企画記事
「リスクとリターンがゲームのポイント」。西 健一氏が“ゲーム制作”を講義する京都精華大学で,学生達の企画発表を見てきた
そんな京都精華大学のデザイン学部 ビジュアルデザイン学科 デジタルクリエイションコースでは,「ゲームデザイン/アプリ開発」の講義が行われており,現在は10数名の学生達(2人の留学生含む)がゲーム制作を実践中だ。
講師陣には,Route24の西 健一氏,猿楽庁の橋本 徹氏,そしてワン・トゥー・テン・デザインの小野友資氏らが名を連ね,それぞれゲームの企画,ゲームの歴史やプロモーション手法,Flashを使ったプログラミングなどを学生達に教えている。
今回,西氏が担当する講義にお邪魔してきたので,ここではその模様と,そこで感じたことをお伝えしていこう。
想定プラットフォームは,ニンテンドーDSやPSPといった携帯機から,PlayStation 3,iPhoneまで,ゲームのアイデアに合わせて自由に選ばれており,そのうえでターゲット層や世界観,ゲームの内容,プレイフローなどが発表されていく。
その内容は,可愛らしいファンタジーものもあれば,ダークな世界観を持つスニークアクション,パズル要素の強いもの,一発芸的なものなど,学生一人一人の個性が反映された企画ばかり。
そして,どの企画でも重点が置かれていたのは,「リスク&リターン」という構造である。
例えばレースゲームの場合,「ターボを使うとスピードが上がる」というメリットがあっても,そこには「スピードが出すぎてコースアウトする可能性が高くなる」といったリスクが伴う。そのため,プレイヤーはどのタイミングでターボを使うか,あるいは使わないかといった選択を,プレイ中にしなければならないわけである。
西氏は学生達に対し,「常に選択肢が複数あって,プレイヤーにそこで何を選ばせるか」が,“ゲーム”であると説いていた。つまり,今回発表された数々の企画は,すべてそれを踏まえたものになっていたわけである。
すべての発表を見終わって印象的だったのは,企画書の段階であるにもかかわらず,ある程度まとまっていて,完成形を想像しやすいものが多かった点だ。
昨年も同様の講義を受け持っていた西氏によると,「去年はもっと尖ったものもあって驚かされたんですが,実際に開発するとなるとなかなかたいへんで,そのあたりを少し言い過ぎてしまったのか,今年の生徒達は少しまとまりすぎかもしれません」とのこと。
指導の結果というのももちろんあるのだろうが,企画内容を見ていると,学生達がどんなゲームが好きなのかを何となく把握できたし,学生達はそれぞれ好みこそあれ,さまざまなゲームで遊んできたからこそ,“ゲームの作法”のようなものをすでに身に付けているのだろうと個人的には感じた。
一昔前であれば「これは本当にゲームなのか?」と思わざるを得ないようなものも,今では“ゲーム”として広く認識されており,多くのプレイヤーを獲得しているタイトルも枚挙にいとまがない。そしておそらく,今後もこうした流れは続いていくだろう。
となると,ゲームの作り手には,従来よりも幅広い知識や経験,創造性が求められることになるはずだ。ただその中でも,ゲームがゲームらしくあるためのポイントは,そう大きく変わることはないだろう。おそらく西氏が「リスク&リターン」という言葉で説明し,学生達に考えさせているのは,そういった部分ではないかと思われる。
この講義を受講している学生達は,日常的に“ゲーム制作だけ”を学んでいるわけではなく,あくまでも選択科目の一つとして,ゲーム制作を学んでいるに過ぎない。
将来はゲーム業界にクリエイターとして飛び込みたいという意欲を持って受講している学生もいれば,ゲーム制作を通じてさまざまなツールの使い方を覚えたいという学生もいる。受講動機はさまざまだ。
ただ,前述のとおり現在は“ゲーム”と呼ばれるものが多岐にわたり,今後も“ゲームとされるもの”は増え続けていくことだろう。それを考えると,ゲーム制作だけに特化した能力を習得するだけでなく,自分の使える武器の一つとして“ゲーム制作”を学べる環境は,好ましいものであるのかもしれない。
西氏は,チームごとに一つの企画を発表させるのではなく,あえて全員に企画立案させることで,実際の開発作業に入って役割分担が明確になってからも,それぞれが自身の役割だけでなく,プロジェクト全体に関与する意識を持てるようになると考え,このような手法をとっているそうだ。
果たして,どの企画が開発に進むことになるのだろうか。そしてそれは,どんな形の作品として結実するのだろうか。
おそらく,開発を進めていく中で当初考えていたものをそぎ落とさなければならなかったり,新たに追加したくなる要素が生まれたりすることだろう。それらもひっくるめたうえで,結果を見ることのできる日を楽しみに待ちたい。
……というか,自然に囲まれていて設備が綺麗で,東京とはまた違った空気の流れ方をしている京都精華大学に,また行ってみたいと思った。
京都精華大学
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