インタビュー
「コンテンツは無料じゃないんです」――いつもの切れ味で語る遠藤雅伸氏に,MMORPG「ドルアーガの塔」の2010年について聞いてみた
これを記念し,名作「ドルアーガの塔」シリーズの生みの親にして,現在はドルアーガのスーパーバイザーを務める遠藤雅伸氏によって企画/監修された,新たなシステムやマップ,クエストが続々と実装される予定だ(関連記事)。
そこで4Gamerでは,遠藤氏や,本作のプロデューサーであるロッソインデックスの大槻林太郎氏にインタビューし,新企画の意図するところや具体的な内容,ドルアーガの今後の方向性などについて,たっぷりと話を聞いてみた。遠藤氏がドルアーガで目指すものとは何か,本作のプレイヤーならずとも確認してみよう。
「ドルアーガの塔〜the Recovery of BABYLIM〜」公式サイト
新エピソードは,リライトされた原典「the Origin of URUK」をベースに展開
ドルアーガの正式サービス開始から2周年を迎えるにあたって,遠藤さんが全面監修したコンテンツが実装されるとのことですが,その経緯や企画意図などを教えてください。
大槻林太郎氏(以下,大槻氏):
今回あらためて,遠藤さんに企画や監修を全面的にお願いすることになった背景には,新コンテンツ「サキュバスの窟」を実装した2009年9月頃に,アイテム消失などの不具合が発生し,プレイヤーの皆さんにご迷惑をおかけしてしまったことがあります。
4Gamer:
と,いいますと?
大槻氏:
アイテム復旧や不具合の解消に取り組み,皆さんのご協力のおかげで今年になってようやく一段落しましたので,あらためて次のアップデートに取り掛かろうという話になりました。ご迷惑をおかけしてしまったプレイヤーの皆さんに,しっかりと作り込まれたコンテンツを提供するためには,やはり,ドルアーガの生みの親である遠藤さんの監修が必要不可欠と考え,お願いすることになったんです。
4Gamer:
実際に,遠藤さんが新コンテンツの企画に関わり始めたのはいつ頃ですか?
大槻氏:
今年の1月頃からです。遠藤さんが開発に携わったコンテンツは,5月以降に登場するエピッククエストを皮切りに,2010年末にかけて実装予定となっています。
4Gamer:
それでは,新コンテンツの内容を具体的に教えてください。
遠藤雅伸氏(以下,遠藤氏):
まず,アニメシリーズを含む一連のストーリーについて説明しておきしょう。過去のゲームシリーズのストーリーは「バビロニアンキャッスルサーガ」として知られていますが,「ザ・ブルークリスタルロッド」(1994年に発売されたスーパーファミコン用アドベンチャー)がマルチストーリーであったために,プレイヤー同士が共通体験を持てない部分がありました。
そこで,この状況を一度整理して,本線となる1本のストーリーを決めておいたほうがいいだろうと考えたんです。アニメ第1期「ドルアーガの塔 〜the Aegis of URUK〜」と第2期「ドルアーガの塔 〜the Sword of URUK〜」につながる展開をも踏まえた形で,それを「the Origin of URUK」としてリライトしました。
4Gamer:
なるほど。
遠藤氏:
一方,ドルアーガ(MMORPG)の時代設定は,ギルとカイがドルアーガを倒したあと,ロッドを返しに行く過程と並行しています。つまり,ドルアーガを倒したのに,なぜか塔が残っているという,つじつまの合わない状況が生じていたんですね。
そこで,今回ゲームに実装する新エピソードでは,舞台設定に手を加え,ゲームもアニメもすべて1本のストーリーとしてきちんとつながるようにしています。そのためには,これまでの内容を変えなければならない部分もありましたが,結果としては,そのほうがファンを裏切らないだろうと判断しました。
4Gamer:
そうなると,ゲームに大きな変更が施されそうですね。
大槻氏:
ええ。例えばマップに関してはこれまでも,原作である「ブルークリスタルロッド」やアニメ第1期に準拠したものではありましたが,あらためて一から組み直しています。
遠藤氏:
まあドルアーガ(MMORPG)は,アニメの第1期と同時期に企画されたわけで,その頃はアニメ第2期についてはまったく考えていませんでしたから。
もちろんアニメ第2期は,第1期を踏まえた内容となっていますので,だったらドルアーガ(MMORPG)は,両者の流れを感じられるものにするといいのではないかと考えたんです。
4Gamer:
ストーリーについてはよく分かりました。今後のアップデートでは,具体的にどのような要素が追加されるんでしょうか。
大槻氏:
今説明した部分では,新たに構築された世界観に合わせ,「キシュア」という村を含む新マップが登場します。
この村は,ゲーム内では北方に位置しており,「森の民族」と「神の天族」が作った村という設定です。かつてギルは,森の将軍の娘と出会い,一緒に旅することになりました。
また新マップでは,村の配置にも工夫を凝らしています。これまでのドルアーガのマップには休める場所が少なく,結果として長い距離を移動する必要がありましたので,それは避けたいと考えたんです。さらに,これまでのように村を放射状に並べたのでは,移動ルートが一本道になってしまい,面白くないので,村同士がきちんとつながるようにしています。
4Gamer:
ルートがいくつも用意されているわけですね。
遠藤氏:
メリットはそれだけではなく,異なったレベル帯の人達が同じ街にいるという構造が生まれます。同じレベル帯の人達ばかりという状況だと,どうしても殺伐としてきますからね。
大槻氏:
そういった遠藤さんの意見に基づいて,新マップでは,同じマップの中に休める場所と狩り場の両方を用意しています。これまでは,狩りをするフィールドと街を別々のマップに分けていましたが,今回初めて,集落が中心にあり,その周囲に狩り場があるというレイアウトに挑戦しています。
遠藤氏自身,プレイヤーとしてゲーム内の様子やプレイフィールを確認
遠藤さんは,そのほかにどのようなコンテンツに携わっているんですか?
遠藤氏:
僕自身,プレイヤーとして不満に思う部分がたくさんあるので,運営には常々文句をいっています。
4Gamer:
具体的には,どんなことでしょう。
遠藤氏:
ガチャの景品に,ゲーム内で生産できるオーブが入ったことですね。実際にガチャを回してオーブが出たときは,「こんなもん入れるな!」と(笑)。とにかく,ガチャに変なモノが入ると怒りますね。ほかにも角とかボイスとか,自分が持ってるキャラクター全部に付けてもまだ余るくらい出たんで,怒りました。
大槻氏:
いつも怒られています(笑)。それほど熱心にプレイしていただけて,光栄です。ちなみに遠藤さん自身は,ゲーム内の最大手ギルドのギルドマスターでもあるんですよ。
遠藤氏:
現在,僕のギルドは組織的な構成になっています。僕がギルドを立ち上げて,組織的に機能するようにしてからは,誰でも参加できるよう広く門戸を開けているんです。サブキャラだろうが,露店専用キャラだろうが,あるいは“看板”だけ欲しいという人であっても構いません。ただ人数制限はあるので,“アクティブにゲームを楽しんでいる人”という制約を課しています。
4Gamer:
遠藤さん自身が著名な人ですから,お近づきになりたくてギルドに入る人も多いのでは?
遠藤氏:
中には情報収集がてら,サブキャラを参加させている人もいますよ。「遠藤が運営の情報をリークするかもしれない」なんて理由で入ってくる人もいますが,「何もしゃべんないや」ってどんどん辞めていくんですね(笑)。
4Gamer:
そこは仕事ですから,きちんと線引きしているわけですね。
遠藤氏:
そもそも知らないことはしゃべれません(笑)。今回の件もそうですが,僕が関わっているのは「企画」なので,運営や開発とは一線を画した立場なんですよ。つまり,このゲームには,プレイヤーに近い立場と,物語を作り出す立場という二つの側面から関わっているんです。
4Gamer:
なるほど。
今サブキャラの話が出ましたが,遠藤さんも複数のキャラを使っているんですか?
メインで使っているのは,特殊なスーツを着ている,例の「遠藤雅伸★」です。それ以外にも,いろんなことを勉強したり,ゲーム内の様子を観察したり,あるいは当たり判定を確認したりするためにサブキャラを使っています。だいたい,月に一度は新しいキャラをレベル1から育てていますね。
4Gamer:
それは大変そうです。
遠藤氏:
とはいえ,それをやらないと分からないことがたくさんあるんですよ。例えば3月頃は,最初のマップでウロウロしている新規プレイヤーが多かったので,「一緒にやろうか」と誘ってみたんですが,チャットのやり方すらよく分かっていないようでした。ほかにも,何をすべきか分からない,座り方が分からないといったプレイヤーがたくさんいたんです。
大槻氏:
声を掛けたとき,遠藤さんは例のスーツを着ていたんですか?
遠藤氏:
着ていたけど,もちろん僕が誰かなんて分かっちゃいません。「よし,じゃあ塔に登ってみようか!」と誘ってはみたものの,今度は鍵の取り方が分からないんです。鍵の周りをグルグル回って,「届かないんですけど」なんていっていました。初心者にとって何が壁になるかは,こうして一緒に行動してみないと気づかないものですよね。
大槻氏:
遠藤さんから直々にプレイ方法を教えてもらえるなんて,うらやましい。
遠藤氏:
とはいっても,僕が遊び方を説明したことがきっかけで,うちのギルドに入ったという人も多いんです。
実をいうと,僕だと分からないようにプレイしているキャラもたくさんいます。あのスーツを着ていると皆に声を掛けられるので,じっくり遊べないんですよ。買い物をしているときにも,「記念撮影いいでしょうか?」とお願いされたりして。一番困るのは,有料バフをかけて狩をしているときですけれど(笑)。まあ,それはそれでもう諦めて,別のキャラをゆっくり育てていたりするわけです。
4Gamer:
ちなみに,メインキャラはどのくらいのレベルなんですか?
遠藤氏:
今レベル37で,転職の一歩手前です。あのキャラが転職するところまでいかないと,皆が納得しないでしょうし。そのわりには,もっと高レベルのマップにも詳しかったりしますが,それは今話したように,別キャラを使って勉強しているからです。
既成概念を破り,幅広い層のプレイヤーが楽しめるMMORPGを目指す
遠藤さんは,普段からドルアーガをさまざまなレベル帯のキャラでプレイして,どのようなことを感じていますが?
遠藤氏:
以前から言ってますが,「長い距離を歩かせるな」と思いますし,デスペナルティも疑問に感じます。非力なPCを使っている場合,きちんと操作していても倒されてしまうことがあるんです。そのたびにペナルティを課す感覚が理解できないんですよ。「これがMMORPGというものだ」で済ませられる問題ではないだろうと思うんです。
4Gamer:
私自身,ゲーム開発者に話を聞く機会は多いですが,「ほかのMMORPGがこうなっているから」といった発言を聞くこともあり,本当にそれでいいのかなと感じたりもします。
遠藤氏:
私はそもそも,「MMORPGだから高スペックPCでないと遊べない」という感覚についていけません。開発者は一度,Netbookを使って遊んでみるべきですよ。そうすれば,Netbookの小さな画面ではマップに何が配置されているのか把握しづらいことや,それ以前に,複数のウィンドウを開けないことが分かるはずですから。
まあ,Netbookは極端な例としても,XGAかSXGAくらいで十分プレイできるようにはしたいところですよね。
大槻氏:
今回,遠藤さんと一緒に企画を進めるうえで,私達自身,「MMORPGとはこういうものだ」という既成概念を取り払うように心がけました。もちろん,実現できることとできないことがありますが,実現可能な点については,遠藤さんの力を借りつつ,少しずつでも進めていくつもりです。
遠藤氏:
今さら直せないという部分もたくさんあるとは思います。とはいえ,移動速度やデスペナルティの件などは,もっと便宜を図って親切にしてあげてもいいのではないでしょうか。
あとはチュートリアルですね。さっきの鍵の話もそうですが,今の状態では,基本的な操作すらつかめずに止めてしまうという人を減らせないでしょう。RPGである以上,日本で普及させるには,「ドラゴンクエスト」シリーズと同じような感覚で遊べるようにすべきじゃないかと思います。
4Gamer:
なるほど。
遠藤氏:
とくにドルアーガは,MMORPGの中でも易しい部類に入ります。ライトプレイヤー向けタイトルとして,そういった部分をもっと意識すべきではないかと思うんです。
- 関連タイトル:
ドルアーガの塔〜the Phantom of GILGAMESH〜
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