インタビュー
「ドルアーガの塔〜the Phantom of GILGAMESH〜」にUGCコンテンツ「幻の塔」が登場。その企画意図などを,沼田健佑プロデューサーと遠藤雅伸氏に聞いた
今回,4Gamerでは,「ドルアーガの塔」のプロデューサーであるウィローエンターテイメントの沼田健佑氏と,スーパーバイザーを務めるゲームデザイナーの遠藤雅伸氏に,幻の塔のコンセプトと概要,そして今後の展開などを聞いた。
「ドルアーガの塔〜the Phantom of GILGAMESH〜」公式サイト
解答が共有されてしまうネット時代に
いかにして「エニグマ」を提供するか
幻の塔の企画は,メインコンテンツであるドルアーガの塔の「エニグマ(謎解き)」を,どう展開していくかという課題から始まった。と言うのは,インターネットを介した情報共有が一般化している現在,どんなに凝った謎を提供しても,誰か一人が解法を発見してしまえば,それが瞬く間に拡散/消費されてしまうからである。遠藤氏は,従来のMMORPGというスタイルを取っている限り,この課題をクリアするのは難しいと考えていたそうだ。
そうした遠藤氏の考えを受けて,沼田氏が思い出したのが,かつて自身がハマッていたというネット上の遊びだった。それは,複数の参加者同士でクイズを出し合い,皆で知恵を合わせて解いていくようなもので,相当な難問もあったという。
ネット上で謎を提供するという点では「ドルアーガの塔」と同じなのに,なぜこの遊びでは盛り上がることができたのか。その疑問に対して,遠藤氏は「それはプレイヤー自身が作り出したコンテンツ(User Generated Content,UGC)だからこそ,成立し得た」と,沼田氏に説明したのである。
「幻の塔は,ドルアーガの塔の上層に存在するという設定で,アニメ「ドルアーガの塔〜the Sword of URUK〜」にて登場しました。そこで,ゲームにもいつか実装しようと話していたんです。アニメでは,さまざまな空間がモザイク的に存在するという設定だったので,UGCとしていろんな人が作ったフロアが塔を構成するというのは相性がいいんじゃないかと。もっとも,各フロアが空間的に塔としてつながっているのかは分からないのですが」(遠藤氏)
通常のゲームプレイとUGCの仕組みを組み合わせた
「幻の塔」のフロア作成システム
具体的なフロアの制作は,「ドルアーガの塔」のクライアントとは別個に用意された専用の「フロアエディタ」を使って行う。フロアに配置する壁や灯篭,モンスター,スイッチなどの仕掛け,謎の解明条件は,ゲーム本編にて「マップチップ」として入手する。また,NPCショップで販売されるチップや有料アイテムとして提供されるチップもある。
たとえばモンスターのチップは,実際にゲーム内でそのモンスターを倒すとドロップする。モンスターのレベルや強さに応じてチップのドロップ率が異なり,スライムのチップなら比較的簡単に手に入るが,ドラゴンになると何十体倒してもドロップしないということもあり得る。
なおこれらのチップは一度しか使えない消耗品なので,フロアをドラゴンで埋め尽くしたいのであれば,その分だけチップをそろえなければならない。
こうしたマップ作成の過程を,沼田氏はファミコンソフト「エキサイトバイク」のデザインモードや,オンラインゲームのハウジングのような感覚で遊べると説明した。
「8ビット的な表現にしたいという提案から,マップエディタのグラフィックスはこうなりました。サンプルで出しているスクリーンショットだと,制作できるフロアが小さく見えるかもしれませんが,実際にプレイして見ると,あれでも大きいくらいなんです。大きいフロアを作ろうとすると,どうしてもそれを全部埋めないといけないという考え方に陥ってしまうのですが,その結果が面白くなるとは限らないんですよね。小さくとも,コンセプトのはっきりしたフロアのほうが面白いんです」(遠藤氏)
また,謎を解いたときにメッセージを表示することが可能となっており,たとえば同じフロアの別の謎のヒントを提示することもできる。もちろん,それを信じるかどうかは,謎解きに挑戦するプレイヤー次第だ。たとえば,「倒しちゃダメ」というメッセージを,言葉どおりに受け取るか,それとも引っ掛けだと捉えるかは難しいところである。
「たとえば,私が先日作った謎は『オレの名前を言ってみろ!』というものでした。作成者の名前を答えるとクリアできるのですが,ただ「沼田」とだけ入力すると,「沼田さんだろ!」というメッセージが流れて,謎解き失敗になります。そんな感じで,アイデア次第でいろいろできるんですよ」(沼田氏)
「そういった仕掛けは,アイコンを選ぶだけで入力できるので,慣れてくると比較的簡単に作れるようになります。フロア作りに多くの人が取り組むほど,変わった発想も数多く出てくるんじゃないでしょうか。
また将来的には,フロア作成のソースをオープン化して,直接スクリプトを組めるようにすることもスタッフと検討しています。実際にフロアを作成/投稿するためには,ゲーム内でマップチップをそろえなければなりませんから,不正使用の心配もありませんし」(遠藤氏)
さらに,謎を解いたプレイヤーに対する報酬の「お宝」もフロア作成者自身が設定できる。トレード可能なものであれば自分で強化した武具や有料アイテムなども設定可能で,遠藤氏いわく「とんでもなく優れた報酬を用意して,多くのプレイヤーを釣ることもできる」という。
「難度の高い謎の報酬として高価なものを用意すれば,多くのプレイヤーが集まってくるはずです。そうした人気はランキングに反映され,上位のフロアを制作したプレイヤーにはアイテムなどの報酬を提供します。とくに『ドルアーガの塔』には,自分でイベントを企画し開催するプレイヤーさんが多いですから,そういった方にはピッタリなコンテンツになると考えています」(沼田氏)
そのほか,数多くのフロアをクリアした人を讃えるランキングも用意される予定だ。遠藤氏によれば「謎を作る側と解く側のモチベーションがそれぞれ存在するので,ぜひ互いに廃人度を競ってほしい」とのことだ。
なお,プレイヤーが制作し投稿したフロアは,その一週間後の定期メンテナンスにてゲームに実装される。投稿されたフロアは,理論上クリア不可能なものや,公序良俗に反するものを除き,基本的にすべて実装されていく。ただし,無限にフロアを増やすわけにはいかないという事情から,実装後しばらく経って,ほとんど遊ばれていないフロアのデータは消去してしまう可能性もあるという。
「どう考えてもクリアできないというフロアをどうするかという議論もありました。しかし最終的には,何かを作るときに,そういう幅があったほうが面白いだろうという判断をしたんです」(沼田氏)
フロアの数に関しては,一生かけても遊びきれないくらい増え続けてくれるのが理想です。『あのフロア,面白いよね』と口コミで広がり,そこに人気が集中するというのもいいと思っています」(遠藤氏)
ちなみに遠藤氏自身も,フロアを制作する予定とのことで,イベントなどで公式に展開するのではなく,あえて一般プレイヤーに混じって投稿するそうだ。クリアするまで作成者の名前を伏せる設定もあるとのことで,どうも意地が悪いフロアだなと思いながらクリアすると,遠藤氏が作ったものだった……ということもあるかもしれない。
「『遠藤のフロアだから挑戦する』というよりも,『くっだらねえフロアだと思ってクリアしたら,遠藤が作ったのかよ』となったほうが面白いじゃないですか」(遠藤氏)
さらに,各フロアを遊んだプレイヤーがその内容や報酬を評価する,「いいね!」機能も実装される。この評価には,専用のアイテムを消費するので,不正に評価を高めることは難しくなっている。この機能を活用すると,「このフロアは遊んでいる人がたくさんいるはずなのに,あまり評価されていない。何か怪しい」といった判断もできるようになると沼田氏は語る。
「それ以外にも,ネットならではの変な使い方ができると思うんですよ。僕自身,ネット上ではあまり行儀がいいほうではないこともあって,ただ普通にプレイするだけでなく,『こういうやり方もあるのか』というような,雑多な使い方も含めた遊びとして幻の塔を楽しんでほしいですね」(遠藤氏)
「UGCを使った取り組みは,MMORPGでは事例があまりなく,成功例も少ないので,ウィローエンターテイメントとしてもかなりのチャレンジです。ただ,『ドルアーガの塔』にはもともと謎解きの要素があったことが幸いでした。通常のダンジョン攻略だけでなく,いかにエニグマを作るかという部分を楽しんでいただきたいですね」(沼田氏)
謎は解くより作る方が面白い
作り手の成熟で多様な謎が生まれることに期待
遠藤氏は,幻の塔の最大の魅力として,「自分で作る」という部分の面白さを挙げる。限られた条件の中で,さまざまな組み合わせを試しているうちに,難解な謎や意外な謎が生まれる可能性があるというのだ。
一方,マップエディターに機能を追加し,プレイヤーがより自由にフロアを作れるよう,条件を緩和することも不可能ではなかったと沼田氏。しかし,あえてコンパクトでシンプルな仕組みにしたのは,遠藤氏が話した「クロスワードパズルが好きな女性」の事例が理由だったという。
「そうした女性の大半は,必ずしも大きなパズルを解きたいわけじゃないんですよ。むしろ,スマートフォンでもできるような小さなパズルを,次々と解いていくことに快感を覚えるんです。解けた,うれしい,はい次,解けた……みたいに。重厚長大ならいいというわけではないんですよね」(遠藤氏)
さらにこの点について,遠藤氏は,現在のゲームシーンでは,攻略法をそのままなぞってゲームをクリアするという楽しみ方が確立されていると指摘。高難度の謎を自力でクリアするからこそ楽しいというコアなプレイヤーが存在するのは確かだが,皆が皆,同じかと言うとそうではないというのが,遠藤氏の見解だ。
そのため幻の塔では,プレイヤーレベルなどの制限は可能な限り排除しているとのこと。もちろん,フロアに配置されるモンスターにはレベルが存在するので,低レベルプレイヤーは歯が立たないケースもあるが,高レベルプレイヤーとパーティを組めば解決できるかもしれない。
「強い敵を自力で倒すことに快感を覚えるプレイヤーは確かに存在しますが,その一方で攻略法どおりプレイしてクリアできればいいという人もいます。そのどちらにもちょうどいい加減というのは,僕らには提示できない。何を作っても,誰かから『何でこんなものを作ったんだ』と言われてしまいます。
しかし,プレイヤーが作ったコンテンツであれば,プレイヤー各自の思想が反映されます。それがUGCの一番いいところであり,受け手側も割り切って楽しめます。新規プレイヤーであれば,簡単なフロアに挑戦したり,自分で簡単なフロアを作ったりするだけでも楽しい。従来のMMORPGにありがちな『塔に登ると数時間は拘束される』というような重いコンテンツではなく,もっと気軽に取り組める新しいゲームデザインを提案しました」(遠藤氏)
なお幻の塔は,今後の「ドルアーガの塔」のストーリー展開に大きく関わっており,このシステムを生かしたイベントなども予定しているとのことである。
「アニメでもそうだったんですが,幻の塔の各フロアは,それぞれが開放された空間となっていて,その空間の中で活動していくと,次の空間への入り口が見つかる。設定上は各空間がつながって塔になっていますが,実際の見た目の部分では塔というイメージはありません。たとえば空間同士がブロック塀で区切られていて,背伸びすれば向こうに別の空間が見えていると開放感がありますし,ゲーム性もまったく変わってきますよね。そんなことも含めて,幻の塔の展開をスタッフに提案しています」(遠藤氏)
それではストーリーもアニメと同じ展開なのかというと,アニメで描いた世界を踏まえさらに大きくしていくことになるだろうと遠藤氏。幻の塔のストーリーは,今後のアップデートにて公式に提供されるフロアを通じて進行していく。とはいえ公式フロアをクリアすればいいというものでなく,プレイヤー作成フロアを遊ぶほどストーリーが進行していくという仕組みも盛り込む予定だそうだ。
「アニメでは,ギルと黒ギルが完全に分かれていますが,幻の塔のストーリーは,その分かれるきっかけになったあたりを描いています。これまでの塔も幻の塔も黒ギルが作り出したものなんですが,肝心のギルはどうしているのかというところを,黒ギル側から描写していければと提案しています」(遠藤氏)
最後に,両氏から「ドルアーガの塔」のプレイヤーに向けて送られたメッセージを掲載して,本稿の締めとしよう。
「2013年の初めに幻の塔プロジェクトの開始を報告して以来,ずっと開発を進めてきました。『このまま幻で終わるんじゃないか』とも言われていましたが(笑),ようやくリリースできる運びとなりました。自分自身でも非常に楽しめる仕上がりですので,皆さんにどんなフロアを作っていただけるかを楽しみにしています」(沼田氏)
「謎は解くだけでなく,作ることも面白いんです。その作る面白さというものを,今風のインタフェースでお届けできることは,僕としても非常に楽しみです。変なものを作れるだけの自由度を用意しましたので,ぜひこちらの予想を裏切るようなものを作って,楽しんでください」(遠藤氏)
「ドルアーガの塔〜the Phantom of GILGAMESH〜」公式サイト
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ドルアーガの塔〜the Phantom of GILGAMESH〜
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