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[SIGGRAPH]骨組みなしのぬいぐるみが動く!? 最新技術が披露される「Emerging Technologies」展示セクションレポート(1)
そんなE-TECH展示セクションで筆者が気になった最新技術を数回に分けてレポートする。今回はその第1弾をお届けしよう。
「Stuffed Toys Alive! Cuddly Robots From a Fantasy World」
by 東京工業大学 長谷川晶一研究室
〜骨組みがないのに人のほうを向いて動く,柔らかいぬいぐるみ型ロボット〜
これまでも,愛玩用のロボットとしてぬいぐるみの内部にボーン仕込み,それを動かすものはあったが,内部に複雑なメカを内蔵させたものは,妙に硬い芯のようなものが存在してしまうので,抱いたときに違和感を与えてしまう傾向がある(内蔵しているメカが重いという違和感もある)。
そこで,長谷川晶一研究室では,それらのボーンを排除してぬいぐるみを動かすメカニズムを開発したというわけだ。
長谷川晶一研究室が開発したぬいぐるみでは,筋肉に相当する糸が各可動部位に張り巡らされており,それらの糸を体幹部に集約させた小型モーターユニットで巻き取り,各部位を動かすという仕組みになっている。
1つは,ユーザーが直接,ぬいぐるみを触ったり,抱きしめたり(力を掛けたり)といったことに対する反応である。そういったユーザーからのアクションは,ぬいぐるみの中に仕込まれたセンサー群で取得しているそうだ。
ユーザーからのタッチに対するセンシングには,導電性の布を用いた静電容量式を採用(基本原理はスマートフォンなどのタッチパネルと同じ)。ユーザーがぬいぐるみを抱く,引っ張るなどの「力をかけてくる」ことに対するセンシングは,部位可動用に通した糸を利用して実現している。具体的には,部位可動用の糸が引っ張られると,隙間が変化するスイッチ構造が仕込まれていて,隙間の大小をフォトセンサーで検知。大きな隙間ができれば,大きな力が掛かっていることが検出できるというわけだ。
こういったセンシングにより,強い力で抱かれるともがいたり,特定部位を触るとそこを動かしたりといったリアクションを実現しているとのこと。
従来の発想ならば,ぬいぐるみの中にカメラを内蔵させるということになりそうだが,この研究では,「ぬいぐるみの目」に相当する2つのKinectセンサーを外部に配置しているのだ。
1つめのKinectセンサーは,デモブースの直上に下向きで設置されており,ぬいぐるみと来場者の位置関係を把握している。2つめのKinectセンサーは,デモブースの水平上に横置きで設置。こちらはブース内にいる来場者のボーンを取得しているとのこと。2つのKinectセンサーを使って「ユーザーが手を振っている」「ユーザーが右にいる」などの状況を視覚し,外部のPCを使って知覚している。
つまり,長谷川晶一研究室が開発したぬいぐるみでは,視覚と知覚(知性)をぬいぐるみの外部に出してしまっているのだ。
もしかすると,今後は,インタラクティブなぬいぐるみ,あるいはロボットなどにおいて,こういったリモート環境的な発想が進んでいくのかもしれない。
TECHTILE toolkit: a prototyping tool for designing haptic media
by 慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科特任講師 南澤孝太氏ほか
〜回転や重さが感じられる振動システム〜
現在のゲーム機では,ゲーム内で発生する衝撃を少しでも体感できるよう,ゲームパッドなどのコントローラに振動機構が内蔵されていることが多い。そういったコントローラに内蔵されている振動フィードバックは,小型モーターに取り付けられた錘を偏心回転させることで実現している。これは携帯電話などのバイブ機構と同様のものだ。
慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科特任講師 南澤孝太氏らによる「TECHTILE toolkit: a prototyping tool for designing haptic media」では,そういった振動フィードバックをよりリアルにするイメージの研究が披露されていた。南澤氏は,音に例えるならば,これまでの振動フィードバックをBEEP音だとすると,今回の仕組みはHi-Fiサウンドのイメージだという。
振動の記録には通常の音声マイクを用いるそうだが,よくよく考えれば,音も空気の振動なので,当たり前のことなのだ。ただし,記録したいのは振動のみなので,音波としての可聴範囲を考慮していない。つまり,可聴範囲外となる30Hz以下および20kHz以上の振動も記録している。
なお,再生は,通常のスピーカーユニットと同じような一次元方向のリニアモーターで行うとのことだ。
こうしてみると使用するデバイス自体は単純なものであり,信号の取り扱いを工夫しているだけで,実現コストは極めて安くできるだろう。
実際には何も入っていない紙コップを握っているのに,石ころやビー玉が入っているほうの紙コップからの連続的な振動を感じて,あたかも自分が持っている紙コップに石ころやビー玉が注ぎ込まれたかのような錯覚で重みを感じてしまうのだ。
種を明かすと,この実験は非常にシンプルな構成となっている。実際に石ころやビー玉を注ぎ込む紙コップ(入力側)の直下に振動記録素子が実装されており,ここで取得した振動がアンプを通って増幅され,被験者の持つ紙コップ(出力側)へと出力される。出力側の紙コップには,振動再生用のリニアモーターが横向きに実装されているだけだ。
面白いのは,入力側の紙コップを回転させて,紙コップ内で石ころやビー玉を回してやると,出力側の紙コップでも中で石ころやビー玉が回転しているかのような振動が得られるところである。
すぐにでもゲームコントローラに採用できそうなTECHTILEシステムだが,こうしたHaptics(触覚学)がらみの特許は,米国のImmersionが広く押さえているため,難しいかもしれないというのが実情だ。Immersionといえば,PlayStation 3やXbox 360といったゲームパッドの振動フィードバック機能に対して,ソニーやMicrosoftを相手取り,巨額の訴訟を起こしたことで有名な企業である。
ならば,ゲームコントローラには,偏心モーター以外のリニアモーター式振動フィードバックシステムが応用されたことはないのかというと,実はそうでもない。例えば,ニンテンドーDS/DS Lite用の「DS振動カートリッジ」がその1つだ。DS振動カートリッジは,TECHTILEとほぼ同様のシステムが採用されているが,任天堂は同社独自の特許技術を使っているためImmersionから訴えられていない。
とはいえ,Hapticsの分野は商業展開に危険が伴うため,TECHTILEの研究グループでは,商業的な方向へは持っていかず,振動ベースのHapticsをモジュール化し,オープンな方向へ注力していきたいとのことだった。
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