴ……というか川上さんは,仕事でお付き合いのある人とよくゲームを遊んだりするんですか?
川上氏:
うーん。いや,30歳を過ぎてからは,さすがに一緒にゲームを遊んでくれる知人は減ってしまいました。そこにいる麻生君は,そんな中で数少ないゲーム友達の一人だったんですよね。
麻生氏:
川上会長とは,元々とある飲み会の席で知り合ったんですけど,最初の頃はお互いの素性をよく知らなかったこともあり,「きっと危ない人に違いない」と,妙な警戒心を抱いていたのを覚えています。
4Gamer:
危ない人,とは?
麻生氏:
いや,「この若さで“会長”と呼ばれているなんて,ちょっと普通じゃないな」と。それこそ“危ない団体”の人なんじゃないかと,当時はまじめに思っていたんです。……もう8年くらい前の話ですけど。
傷つくなぁ……(笑)。
麻生氏:
でも実際に話してみると,妙に趣味が合うことが分かって。「マジック:ザ・ギャザリング」の話なんかで盛り上がり,意気投合したんですよね。
4Gamer:
ギャザですか。
麻生氏:
あれは本当に楽しかった……。あと,カードゲームでいえば,僕は「カルドセプト」シリーズも大好きですね。
川上氏:
この前,僕と麻生君とひろゆき,あともう一人とで集まったときもカルドセプトを遊んだんだっけ?
麻生氏:
そうそう。みんなでニンテンドーDSを持ちながら焼き肉屋に入ったんですけど,黙々と各自ゲームをしていただけという集まりがありましたね。しかも,一見すると4人で通信プレイをしている風なんだけど,実は全員ソロプレイだったという(笑)。
4Gamer:
それは微笑ましい光景ですね(笑)。
ドワンゴと川上さんの周りにいる人達の雰囲気がとてもよく分かるというか……。
川上氏:
でも,僕と麻生君の関係を変に勘ぐる人も多くて(笑)。この前の総選挙の時にも,ありもしないことをネットや週刊誌でいろいろ書かれたりとか。
麻生氏:
そんなこともありましたね……。僕は昔,ゴシップ誌とかに書かれていることは「十分の一くらいで捉えればいいのかな」と思っていたんですが,総選挙の時の騒動で「まったく根拠がない場合もあるんだな」と思い知らされました。
僕も選挙期間中には,文字通り根も葉もないことを書かれましたけど,経歴の部分で出身大学が間違ってたりだとか,ちょっと調べれば分かるようなこともめちゃくちゃなのは,さすがにどうかと思ってしまいましたが。
川上氏:
ネット上の書き込みもそうだけど,世の中の情報って恣意的なものが多いよね。取材する前に記者の中で“ストーリー”が既に出来ていて,それに都合のよい発言を拾っているだけというか。
麻生氏:
記者さんには,ちゃんと事実確認をしたうえで,客観的に記事を書いてほしいですね。
4Gamer:
き,気をつけます……。
今のオンラインゲームは,現実と仮想世界のどちらかを選べって態度が気に入らない
4Gamer:
あと,これも川上さんにぜひお聞きしてみたかったことなんですけど,ズバリ,最近のオンラインゲームについてはどう思いますか? エンターテイメントとして,あるいはネットサービスとして見て。
川上氏:
やっぱり,今のオンラインゲームは時間が掛かりすぎですよね。もっと短時間で楽しめる作品が必要なんじゃないかと思います。
4Gamer:
そうですよね……。
川上氏:
個人的には“ディズニーランド型のオンラインゲーム”なんかをぜひやってみたいですね。
4Gamer:
ディズニーランド型?
川上氏:
例えば週末に,一日だけレベル50のパラディンとかになれて,みんなで巨大なドラゴンを倒しにいく……それで2000円とか。そんな感じのゲームです。
4Gamer:
ああ,それに似た議論が,実は結構前から業界内でもあるんですよ。
例えば,MMORPGのいくつかのタイトルでは,レベル上げの果てに行き着くゲーム内コンテンツ,つまり「エンドコンテンツ」として,巨大なボスをみんなで倒しに行く「Raid戦」だとか,多人数による「攻城戦」という要素を盛り込んでいますよね。
川上氏:
はい。
4Gamer:
これらは,プレイしてみるととても面白いし,ある種オンラインゲームの醍醐味だとさえ言えると思うのですが,そうしたエンドコンテンツにたどり着くまでに,半年とか一年という時間を要するわけです。攻城戦でいえば,クラン間の駆け引きなどを本当の意味で楽しめるのは,ごく一部の上位クランだけでしかない。
つまり,ゲームの「醍醐味」であるハズの部分を,多くの人が遊べない,遊ぶまでに大変な労力を必要としてしまう形になっている。それってゲームデザインとして見て正しいのか?という話です。
川上氏:
僕は,今のオンラインゲーム(主にMMORPG)を見ていて,とにかく「現実世界で生きるか仮想世界で生きるかのどちらかを選べ」って態度が気に入らないんですよね。ゲームって娯楽であるハズなのに,それはどうなんだろう?と思ってしまう。もちろん,そういう仕組みになっている理由は理解しているつもりですが,それにしたって,これでは先がないと思うんです。
4Gamer:
おっしゃる通りだと思います。
川上氏:
だから,週末だけ楽しめる“夢の国”でいいんじゃないか。ぱっと遊んでストレスを発散して「明日も頑張って仕事しよう」みたいな(笑)。僕はそういうものでいいと思うんです。
4Gamer:
いや,これはエンターテイメント全般に言えることかもしれないですけど,突き詰めると娯楽というのは,やっぱり「生活の糧」であるべきだと思うんですよね。お笑いを見てイヤなことを忘れるだとか,映画を見て感動するとかでもいいんですけど,それらは決して人生における無駄な時間なんかじゃなくて,日々生活を営んでいくうえで,おそらく欠かせないものの一つだと思うんです。
川上氏:
ゲームもそうあるべきだと。
4Gamer:
はい。
麻生氏:
その話は,とても共感できるなぁ……。
川上氏:
そういえば,ゲームとはちょっと離れますけれど,去年くらいに,生まれて初めて漫画喫茶というものに入ったんですよ。
4Gamer:
どうでしたか。
川上氏:
なんというか,それこそ「夢の国」という感じで。中学や高校生の時の俺が「夢の国」を設計したらこうなる!みたいな空間がそのまま実現してあって,テンションあがりまくりでしたよ。
一同:
(爆笑)
麻生氏:
漫画はあるわゲームはあるわ,果てはジュースやカップラーメンなんかも完備ですからね(笑)。
川上氏:
でも,「なんて素晴らしい場所を見つけたんだ!」と思いながら周りを見渡してみると,なんかほかのお客さんがあまり楽しそうじゃないの(笑)。あのギャップには驚きました。
今のゲームセンターとかも,僕らが子供の時代から比べると,本当に天国だと思うんですけれど,それが当たり前だと思ってる世代から見ると,別に天国でもなんでもないのかもしれないなと。
4Gamer:
昔は,それこそオンラインゲームも夢の世界でしたからね。
麻生氏:
まさにそうですね。通信対戦とかやってみたくて仕方がなかった。オンラインゲームじゃないですけど,その昔,ゲーム雑誌のログインでやっていた「天下統一50人プレイ」という企画に,本当に憧れましたもの(笑)。
4Gamer:
またマニアックな話を……。
川上氏:
逆に,今の子供達が思い描く夢ってなんなんでしょうね。
4Gamer:
確かに。僕らがUltima Onlineのコンセプトを聞いて,ワクワクしていた時のような感覚をどこで抱くんですかね。
麻生氏:
やっぱり,Wiiなどで見られる体感型のゲームの発展系なんかが「夢のゲーム」になるんですかね。
川上氏:
ヘッドマウント・ディスプレイとかを付けてプレイするようなゲームが,また改めて出てくるかもしれないですね。
海外のサービスと戦っていけるだけの競争力を
4Gamer:
そろそろお時間なので,最後に少しIT業界の話題に触れたいのですけれど,最近話題の「拡張現実」については,何か思うところはありますか?
拡張現実については,正直「まだ良く分からない」というのが本音ですね。
4Gamer:
今のところ,まだ「ぱっと見面白いけれど,それで終わり」という感じがするじゃないですか。
川上氏:
そうそう。一部のギーク達が騒いでいるだけで,まだまだ一般には降りてこない感触なんですよね。
4Gamer:
真の実用化という意味では,もう少し先になると?
川上氏:
5〜10年後くらいかもしれませんね。きっと,凄いくだらない技術でブレイクスルーが起きたりするんじゃないですか(笑)。
4Gamer:
なるほど。
川上氏:
先ほどの話と被りますけれど,日本のIT産業は,もっと国内のクリエイター/技術者がコンテンツやサービスを“作り出していく”産業にしていくべきだと思います。とても難しいことだとは思いますが,海外のサービスと戦っていけるだけの競争力を付けていければいいですね。
4Gamer:
分かりました。ドワンゴ,あるいはニコニコ動画の今後の展開にも期待しております。
麻生氏:
なんだかほとんどゲームの話しかしてなかった気がしますが,こんなので良かったんでしょうか。
さて,“不思議な会社”ドワンゴと,それを率いる川上氏,麻生氏にフォーカスした今回のインタビュー。自由な気風と既存の枠に捕われないない発想,そして随所に感じられる鋭い論理性……。このドワンゴという不思議な会社が,なぜ大きな成功を収め得たのか。今回の取材は,そうした同社の秘密の一端をうかがい知れた意味で,とても有意義であった。
近年では,ニコニコ動画の躍進が目立つドワンゴ(正確には,子会社のニワンゴが運営元)だが,その独特の視点でサービスをどう進化させていくのか。今後も世界に類を見ないWebサービスを展開する同社の行く末が,とても興味深い。
ともあれ,冒頭でも紹介したが,佐々木俊尚氏が記した「ニコニコ動画が未来をつくる ドワンゴ物語」には,そんなドワンゴの成り立ちや歴史,同社に集まった「奇人」「変人」「天才」達が繰り広げるドタバタ劇が綴られている。ニコニコ動画やそれを生み出したドワンゴという会社に興味がある人には,なかなかお勧めできる本なので,気になる人はそちらもチェックしてみるといいだろう。
■関連書籍:
ニコニコ動画が未来をつくる ドワンゴ物語
ニコニコ動画(9)
株式会社ドワンゴ
- 関連タイトル:
ウルティマ オンライン
- 関連タイトル:
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