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来るべきIntelとの勝負に向け,製造キャパシティを強化するAMD
AMDは昨年の10月,ドイツのドレスデンに新しい工場「Fab36」を完成させるなど,製造キャパシティの強化を図っているとのこと。今回は,ゲーマーにとっても決して無関係ではないAMDの戦略,そしてそれを下支えするAMDの製造部門の現状などに関してレポートしていきたい。
6月のCOMPUTEXでSocket AM2と
AMD Live!の立ち上げを発表するAMD
さて,2006年におけるAMDのハイライトがいつかと問われれば,筆者は「6月6日から台湾で開催される予定のITトレードショー『COMPUTEX TAIPEI 2006』だ」と答えることになる。
それは――AMDのOEM先となるPCメーカー筋の情報によると――AMDはCOMPUTEX TAIPEI 2006で,同社が「Socket AM2」(AMDのM2ソケットの意)と呼ぶ,新しいCPUソケットに対応したAthlon 64 FXとAthlon 64 X2を発表する予定になっているからだ。
Rev.Fはプロセスルールこそ90nmで,Socket939版Athlon 64シリーズと変わらないが,新たに開発コードネーム「Pacifica」(パシフィカ)という仮想化技術に対応。「VMWare」などのソフトウェアと組み合わせて利用すると,より安定した仮想化環境を利用できるようになる。Pacificaは,ゲーマーに直接的なメリットをもたらすものではないが,Windows XPでは動作しないような昔のゲームタイトルを,仮想化した(バーチャルな)PCにインストールした過去のOS上で,より安定して動作させられるようになる,という利点はある。
また,AMDは同時に,2006年1月に開催された2006 International CESというイベントで発表された「AMD Live!」というブランドについても,“お披露目”を含めた詳細を発表する予定になっている。
AMD Live!は,IntelのViivテクノロジ対抗であること以外,明らかになっていないが,Viivがゲームメーカーを巻き込んで展開している以上,AMD Live!の存在を無視するわけにはいかないだろう。
■2008年では年間で1億個のCPUを製造可能に
AMDは世界中にいくつかの工場を持っているが,AMDの本業であるCPUダイの製造を担当しているのは,先述したFab36と,Fab36に隣接するFab30の二つだ。
Fab30は,AMD設立30年めとなる1999年に完成したことから名付けられた,200mmウェハ(ウェハとは,CPUダイを切り離す前の板のこと。詳細については本誌連載「ソフトにハードの物語」第2回を参照してほしい)の製造を担当する工場だ。現在市場に出回っている,Athlon 64やSempron,OpteronといったAMD製CPUは,ほぼすべてがこのFab30で製造されたウェハから採れたCPUダイを利用している。
2006年4月現在,Fab30では90nmプロセスを利用しているが,Ostrander氏によれば,現時点でウェハは月産3万枚が可能で,半導体工場の性能指標となる,歩留まりとサイクルタイムのどちらも,他社の半導体工場と比べて優れた結果を出し続けているという。
そして,AMD設立36年めとなる2005年10月に完成したFab36(36個めの工場という意味ではないので注意)は,より直径の大きい,300mmウェハを製造できるのが特徴だ。300mmウェハは直径が200mmウェハの1.5倍あるので,1枚のウェハから取れるダイの数を飛躍的に増やせる。ちなみにOstrander氏は「AMDはすでに2006年第1四半期からFab36において90nmでCPUの製造を開発しており,第4四半期には,65nmプロセスルールへの移行を開始する」という。
IBMのプロセスルールは,プレイステーション3などで採用されるCPU「Cell」でも明らかになっているように,低消費電力技術で定評がある。この点は今後,AMDの強力な武器となる可能性がありそうだ。
さらにAMDは,IBMの子会社であるChartered Semiconductor Manufacturing(以下Chartered)のシンガポール工場で,AMDのCPUを委託生産する契約をすでに締結済み。Ostrander氏は「2008年には,Charteredで製造される分も入れて,2005年の製造量の倍,年間1億個のCPUを製造可能になる」と述べ,今後,Intelとの競争の中で,AMDの市場シェアが増大していっても,それを賄えるだけの製造能力的裏付けがあると強調した。
■日本市場では低消費電力版のAthlon 64 X2にも期待
AMDに関しては,とくに日本市場向けに注目すべき動向がある。それは,低消費電力版Athlon 64 X2だ。
AMDの低消費電力CPUといえば,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が低いこともあって,日本では自作派を中心に注目を集めている,Turion 64 Mobile Technology(以下Turion 64)がある。AMDはTurion 64のデュアルコア版となるTurion 64 X2を2006年後半にリリースする予定なのだが,さらに“Turion 64 X2のデスクトップ版”,つまり,TDP 35W,あるいは65Wといった,低消費電力版のAthlon 64 X2をリリースする計画があるようなのだ。
もちろんその場合には,通常版のAthlon 64 X2に比べて低いクロックや電圧で駆動されることになるので,性能面ではAthlon 64 X2に比べて低くなる可能性が高い。3Dゲームをバリバリプレイするタイプのゲーマーには向かないだろう。ただ,そこまでのパフォーマンスを必要としないゲームのプレイヤーにとって,小型の省電力PCを実現できるCPUは魅力的なはずである。
その意味で,ゲーマーとしても,AMDの低消費電力路線の動向には注意を払っておきたい。(笠原一輝)
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Athlon 64
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