プレイレポート
UOから10年。リチャード・ギャリオットの手掛ける新たな世界をちょっと見学
バックストーリーがわかるオープニングムービー。公式サイトでも見ることができる |
そしておよそ半年後の1997年10月17日――日本はまだISDN程度の回線しかなく,インターネットが浸透し始めたかどうかというタイミングで――そのDiabloをはるかに超える多人数接続のRPGが登場する。Ultima Online(UO)だ。まだMMORPGという言葉さえ一般的ではなく,海外のゲームなんかやっている人はほんの一握りしかいなかった時代の話だ。
UOの話をここで始めると誌面がいくらあっても足りないので省略するが,そんなUOを送り出したのは,ロード・ブリティッシュ(今はジェネラル・ブリティッシュ)ことRichard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏だ。“Ultima0(ゼロ)”と呼ばれることもある「Akalabeth」で1979年にコンピュータゲーム業界に鮮烈なデビューを飾り,以降30年間,常にゲーム業界を引っ張ってきた人物だ。
以降30年間,などと無責任に書いているが,実はUO:R(Ultima Online:Renaissance)のときにOrigin Systemsを去って以降のギャリオット氏は,その功績をほとんど残していない。なにせ,5年以上の歳月をかけて,この「Richard Garriott's Tabula Rasa」(以下Tabula Rasa)を作っていたのだから。
昨今はだいぶ改善されたが,欧米の開発者達のMMORPG開発にかける期間といったら尋常ではなく,Tabula Rasaもその例外ではない。その名前が表に出たのが2003年頃だが,当然その前からプロジェクトは動いていただろうし,5年以上の歳月を掛けていると断言しても間違いではないだろう。
キャラクター作成では髪型や体格,初期のジャケットなどのデザインなどが選択できる |
敵を前にしての戦闘。敵も自分もシールドがありシールドのある間は直接ダメージが入りにくくなっている。シールドが無くなるとダメージの入り方が大きく変わってくる |
発売目前。完成度と内容が気になるTabula Rasaに迫る
画面の見せ方によっては,チーム制のSFアクションシューティングだといっても通用しそうな雰囲気を持つ |
日本でのサービスに関してはいまだ発表されていないが,海外ではすでに,10月19日の発売を目前にしたβイベントが行われている。FilePlanetのプレイヤーを対象にしたものではあるが,今回のプレイレポートは,この“事実上のオープンβテスト”といえるイベントにもとづいている。サイトにアクセスして申し込みをするとCD Keyがいきなり送られてくるという簡単な方法で,誰にでも参加できる分かりやすいイベントだ。
このイベントが開始されたのは2007年9月25日だが,実際に筆者がプレイしたのはせいぜい2日程度だ。つまり,β期間の中でもこの期間についてのみ触れた記事であるわけだ。かつ,わずか丸2日ほどのプレイでそれほど深く遊び込んだわけではなく,まだゲームの核心部分にも触れていないであろうことをご承知いただきたい。また,もはや正式サービスが目の前とはいえ,これはオンラインゲームだ。近い将来にいかなる変化が及ぼされるか想像もつかないので,そのあたりも併せてご了承いただきたい。
実は(現在の)Tabula Rasaが,どんなゲームであるのかがキチンと報道されたことは,今までにそう多くない。4GamerのTabula Rasaに関する記事一覧を見ても分かるように,あまりにも開発期間が長いことに加え,2005年4月に,その根底からゲームそのものを覆す「大改造」が行われたせいもあるだろう。
まさか,その世界観をファンタジーからSFに変えるとは! 彼自身のアイデンティティを作り上げてきた「剣と魔法の世界」を捨て去り,「どこにでもある世界ではなく,オリジナリティ溢れる革新的な世界を作ってみたい」と言わしめるほどの重要なものが,きっとこのSFの世界観に織り込まれているに違いない(関連記事は「こちら」)。
FPSでもお馴染みの,兵器を破壊するために爆弾を設置するシーン。ミッションの中にこういったFPSで見かけるような演出が,うまく取り込まれている |
Tabula RasaのPvEの中で重要なファクターとなっているコントロールポイントの奪取。拠点のキャンプを敵NPCから奪い,そこを防衛するというシステムも自然な流れとして使われている |
レベル・転職・スキル配分で
青芝論争を吹き飛ばす新しさが見られるか
NPCとの会話,目の前の何かを使う,調べるなどの動作は全て近付いてTキーで行える。トイレで使うと水がゴーっと流れる細かい演出も……座ることはできないので雰囲気だけ |
……という,いい子ぶった解説はさておくとして,正直に述べてしまうと,筆者はこの作品にほとんど期待をかけていなかった。
あまりにも長い開発期間,NC側――というより韓国――とのセンスの差異から来る確執(双方のために述べておくが,これはどちらか一方だけが正しいという問題ではない),途中であまりにも様変わりしたゲームの根幹……どこを鑑みても,「良い作品を生み出す」というバックボーンに欠けている。さらには,ここ数年の間,事実上現場から離れていたギャリオット氏が仕切るとあっては(実際に仕切っていたのはロード・ブラックソーンことStarr Long氏のようだが),もうダメ押しのようなものだ。アバタールを自ら実践するかのような人徳があり,誰にでも親切で丁寧な彼を,筆者自身は人としてとても好きだし尊敬してやまないが,ユーザーはそんなに甘くはない。
そんな不安と,いや,それでも彼ならどうにかしてくれるはずだ,という少々の期待と,複雑な気分でTabula Rasaにログインした。
Ultima Onlineは,いまもってなおあまり例を見ない「完全スキル制」のゲームだ。スキルを鍛えて強くする,別のスキルを鍛えて,キャラクターを違ったスタイルにするといった類まれな面白さがある。
一方,MMORPG作品のほとんどはレベル制で,しかも最初に職業を決め打ちするものがそのほとんどだ。筆者自身は割と好きなのだが,ときおり聞こえる「あのクラスはダメすぎる」といった職業差別の発言の元になっている諸悪の根源であるともいえる。
むろん,実際にそのクラスがダメなことは少ない(そもそも“ダメ”とはなんなのだ)のだが,いわゆる「隣の芝生は青い」というやつで,ひとたびこれが始まると,どうにも収拾がつかない。開発者はそれを真に受けてバランシングに入り,あっちを伸ばしてこっちを削り,さらにまた職業差別が飛び火する,という悪循環の“盆栽の日々”になる。隣からは自分の芝生も青く見えているという当たり前のことを皆が認識することもなく,ゲームシステムとコミュニティ全体を混乱に陥れていく。
では,“新しいMMORPG”を目指すTabula Rasaはどうだろうか? 結論から先に述べるならば,極めて一般的なMMORPGに仕上がっていた。
種族は一種属固定で,ステータスの割り振りやクラス設定などは何もない。キャラメイクのときは,外見を決めるのみだ。
キャラクターの成長はレベル制になっている。レベルが上がることでステータスボーナスポイントを得て必要なステータスに割り振り,スキルポイントで成長させたい方向へスキルを強化させていく。レベル5で2次職への分岐が,その後レベル15で3次職に,最終的にはレベル30で4次職と発展し,4次職では8クラスまで細分化される。スキルツリーで,習得できるスキルなどを含めた全体の流れを確認できるので,プレイしながら,どんなキャラクターにするかを考えることができるわけだ。
ステータスの割り振りは,基礎となるキャラクターの個性を作り出すことができ,転職とそれに伴うスキルツリーの成長度合いによって,キャラクターの個性がさらに分かれていく。そう多くないクラスの中に多様性を存在させているため,「この職業つかえない」と端的に言える状況には結びつきづらくなるだろう。
むろん最終的なバランシングまでは見えていないが,この手のキャラ成長システムも,結局最後は「みな同じ割り振り」になりがちだ。そのあたりをどう捌いていくか,今後の手の入れ方に期待したい。
フィールドの敵の中でも,文明を持ったエイリアンはテレポートで現れたり,輸送船から降下してきたりする。いわゆるスパウンと同じ意味合いなのだが,文明を感じさせる上手い演出だ |
フィールドのところどころには,滝があったり川が流れていたりと,風景を楽しめるような場所も存在する。SFっぽさを忘れる瞬間だ |
RPGのシステムで動くアクションシューティング?
情報を追っている読者であれば前情報からお分かりのように,Tabula Rasaは,ピュアにSFの世界観を下敷きにしたMMORPGだ。TPS(サードパーソンビュー シューティング)と見まごうばかりの画面構成に,おどろおどろしいデザイン,メカメカしいキャラクター。北米のデベロッパが作った新作SFアクションシューティングです,といっても違和感はない。
しかし実際は,キャラメイクをしてチュートリアルゾーンとおぼしき場所(おそらくはインスタンスだ)に放り込まれた瞬間に,「ベタなMMORPG」の展開が始まる。目の前に立つのは,「俺に話しかけないとゲームは進まないぜ?」と言わんばかりのNPC,適切な距離で配置されるほかのNPC達,1か所を除いて進めなくなっている地形構造。おお,これはまさしく「MMORPG」のチュートリアルだ。
キー操作やウィンドウ操作,アイテムの使い方までをも含めた割と丁寧なチュートリアルを終えると,次はいよいよ戦闘だ。これもまた,初期NPCの「ミッション」(=クエスト)という形で提示される。そんなこんなを繰り返して,最後にちょっと山場があったあとでこのゾーンは終了。いよいよ,世界のプレイヤー達が待つ,通常ゾーンに仲間入りだ。
システムこそまったく別ものだが,操作フィーリングはアクションシューティングに近い。W/A/S/Dによる移動と,マウスによるエイミングという単なる操作レベルでの話はもちろんのこと,銃器がメインの武器で距離を置いて戦うことが多いため(接近戦のMeleeもあり,現状ではかなり強いように思える),雰囲気もアクションシューティングそのものだ。地面をクリックしたらキャラクターが移動したりはしないので,ここ最近の“空いた手でお菓子も食べられます”のお手軽移動に慣れている人は,ここで割と大変な目に遭いそうだ。逆に言うならば,FPSやいわゆる洋ゲーMMORPGに慣れている人であれば,苦もなく違和感もなく入り込めるわけだ。
アクションシューティングとばかり連呼していると誤解されそうなので予め述べておくと,「ヘッドショット1発で即死」のようなことは起こらない。そのあたりのシステムは完全にMMORPGを踏襲している。
巷のMMORPGとちょっと違うな,と思ったのは,キャラクターの移動の自由度。Ultima Onlineでもそうだが,よっぽど高レベルの敵がいたり条件があったりとかしない限りは,ほとんどの場所を歩き回れるようになっているのだ。まるで,ブリテインからベスパーへ(UOを知らない人ごめんなさい)徒歩で行けたあの頃のように,かなり広範囲を自由に歩き回れる。
コンピュータRPGが始まって以来の伝統である「街や村から離れれば,それだけ敵が強くなっていく」という作りは,Tabula Rasaにも適用される。しかし,モンスターの配置や地形や道の作りなど,「こわいけど移動できる」という作りになっている。意図的なのか「たまたま」なのかは知るべくもないが,筆者がだいぶウロウロした限りでは,インスタンスやダンジョン,ゾーンなどにレベル制限がかかっていたり,クエストコンプリート必須だったりはしなかったので,序盤の「色々見たい」欲求を満たすことができる。
さらに最近のMMORPGらしく,拠点となるキャンプにたどり着ければ,テレポートを使って行き来もできるようになる。
敵エイリアン軍勢のちょっと強めな個体。普通の雑魚固体は緑色なのだが,小隊長レベルのエイリアンは赤いものが多く攻撃力も高い(三倍速くは無い) |
舞台となる惑星では人型のエイリアンの他にも,地上に生息する生物も存在する。敵エイリアンと交戦してることもあり,野性味あふれる狂暴な存在がほとんどだ |
現状では対モンスターを主目的とした
一般的なMMORPGという印象
この原稿を書くために,ソロであちこち歩き回っていたのだが,ミッションの補助的機能(マップへの目的地のマーク表示やジャーナルの説明文など),ところどころにある拠点間のテレポート移動など,移動のかったるさやミッションでの迷子を軽減してくれる機能は,当たり前のように搭載されている。WoWやEQ2から綿々と続く「プレイヤーの無駄な時間を解消する」機能は,賛否両論あれど,慣れたらもはや後戻りできないのも事実。古き良き時代の体現者ともいえるギャリオット氏も,この手の機能は搭載するようになったのか,と妙なところで感心した。
やや余談だが,ミッションの数が妙に多くてクリア時の経験値が多いのも,最近のMMORPGの流行りだ。韓国系などに代表される「とにかく敵を山ほど倒して経験値を稼ぐ」スタイルとは違い,目的をプレイヤーに与えつつ自然とレベルが上がるようになっている。クエストジャーナルまでもがキレイに見やすく残るため,クエストをクリアすることに追われがちなのが,敢えて言うなら欠点だろうか。
ソロでクリアする必要のあるインスタンスや,多人数のプレイヤーが協力して,強力な敵NPCを倒すインスタンスなど,バラエティに富んだ構成も見せてくれる。「難しいほど面白い」と思える古い世代のプレイヤーでも,それなりにほどよい歯ごたえを感じられるだろう。
少ないプレイ時間で,まだ序盤のレベル10を超えたあたりであちこちのミッションに挑戦しているというのが,原稿執筆時での筆者の状態だ。
ややもするとひたすらレベルを上げることに終始させられるMMORPGが多い中で,少なくとも序盤に関しては,ミッションをこなすことが中心で,そのおまけでレベルが上がっているという自然な流れを感じられる。いくらなんでもこのままレベルキャップまで到達するはずはないが,要所要所にほどよいコンテンツを配置して,非常に丁寧な出来になっていることに期待したい。
日本でのサービスに関しての公式発表はないが,ゲーム内のオプション設定に「Language:Japanese」という選択肢があること,NC Japanは,大作MMOはほぼ間違いなく日本で展開していること,チャットウィンドウで普通にIMEが使えて日本語が通ること,海外のショップから日本へ配送してくれないこと,などを考えると,十中八九日本でのサービスは「ある」と考えてよいだろう。
とはいえ。
この原稿をここまで読んでくれた人なら気が付いていると思うが,現状ではなんら目新しいポイントは見つからない。世界観こそSFではあるが,そのほかの部分はまったくもって既存のMMORPGと変わらない。序盤がお使いクエストゲームになっていることすら含めて,だ。EverQuestが,RAIDを体験できるレベルになったら違うゲームになるように。リネージュIIが,攻城戦を体験できるようになったら違うゲームになるように。DAoCが,RvRに入り浸りだすと違うゲームになったように。もしかしたら将来的に「まったく今までとは違うコンテンツ」を提供してくれるのかもしれないが,その明確なロードマップはなく,存在の片鱗をゲームから感じることもない。
あくまでもβ版ではあるし,単に「見せてない」だけなのかもしれないが,何か新しい要素がない限りは世界的にブレイクできない心配は十二分にある。
ゲームの方向性を180度転換したことを例に出すまでもなく,ここに至るまで,数々の果てしない苦労があったことは想像に難くない。
しかし現実は厳しい。Origin Systemsを飛び出したあと,Destination Gamesを設立してNCsoftに雇われ,この長い期間目立った成果を出していないことは,ギャリオット氏の両肩に重くのしかかっているであろうことは容易に理解できる。途中,幾多もの“ピンチ”を切り抜けて,ついに姿を見せたTabula Rasa。これは,氏の進退を決める一作となるだろう。
ショットガンなら敵を近付けて一掃することも可能。種類によってはシールドにのみダメージを与えるものなどもあり,状況によって使い分けると戦闘が楽に行える |
フィールドは意外と閑散としているから,序盤のうちからあちこち歩き回ることが可能だ。ただし,エイリアンが集団で現れることもあるので油断は禁物 |
<<Logoの謎>>
ミッションの中には,「Logo」(ロゴ)を集めてくるものがある。Logoは各所に点在していて,ほかのミッションとからんでいる場合もある。このLogo,「こちら」の記事の最後に出てくる,リチャード・ギャリオット氏が作った絵文字(象形文字のようなもの)のようで,かなりの数が存在するようだ。Tabula Rasaのタイトルの下にも描かれているものがあったりして,意味深なのだがその意味合いを理解するまでには至っていない。一体いつ全貌が明らかになるのか……。
Tabula Rasaで大きな意味を持つであろう"Logo"は,フィールドやインスタンス,洞窟の奥といったあらゆるところにひっそりと佇んでいる。集めると何かが起こるはずなのだが |
Logoにはそれぞれ意味がある。その繋がりをそれぞれが意味する単語に変換して読みかえると意味を持った文章になるわけだ |
<<再びの発売延期>>
この原稿執筆中に,発売日の延期が公式コミュニティサイト上で明らかにされたのは先日お伝えしたとおり。
現在予定されている発売スケジュールは2007年11月2日となっており,プロデューサーのStarr Long氏の弁では,ゲームの安定性やバランスなどの問題を改善するためとのこと。確かに,うまくスクリプトが動かないミッションがあったり地形に容易にスタックしたりして,筆者も何度か途方に暮れている。β版である以上,そんなところをとやかくあげつらうつもりは毛頭ないが,完成度が上がるのであれば,歓迎だ。
……とはいえ,首を長くして何年も発売を待ち望んでいる人にとっては,「またかよっ!」と言いたくなるところ。再度の延期がないことを,心から願うばかりだ。
- 関連タイトル:
Richard Garriott's Tabula Rasa
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