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日本工学院にカーネギー・メロン大学。G★2007で見かけた異色の学校ブース
だがほかにも,韓国における多くのゲーム専門学校とはちょっと異なる学校の出展もあった。そこでこの記事では,韓国外から出展していたアメリカのカーネギー・メロン大学,そして日本から出展していた日本工学院専門学校のブース,そして韓国内でも唯一の,ゲーム開発者育成のための“高校”である韓国ゲーム科学高等学校を紹介しよう。
カーネギー・メロン大学ETCブース
なぜLucas Artsと共同ブースにしているのかについては,ほぼ同時期にシンガポールに設立された同社のスタジオと「親交を深めるため」だそうだ。といっても,アメリカでゲーム会社が大学に寄付講座を持ち,スポンサーとなって自社に必要な技術研究を支援する産学協同はよくあることだ。彼らが親交といったとき,念頭に置くべきはそうした展望だろう。
さらに,同センターのExective Producer,Donald Marinelli(ドナルド・マリネッリ)氏に聞いたところ,来年(2008年)の1月には大阪に,ECTの支部が開設されるという。東京ゲームショウ2007にも出展したかったが,これは時期的に申し込みが間に合わなかったのだとか。
ちなみに我々4Gamerスタッフがブースを訪れたとき,ちょうど東京大学大学院情報学環教授の馬場 章氏も来ていた。氏はその場で,できればETCの支部を東京に開設してほしかったとの考えを聞かせてくれたわけで,それが実現しなかった背景にはいろいろ込み入った事情がありそうだが,ともあれアメリカの大学と日本の大学,産業への関わり方が大きく異なる両者で,現場レベルでの交流が行われている場面に,なぜかソウルで居合わせたという次第。ETCが今後,日本のゲーム学/ゲーム開発工学に,さまざまな刺激を与えてくれることを大いに期待したい。(Guevarista)
日本工学院専門学校ブース
なんでも,11月2日から6日まで韓国の富川市で開催されていた,富川国際学生アニメーションフェスティバルに引き続いての参加だったそうである。同校が,韓国におけるこの手の催しに参加する主目的は,留学生の誘致にあるそうだ。ブース内には,同校の生徒達が作った作品がPCやパネルで展示されていたほか,パンフレットなどが置かれていた。
ちなみに同校には,「クリエイターズ」「ミュージック」「IT」「テクノロジー」「医療」「スポーツ」の六つのカレッジがある。その中で留学生からの人気が集まっているのは,クリエイターズカレッジの「マンガ・アニメーション科」と,IT関連の学科らしい。
一方,韓国のオンラインゲーム市場の隆盛ぶりを見れば理解はできるのだが,ゲームクリエイターを志望して韓国から同校への留学を希望する人は決して多くはないとのこと。
とはいえ,G★の会場でも用意していた5000部のチラシはほぼすべて配布しきったそうなので,やはりアニメはゲームの近縁分野であり,それなりに来場者の関心を集めた……ということなのかもしれない。まあそう思うと,G★会場が妙に見慣れた風景のように感じられたのも確かである。(TeT)
韓国ゲーム科学高等学校ブース
当サイトではG★2006のときにも,同校についての記事を掲載している。そこで同校が,大学と同等の高度な教育を行うため,大学の存在意義が問われることになるとして,物議を醸していることをお伝えした。今回,実際にカリキュラムを聞いてみたところ,以下のように相当専門的な授業が行われているようである。
1年:
一般高校と同じ教科を学びながら,夜間にプログラミング,グラフィックス,そして企画のいずれかを専攻して学習。冬休みにはチームを組んでモバイルゲームを開発
2年:
必修教科は,ゲーム企画,プログラミング,デザイン一般,ゲームマーケティング,コンピュータゲーム製作(I,II),デジタル映像デザイン,工業入門,情報技術の基礎。選択教科として,ゲームシナリオ,プログラミング,一般コンピュータグラフィックス,アーケードゲーム機,ゲームプログラミング(I,II),ゲームグラフィックス(I,II),ゲーム英語,3次元デザイン実務,ゲームプロジェクト,ゲーム企画実務,映像音楽,ゲーム動画,ネットワークプログラミング,ゲーム分析論といった,より専門的なものが用意されている。さらに,外国語(英語,中国語,日本語から選択)の授業もある。夏休みにはチームを組んで,スタンドアローンのPCゲームを開発
3年:
ゲーム開発の実務中心の教育および,コンピュータゲーム(I),デザイン一般など
この高校では,全寮制が採用されているということもあってか,ざっと見た感じでも,かなり濃密なカリキュラムになっている様子がうかがえる。
こうなってくると,高校を卒業してすぐにゲーム開発の第一線へ飛び込んでいく人もいそうなものだが,今年の春に送り出した同校にとって最初の卒業生100人は,全員が大学へと進学したのだという。なお,そのうち7人はアメリカに留学したとのこと。ただし,専攻については全員がゲーム開発……というわけではないそうで,いわゆる“IT系”を選ぶ人もいたようである。
ちなみに,同校でゲーム開発に関する教科を担当している教員は,全員が現役の開発者でもあり,ゲーム開発をしながら週に3コマの授業を受け持っているとのこと。生徒達にとって,現場の最前線の空気に触れながら技術を習得できるという環境は,やはり日本で想像するような“高校”とは,ちょっとおもむきが異なっているようである。
なお,この高校には系列のゲームデベロッパとしてe-Motion Gameというものがある。ただ,前述のとおり,最初の卒業生が全員進学したため,e-Motion Gameに就職したという例は,今のところまだないそうだ。ちなみに再来年には,系列の大学も作りたいとのことで,現在はその資金集めが行われているという。
高校,大学,そして就職先としてのゲームデベロッパという流れが組み上がれば,若く地力のあるゲーム開発者が大量に生まれる可能性は高い。とはいえ,個人的にはここに,いくつかの疑問を感じてしまったのも事実である。
とくに15歳という年齢から,前述のようなカリキュラムでゲーム開発に必要な知識が豊富に身につくのはよいとして,本人がゲーム開発への意欲を失ってしまった場合,ほかに行き場所はあるのかという点(高卒者を対象とした専門学校ではないのだから)。また,一貫してゲーム開発に特化した教育環境に身を置き続けることが,本当にゲーム開発の役に立つのか?(ゲーム以外に関する知識や技術も必要なのではないか?) といった点である。
これらの疑問点について関係者に尋ねてみたところ,「まだ新しい学校だから……」と言葉を濁していた。確かに,年を経ないことには答えなど出ようもない。どんな分野にせよ新たなことに挑戦するには,それなりの犠牲がつきものではあるが,若者の未来が犠牲になってしまわないことを願いたいものだ。(TeT)
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