インタビュー
ベクター子会社によるELEVEN-UPの一部事業取得。攻めの姿勢を見せ続けるベクターの真意とは
今回の件を含めると,合計6タイトルを運営して3タイトルが開発中だ。ふと気付けばオンラインゲームパブリッシャとして「大手の仲間入り」を果たしている。
これはもはや,単なる「上場会社の片手間のお仕事」の範疇には収まっていない。ベクターグループ(と呼んでも差し支えないだろう)は,オンラインゲーム業界において何を狙って,どこへ向かおうとしているのか。そんな気になるポイントを,譲渡発表直後に時間をもらって聞いてみた。
無理矢理時間をいただいたにも関わらず,ベクター 代表取締役社長 梶並 伸博氏,GAMESPACE24 代表取締役社長 吉成 隆杜氏,GAMESPACE24 取締役 市崎 裕康氏という,関係者勢揃いの豪華メンバーとなったこのインタビュー,短い時間ではあったが「今後の方針」を聞き出すことには成功したので,ぜひ読んでみてほしい。ELEVEN-UP 代表取締役の片山崇氏は都合により不在だったので,タイトルの運営に直結した話はできなかったが,大枠の話は見えてくることだろう。
■譲渡によって増える人員
■企業としてGM,CSとはどのような立場で見ているのか
4Gamer:
お時間をとっていただいてありがとうございます。梶並さん,確か前回G★でお会いして以来ですよね。もうあれから半年以上が経つんですねえ。
あー,そうか。そうですね,もうそんなになりますね。
4Gamer:
このリリース(関連記事)を見る限り,その間もバタバタと色々動いていたわけですね。今回,GAMESPACE24に譲渡されたのは,リリースを見る限りはELEVEN-UPのGMチームを筆頭とする「運営事業全般」ということですか?
梶並氏:
そうですね。分かりやすくタイトル単位で言うならば,ベルアイルと開発中の2タイトルを取得しました。それに伴い,ベルアイルのGMチームも引き継ぐ予定です。
4Gamer:
GMチーム「Trinity(トリニティ)」そのものが全部移管されるわけではないということですか?
梶並氏:
なにぶんまだ現在進行系の案件なので,確固たることが言えなくて申し訳ないのですが,まず現状で運営チームに関していえることは,ベルアイルのGMチームは全員が移ってくる形になるということです。
無双BBに関してはやはりELEVEN-UPさん自身の話なので,私が何か言える立場ではないのですが,一つだけ言えるのは,「ベルアイル,無双BB双方のプレイヤーさんにとって,そしてトリニティそのものにとって,決して不満の出ない形にする予定だ」ということです。今日まさにこれから述べようと思っているのですが,ベクターグループは運営チームを決して軽視いたしません。その最初の行動を,ここで示せることになると思います。
4Gamer:
ではベルアイルの運営も,当たり前ではありますがGAMESPACE24が行っていくということですね。
梶並氏:
そうです。7月末まではELEVEN-UP,それ以降はGAMESPACE24で,という感じです。
運営スタッフは,基本的に変更ありません。サービスクオリティはそのまま保った状態で運営に携わっていく形を考えています。8月1日以降の運営も,急激に変わるということはありません。
4Gamer:
ところでGAMESPACE24自体も,失礼ながら巨大な会社というわけではないですし(社員8名),ここまで一気にベクターグループ内にタイトルが増えると,当然ながら運営チームが必要になりますし,今回の事業取得はその意味も大きいのかな,と感じている次第です。
そうですね。いま正確には,GAMESPACE24の人員が,派遣社員を合わせて9人,そこにアルバイトを合わせて16人。そしてベクターが,社員6人とアルバイト5人の11人。合わせて27人です。そこにELEVEN-UPからのスタッフが加わるのは,とても大きな意味があります。
4Gamer:
もし先ほどのお話どおりだとするならば,今回の取得でうまくGMチームなどが移動できた場合,既存のオンラインゲーム会社よりも運営に割かれる人員リソースが割と多めのパーセンテージになりますよね。
梶並氏:
そうなるかもしれないですね。
4Gamer:
となると,必然的にお聞きすることになってしまいますが,オンラインゲームの運営――というよりも経営,と言い換えてもよいかもしれません――にとって,GMというのは単純なコスト部門ですよね。ものすごいクールな言い方になってしまいますが。
確かにGMはとても大事な一要素ですが,だからといって,素晴らしいGMが居るからといって収益が増える(=ユーザーが増える)というわけではないと思います。オンラインゲーム運営各社さんが,GMにかかるコストを極力削減していることからも,それは容易に伺えます。
梶並氏:
おっしゃっていることは理解できます。
4Gamer:
しかしこの話がうまくまとまるならば,ベクターグループのオンラインゲーム事業においては,運営チームが占めるリソースの割合は相当大きなものになりますよね。すなわちそれは,コスト面にダイレクトにかかってきます。そのあたりは,業界における「新興企業」としてどのようなお考えをお持ちですか?
梶並氏:
それはですね……例えばディズニーランドを思い浮かべてください。あそこの従業員は,その大半が「キャスト」と呼ばれていますが,そのキャストの質が良いほうがいいのか悪くてもいいのかとか,キャストは完全なコスト部門なんですか,というのと同じ質問ですね。
4Gamer:
まさに,おっしゃるとおりです。
梶並氏:
おそらく回答はすでに想定なさっているんでしょうけど,お答えします。そういう質問に対しては,「じゃあディズニーランドには誰もいなくていいの?」という話になりますよね。キャスト目当てにディズニーランドに行く人はいないでしょうが,それでもキャストはとても大事な要素です。
おっしゃるとおりオンラインゲームにおいては,GMのクオリティにこだわったからといって直接収益に結びつくわけではないですが,獲得コストを考えると,継続的にプレイしてもらうことが非常に大切です。最初に数十万人集めることだけが重要なわけではないのです。ユーザーさんが簡単にプレイをやめてしまうのを引き留められるのは,コンテンツの出来もさることながら,GMの大きな仕事だと思っています。
4Gamer:
期待どおりのお答えがいただけて嬉しいです(笑)。国内のオンラインゲーム業界は,いまちょっとそこを軽視しすぎだと思うんですよね。先ほど述べたような理由で,大きなコストをかけられないのも仕方ないところだとは理解できるのですが。
梶並氏:
まぁでも経営的に言うならば,「大成功するタイトル」がないと難しいことですよねぇ。
4Gamer:
でも「大成功」以外にも,作品の数が増えることによる効率化もありますよね。GAMESPACE24は今回の件で,今運営しているものだけでも6タイトルあるわけで,見えているものだけで9タイトル。それだけあれば,個々のコストは結構下がりますしね。
■過当競争状態にあるオンラインゲーム業界に本格参戦
■これから生き残っていくための「策」とは?
4Gamer:
ところで一般ユーザーさんから見た場合,ベクターというと「シェアレジ」(編注:シェアウェアを登録するための代行サービス。相当歴史は古く,対応しているソフトウェアの数もかなり多い)をやっているところというイメージが強いと思います。しかし,GAMESPACE24の件や,今回の件を含めて考えると,今後はオンラインゲーム事業に本格的に乗り込んでいくというのがほぼ確定した感じですね。
梶並氏:
そうです。いまベクターでは,企業としてのこれからの成長のため,大きな二つの柱を考えています。その一つが,オンラインゲームというわけです。
4Gamer:
新しい事業の柱として,本腰を入れていく,と。
ベクターといえば,先ほどおっしゃられたように本業はダウンロードという分野じゃないですか。それは今後も当面は変わりません。
ソフトウェアの分野では,SaaS(Software as a Service)というものがあります。これは,サービスとしてのソフトウェアを,BtoB(企業間取引)分野などでレンタルするようなビジネスですね。月額で顧客管理システムを貸します,というような。
4Gamer:
かつて話題になったASPサービスの変形ですよね。
梶並氏:
しかし,ベクターはBtoBはあまり関係がない。我々は,あくまでもどこまでいってもBtoC(企業と一般消費者の取引)の会社です。ではBtoCとしてのSaaSとは何だろう,と考えたときに思いついたものが二つあります。それが,ウイルス対策ソフトとオンラインゲームです。
4Gamer:
アンチウイルスソフトは年間更新料などを払うモデルで,オンラインゲームは月額課金やアイテム課金などサービスとしての課金がスタートしている。なるほど,広義の意味での「SaaS」ですね。
梶並氏:
ええ,勝手に非常に拡大解釈してるんですけどね。しかし実際にオンラインゲームは,BtoC分野でSaaSのようなビジネスモデルがうまくいっている。そう考えると,これって非常に確立されたネットワークにおけるサービスなのかなと。
4Gamer:
なるほど,確かに根っこは似たようなものなのかもしれません。ソフトウェアのサービス化,という意味ではまったく同じ概念に収まるといってもいい。
梶並氏:
自分達がやりたいのは,BtoC分野のSaaSとしてのオンラインゲームという事業で,ビジネスモデルの見えているところに進出していくのは,素直な出方だと思っています。そんな,一攫千金を狙って博打を打ってるわけじゃあないですよ(笑)。
4Gamer:
いやいや,その疑問は思っても口には出してませんから(笑)。
梶並氏:
ベクターはオンラインゲームを運営するにあたって,ある程度の中核を占める要素――24時間サーバーを運営するとか,クライアントをダウンロードさせるとか,またはペイメントシステム(課金決裁システム)であるとか――の運営経験は,普通のオンラインゲーム会社に比べて遙かに長いです。
4Gamer:
それはそのとおりですね。
梶並氏:
ただ,オンラインゲームを運営するチームだとか,オンラインゲームのタイトルを見る「目利き」などは,まだ全然ノウハウがありません。そういうわけで,過去にはちょっと痛い目にも遭ってみたりとか。
しかし運営全般という側面を見ると,大きなクライアントがダウンロードできなくなったり,サーバーが長期間落ちたりして,大きな騒ぎになったことはありません。課金でおかしなことになったこともありませんし,個人情報を流出させたこともありません。その大半の要素は,まったく問題なく動いているのです。オンラインゲーム業界に参入した当初も,自分達の自信のある分野については,思っていたようにうまく動いたといってもよいでしょう。
4Gamer:
とはいえこの戦国時代に,パブリッシャとして考えたらそれだけでは生き残っていけませんよね。
梶並氏:
私が今この業界をどう見ているのかというと,昔のオートバイ産業と同じだと思うんです。ってこんな古い話はじいさんにしか分からないのかもしれないけど(笑)。
4Gamer:
……オートバイ産業?
梶並氏:
ええ。いまオートバイメーカーを挙げるといくつあるんだろう? カワサキ,ホンダ,スズキ,ヤマハ,くらいでしょうか。でも過去にオートバイ産業は,軽く100社を超えるメーカーがあったんですよ。陸王とか知りません? 知らないか(笑)。
4Gamer:
ざ,残念ながら……。
梶並氏:
それらのメーカーも時代と共にどんどん淘汰されてしまって,現在のみんながよく知ってるメーカーだけに集約されたんです。今のオンラインゲームのパブリッシャも,たぶんそういう感じじゃないですかね。いま現在もなおその数は増え続けていますが,いずれ間違いなく,減少していくでしょう。
4Gamer:
たいがいの産業はそのように推移しますし,オンラインゲームだけ特殊というのも考えづらいですね。
梶並氏:
そこでベクターのゲーム事業だけを考えると,今のままだと間違いなく消えていく側に入ってしまうと思います。そんな再編が始まる中で,生き残れるパブリッシャには,ある程度の規模やお金だけでなく,いろいろなものが必要になってくる。
そういったことを考える中で,サクセスさんからGAMESPACE24を取得し,そして今回のELEVEN-UPとの話で,今後の淘汰に生き残るための第一歩として動き始めているわけです。
4Gamer:
今でこそだいぶその趣は変わりましたが,ちょっと前までのオンラインゲームメーカーは「専業」であることが多かったですよね。でも御社は違います。確固たる本業がありますし,その本業で培ったノウハウは,確実にオンラインゲーム事業にフィードバックできますよね。そこは一見目立たないけど大きなメリットとなりうるのではないかと思っています。
梶並氏:
ベクターも当然,無料でのダウンロードサービスを長くやっていることもあり,インフラコストを抑えるのは得意な会社です。無料ダウンロードって1円も儲からないのにね!(笑) しかし,インフラコストで抑えられる全体コストは,当たり前ですがある程度限界があります。
4Gamer:
ほかに何かまだお考えなんですね?
梶並氏:
オンラインゲームには,三つの大きな要素として,タイトル/運営/プロモーションがあると考えています。
4Gamer:
その場合の運営というのは,どこまでを含めてですか?
梶並氏:
GM,CS,インフラなどまで含めた全体的なものです。当たり前のことなのかもしれませんが,やっぱりこの三本柱は外せないのではないでしょうか。
まずタイトルから述べるなら,ベクターでは韓国のタイトルを扱っています。GAMESPACE24では,韓国のほかに童話王国のような台湾のタイトルも行っています。さらにELEVEN-UPから,国産のタイトルが入ってきます。
まだ欧米産のいわゆる「洋ゲー」はありませんが,タイトルは比較的ワールドワイドなレベルで集まっています。
4Gamer:
そのまま欧米産もやってくださいよ。世界制覇(?)に向けて。
梶並氏:
欧米産は難度高いですからねえ(笑)。しかし国産を持っているだけで,相当他者とは違うものが見せられると思っています。
そういった形でタイトルをいろいろな国から調達できているのが,一種の強みだと思っています。今のところは“超”ビッグタイトルはないんですけどね!
4Gamer:
でもビッグタイトルは,名前に比例してリスクがハネ上がっていきますよ。
梶並氏:
その価値があるのかどうかというところですよね。運営に関しては先ほどたくさん述べたのでよいとして,次はプロモーションです。
プロモーションについては,ベクターというインフラを持っていますが,まだまだ足りません。もっと強化しないと生き残れないと思っています。結局生き残っていくのは,販売網を持っていたり,そういうのを整備できたところでしょう。飛びぬけたプロモーション能力を持っているところも少ないですし。
ブランドイメージを持っているところは沢山ありますが,まぁブランドイメージで100%成功するかというと……。それで成功するならみんなしてますよね。
4Gamer:
おっしゃるとおりです。
梶並氏:
ブランドイメージだけではなく,ちゃんとしたプロモーション能力を持てるようにならなくてはならないと思っています。
■オリジナルコンテンツがあることは重要
■単なるパブリッシャーの枠には収まらないその動き
4Gamer:
ところで,無双BBについて聞いてもよいですか。
梶並氏:
無双BBについて,いま言えるのは今回の事業譲渡の対象に入っていないということです。これは明言できます。
4Gamer:
将来的な話はどうでしょう?
梶並氏:
我々がコメントできる立場ではありませんので……。あくまでもベルアイルと,いま開発している2タイトルを合わせたこの計3タイトルが,今回の事業取得の枠組みの中でマッチしてELEVEN-UPと合意できたコンテンツだったということです。
4Gamer:
なるほど。
ちょっと補足させてください。ベルアイルについては,コピーライトに完全にELEVEN-UPの名前がついているような,要はオリジナルコンテンツであるということ,日本のゲームであるということが強く対象となった理由です。もう一つ,開発中のゲームについては時期を見て発表しますが,国産でかつワールドワイドに展開できるブランドになるだろうと思っています。
4Gamer:
お,ワールドワイド展開ですか。それなりに強いIPっぽいですね。
梶並氏:
ノーコメントで(笑)。そういった意味でも,国内だけではなくて世界で展開していけるということがマッチして,開発中2タイトルとベルアイルが譲渡された理由です。
4Gamer:
ワールドワイド展開ということは,海外への販売権ごと持ったわけですね。
梶並氏:
そうです,海外に売ることもできます。発信元になれるんです。単なるパブリッシャではない方向もちゃんと考えています。
4Gamer:
いつもいつも輸入する一方ですからね,日本のオンラインゲームは。それは期待の持てる話ですね。
市崎氏:
ええ。サクセス時代にもオンラインゲームを開発していますので,GAMESPACE24で完全なオリジナルゲームを作ることも可能です。当然海外のライセンスも含めてあるわけですから。
4Gamer:
一方通行じゃない会社は良いですねぇ。ところでELEVEN-UPから移管される開発中の2タイトルは国産ですか?
市崎氏:
はい。
4Gamer:
ジャンル的には?
市崎氏:
それは,秋口に正式に発表ということにさせてください。あと,夏には新しいMMOタイトルの発表も予定しています。先の二つはELEVEN-UPから譲渡されて,この一つは,もともとGAMESPACE24で開発していたものです。
4Gamer:
いまサラリとMMOとおっしゃってましたね。
市崎氏:
はい,MMOです。今までにないようなMMOだと思いますよ。
4Gamer:
今までにない? どのようなものでしょう,なにかヒントをくれませんか?
市崎氏:
いやー,それはまた後日,違う席で。もっとプロモーションの手法が固まってからにさせてください。
というかそもそも,ファンタジーで剣や魔法などで切ってナンボというMMOはもうちょっと多すぎるかな,と。そういうものではないので,出し方をキチンと考えたいと思っています。中身を知ったときには,そんなのあり? という反応は得られるはずです。
って,あまり話すと,海外でサービスしているゲームなのでばれちゃいますのでこのへんで(笑)。
4Gamer:
海外ですか。なるほど。
市崎氏:
海外でサービスしているものではありますが,1年かけてローカライズしているので,かなり日本人向けに仕上がっていますよ。
4Gamer:
1年間のローカライズではどの程度まで手を入れてるんですか?
市崎氏:
当然ですが言葉だけでなく,キャラクターを含めて,システムもオリジナルのシステムにしています。
4Gamer:
日本語化,ではなくて「カルチャライズ」ですね。そこまで海外の開発側が手を入れてくれるのも珍しいですね。
市崎氏:
そうじゃないとやらないよ,という条件なので。うちは,“やりたいことをやりたいから作った”会社なんです。
■GAMESPACE24の持つポリシーとは?
■一発逆転の過度な期待は禁物
ついでといってはなんですが,GAMESPACE24のポリシーも説明させてください。
まず最初に来るのは「フェイバリット」です。自分達がやりたいことをやる。うちのスタッフは家庭用ゲームを作っていましたから,それがやりたくて仕方ないんです。
なので開発元がどこであれ,やりたいように作って出さないと納得できないというポリシーがあります。それが「フェイバリット」ですね。
次が「チャレンジ」です。
4Gamer:
それは,何に対するチャレンジですか?
市崎氏:
ユーザーに対するチャレンジでもありますし,業界に対するチャレンジでもあります。今まで幾多ものオンラインゲームが登場してきましたが,カジュアルゲームは日本では難しい,MMOはユーザーが限られている,MOは限られたメーカー以外成功していない……といった「業界の常識」を壊していきたいですよね。なので,先ほど話に上がった洋ゲーも我々のチャレンジの一つになるかもしれません。
4Gamer:
では,三つめは?
市崎氏:
三つ目は,色々なジャンルのゲームに挑戦していこうというものです。ポートフォリオ(分散投資)ですね。
梶並氏:
それなりのサイズで,それなりの成功をあらかじめ想定していれば,ちゃんとできるんじゃないかと考えています。あまり過渡な期待をしちゃうと失敗しますよね。それなりのモノを,それなりの規模でやれば,回せるんじゃないかと思っています。1本すごいのとってきて超大ヒットして莫大な利益をあげて……なんてそうそうあるわけないじゃないですか。みなさん過度な期待を持ちすぎなんですよ。
そんな考えの中で,条件にあった良いタイトルがあればやればいいし,なければやらなければいい。作ってまでやりたいものは作ればいいし。
4Gamer:
斬新かつ極めて真っ当な意見ですね。いつも思うんですが,例えば月額の有料課金2000人でも成立する手法はあるんじゃないかと。なんでいつもみんな数万人いないと成り立たないビジネスモデルになってしまうのか。
市崎氏:
そうですよね。家庭用ゲームでも1500円のもの,2000円のものを出して,それなりに収益を出すこともできるわけです。オンラインゲームだけが一人単価5000円ないとやっていけないとか,そういう世界に陥っています。でもこれはそう思い込んでいる人が多いんだと思うんですよ。
もっと軽くできるもの……それがカジュアルゲームと呼ばれるものなのかどうかは別として,そういうゲームをオンラインでやるべきだし,採算が採れれば企業としてやるべきでしょうね。それがポートフォリオの中に含まれてくるようにがんばります。
4Gamer:
それは心強いお言葉です。しかしすでに9タイトルが見えているこの新会社において,そういう方針で作品を増やしていくとなると,当然次にみなが考えるのは「ポータルは?」という部分でしょうか。
市崎氏:
結局ゲームポータルのポータルって何? っていうことですよね。本当に玄関であれば何をやっても良いわけですから。カジュアルゲーム集めて並べればポータルかっていうと,そんなことはないわけで。
単純にゲームをやりたい人が集まってくる玄関,それがポータルです。ポータルだから何をやらなきゃいけないというのはないですよね。そこで共通で使える「何か」があれば,それはすなわちポータルでしょう。
4Gamer:
ポータルで,何がしかの利益を生み出す策とか。
市崎氏:
そうですね。もちろん,それができるならやったほうがいいに決まっていますが,今のところ,いわゆるみなさんが想像する「ポータル」に手をつけることは考えていません。
4Gamer:
謎な一攫千金狙いが見えなくてホッとしました(笑)。
市崎氏:
一攫千金があれば拾いたいですがねえ(笑)。
4Gamer:
それを目的にしてしまうと,どうしてもそれなりの大作を持ってこないと駄目ですし,大作は莫大なロイヤリティと高レートの収益分配などで,結局はうまくいかなくなりがちです。
ですが,今日の話を聞いているとそんなことはなさそうで,変な言い方になってしまいますが,ちょっと安心しています。
梶並氏:
結果的に一発当たるというのはあるかもしれないですが,それはよっぽどのことですよね。
プロモーションというか,ユーザーを維持できるチャンネルをどうやって作っていくかですよね,今後重要となっていくのは。これまでのような特徴のないプロモーションだけでは,どうしようもないですよね。そこを必死に考えているところです。そこがないと,たぶん生き残れない。
■日本のオンラインユーザー数はまだ伸びる?
■三つの事業体が一つになったそのとき
4Gamer:
オンラインゲームが盛り上がって,去年,今年ぐらいがもしかして限界では? と業界内では囁かれていましたが,ハンゲームさんのスペシャルフォースなどを筆頭に,まだまだ掘り起こす余地があることを感じさせてくれました。
いま我々の新会社ぐらいオンラインに力を入れている,そんな大手の会社は恐らくあんまりないですよ。コンシューマ系の大手のゲーム会社は,みんな大きな痛手を経験していますしね。
4Gamer:
せっかく良いIPがあっても,どうしても片手間になってしまうのかノウハウがまだまだ溜まっていないのか,それが失敗を生んでしまって次につながらない,という負のスパイラルですよね。
梶並氏:
GAMESPACE24はご存じのように,非常に早い段階――2001年くらいかな?――からオンラインゲーム事業に参入しています。また,ELEVEN-UPでは,パブリッシャとしてライセンスインしてやるっていうのではなくて,みんなで一緒に作るという,他のオンラインゲーム会社ではあまり例を見ないことをしてますよね。ベルアイル然り,開発中のものも然りですが,そういう意味ではノウハウはあります。
まだ会社は三つに分かれた状態で,なかなかカッチリした連携が取れていませんが,そのあたりをいま順次調整中です。一緒になったあとの,本気で動き出した我々を,どうか期待していてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
オンラインゲーム事業を行う会社として,アンオフィシャルな場では色んな人が口にはするが,公の場ではほとんど耳にしたことのない方針を打ち出したベクターグループ。堅実に成長してきた上場企業ベクターだからこそ,そしてかつ「ゲームが本業」の会社ではないからこそ,考えて実践できるのかもしれない。
一見すると「ソフトバンクグループによるリソース集中化の一環」と見えてしまうかもしれないが,事態はそんなにシンプルではない。そもそもソフトバンクグループにはオンラインゲームを扱う会社(=パブリッシャ)が数社あるわけで,短絡的にどこかに統一してお終い,という話ではないだろう。グループ内企業ではないサクセスが絡むあたりから考えても,ベクターが独自に動く「新たなる挑戦」なのだ。
ダウンロードサービスを長年やってきたサーバー運営のノウハウ。そして,早くからオンラインゲームに関わり,これまでも低価格のタイトルを開発/販売してきたGAMESPACE24の開発/運営力。そしてELEVEN-UPの国産タイトルと優秀な運営チーム。これらの歯車がかみ合ったとき,この新しいオンラインゲーム事業体は,どのような活躍を見せてくれるのだろうか。作品の充実も今から見えており,今後が非常に楽しみだ。(Interview by Kazuhisa,Text by Nobu, Photo by kiki)
−−2007年6月7日収録
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