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[NDC19]あの「Kart Rider」がサービス15年目にして人気急上昇。成功の秘訣は「Second Game」としての展開
キム・ドンヒョン氏 |
キム氏はまず「会社やチームによって違う」ものだと断ったうえで,Kart RiderのPMの仕事がどのようなものかを紹介した。
中でも重要なのが,ライブサービスの戦略を構成することだ。たとえば1年間,どういう指標を維持するのか,どういう目標を持って,それを達成するためにどのようなアップデートを行うのか,アップデートはいつなのか,どんなイベントを実施するのか,どのような新アイテムを実装して,その価格をいくらにするのかなど,さまざまなことをPMが決定しているという。新アイテムを作るときなどは,開発に「このぐらいの性能にしてほしい」と伝えなければならないので,ゲームバランスにも頭を使う。
また,アップデートに関するパッチノートを毎週のように書いたり,データをもとにイベントの成果を分析したりするのも,PMの仕事だ。分析によってゲームを改善するために新たなシステムが必要だと判断すれば,それを企画パートに提案することもある。
そのほか,関連部署との業務調整や,プレイヤーを相手にする窓口対応も行うという。PMの仕事はとにかく広範囲で,キム氏は「なんでもやる」「Kart Riderについて一番詳しい人」とまとめつつ,そのぶん,責任が重い仕事でもあると話していた。
そんなKart Riderのサービスを行ううえで欠かせない存在といえるキム氏は,2018年の本作の成長をどう見ているのか。
Kart Riderはサービス開始当初,絶大な人気を誇り,ネットカフェ(日本のそれとは異なる,韓国のPCバン)のランキングで1位だったこともあった。しかしその勢いはどんどん衰えていくことになる。
以前は,ライバルとなるタイトルが「StarCraft」ぐらいしかなかったが,さまざまなタイトルがリリースされていくうちに,Kart Riderは埋もれていった。大型アップデートの失敗などから「プレイヤー離れ」も進み,ついには「昔は遊んでいたけど,Kart Riderって今でもサービスが続いているんだ?」と言われるような立ち位置になってしまったのだ。
しかも,現役のプレイヤーからも「難しすぎる」「面白くない」といったネガティブな意見が出ていて,さすがのキム氏も「ここから立て直せるのか」と心配した時期があったという。
そうした状況の中,2018年夏に,ディレクターが「やりたいことを全部やってみよう」と言い出し,Kart Riderのサービス方針は大きく変わることとなる。計画を練り直し,「指標を達成するための調整をしよう」といったことはやめて,「どこまでやりたいことができるか」を念頭に動き出したのだ。
これをきっかけに,Kart Riderはサービスから約15年が経ってから成長を見せるのだが,その成功のためにどのような“レシピ”があったのか。その点についてキム氏は紹介していった。
まずは「自分達のゲームに対する正確な把握」だ。これなくしては,プレイヤーが求めるものを提供することはできない。開発チームのなかで本作に一番詳しい立場のキム氏であっても,100%は把握できていなかったという。
そこでキム氏は,SWOT分析(強み,弱み,機会,脅威の4つのカテゴリで分析する手法)を行った。Kart Riderの最大の強みは「認知度」だ。過去の人気から,今は遊んでいなくても知っているという人は非常に多い。高いPC性能を必要とせず遊びやすいという点や,迅速な対応が可能な社内体制なども大きな強みとして挙げられた。
一方,弱みとして「プレイヤーの認識」が問題となった。キム氏はよくプレイヤーコミュニティをチェックしており,そこで「ネットカフェでKart Riderを遊ぶのは恥ずかしい」といった声が挙がっているのを見ていたのである。しかもKart Riderは「子供が遊ぶゲーム」という認識があり,これも変えていく必要がある。
「強みを生かし,弱みを補う戦略を取れば,ランキングに返り咲く機会はある。オンラインレーシングというジャンルのタイトルは限られているので,脅威もない」。そう考えたキム氏は,PMとして新たなアップデート計画を練り出した。
では,実際にどのようなアップデートが必要なのか。
キム氏はデータを分析して,Kart Riderは「プレイヤー数に対してアクセス数が少ない」ことに着目した。週3回アクセスするプレイヤーは全体の10%,毎日アクセスするプレイヤーは10%未満であり,残りのプレイヤーは,月1回や2週間に1回といった頻度でしかアクセスしていない。
さらに,アクセス時のプレイ時間も極めて短い。一部のコアプレイヤーを除けば,1回のプレイ時間は30分以下だった。10分未満というプレイヤーも,予想以上に多く存在したという。
つまり,プレイヤーの多くは,Kart Riderをメインで遊ぶゲームにはしていないということだ。ほかのゲームを遊ぶ合間に,Kart Riderを忘れずに遊び続けている人が大勢存在するということでもあり,実際,「リーグ・オブ・レジェンド」や「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」(PUBG)が緊急メンテナンスで1時間遊べないとなると,Kart Riderの同時接続者数は10〜20%増えることも分かった。
これらを踏まえて,キム氏はKart Riderを「Second Game」(海外ではSide Gameと表現することもある)であると考えた。「自分が遊んでいるゲーム」を語るときに真っ先に出てくるようなものを「Main Game」とした場合,それがプレイできなくなったときなどの暇つぶしにプレイするのがSecond Gameだ。
それなら,Second Gameとしてより楽しめる環境を構築すれば,Kart Riderの人気は上がるはずである。
そんな環境を構築するためにキム氏が実行したのが「モバイルゲームのようなアップデートを行う」ということだ。短時間の暇つぶしに向いたモバイルゲームのサービスを参考にして,Kart Riderからの離脱を防いだという。例えば,アップデート内容をあえて簡素化して,プレイヤーがその週にやることを明確にすることで,遊びやすくするといった具合だ。毎週のイベントでもらえる報酬を変えて,継続的に遊びたくなるようにするなどの手法も取り入れている。
キム氏はプレイヤーの気持ちを完全に理解するため,いちプレイヤーとして毎日6時間プレイしていたという。その結果,「復帰者からするとどのアイテムを買えばいいのか分からない」「イベントが複雑で面白くない」などの問題に気付いたそうだ |
また,コンテンツを新たに開発する余裕がなかったため,すでにあるものをうまく使う必要があった。そこで,有料コンテンツのうち,利用者の少ないものを無料化して,新しい面白さを感じてもらえるようにするなどの施策も行った。
こうした遊び方の実情に沿った展開により,プレイヤーの満足度は上がり,ポジティブな声が多く聞かれるようになってきた。再接続率も上がり,プレイヤーの復帰という点では成功したと言える。
ここからさらに新規プレイヤーを増やすために,キム氏はさらにいくつかの手を打つ。
まずは公式サイトへのアクセスを増やし,検索ワードの順位を上げるための施策だ。外部から検索して公式サイトに行きたくなるようなイベントを,周期的に開催した。
さらに,ネットカフェでプレイしたときの報酬を大幅に上げ,「Kart Riderを遊んでいる人」がほかの人の目に留まるような環境作りにも注力した。こうすることで,「自分も遊ぼう」という人が増え,さらにその人を見た人も遊ぶ――といった効果が生まれるのだ。これにより,ネットカフェにおけるプレイランキングは,19位から5位まで上がったという。
プレイヤーとのコミュニケーションの強化にも注力した。要望の迅速な反映や,日本ではおなじみだが,問題が発生したときのいわゆる“詫び石”の配布などで,満足度を向上させていったという |
さまざまな施策がうまくいく中,ラッキーな出来事もあった。SmileGateのMMORPG「LOST ARK」のオープンβテストが開始されたのだ。これが非常に人気で,ネットカフェで多くの人がプレイしていたのだが,人が集まりすぎてサーバーがいっぱいになり,ログイン待ちが発生していた。
すると,その隙間時間を潰すためにKart Riderを遊ぶ人が続出。しかもSecond Gameとしての施策を導入した後だったので,人気も急上昇したのである。
人が増えて人気が戻れば,それを見てさらに人が増え,YouTuberを始めとしたインフルエンサーによるゲームプレイなどでも紹介されるようになり,どんどん露出も増えていった。サービス開始から約15年が経過したKart Riderに,再び人々の注目が集まる状態になったのだ。
復活したKart RiderはDAU(Daily Active User:1日あたりのアクティブユーザー)が急上昇し,週間指標が前年の4倍,日間指標が8倍に。ネットカフェのランキングは5位,Naverの検索ワードランキングでも5位となった |
この人気の結果,2018年のオフライン大会のファイナルリーグは,1600人ぶんのチケットが1分で完売したという。盛り上がりを会場で感じたキム氏は,誇らしさのあまり家に帰って泣いてしまったそうだ。
2018年はうまくいったKart Riderのサービスだが,2019年はどのような方針なのか。この成功を機に,大規模アップデートで大きな発展を――などということはない。キム氏は,「Second Gameの不動の1位」を目指して展開していくと宣言して,講演を締めくくった。
「Kart Rider」公式サイト(韓国語)
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