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「Razer ManO\'War」レビュー。「遅延ゼロ」が謳われるワイヤレスヘッドセット,その総合力を明らかにする
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印刷2017/01/17 00:00

レビュー

「遅延ゼロ」が謳われるワイヤレスヘッドセット,その総合力を明らかにする

Razer ManO’War

Text by 榎本 涼


Razer ManO’War
メーカー:Razer
問い合わせ先:MSYサポートセンター 電話:048-934-5003
実勢価格:2万1500〜2万4500円程度(※2017年1月17日現在)
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 2.4GHz帯を用いるRazer製のワイヤレスヘッドセット「Razer ManO’War」(以下,ManO’War)については,2016年のヘッドセット一斉検証でそのヘッドフォン出力品質を評価しているが,本稿ではあらためて総合力を評価したいと思う。

 「遅延なし」と謳われるそのワイヤレス技術のテスト方法確立に時間がかかり,結果として掲載が遅れてしまったが,Razerのフラグシップモデルが気になる人はぜひチェックしてもらえれば幸いだ。


最小限の操作系をミニマルなデザインに閉じ込めた,シックな筐体


右耳用エンクロージャの側面後ろ寄りのところにアダプターは収納されており,指先で押すと出てくる
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 というわけでまずその仕様を簡単にチェックしておくと,ManO’War(国内での公式な呼び名は「マン オー ウォー」)は,本体と,USB接続のワイヤレスアダプターを机上まで引き回すためのケーブル,そして充電するためのUSBケーブルが付属している。USBケーブルはあくまで充電用であり,「充電時はワイヤード接続型ヘッドセットとして機能する」ということはない。
 ワイヤレスアダプターは本体右耳用エンクロージャ部に収納されており,押すとスイッチの反動で取り出せるタイプだ。

 バッテリーのフル充電には最大8時間かかり,フル充電で最大14時間の連続使用が可能とのこと。後述するLEDイルミネーションを消灯した状態であれば最大20時間連続利用が可能とされており,実際,数時間レベルのゲームプレイで充電が必要になることはなかった。

本体と付属品一式(左)。USBケーブルはいずれも,いわゆる布巻きタイプで,柔らかく取り回しがいい。台座になるほうは全長実測約2m,充電用は同1mとなっている。右は右耳用エンクロージャ部から取り出したワイヤレスアダプターを見たカットだ
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 本体は,ヘッドバンドとエンクロージャ(ハウジングともいう)の一部で光沢があるのを除くと,基本的にはツヤ消しの黒が基調で,落ち着いた外観だ。Razer製品ゆえに,エンクロージャ部のRazerロゴは,「Chroma」機能によって光るものの,それも強烈に派手すぎるということはない。

Chromaからいろいろ光らせてみたところ。指定した色は左から順に赤,橙,黄,緑,水,青,桃,紫,白で,橙と黄色,桃,白の出方は若干の不自然さが残るものの,まずまず良好な色だとは言える
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 操作系はいずれもエンクロージャの側面部にまとまっており,左耳用はマイク入力音量調整用ノブと電源ボタン,右耳用にはヘッドフォン出力音量調整用ノブが並ぶ。

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左耳用エンクロージャの側面,底側。本体正面側から順にマイク入力音量調整用ノブ,USB Micro-B,電源ボタンという並びになっている
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右耳用エンクロージャの側面,底のところにヘッドフォン出力音量調整用ノブがあり,押し込むと出力のミュート/アンミュート切り替えを行える。写真で左に見えるスペースはワイヤレスアダプター収納用

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LEDインジケータ。電源オン/オフ時にはヘッドフォンからビープ音が鳴るので,これらインジケータLEDを気にする必要はあまりない
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イヤーパッドはかなり厚みがある
 左耳用エンクロージャの電源ボタン部には充電中であることを示すLEDインジケータ,そのすぐ脇には電源オン時に光るLEDインジケータもある。充電用ケーブルを接続するためのUSB Micro-B端子があるのもこちら側だ。

 エンクロージャには,合皮製で,当たりが柔らかめなイヤーパッドが取り付けられている。内径は実測約58mmと大きいので,装着時に耳が当たることはまずないだろう。厚みが同25mmもあるので,かなりの存在感がある。
 そんなイヤーパッドは着脱可能で,取り外すと,やや厚手な布の奥に,ネオジム磁石を用いた50mm径スピーカードライバーの存在を確認できる。

スピーカードライバーの公称周波数特性は20Hz〜20kHz。ストッキング素材のような,厚手の布で覆っているのは,ネオジムドライバーでありがちな,強すぎる高域を弱めるための配慮という可能性もある
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 エンクロージャがらみの話を続けると,左耳用エンクロージャには,マイクをブームごと収納できるようになっている。収納した状態でもマイクの先端は少し出っ張っているので,引っ張り出しやすく,ヘッドセット左右の区別もしやすい。実測で約90mmあるブームが,太くて安心感がある割に柔らかく,引き出した後で口元へ設置しやすいのも好印象だ。

マイクブームの設置自由度はかなり高い
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 なお,マイク本体は指向性のあるタイプとされている。穴は一方向にしか開いていないので,モノラルマイクと考えていいだろう。
 エンクロージャ側にあるマイク入力音量調整用ノブは押し込み型スイッチになっており,押すごとにマイクのミュート/アンミュートが切り替わる仕様だ。ミュート時はマイクの先端部で赤色LEDが光るようになっている。

 なお,公称の周波数特性は100Hz〜10kHzと,USB接続やワイヤレス接続のゲーマー向けヘッドセットでありがちな,狭くて低いものになっているが,その品質は後段で検証したい。

マイク部。実測約25mmの長さがあった。口元側にのみ空気孔が空いている
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エンクロージャからヘッドバンドまでを見たカット。エンクロージャにはパンチ穴っぽいものが見えるが,これは単なるデザインで,密閉型だ
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 さて,左右エンクロージャとヘッドバンドを固定するアーム部分は,二点留めのプラスチック製という,よくあるタイプだ。プラスチック製ながら剛性はしっかりしている印象がある。ヘッドバンドの長さ調整機構は,金属板をプラスチックで覆うような設計で,こちらも耐久性は高そうだ。

ヘッドバンド調整機構には数字付きで目盛りが打ってあるので,自分の設定を覚えておけば,「いつもの長さ」で使い続けやすい
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 ヘッドバンドはかなり大きめ。中央がくり抜かれていて,そこに島のような形でクッション部があるという,筆者は初めて見る設計だ。“島”の両端は頭の形状に合わせて若干しなるという,ユニークな構造になっている。

ヘッドバンドは天頂部に「Razer」のロゴがエンボスで入る“島”が浮いたような,ユニークなデザイン。ただ,デザイン最優先ではなく,バンドと“島”を結ぶ機構により,装着感の向上を図っているようだ。クッション自体は薄めである
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 気になる総重量は実測約375g。少なくとも,軽くはない。
 また,装着時のバランスが危惧される程度の大きさではあったが,実際に装着してみると前後のバランスは悪くなく,また,重いとも感じない。ただ,クッションの薄い頭頂部の当たりは少し固く,装着時間が長くなると,じわじわと頭頂部に重みを感じるようになる。装着時における唯一の欠点と言ってよいだろう。

Razer Synapseは自動でManO’Warを認識し,カスタム版Razer Surround Proのセットアップも行ってくれる
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 なお,ManO’Warが採用するバーチャルサラウンドサウンド出力機能は,もちろん「Razer Surround Pro」だ。より正確を期すと,統合ソフトウェア「Razer Synapse」(※旧称「Razer Synapse 2.0」)の最新版を導入したシステムにManO’War(のワイヤレスアダプター)を接続すれば,Razerが最適化したイコライザ設定などを含む,カスタム版のRazer Surroundが自動的にセットアップされ,利用できるようになるので,他社製ヘッドセットとRazer Surround Proやその無料版である「Razer Surround」を利用するときのような,手動でのセットアップという手間はかからない。
 もっとも,バーチャルサラウンドサウンド出力をユーザーの耳に最適化する「較正」自体は必要だが。

「オーディオ」「マイク」「ミキサー」「EQ」の各メニュータブは汎用版Razer Surround Proと共通だ
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「照明」タブでは,エンクロージャ上のLEDイルミネーションに関する設定を行える。光り方の標準設定は,色が順繰りに移り変わる「スペクトラムサイクリング」。プルダウンメニューからは,特定の色を選んで点灯させる「静的」,特定の色を選んで明滅させる「呼吸音」,消灯させる「なし」も選択できる
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「OSD」では,ヘッドフォン出力音量をManO’War側で調整したとき,その状態をバーとしてオンスクリーン表示させるか,させるとしてどこに表示させるかを選ぶためのものである


「アナログ接続型ヘッドセットよりも低遅延のワイヤレスヘッドセット」と言い切れるManO’War


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 いよいよ,今回の本題である「遅延」(latency)検証の時間である。
 本稿,というかヘッドセットおよびヘッドフォン評価における遅延というのは,「発音タイミングと実際に音が鳴る時間のずれ」のことである。「マウスクリックで銃を発砲したが,実際にはクリック後,数十ミリ秒後に音が鳴った」場合,この数十ミリ秒の遅れを遅延というわけだ。

 この遅延はデジタルオーディオには大なり小なり必ずついて回るもので,高性能なDAW(Digital Audio Workstation,広義の音楽制作システム)でも0.x〜数msの遅延は必ず生じる。また,A/D(アナログ→デジタル),D/A(デジタル→アナログ)変換にも遅延はつきものだ。そのため,高価なプロ用機器では,高性能なプロセッサや大容量のメモリを搭載するなどして,遅延を最小限に抑えようとしていたりする。

 一方,ゲーマー向けを含む民生(コンシューマ)市場向け製品の場合,遅延に対しての配慮は,これまであまりなされてこなかった。それゆえに,アナログ接続型よりもUSB接続型のほうが遅いとか,USB接続型よりワイヤレス接続型はさらに遅いというのが「通説」として共有されてきた。その点,ワイヤレス接続で遅延ゼロが謳われるManO’Warで本当にそうか,というのが重要な検証ポイントになる。

 遅延検証は今回が初なので,まだ「確立できた」とは言えないものの,ひとまず今回についていえば,まず,計測には4Gamerで所有しているダミーヘッド「Type2700Pro」,正確にはそのカスタム版を使用。それに,+48のファントム電源を供給し,ステレオペアリングしながらdB単位でゲイン調整できるRME製USBサウンドデバイス「Fireface UCX」を入力デバイスとして組み合わせることになる。
 テスト方法は以下のとおりだ。

  1. PCのホストアプリケーションで,「時間的に等間隔で並んだクリック音を30回再生するサウンドファイル」を再生し,同時にホストアプリケーション側で録音
  2. PCと接続したヘッドセットのヘッドフォンで音を再生し,ダミーヘッドへ入力
  3. ダミーヘッドとつながったFireface UCXで録音
  4. 1.と3.の録音データをミリ秒(ms)で比較

 ただ,試してみると,いきなり問題が発生した。筆者の所有しているオーディオ編集アプリケーションは,どれも入力と出力が同じでないと利用できないのだ。これは「Pro Tools」から「Cubase」といったDAWから,「WaveLab Elements」や「Sound Forge」といった音楽制作用アプリケーションまで同様だった。

 そこでいろいろと試してみたところ,フリーソフトウェアである「Audacity」は,入力と出力で異なるサウンドデバイスが利用できたので,1.で挙げたホストアプリケーションとして,今回は,Audacityを使うことになる。
 しかも使ってみると便利なことに,Audacityは,クリック音をテスト対象のヘッドセットから出力しながら,Audacityにダミーヘッド経由でFireface UCXへ入力した音(=ヘッドセットが再生した音)を同時並行で録音できるので,クリックのファイルとオフセットが揃い,元のクリック信号と録音した信号の遅延を計測しやすいのだ。

Audacityのスクリーンショット。黄色い枠のデータが,筆者の側で用意した「時間的に等間隔で並んだクリック音を30回再生するサウンドファイル」だ。その下に見えるのが,ManO’WarのDirectSound出力をAudacity上で掴み,ダミーヘッド経由のFireface UCXで録音した結果となる。再生しながら録音することでオフセットが揃うため,クリックの差分を計測すれば遅延が分かる
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 なお,4.のところで使うのは,「Pro Tools Software」である。Audacityで録音した2つのサウンドデータファイルを,Pro Tools Softwareで読み込んで比較するわけだ。

 今回は比較対象として,Fireface UCXに,Sennheiser Communications製のアナログ接続型ヘッドセット「GAME ONE」を直接接続した環境を用意し,これをリファレンスとする。ヘッドセット以外の環境を揃えることで,アナログ接続型ヘッドセットとの間にどの程度の遅延があるのかを相対的に把握するわけである。

計測は,筆者が使い慣れており,かつ,Audacityより精密な計測ができる「Pro Tools 12.5」上で行った。一番上のトラックが基準となるクリック信号ファイル,そのすぐ下がリファレンスとして用意した,Fireface UCX+GAME ONEのデータだ。Pro Tools 12.5上で上のトラックのオーディオ開始時点と下のトラックのオーディオ開始時点を選択すると,画面上部のトランスポート画面の「長さ」のところにms単位の尺が表示されるので,これを記録していく
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こちらは波形を極大化表示したところ。このように極大化して上下トラックの波形の始まりを選択する。選択範囲は,黒い部分の左端が元のクリック信号の開始時点。右端が録音した信号の開始時点なので,この間の差分を取ればよい。図のテスト信号の下のトラックは,テストで収録したPro Tools 12.5で録音した結果なので,非常に低遅延でわずか1msしか遅れていない
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 さらに今回はもう1つ,PCI Express x1接続のサウンドカード「Sound Blaster ZxR」とGAME ONEを組み合わせた状態でもテストを行うことにした。Fireface UCXをゲームで使うという4Gamer読者はいても数人レベルだと思われるため,より一般的な環境として,「サウンドカード+アナログ接続型ヘッドセット」だとどうかもチェックしてみることにした次第だ。

 つまり今回は,Fireface UCXにGAME ONEを接続して,ダミーヘッドを通じてFireface UCXで録音した状態(以下,Fireface UCX+GAME ONE)を基準として,2つのテスト対象で相対的にどれくらいの遅延が生じているのかを比較するのだが,いきなり,最終結果を以下のとおり示してしまいたい。

  • ManO’War:相対遅延平均値100ms
  • Sound Blaster ZxR+GAME ONE:相対遅延平均値120ms

 というわけで,一般的な「ゲーム向けサウンドデバイス+アナログ接続型ヘッドセット」代表として用意したSound Blaster ZxR+GAME ONEと比べ,ManO’Warはざっくり20ms前後小さいという結果になった。言い換えると,ManO’Warの遅延状況は,少なくともアナログ接続型ヘッドセットをPCとつないだときと同等かそれよりも良好ということだ。
 アナログ接続よりワイヤレス接続のほうが速いというのは,ちょっと想像できなかったのだが,RazerはManO’Warでそれを実現してしまったわけである。

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 ただ,誤解のないように書いておきたいのだが,今回出たこの値は,実際のゲームにおける遅延状況を反映したものではない。
 もちろん先ほど述べたとおり,同じ条件でテストしている以上,「Sound Blaster ZxR+GAME ONEより20ms遅延が少ない」という相対的な遅延状況検証結果としてはこれで正しいはずだ。ただし,実際のゲームにおいては,これより大きくなるか小さくなるかはさておき,おそらくオフセットがかかる。というのも,今回の結果にはD/A,A/D変換の遅延や,入出力サウンドデバイスが異なること,そしてアプリケーション依存の遅延など,さまざまな条件が加わっているからだ。

 また,先ほどテスト条件を挙げたところで,「なぜ最も標準的な,オンボードサウンドでのテストを行っていないのか?」と疑問に思った読者は少なくないと思うが,それに対する回答はシンプルで,あり得ないくらいのバラツキが出たからだ。そのバラツキが数十msなら筆者も「まあオンボードだし,そんなもんでしょう」と言ってスコアを出すつもりだったのだが,得られたスコアは最小で100ms前後,最大で500ms以上(!)というもので,いくらなんでもおかしすぎる。
 そのため,オンボードのRealtek Semiconductor製HD Audio CODECは,今回のテストとあまりにも相性が悪いという判断を行った次第である。

 なお,テスト結果をまとめていると,少し気になる点もあった。
 Fireface UCX+GAME ONEでは30回の計測でms単位のずれは生じなかったが,ManO’Warでは2ms,Sound Blaster ZxR+GAME ONEでは1msのずれが生じている。しかもManO’Warも,Sound Blaster ZxR+GAME ONEも,だんだんと遅れていくのである()。

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 実際問題として,音楽制作のプロの現場では,「3msの遅延は確実に感じ取れるが,それ未満ではほとんど気付かない」とされているので,このスコアだけで判断する限り,体感できるほどではないだろう。
 ただ,テスト試行回数を60回,120回……と増やしていったときどうなるか,前述のとおり,テスト方法が確立できたわけでもないことから,そこまで検証していないのでなんとも言えないが,やや気持ち悪い結果なのは確かである。


すっきりした音質傾向のヘッドフォン出力


 遅延の解説がだいぶ長くなったが,音質傾向のテスト結果も見ていこう。
 ダミーヘッドの導入後,4Gamerでは,

  • ヘッドフォン出力テスト:ダミーヘッドによる測定と試聴
  • マイク入力テスト:測定と入力データの試聴

により評価を行うようになっている。ダミーヘッドによる測定法はいずれ別記事にまとめたいと思うが,現時点においてはヘッドセット46製品一斉検証記事にある説明を参考にしてほしい。マイク入力テスト方法は解説ページを用意してあるので,そちらを参照してもらえれば幸いだ。

 というわけでさっそく,ヘッドフォン出力から見ていこう。周波数特性の測定結果は下に示したとおりだ。

テストに用いるリファレンス波形
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 35Hzくらいから下と12kHz以上から上で一気に落ちていく――20kHz付近までゼロにはなっていないので,公称周波数特性どおりに出力できているとは言えるが――のを除くと,250Hz前後が最も深い谷になっているのが分かる。
 60Hz前後にある低域は相対的にやや強めで,また,1.7〜2.3kHzに小さな山も見えるが,最も目立つのは8kHzを頂点とした大きな山だ。早い話が低弱高強で,かつ,250Hzを「ドン」の中心地とするドンシャリ型というわけである。

ManO’Warのヘッドフォン出力波形
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 ヘッドセット46製品一斉検証記事のときと特性が異なるのは,収録した部屋が異なる(≒部屋の音響特性が異なる)のと,テストにあたって必須となるオフセットを変更しているからだ。変更内容を知りたい場合は,「G231 Prodigy Gaming Headset」のテストレポート,「Q10 Paragraphic Equalizer」に関する段に目を通してもらえればと思う。

 さて,4Gamerで独自に用意した「リファレンス波形と計測結果の差分を取るツール」の実行結果を見てもらうと分かりやすいが,相対的に,低域より高域のほうがやや強い。
 250Hz付近はさまざまな楽器や効果音が密集して音が飽和しやすい帯域なので,ここが谷になるドンシャリだと,ただでさえすっきり目の音質傾向になるのだが,高域が強く,しかも8kHzが大きな山なので,かなりの低弱高強だと言い切ってしまっていいだろう。

リファレンスと測定結果の差分を取り,リファレンスに近ければ近いほど黄緑になるツールの実行結果。グラフ縦軸上側へブレる場合は程度の少ない順に黄,橙,赤,下側へブレる場合は同様に水,青,紺と色分けするようにしてある。差分画像の最上段にある色分けは左から順に重低域(60Hz未満,紺),低域(60〜150Hzあたり,青),中低域(150〜700Hzあたり,水),中域:700Hz〜1.4kHzあたり,緑),中高域(1.4〜4kHzあたり,黄),高域(4〜8kHzあたり,橙),超高域(8kHzより上,赤)を示す
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 これを踏まえてステレオ音源の試聴テストだが,まず,ワイヤレスということで気になる音量は,とくに低いということもなく,ほとんどのプレイヤーには十分だと言える。
 全体的なバランスは計測結果どおり,すっきりとした低弱高強気味だが,低域は60Hzより上が確実に存在するため,思いの外,低域は「ちゃんといる」感じだ。少なくとも,低域がスカスカという印象はない。

カスタム版Razer Surround Proの調整結果。耳のコンディションの問題でセンターが少々右寄りになっており,伝統的なHRTF方式の宿命でフロントL/Rはだいぶ中央に寄せているが,サラウンドL/RとリアL/Rはまったく触る必要がなかった。さすが本家だけあって,Razer Surroundのアルゴリズムをきちんと最適化できている印象である
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 カスタム版Razer Surround Pro有効時のサラウンドサウンド試聴は「Fallout 4」と「Project CARS」で行ったが,Fallout 4における音源の移動はスムーズで,前方や後方の定位は良好。8KHz付近がかなり大きな山になって強調されており,かつ,20kHz付近まで超高域を再生できているため,高域の再生能力が問われるバーチャルサラウンドサウンドでよい結果が出ているのだと思われる。
 Fallout 4の試聴で利用しているシーンはピンポイントでLFE(Low Frequency Effect,低域効果音)も入っているのだが,その再現力はなかなかのもので,迫力も十分に感じられた。250Hz周辺に谷を作ることで,低域がそれより高い周波数帯に被って濁った音に感じられないようにした結果だろう。

 一方,Project CARSだと,ManO’Warは重低域の再現力が高いので,縁石に乗り上げる音など,LFEを駆使した低音表現を非常に把握しやすい。同時に,高域再生能力にも優れるため,敵車の通過音なども把握しやすい。

 音楽コンテンツだと筆者は少しプレゼンス(※)が強いかなとも感じるのだが,ゲームをプレイするにあたっては,実にいいバランスだと思う。250Hzを落としている意図が明確に感じられるうえに,プレゼンスから高域がしっかりいるので音にハリが感じられ,つややかで定位もよく分かる。やはりゲームプレイに特化したヘッドセットなのだなと感じさせられる作りだ。

※1.4〜4kHz程度の中高域。プレゼンス(Presence)という言葉のとおり,音の存在感を左右する帯域であり,ここの強さが適切だと,ぱりっとした,心地よい音に聞こえる。逆に強すぎたり弱すぎたりすると,とたんに不快になるので,この部分の調整はメーカーの腕の見せどころとなる。


マイクもドンシャリ傾向。ただ,7kHz付近で急速に落ち込む


 マイクの品質も見ていこう。周波数特性は以下のとおりで,1.4kHz付近を谷とするドンシャリ傾向だが,それ以上にインパクトがあるのは,フィルタリングしたかのように,7kHzより上で急激に落ち込んでいるところだ。少なくとも,公称の周波数特性である最大10kHzにはまったく到達していない。おそらく,ワイヤレス接続時の帯域幅を出力優先にした結果,入力側で使えるリソースが足りなくなったのだろう。
 USB接続型のヘッドセットによくある周波数特性だ。

黄緑がリファレンス波形,橙がManO’Warのテスト波形。一見して目立つのは,7kHz以上が「ない」ことだ。位相特性は完璧だが,これはモノラルマイクなので当然だろう
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Razer Synapse側の初期設定だと,ユーザーは自分の声をモニタリングする設定になっている。自分の声をヘッドフォン部から出力させたくない場合は,「マイクモニター」のスライダーを0に変更する必要があるので要注意
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 録音を聴いてみると,“上”はほぼ7kHzまでしか存在しないのに対し,プレゼンスが強い印象もなく,低域はしっかり存在するので,「普通の単体販売されているマイクで高域をフィルタリングした」ような,とてもぬるい感じの音質傾向に感じられる。

 また,それとは別に気になったのは,小さな声だとミュートされてしまう点と,入力感度が恐ろしく高いので,すぐピークに達してしまう点だ。
 このあたりはRazer Synapseから「マイク感度」を下げることである程度調整できるが,意識して,結構しっかりしゃべらないと「は? 何言ってるか分からないんだけど」と突っ込まれること必至なので,気をつけてほしい。


「低遅延のワイヤレスヘッドセット」に偽りなし。ただしマイクは残念


製品ボックス
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 一斉検証時にヘッドフォン出力がよいことをお伝えしたManO’Warだが,詳細な検証を経ても,やはり出力面での完成度は高いと言い切れる。そして,何と比べて遅延ゼロかはともかく,「低遅延のワイヤレス接続」という看板自体には偽りがないのもポイントで,この2点こそが最大の魅力ということになるだろう。
 遅延絡みですべてが判明したわけでもなく,若干気になる点も残るが,ワイヤレス接続型のゲーマー向け「ヘッドフォン」としては,現時点における完成形の1つと言っていいのではなかろうか。すっきりめで,やや低弱高強という音響特性は,音楽用途だと若干気になるかもしれないが,ゲームではむしろ音を聞き取りやすいので,ゲーム用途がメインならManO’Warは強くお勧めできる。

 ただ,そんなヘッドフォン周りと比べるとマイク周りはやや残念で,その点は「ヘッドセット」としてのManO’Warに影を落とした。USB接続型ヘッドセットの宿命と言えばそれまでかもしれないが,少なくとも扱いやすくはなく,購入にあたって,その点だけは少し覚悟が必要と思われる。

ManO’WarをAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)

ManO’Warをパソコンショップ アークで購入する(Amazonアソシエイト)


RazerのManO’War製品情報ページ

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