レビュー
Microsoftの新型光学式マウスは「IE3.0」「WMO」に代わる新定番たり得るのか
Microsoft
Comfort Mouse 6000
Comfort Mouse 3000
なぜそんな,ゲーマー向けでもない製品を4Gamerで取り上げるのか。それは,その形状が「IntelliMouse Explorer 3.0」(以下IE3.0)や「WheelMouse Optical」(以下,WMO)を踏襲した印象で,IE3.0やWMOをBlueTrackベースへ進化させた製品のように見えるからである。
IE3.0といえば,発売開始から現在にいたるまで,一般ユーザーだけでなくプロゲーマーからの人気も得ている,定番の5ボタンマウス。一時は製造中止となっていたものの,その人気の高さから復刻された歴史を持っている。一方でWMOは,小さめのサイズと軽さによって,これまたゲーマーに人気の定番マウスだ。
問題は,そんなIE3.0やWMOが,流通在庫のみで販売終了になるという情報が入ってきたこと。4Gamerでは,ショップや,日本マイクロソフトに近い流通筋に確認している。このタイミングでCM6000とCM3000が出てきたということは,おそらくMicrosoft(および日本マイクロソフト)は,これらをIE3.0とWMOの実質的な後継製品と位置づけているのではないだろうか。
2002年に登場した初代IE3.0は,「IntelliMouse Explorer 4.0」(以下,IE4.0)の登場とともに姿を消したが,このIE4.0は,ゲーム用途で高い評価は得られなかった。その歴史を踏まえて登場した(はずの)CM6000とCM3000は,果たして,IE3.0とWMOに代わる,Microsoft製マウスの新定番となり得るのか。今回は,その点をチェックしてみたい。
IE3.0と形は微妙に異なるが持ちやすいCM6000
WMOとまったく別物なCM3000
本体サイズはCM6000が実測128(D)×68(W)×40(H)mm,IE3.0が同131(D)×70(W)×41(H)mmなので,CM6000はほんの少し小型になったといえよう。
ただし,実測値では少しの差に見えても,実際に両者を並べて触り比べてみると,CM6000はややフィット感が弱く感じられる。というのも,細かく見比べてみると,「かぶせ持ち」時にマウス本体と人差し指の第二関節が触れる部分の背が低くなっていて,これにより若干フィットしにくくなっているようなのだ。
左右サイドの指が触れる部分にラバーコートが施されているのは,IE3.0と同様の仕様。しかし,コーティングの仕方が異なるのか,IE3.0のそれがさらさらした手触りだとすれば,CM6000のコーティングはどこかべっとりした感じになっている。しかも,力を込めて持つと指がずるずると滑ってしまい,滑り止め効果はあまりない。握りやすさはIE3.0のほうが上だ。
また,右サイドの薬指や小指が当たるあたりの形状は,IE3.0だと本体を真正面から見たときに中央付近が若干膨らんでおり,持ち上げるときに指を引っ掛かけやすかったのだが,CM6000の右サイドは底面に近いほど膨らんでいるので,指を引っ掛けられなかったりする。
ほかにも,CM6000は左サイドにあるくぼみのカーブが緩くなっていて,親指のフィット感や操作時の力の込め方に違いが出ている。全体的に,指先への力の込めやすさが低下しているという印象だ。指先を立ててマウス本体を手前に引き寄せるように握る,いわゆる「つかみ持ち」をしようとすると,IE3.0よりだいぶやりづらく感じる。
もっとも,「だからIE3.0ほうが優れている」というわけでは必ずしもなく,むしろ,かぶせ持ちに限定すると,CM6000のほうが多少持ちやすい印象も受ける。IE3.0でかぶせ持ちを行うと,左側面にある外側への膨らみが親指の付け根を圧迫してしまい,多少の違和感があるのだが,CM6000だとこの膨らみが小さくなっており,圧迫感が軽減され,操作しやすく感じられるのだ。
ちなみに,重量はCM6000がケーブル込みの実測値で約116g,ケーブルを重量計からどかした参考値で85.5〜89g。一方のIE3.0は順に約143g,95.5〜101.5gなので,より軽くなっているという点も評価したい。
まず,CM3000のサイズは実測114(D)×67(W)×40(H)mm。一方でWMOのサイズは123(D)×68(W)×41(H)mm。比較写真も示してあるが,CM3000のほうが明らかに縦は短い。
また,真上から見たときの形状も,あえていえば台形的で,両サイドがくぼんだデザインになっていたWMOから,CM3000では卵型の丸いシルエットに変わっている。握り比べてみると,左右の側面が横方向に膨らんでいることもあって,外観以上にCM3000は「丸い」印象だ。
また,側面は本体中央部から奥側(=メインボタン側)に向かって滑り止めのエンボス加工がかかっており,指で触れるとざらざらした感覚なのも,CM3000の特徴だ。滑り止め効果はIE3.0と同程度はあり,少なくともCM6000よりは強い。
「似ているのは位置づけと,左右対称で左右メイン+センタークリック機能付きスクロールホイールによる3ボタン仕様ということくらい」と言ってもいいほど,CM3000とWMOの形状は異なるのである。
なお,実測重量はCM3000がケーブル込みで92.5g,ケーブルを重量計からどかした参考値で56〜61.5g。CM3000は順に同121.5g,74〜80.5gなので,小型化しているだけあって,CM3000のほうが軽い。
ちなみに,筆者は普段大きめのマウスをかぶせ持ちで使っており,手のひら全体をマウス本体にぴったり付け,手首はパッドにくっつけず少しだけ浮かす……という持ち方をしている。この持ち方をCM3000で試したところ,どうも操作しづらかったのだが,本体にくっつけるのは手のひらの中心より先までにし,それより手前ははっきりと浮かせ,肘より先を真っ直ぐにするようなスタイルで操作してみたところ,悪くない操作感を得られた。
大きめのマウスとは持ち方を変える必要があるが,そこさえ心がければかぶせ持ちでも悪くはなさそうだ。本体全体が手のひらにすっぽりと収まるので,かぶせ持ち派だけど大きいマウスは手に合わなくて……という人にはいいかもしれない。
難点としては,硬質系のマウスパッド上で,本体を押し付けながら左右に動かそうとしたときに,底面の接地が安定せず,左右どちらかが浮いてしまうことが挙げられる。ソールを自分で工夫すれば改善されるとは思うので,気になる人は試してみるのもいいだろう。
全体的にチープさが漂うボタン類
ホイールクリック時の遅延には要注意
結論から先に述べてしまうと,CM6000とCM3000が持つボタン類の品質は,いずれも価格相応のものだ。全体的に「よい」とは決していえず,少なくとも平均的なゲーマー向けマウスのそれと比べるとかなり落ちる。
とくに気になったのがメインボタンの感触で,ゲーマー向けマウスによくあるカチカチとしたものではなく,ポチポチとしたものが,CM6000とCM3000では共通して採用されている。おそらく,(ゲーマー向けマウスにおける定番スイッチである)マイクロスイッチではなくタクトスイッチを採用してコストを抑えたのだと思われるが,押下して指を離したあとの「ボタンの戻り」が弱く,チープな印象を受けてしまう。
さらに,ホイールクリックは,「押下してから入力が反映されるまでにワンテンポの遅れが存在する」といった具合で,ゲームで使うのはまず無理。正直に言ってしまうと,ゲーム以外でも若干ストレスを感じるほどで,ホイールの作りはイマイチだ。
以上,2製品に共通する部分をまとめてみたが,個別に見ていくと,まず5ボタンマウスであるCM6000のサイドボタンは,IE3.0の大きな特徴でもある「へにゃっとして,ストロークが深い」ものとは異なり,固めでカチカチした一般的なものに変更されている。やや押下圧が強いものの,押したときの感覚は他社製ゲーマー向けマウスのサイドボタンに近い。
ただ,「なので押しやすくなった」とは言えないのが難しいところだ。サイドボタンの位置がIE3.0より高い場所へ移されているため,親指の定位置から距離があり,瞬時に押すのが難しくなっているのである。かといって親指をボタンに載せたままAIMしようとすると,今度は指の収まりが悪くなってしまう。
IE3.0の奥側サイドボタンにあった出っ張りがなくなり,平坦になっているのも,奥側のサイドボタンの押下や,2ボタンの押し分けのしにくさに拍車をかけてしまっている印象だ。
そのため,左右どちらかのボタンを押すとき反対の指に力が入っていると,両方をクリックしてしまい,押す気のないボタンが暴発してしまう。しかもこの暴発は,ゲームプレイ時に激しくマウスを操作しているときだけでなく,ゆったりした持ち方でWebブラウジングなどをしているときにすら発生するほど。正直,左右メインボタンの間に切れ込みを入れるなど,何かしら改造を施さない限り,ゲームで安心して使えるようなレベルにはない。
なお,CM6000とCM3000は,Microsoft製マウスのご多分に漏れず,設定ユーティリティに「IntelliPoint」を使用する。設定可能な内容は,従来のIntelliPointと同じなので,本稿で詳しく解説はしないが,キーボードの特定キーや複数のキーの組み合わせが割り当て可能だ。
センサーの追従性は必要十分
125Hz固定仕様をどう受け止めるか
CM6000/3000では,センサーに青色LEDを使用した光学センサーを搭載している。そのスペックはトラッキング解像度1000DPI,フレームレート8000fpsと,ゲーマー向けマウスの水準からすると見劣りするが,実際にゲームで使っていけるのかは気になるところだ。今回は,表1のテスト環境で,各種マウスパッドと組み合わせて動作させたときの特性を確認してみることにした。
テスト条件およびテスト方法は下記のとおりである。
●CM6000,CM3000の設定
- 設定ユーティリティのバージョン:IntelliPoint 8.01
- トラッキング解像度:1000DPI
- ポーリングレート:125Hz(デフォルト)
- Windows側設定「マウスのプロパティ」内「速度」スライダー:中央
- Windows側設定:「ポインタの精度を高める」:オフ
●テスト方法
- ゲームを起動し,アイテムや壁の端など,目印となる点に照準を合わせる
- マウスパッドの左端にマウスを置く
- 右方向へ30cmほど,思いっきり腕を振って動かす「高速操作」,軽く一振りする感じである程度速く動かす「中速操作」,2秒程度かけてゆっくり動かす「低速操作」の3パターンでマウスを振る
- 振り切ったら,なるべくゆっくり,2.の位置に戻るようマウスを動かす
- 照準が1.の位置に戻れば正常と判断可能。一方,左にズレたらネガティブアクセル,右にズレたら加速が発生すると判定できる
テストに用いたゲームタイトルは「Warsow 0.6」。本テストにおいて,ゲーム内の「Sensitivity」設定は,「180度ターンするのに,マウスを約30cm移動させる必要がある」という,マウスに厳しい条件になる0.8に設定し,読み取り異常の発生を分かりやすくさせている。
以上の条件で,マウスパッドとの相性を確認した結果が表2,3だ。
CM6000,CM3000ともに,いずれのマウスパッド上においても,高速で動かした場合にネガティブアクセラレーションが確認され,画面内での移動量が低速操作時と比べて明らかに少なくなっているのを確認できた。
なかでもとくにネガティブアクセラレーションが発生しやすかったのは,「Control」と「Speed」の両面で試した「Razer Vespula」だが,それでも中速操作以下なら問題ないので,よほどのローセンシプレイヤー以外に影響はないだろう。基本的に,現実的なゲームプレイの範疇で動かす限りでは問題が出ないレベルと言ってよさそうだ。
少なくとも同じ環境でIE3.0を動かしたときに比べると,遥かに高い読み取り性能を発揮していたので,IE3.0でネガティブアクセラレーションが気にならないのであれば,使っていける性能である。
唯一,低速操作でも×となった「Razer Megasoma」だが,これは表面にロゴがなく,蛍光塗料も含まれてない真っ白な部分で動かしたときに異常が発生し,ポインタにカクカクした動きが見られた。このあたりはBlueTrackによるものである可能性が高く,ほかのサーフェスでも,真っ白なものだと,同じような異常が起こるかもしれない。
筆者は普段から高めのセンシティビティを好むため,1000DPIというトラッキング解像度の低さに不安はあったが,ゲーム内のSensitivity設定で補えば気にはならなかった。ゲーム側での感度設定を高くしてのハイセンシだと,多少なりともピクセルスキップが発生することになるが,高DPIのマウスに比べてはっきりと分かるほど狙いづらくなるということもない。
昨今のゲーマー向けマウスは,数1000DPIもの高トラッキング解像度に対応している製品が少なくないが,ことFPSをプレイする限りにおいては,1000DPIもあれば十分という気がしないでもない。
ちなみにIE3.0では,OSのUSB関係のドライバを改造することで,ポーリングレートをデフォルトの125Hzから500Hzにオーバークロックし,センサーの読み取り性能を高めることができた(※本稿はIE3.0のレビュー記事ではないため,詳細は割愛する)が,CM6000とCM3000では同じ方法を使っても500Hz化はできなかった。
表1に示したテスト環境のほかにWindows XPをインストールしたサブマシンでも試してみたが,IE3.0が500Hz動作する一方で,CM6000とCM3000は125Hzのまま。最大1000Hzまでポーリングレートを上げられる今どきのゲーマー向けマウスに慣れきっていると,500Hzにすらできないというのはちょっとつらいところだ。
全体的に「価格相応」の作り
従来製品からの移行にはそれなりの覚悟が必要
また,今後製造中止となるIE3.0やWMOからの乗り換え先候補として考えると,さらに悩ましいところ。IE3.0やWMOと形状が異なるマウスに乗り換えるのなら,CM6000やCM3000でなくても,Razer USAの「Razer DeathAdder 3500」や「Razer Abyssus」,あるいはZOWIE GEARの「EC1」といった,似た形で高性能な製品が選択肢に挙がってくる。そこからあえてCM6000やCM3000を選ぶ理由は,価格の安さぐらいしか思い当たらない。
あえて言うなら,「IE3.0やそれに近い形状のゲーマー向けマウスを使ったことがなく,かつ,ゲームにもそこそこ使えて,量販店の店頭で購入できるマウスを探している」という場合なら,CM6000は選択肢として一考に値する。ただ,CM3000は,左右メインボタンの誤動作が怖いため,WMOからの乗り換えでなくても,できることなら避けたほうが無難である。
いずれにせよ,両製品とも手放しにオススメできるわけではない。気になった場合は,一度店頭などで触ってから判断するほうがいいだろう。
「Comfort Mouse 6000」製品情報ページ
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