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「口先だけか,そうじゃないかが他社との決定的な違い」。RazerのCEO,Min-Liang Tan氏インタビュー
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印刷2016/07/06 10:00

インタビュー

「口先だけか,そうじゃないかが他社との決定的な違い」。RazerのCEO,Min-Liang Tan氏インタビュー

Min-Liang Tan氏(CEO, Razer)
画像集 No.002のサムネイル画像 / 「口先だけか,そうじゃないかが他社との決定的な違い」。RazerのCEO,Min-Liang Tan氏インタビュー
 ゲーマー向け周辺機器のトップブランドとして知られるRazerだが,最近は日本でも,ゲーマー向けノートPC市場での動きを再び活発化させつつある。直近では2016年6月の「Razer Blade 2016」(以下,Blade)国内発売,そしてその前には,Thunderbolt 3接続の外付けグラフィックスボックス「Razer Core」(以下,Core)と組み合わせることでゲーマー向けPCとしても利用できるUltrabook「Razer Blade Stealth」(以下,Blade Stealth)が国内市場に登場して話題を集めている。
 実際,これら新モデルを注文済みという人もいることだろう。

 サポート体制も一新して,日本におけるノートPCビジネスに本腰を入れつつあるように見えるRazerだが,いま同社は何を考えて活動しているのだろうか。Razerの総帥であるMin-Liang Tan(ミン-リャン・タン)氏が来日したタイミングで,短い時間ながら話を聞くことができたので,その内容をお伝えしたい。


Ultrabook+外付けグラフィックスボックスというペアでの訴求となる,Blade StealthとCore
画像集 No.003のサムネイル画像 / 「口先だけか,そうじゃないかが他社との決定的な違い」。RazerのCEO,Min-Liang Tan氏インタビュー
4Gamer:
 本日はお時間をいただき,ありがとうございます。
 5月に国内発表となったBlade Stealthですが,「ゲーマー向け製品ブランドであるRazerのノートPCが,単体ではGPUを載せていない」というのは,開発時に相当な議論があったと思うのですが,どういう判断で「Ultrabook+外付けグラフィックスボックス」という仕様を採用したのでしょうか。

Min-Liang Tan氏:
 「スペック」を設計して,それからデザインしているわけではなく,私達が製品開発を行うとき,ユーザーがいつも中心にあります。
 ですので――ご指摘のように。設計している段階でいろいろと議論はありますが――最終的には,「それで,ユーザーは一番何を求めているのか」というところに軸足を置くことになるんですね。

4Gamer:
 その結果として,Ultrabookと外付けグラフィックスボックスという選択肢に辿り着いたということですか。

Min-Liang Tan氏:
 その点は「Bladeシリーズは基本的に,3種類のユーザーを念頭に置いて開発している」ことで,説明できると思います。

 1つは,クリエイターや開発者,デベロッパです。これまでのデスクトップに代わるような,そういったものが必要な人達ですね。そういう人達には,Blade Proをご提供します。
 もう1つはOn-the-goで(≒持ち歩いて)ゲームを楽しみたいというゲーマーの方。そういったユーザーはパワーと,携帯性の両方が必要になりますから,私達はここに(無印の)Bladeを提供しているわけです。

画像集 No.004のサムネイル画像 / 「口先だけか,そうじゃないかが他社との決定的な違い」。RazerのCEO,Min-Liang Tan氏インタビュー
 そして新製品となるBlade Stealthですが,Blade Stealthは,残るユーザー層がターゲットとなります。具体的には,「実際問題として携帯性は必要だけれども,ゲーム性能は必要としない人達」と,「外に出ているときはゲームをしないけれどもPCの携帯性は必要で,自宅に戻ったらゲームを楽しむ人達」です。

4Gamer:
 ターゲットとなるユーザー層がまずあって,そこに向けて開発しているということですね。

Min-Liang Tan氏:
 そうです。ここが他の会社と決定的に違うところでして,「スペックやテクノロジーありき」で,それを基に設計しているのではないということです。
 「誰のために設計するのか」からスタートして,その人達のためにベストを尽くすというのが,私達のやり方になります。

Bladeの2014年モデル。最初に届いたモデルは熱暴走でお亡くなりになり,代わりに届いたモデルが3Dゲーム実行時にキーボード面の温度が50℃を超えてしまった
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画像集 No.006のサムネイル画像 / 「口先だけか,そうじゃないかが他社との決定的な違い」。RazerのCEO,Min-Liang Tan氏インタビュー
4Gamer:
 いま名前が出た2つめの製品,無印Bladeの話をちょっと聞かせてください。日本に初めてやって来たときの2014年モデルは,私達のテストでは問題を抱えていました。具体的には,3Dゲームのようなアプリケーションを実行すると,コンポーネントの発熱が尋常ではないレベルに達し,手の触れる部分が熱くなって,触っていられなくなるというものです(関連記事1関連記事2)。
 私達は,冷却周りの設計に問題があったと考えているのですが,この件に関するRazerとしての見解をいただけませんか。

Min-Liang Tan氏:
 まず,設計に関してお話しすると,私達はすべての内部で設計しています。すべてIP(Intellectual property,知的財産権)の範囲で設計しているわけです。

4Gamer:
 はい。

Min-Liang Tan氏:
 設計およびデザインという観点から言うと,Bladeには3つの特徴があります。1つは「localized heating」(ローカライズドヒーティング)というもの。もう1つは,ファンの1つから,すべての部品をBlade専用に設計した独自仕様のもので揃えており,汎用品は使っていないため,安定性,安全性が高いということ。最後に,Intel,そしてNVIDIAと密接に協力して,他社をリードする設計という役割を果たしていることです。

4Gamer:
 localized heatingについて,明確な説明がいままで出てきていない気がするのですが,具体的にはどういうものでしょうか。

localized heatingの概要説明図。これは2015年モデルの発表時に公開となったもの
画像集 No.005のサムネイル画像 / 「口先だけか,そうじゃないかが他社との決定的な違い」。RazerのCEO,Min-Liang Tan氏インタビュー
Min-Liang Tan氏:
 「ユーザーが触れないところから順番に熱を拡散させていく,放熱させるやり方」ですね。たとえば,ここ(※と言ってヒンジ付近,廃熱孔の近くを指指す)は熱いんですが,それは意図的にそうなるよう誘導しているんですね。一方,実際にユーザーが触れることになるここ(※と言って,今度はキーボード部を指指す)は熱くならないわけです。
 ヒートパイプを使って熱を誘導させることによって,ローカライズされた(=一極集中した)発熱地帯として,エンドユーザーから分離することができています。

4Gamer:
 ヒートパイプを使って熱を移動させるアイデアは私達も把握していましたが,旧製品は,それでもキーボードのところまで熱が来てしまうというのが,テスト結果でした。

Min-Liang Tan氏:
 Bladeの開発に当たっては,「具体的にその熱を見ていこう」ということで,赤外線のカメラを使ったり,実際にロボットアームを使って液晶パネルの開閉を行ったり,あるいは(高負荷時のファン回転)音をマイクを使って実際に録音したりしています。世界のノートPCメーカーの間でも,熱対策の部分では私達がトップだと確信していますので,前回のテスト結果――私もその結果は見ていますが――は,技術的な観点から言えば,いろいろなところで誤解があったのではないかと私は考えています。

4Gamer:
 私達も1台だけそういう結果だったのであれば,「誤解」,あるいはテストのミスを疑ったのですが……。
 次のBladeも国内で出る予定になっていますから,次回のレビュー時には,さらに注意して,熱周りは検証したいと思います。

Min-Liang Tan氏:
 この件について必要でしたら,さらに追加の資料を提供できますので,ぜひ(広報を通じて)請求してください。

4Gamer:
 ありがとうございます。あとはいつか,さまざまなテストを行っているという,実際の開発現場もぜひ一度見せていただけると嬉しいです。

Min-Liang Tan氏:
 それはもうぜひ。サンフランシスコにいらっしゃるときはご一報ください。いつでも大歓迎しますので。

画像集 No.009のサムネイル画像 / 「口先だけか,そうじゃないかが他社との決定的な違い」。RazerのCEO,Min-Liang Tan氏インタビュー
4Gamer:
 さて,いまのお話の中で,何度か「Intel」「NVIDIA」という会社名が出てきました。
 Razerは,初めてノートPCを出したときから,両社とがっつり組んでいるイメージがありました。ただ,ビジネスというシビアな観点からすると,RazerのノートPCは,それこそLenovoやHPなどと比べて,数が出るわけではありませんから,そういう大手メーカーと比べると「Razerと密接にやりとりするメリット」が大きいとは思えない部分もあります。失礼を承知で聞きますが,なぜRazerは,彼らの大きなサポートを得られているのでしょうか。

Min-Liang Tan氏:
 ご指摘のとおり,LenovoやHPと比べると,私達の会社の規模は遙かに小さいです。ただ,(それを払拭できるほどに)私達の持っている技術の質が,大手メーカーより上なのだと思います。

4Gamer:
 ただ,たとえばIntelだと,プロセッサの発注量に応じて,得られるサポートなども変わってきますよね?

Min-Liang Tan氏:
 ええ。ですのでその意味において,Intelとの関係は,よくある「リレーションシップ」(協力)という言葉以上のものがあると思います。おそらくは,私達の技術を利用することによって,Intelなどが,新しい(PCの)カテゴリーを作ることができたため(に,Razerを重視しているの)でしょう。

 過去のゲーム用ノートPCを考えてみてください。それまでは,非常に重くて分厚い物しか提供できていなかった。ですので,先ほどのローカライズドヒーティングというテクノロジー1つを取っても,これまでのゲームPCなどの基本的な考え方を革新的に変えることができたということが言えると思います。

 実際,他社も追従してはきていますが,私達が到達できている薄さや性能にはまだ届いていないというのが現状ですよね。
 これはなぜかと言えば,先ほどもお話ししたとおり,あらゆるパーツをカスタムメイドして,独自仕様で実装しているからなのです。もちろんこれにはコストがかかりますが,そこで大きな差別化ができているわけです。

Skull Canyonことゲーマー向け超小型PC「NUC6i7KYK」
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4Gamer:
 Intelとの特別な関係ということで言えば,最近は,「Skull Canyon」によるCoreのサポートがありますね(関連記事)。

Min-Liang Tan氏:
 そうですね。Coreはまったく新しい技術ですが,ここにはIntelだけでなく,NVIDIA,AMDも含めて,ハードウェアと,そしてソフトウェアスタックに大きな注目をいただいています。
 そして(彼らのサポートを得るうえで重要なポイントとしては)私達自身が,この技術を基にしたハードウェア,ソフトウェアスタック,そしてソフトウェアをオープンにして,業界に提案しているところが挙げられます。

 私達はすべてを自分達の手で開発,設計しています。業界広しと言えども,自社だけですべてを設計して,業界にその技術の採用を提案できているのは,AppleとRazerだけだと思いますよ。

4Gamer:
 ちなみに,先ほど小さい会社だとおっしゃっていて,一方ですべてを内製化しているという話ですけれども,エンジニアの数はハードウェアとソフトウェアで大体どれぐらいなのでしょうか。

Min-Liang Tan氏:
 現在,総計で500名です。過半数はソフトウェアですね。
 製品自体の数は,他のベンダーさんに比べると少ないですが,少数精鋭で,品質の高い,高性能なものを作るというコンセプトを採用しています。
 不特定多数に向けて,何となくそれっぽい製品を提供するのではなく,先ほどお話しした3種類のユーザー,短い人生の中で本当に必要とする限られた人達に向けて,本当に良い物を提供したいというのが私の考え方です。

Razer製ヘッドセットの例。6月30日に国内発売となったワイヤレスモデル「Razer ManO’War
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4Gamer:
 最大500のエンジニアということですが,イメージとしては,皆でPCを作って,次はヘッドセットを作って,次はマウスで……といった感じで開発しているのですか。それともチームがいくつかあるのでしょうか。

Min-Liang Tan氏:
 ビジネスユニットが3つあります。1つは周辺機器用のビジネスユニット。2つめは「システム」,つまりはノートPCですね。そしてもう1つはソフトウェアで,基本的にはこの3つのビジネスユニットに分けて展開しています。

4Gamer:
 TanさんはCEOにしてクリエイティブディレクターという肩書きもありますが,つまりはその3部門を統括して全部見ているという感じですか。

Min-Liang Tan氏:
 そうですね。あと,ビジネスユニットとは別に,小さい規模のデザインチームが私の直属であります。

画像集 No.011のサムネイル画像 / 「口先だけか,そうじゃないかが他社との決定的な違い」。RazerのCEO,Min-Liang Tan氏インタビュー
4Gamer:
 話をノートPCに戻しますが,Tanさんが来日して発表されたBlade StealthというUltrabookは,ChromaであったりAnti-Ghostingであったりと,非常にオリジナリティの高いキーボードを採用できていますよね。とくにAnti-Ghostingは素晴らしいとしか言いようがないのですが,なぜ,他社のほとんどが依然として持てないような技術を先んじて持てているのでしょうか。
 これは先ほどお話のあった「すべてを内製しているから」ということで説明が付くのか,それとも,別に理由があるのかという部分が気になるわけですが。

Min-Liang Tan氏:
 やはり,他の企業と比べて,製品デザインの優先度や集中度が高いからではないかと思います。他社も同じようなことは言っていると思いますが,会社全体として,口先だけかそうじゃないかが決定的な違いではないかと(笑)。

4Gamer:
 (笑)。

Min-Liang Tan氏:
 他の企業であれば「売ること」を考えるわけですが,私達は本当の意味で,製品デザインへの理念を持っています。そのため,同じように考えているエンジニアが,自然と私達のところへ集まってきてくれているんですよ。
 なので,何か特別な秘密があったりするわけではなく,非常にシンプルに,そこ(=製品デザインへの理念があって,それを貫けるかどうか)が最大の理由ではないかと思います。

Core。北米市場は一部でデリバリーが始まったようだ
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4Gamer:
 時間が迫ってきましたので,ここから小さい質問をいくつか。Coreは北米市場でも売り切れているほど生産が追いついておらず,それが日本市場での販売が遅れる要因であると聞いていますが,なぜ生産がそこまで遅れているのでしょうか。

Min-Liang Tan氏:
 同じような課題をすべての製品が抱えていますが,最大の理由は,すべてカスタムメイドだからということになります。カスタムメイドだからこそのメリットはあり,人気の理由もそこにあるわけですが,その分だけどうしても製造効率は落ちることになります。

4Gamer:
 次に「Razerの顔」についてです。
 初めて私がお会いしたときの「Razerの顔」は,共同設立者でもある“RazerGuy”,Robert Krakoff(ロバート・クラコフ)氏でした(関連記事)。でもあるときから,Tanさんに代わりましたよね。あれはどういう理由によるものだったのでしょうか。

Min-Liang Tan氏:
 答えはシンプルで,彼が第一線から身を引いたためです。今はメキシコに住んでいて,E3など,時折顔を出したときにアドバイスをもらったりしていますね。
 つまり,大きな理由があったわけではありません。

4Gamer:
 なぜそれを伺ったというと,現在,スポークスパーソンの役目がTanさんに集中しているように思えるからなのです。「国や地域ごとにスポークスパーソンを用意すればいいんじゃないかな」と,素人目には見えるのですが。

氏のFacebookページより。いつ見ても世界中を飛び回っている
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Min-Liang Tan氏:
 ご指摘いただいたようなことをまったくやっていないかというとそうでもなく,最近は少しずつ行動にも移してはいます。ただ,Razerのスポークスパーソンを務めるためには,会社の理念や製品,エンジニアリング,すべてに精通している必要がありますから,そう簡単に「誰でもやってください」と言うわけにはいかないということがあります。
 実現すると,私ももっとゲームで遊ぶ時間が増えるので(笑),嬉しいんですけどね。

4Gamer:
 Razerの,日本における実績は豊富です。にも関わらず,Razerについて責任を持って語れる人はこれまで1人もいませんでした。
 私の個人的な考えですが,日本において「ゲーマー向け製品市場」のトップシェアを確保し続けているLogitech G/Logicool Gと,“永遠の2番手”になってしまっているRazerの違いは,そこにあると思っています。

Min-Liang Tan氏:
 Logitech Gは,そこにお金をかけたりしているということですよね?

4Gamer:
 そうですね。少なくともスポークスパーソンはいます。Razerとして,日本語で語れるスポークスパーソンを用意する予定などはあったりするのでしょうか。

Min-Liang Tan氏:
 Razerとしては,「製品がすべて語ってくれる」と考えています。ブランドというものは,マーケティングで作っていくものではないという理念も実は持っているんですよ。
 ただ,ご指摘のように,「何も活動していない」と見られている状況は打破していかねばならないとも思います。なので,日本のマーケティング&広報担当者に,4Gamerさんから「これまでの10倍仕事をしてほしい」と,積極的に働きかけてくださると嬉しいです(笑)。

4Gamer:
 分かりました(笑)。本日はありがとうございました。


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