インタビュー
【PR】「AION」サービス初期の仕様を忠実に再現。MMORPGの本質に原点回帰した“クラシックサービス”とは?
エヌシージャパンのMMORPG「The Tower of AION」(以下,AION)で,“クラシックサービス”が今夏にサービス開始予定だ。これは,2009年7月の正式サービス開始時のゲーム仕様を忠実に再現するという試みである
クラシックサービスでは,サービス初期のコンテンツを再び楽しめるだけでなく,昔ながらのMMORPGの醍醐味に今一度触れられるのも,大きな見どころと言えそうだ。
今回,現在のAIONで運営統括を務める坂本康弘氏にインタビューを行い,クラシックサービスのコンセプトや導入経緯,そして昔ながらのMMORPGの良さについてたっぷり話を聞いてきた。AIONのサービス初期の経験者はもちろん,近年のMMORPGに対して何か物足りなさを感じている読者にも,ぜひ一読してほしい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
坂本さんが4Gamerに登場されるのは初めてなので,簡単に自己紹介をお願いします。
AION運営チーム,坂本康弘氏(以下,坂本氏):
現在のAIONで運営統括を担当している,坂本と申します。こうやって4Gamerさんの取材を受けるのは初めてですが,実はエヌシージャパンに入社したのは2006年で,AIONにもサービス開始当初から深く関わっています。
4Gamer:
おや,そうなんですか。以前はどういったお仕事を?
最初は弊社が販売するパッケージ商品に関して,企画から販売までを一通り担当していました。「リネージュ エピソード5 ラスタバド〜混沌の塔〜」や,「リネージュII クロニクル5 血の盟約」以降のパッケージ全部に関わっています。
AIONも同様で,とくに正式サービス開始時に販売した「プレミアムキット」(関連記事)は,今も印象に残っています。ゲームクライアントのDVD-ROMに,多数のゲーム内特典や楽曲CD,スターティングガイドやアートブックなど,特典を詰め込めるだけ詰め込み,外装もアクリルのケースにするなど,可能な限りゴージャスにしました。
プレミアムキットは弊社の直販サイトで,1000本のみの限定販売だったのですが,それがあっという間に完売したときは嬉しかったですね。
4Gamer:
昔はクライアントをダウンロードするのも一苦労でした。パッケージ版を購入すればダウンロードの手間が省けますからね。
坂本氏:
ええ,懐かしい時代ですね。
その後は,マーチャンダイズや企業タイアップなど,時代の移り変わりに応じてさまざまな業務を担当してきました。そして2016年頃からは,運営チームにも関わるようになりました。
そして,2020年11月にAIONの韓国語版でクラシックサービスを立ち上げたところ,大好評でして。それが日本語版でも導入されることになり,私が事業を受け持つことになりました。
4Gamer:
ということは,坂本さんはサービス初期のAIONにお詳しいんですね。
坂本氏:
はい! 本日は,ぜひそのあたりについてたっぷり語らせてください。
そもそも“MMORPGの面白さ”ってなんだ?
4Gamer:
まず,クラシックサービスのコンセプトから説明していただけますか。
坂本氏:
2009年7月に正式サービスを開始したAIONは,現在も多くのプレイヤーの皆様に愛されています。ですが,これまでの12年間で膨大なアップデートを行っており,コンテンツやゲームバランスなども絶えず変化してきました。MMORPGとしての姿形も,サービス初期とはまったく別物と言えるでしょう。
また,現在のAIONはMMORPGとして遊びやすく進化していますが,そのために失われた醍醐味も少なくないと感じています。そういった諸々の状況を鑑みて,サービス初期のゲーム仕様を忠実に再現し,「あの頃のAIONにもう一度触れられる」ようにするというのが,クラシックサービスの基本コンセプトとなります。
4Gamer:
私もサービス初期からプレイしているので,“あの頃のAION”という坂本さんの言葉だけで当時のいろいろな思い出がよみがえってきますね。
坂本氏:
これはアニメやコミックなどでも同様ですが,ある時代に深くハマったコンテンツの記憶は,当時のいろいろな思い出と密接に結びついています。そのため,後年になってコンテンツを振り返ったとき,当時の思い出なども一緒によみがえってくるんですよね。
私も最近,プライベートで十数年ぶりに遊んだゲームがあるんですが,当時の思い出も含めての体験だったんだなと実感しています。
4Gamer:
そういった思い出補正を抜きにしても,当時のAIONのゲームシステムは画期的だったと思います。近年は,さまざまな事情でMMORPGの質が変化しているので,郷愁のような気持ちと共にAIONを振り返ることがあります。
坂本氏:
一人のプレイヤーとしても,そこは共感できますね。
今の時代は,どのジャンルでも“分かりやすく”しないと受け入れてもらえません。チュートリアルからきっちり説明をして,ひとつひとつ丁寧に導いていかないと,そもそも理解すらしてもらえない。実際,現在ヒットしているタイトルを見渡しても,分かりやすいゲーム内容ばかりだと感じています。
4Gamer:
まあ,そうですよね。
坂本氏:
MMORPGもハードルが引き下げられ,遊びやすくなって,大勢に受け入れられるようになりました。でも,少なくとも,私達の世代がMMORPGに対して感じていた醍醐味は,“分かりやすさ”とは違う部分にもあったと思うんです。
面倒くさい部分や手間が掛かる部分を乗り越える喜びといいますか。分かりやすいゲームでは決して味わえない醍醐味が,確かにあったはずです。ゲームに分かりやすさが求められ,その要望にメーカーも応え続けたことで,私達が感じていた「MMORPGらしさ」の一部も失われていると感じています。じゃあ,どうすれば昔ながらのMMORPGの醍醐味を再び味わえるのか? と開発が考えた結果,いっそのこと当時のゲーム環境を丸ごと再現しよう,という考えに至ったのだと思います。
4Gamer:
ちなみに坂本さんは,具体的にAIONのどういった部分で「MMORPGらしさ」を感じていましたか?
坂本氏:
そうですね……。AION初期のコンテンツで強く印象に残っているのは,“時空の亀裂潜入”です。
敵種族の本拠地に単身潜入して,敵対プレイヤーを発見してドキドキしながらPKしようとしたら,思わぬ敵の援軍が現れたり。逆に,偶然居合わせた味方と突発的に共同戦線を張ったり。どのような展開を迎えるのかがまったく予想できず,緊張感や胸の高鳴りが半端なかったです。
4Gamer:
時空の亀裂潜入は,天族と魔族で活動エリアが分断されているAIONだからこそ実現できた,画期的なシステムでしたね。
坂本氏:
あと,敵対種族とのチャットは基本的にできないため,潜入中に相手とコミュニケーションを行うのは難しいのですが,工夫次第では不可能ではありませんでした。
例えば“露店”を行い,その看板に記したテキストは敵対種族にも伝わります。これを利用して「潜入クエストだけやらせてくれませんか?」と伝えると,意外と見過ごしてくれることもあるんです。相手も,敵対種族と遭遇して驚いているでしょうし,常に殺す気マンマンとは限りませんから。
でも,そうして露店を閉じてクエストを進めていたら,敵対種族が現れて,なすすべもなくやられたこともありました(笑)。
つまり回答としては,私が昔ながらのMMORPGで大きな醍醐味だと感じていた,他のプレイヤーとの関わりによって偶発的に発生する“何か”です。そしてAIONには,そういった展開がそこらじゅうに溢れていました。
4Gamer:
ああ,分かります。いや,懐かしいですね。他に,思い出に残っているエピソードはありますか?
坂本氏:
私が現役のディーヴァだった頃,ベルスランやモルヘイム(※共に広域エリア名)は庭のようなもので。敵が潜入してくる“時空の亀裂”の待ち伏せは,毎回楽しみにしていましたね。
また,単にPKするだけでは飽き足らず,例えば,インスタンスダンジョン(以下,ID)に挑戦するパーティを発見したときは,最後の1人だけをPKして攻略を妨害したり。ハイドウォークをしながら敵地をひたすら巡回し続けて……朝,寝坊して会社に遅刻しそうになったことが何回もありました。
4Gamer:
坂本さんって相当なワル……,いや,AIONの運営統括と呼ぶに相応しいキャリアをお持ちですね。もしかしてメインキャラは,魔族のシャドウ ウィングですか?
坂本氏:
ご名答です(笑)。個人的には,初期のAIONで元も面白いクラスはシャドウ ウィングだと思っています。
4Gamer:
私がキュアウィングを使っていた頃,シャドウ ウィングのフレンドとコンビを組んでPKをしていたのを思い出しました。
私が敵地を単身でうろうろしていると,敵対PCが「カモがいる」と思って,襲いかかってくるんです。キュアの私は逃げに徹すると,結構しぶとく生き延びれるんですが,実はそのすぐ隣には,ハイドしたフレンドが待ち構えていて。そしてアクティブスキルを使い切った相手を,後ろからグサリと。この手口で随分と楽しませてもらいました。
坂本氏:
人のこと言えないじゃないですか(笑)
4Gamer:
時空の亀裂潜入もそうですけど,すべてのゲームシステムやコンテンツが最終的にPvPに行き着いているのが,AIONのすごいところですよね。
坂本氏:
ええ,それは同感ですね。天族と魔族でプレイヤーを二分し,活動エリアも全部分けているからこそ,あそこまで奥深いPvPが実現できたのだと思います。仮に,普通のMMORPGにPvPのシステムを後付けしても,時空の亀裂潜入のようなものは不可能ですから。
4Gamer:
もっと言うと,敵対種族へ立ち向かう原動力が,味方への仲間意識の延長線上にあるところも好きでした。
“PvP”という単語からはネガティブなイメージも想起させられますし,その一面もあります。ですが,AIONでは敵対PCとのチャットもできませんし,個人的には狡猾なNPCと知恵比べをしているような感覚でした。
坂本氏:
昔話って始まると止まりませんよね(苦笑)。
AIONは,PvP以外でも偶発的なイベントが盛りだくさんで,毎日ログインするたびに「これからどんなことが起こるんだろう?」とワクワクしていました。やはり我々の世代にとってのMMORPGの醍醐味は,先ほども申し上げた偶発的なイベントに対応する瞬間にあるんだと思います。
今どきの親切なMMORPGは,ゲーム内容が分かりやすいので,当然,先の展開も想像できてしまいます。そこは物足りなさを感じずにはいられません。
4Gamer:
念のためフォローをすると,別に現在のMMORPGのトレンドを否定しているわけではないんですよね。昔には無かった良い部分もたくさんありますし。
ですが,現在のMMORPGジャンルを俯瞰すると,そういったタイトルばかりで選択肢が乏しい部分があります。そういえば,以前に「リネージュM」(iOS / Android)の日本サービスチームに取材したときも,まったく同じ話題で盛り上がりましたよ。
「リネージュM」プロデューサーインタビュー。古き良きMMORPGの魅力と,それを2019年に日本で広めることの難しさとは
MMORPGのジャンルが世に登場して,早20年以上が経過した。昔と比べると現在のMMORPGは遊びやすくなっているが,一方で,尖った部分に欠けていると感じている人もいるかもしれない。今回は「リネージュM」のプロデューサーに,MMORPG本来の魅力と,それを2019年の日本で広めることの難しさを中心に,さまざまな話を聞いてみた。
坂本氏:
フォローありがとうございます。昔ながらのMMORPGの良さは確実にあるので,今回のクラシックサービスでは,そこをしっかりとアピールしたいですね。
サービス初期の「Episode 1.2」をどこまで再現する?
4Gamer:
それでは,クラシックサービスの具体的なゲーム仕様について聞いていきます。基本的には「Episode 1.2」のゲーム環境を,忠実に再現しているんですよね。
坂本氏:
はい。厳密に言うと,2009年7月のサービス開始当初は「Episode 1.0」だったのですが,そこからさまざまな調整をしたバージョンがEpisode 1.2で,サービス初期のAIONと言って間違いはありません。
4Gamer:
サービス初期のAIONって,どんな感じの環境でしたっけ。
坂本氏:
一言でいうと,ディーヴァのレベルキャップが50以下だった時代ですね。広域エリアは天族側がテオボモス,魔族側がブルストホーニンまで。それらのエリアに含まれる各IDも,全部用意されています。
4Gamer:
なるほど。サービス開始時のAIONを代表するIDといえば,やはり「炎の神殿」になるのでしょうか。
坂本氏:
経験者の誰に聞いても,炎の神殿一択でしょうね。当時の炎の神殿は,初めて挑戦するパーティ規模のIDで,多くのプレイヤーに鮮烈な印象を与えたはずです。
炎の神殿の難度は全体的に高めで,適正レベルのパーティでは,かなりキツかったと思います。誰か1人でもミスをしたり,倒す順番を間違えたりすると,すぐにテテン(※リンクの意)してしまいますので。
そのぶん報酬も魅力的で,道中に点在する各種ネームドモンスターのドロップアイテムは重宝しました。そしてなんといっても,ラスボスのクロメデがドロップするユニークアイテムの武器ですね。
4Gamer:
通称“クロメデ武器”ですね。ダメージが突出しているだけでなく,一部が伸びる仕様となっていて,攻撃範囲が広がるのも大きな魅力でした。
坂本氏:
シャドウ ウィングだった私にとって,クロメデ武器は喉から手が出るほど欲しいもので。しかしドロップ率が極端に低く,100回以上は通ったのですが,結局1回も見たことがありませんでしたね。
4Gamer:
私もサービス初期にクロメデ武器のドロップ率を集計したところ,「約6%」でした。その後,アップデートを経てドロップ率は次第に引き上げられ,最終的に100%近くになっています。このドロップ率に関してですが,クラシックサービスではどのように設定されるのでしょうか。
誰でもネームドモンスターとのアツいバトルを満喫できる,「The Tower of AION」の“インスタンスダンジョン”を紹介
人気コンテンツ「炎の神殿」をはじめ,中レベル以降の冒険を彩る「The Tower of AION」のインスタントダンジョン。AIONのバックストーリーにも大きく関わっているので,ぜひ攻略してほしい要素だ。今回は,さまざまなインスタントダンジョンを紹介してみたい。
坂本氏:
もちろん,サービス初期の仕様ですよ。クロメデ武器のドロップ率が100%の炎の神殿を攻略しても,嬉しくもなんともないですよね?
4Gamer:
期待通りの答えで嬉しい一方,そこまで忠実に再現するのかという複雑な心境です(笑)。
そういえば現在のAIONには,離れた場所にいるプレイヤーとパーティを編成するためのサポート機能がありますが,これはEpisode 1.2の頃には無かったものです。こちらに関しても確認をさせてください。
坂本氏:
そのサポート機能は,クラシックサービスにも追加されています。
ただ,当時はIDの入口前で,“誘われ待ち”をしている人達が大勢たむろしていたことを記憶しています。何度も通っていると顔見知りのプレイヤーができて,「今日も会ったね。一緒に行く?」といったコミュニケーションが発生していましたが,あれも昔ながらのMMORPGの光景のひとつでしたね。
4Gamer:
分かります。炎の神殿以外のIDに関してはいかがでしょうか?
坂本氏:
炎の神殿を卒業した後は,人によってプレイスタイルはまちまちでしたが,一般的には「ドラウプニル洞窟」(公式ウィキページ)が印象に残っている人が多いかもしれません。ラスボスの“軍団長 ヴォカルマ”がドロップする“第47 レガトゥス スピア”や,レアポップのネームドモンスター“千年物の黄金のニンジン”など,いろいろなギミックが満載でした。あとは,「テオボモス秘密研究所」や「アドマ城砦」でしょうか。
「テオボモス秘密研究所」 |
「アドマ城砦」 |
4Gamer:
AIONのIDはギミックが満載で,攻略そのものが楽しかったのを思い出しました。個人的には,もはやドロップアイテムすらどうでもよかったです。
私がID攻略で最も好きなクラスは,シールド ウィングでした。攻略中,“このタイミングでプロボーク(※挑発スキル)を行ってターゲットが飛ばないようにして,そのクールダウンタイム中に巡回モンスターが必ずリンクするから,すかさずキャプチャー(※引き寄せスキル)を入れる”とか。
そのほかにも多数いるモンスターに瞬時にサイン(※マーキング)を振って,仲間のターゲットを集中させたり,攻略に慣れた後もパーティ人数を減らして挑戦したりとか。今でもIDによっては,入場からラスボスまでの進行をトレースできると思いますよ。
坂本氏:
なんというか,そこまでプレイしてくださってありがとうございます(笑)
三つ巴によるPvPvEが勃発する飛行可能エリアの“アビス”も
4Gamer:
Episode 1.2では,「アビス」の広域エリアも実装していましたよね。
アビスはAIONの初期サービスを代表するシステムのひとつですが,まずは坂本さんから,あらためて概要を紹介していただけますか。
坂本氏:
アビス以前は,プレイヤーキャラは基本的に地上で冒険し,ディーヴァとして羽根を用いるのも,グライダーに似た“滑空”としての用途がメインでした。しかしアビスでは,その全域で360度の“飛行”が行えます。
アビスの景観は宇宙空間や亜空間といった趣で,大小さまざまの島が浮かんでいます。そういったエリアを自由に飛び回って冒険するのは,従来のMMORPGのプレイスタイルとかけ離れていて斬新なものでした。
4Gamer:
衝撃的と言ってもいいくらいでした。
坂本氏:
そして,もうひとつの大きな特徴が,PvPが主体となっている部分ですね。
それまでは天族と魔族の活動エリアが完全に分かれていましたが,アビスは両者が共存するエリア構造になっています。さらに,アビスにはNPC勢力の“龍族”がいて,これを倒したときの報酬がかなりウマい。龍族をめぐる天族と魔族は必然的に遭遇し,否応なくPvPが発生する仕組みとなっていました。
4Gamer:
天族と魔族と龍族による三つ巴バトルを表す造語の“PvPvE”は,AIONのキーワードでしたよね。
坂本氏:
飛行を前提としたアビスでは,真上や真下を含む視界外から先制攻撃を受けることも珍しくないです。飛行中のみ使えるスキルも多く,例えば相手を束縛し続けて飛行可能時間をゼロにし,墜落させるような戦術も可能でした。シャドウ ウィングにとって,あの恐怖は今も忘れられないですね。
4Gamer:
アビスではプレイヤーキャラの能力だけでなく,プレイヤー自身の戦術に左右される部分がひときわ大きかったと思います。魔法系のクラスは,地上戦では紙装甲なため虐げられやすかったですが,アビスではみな生き生きとしていました。
坂本氏:
MMORPGとしての偶発的なイベントに関しても,アビスでは幅広い展開がありましたね。アビスの各地には,味方勢力全体に強力なバフを与えられる“アーティファクト”が点在していて。最初は小競り合いだったものが,広域チャットを聞きつけたプレイヤーが続々とやってきて,思わぬライン戦に発展することも多かったです。
4Gamer:
アビスと言えば,時として数百名規模に発展する大規模PvPの“要塞戦”も忘れられません。
坂本氏:
その要塞戦に関してなんですが,クラシックサービスの導入にあたり,数少ないバランス調整を行っています。というのも,実装当時の要塞戦は開催時間がランダムで,これだと無駄に不便だというご意見が多かったんです。そのため,スケジュールが事前に告知された,定時コンテンツとして実装しています。
4Gamer:
なるほど。
近年のトレンドを鑑みると,クラシックサービスの開始直後はPvEを主体にして,PvPは少しずつ導入するアプローチもアリかな? と想像していましたが,要塞戦もわざわざカスタマイズするということは,最初からPvPも全力で実装するんですね。
坂本氏:
確かに,今の時代に合わせて遊びやすくするだけなら,PvEをメインにする方向性もあったかもしれません。ですが,PvEとPvPの両方があってこそのAIONで,だからこそクラシックサービスの存在意義があるわけです。
4Gamer:
AIONの思い出は,記事の1本や2本では語り尽くせないのですが,坂本さんにとって「これだけは伝えたい!」という部分は他にはありますか?
坂本氏:
個人的には,時空の亀裂潜入や要塞戦などは,定期的に訪れる“お祭り”のようなものだと考えています。ですが,私がそれ以上に好きだったのは,お祭りに向けた“準備”なんです。
装備アイテムや消耗品を製作するために素材アイテムを集めたり,露店を行って仕事中でもお金を少しずつ貯めたりといった準備をコツコツして,お祭りに挑むまでのプロセス全体を楽しんでいました。いま振り返ると,AIONに限らず昔のMMORPGは,そういった準備をするためのプロセスが,ゲームシステムとしてしっかりと作り込まれていたと思います。
4Gamer:
昨今のタイトルによっては,ガチャでレアアイテムを引き当てれば準備完了,と言えなくもないですからね。
坂本氏:
もちろん,そういうスタイルを否定するつもりは一切ないですが,少なくともAIONの醍醐味は,少し違う部分にあります。
話を戻すと,例えば各種ポーションやスクロール類は,常に高い需要があります。また装備品に関しても,AIONではプレイヤーキャラの名前を“銘”として入れられるので,これを後から振り返ったときに当時のことを思い出して感慨に浸る人もいるでしょう。
これらの製作を行うプロセスで,ID攻略やPvPvEなども密接に絡んでくるので,製作周りのコンテンツにもぜひ注目してほしいですね。
ビジネスモデルは“シエルの機運”利用券を用意
極力ハードルを下げつつ,Pay to Winは目指さないスタンス
4Gamer:
サービス初期のAIONは,昔ながらのMMORPGらしさに溢れていました。ですが言い換えると,ログインするプレイヤーの人数によって,ゲーム体験の質が左右されやすいという側面も強く持っていますよね。
坂本氏:
確かに,AIONの各種システムは,大勢のプレイヤーがいることを前提として作られています。仮に時空の亀裂潜入やアビスで敵対プレイヤーに全然遭遇できないと,緊張感も損なわれるでしょうし。
4Gamer:
つまり,これからクラシックサービスを開始するにあたり,最初にどうやってプレイヤーを集めるかが大きなポイントになりそうです。この点について,どのようにお考えでしょうか。
坂本氏:
最初にはっきり申し上げておくと,クラシックサービスは“Pay to Win”は目指していません。そのうえで,ゲームにログインするためのハードルを,可能な限り引き下げるのが基本スタンスです。
具体的には,新たなビジネスモデルとして「シエルの機運」という利用券を導入します。これは30日単位の契約で,昔ながらの月額課金に近いイメージですね。
また,「シエルの機運」利用券を契約していない状態でもゲームにログインできます。ただし,1日につき1時間を超えると,経験値の獲得量が減少するなど,いくつかの面で制約が生じるという仕組みです。
4Gamer:
サービス初期のAIONは月額3000円でしたが,シエルの機運利用権の料金はどうなるのでしょうか。
坂本氏:
現在は最終調整中ですが,サービス初期の頃のような金額にはならないのでご安心ください。クラシックサービスに関する公式生放送を6月26日に実施する予定で,そこで詳細情報を発表できればと考えています。
「The Tower of AION」クラシックサービス特設ページ
4Gamer:
シエルの機運が未契約の場合に生じる制約ですが,基本的にプレイヤーキャラの育成方面のみになるのでしょうか? それ以外の,例えばレギオンメンバーとのチャットや,競売への出品などは問題なく行えますか。
坂本氏:
採集や直接のプレイヤー間トレードなどは利用できませんが,それ以外は行えます。そうやって気軽にログインしてもらいつつ,ガッツリ遊びたくなったらそのときはシエルの機運をご利用ください,といったイメージです。
なお,クラシックサービスの開始後1週間は,全プレイヤーが無料かつ無制限で楽しめるキャンペーンを実施します。まずは,この期間中にぜひログインしていただき,サービス初期のAIONや,昔ながらのMMORPGの良さに触れてもらいたいと考えています。
4Gamer:
ビジネスモデルに関して,もうひとつ紹介されている「ディーヴァパス」は,どういったものなのでしょうか。
坂本氏:
シンプルに説明すると,新たなデイリークエストやウィークリークエスト,シーズンクエストが追加されます。これらをクリアすると,ディーヴァパスのレベルを上げることができ,その値に応じて支援アイテムなどがもらえるという仕組みです。ディーヴァパス自体は誰にでも発行され,気が向いたときにチャレンジできます。
4Gamer:
ディーヴァパスは,どういった狙いで導入をするのでしょうか。
坂本氏:
ゲームプレイの目標や,プレイするための動機づくりですね。
レベル上げの作業は,人によっては退屈さを感じさせるかもしれませんが,それを少しでも軽減したいなと。例えば長時間ログインできない場合も,「ディーヴァパスのデイリークエストだけはやっておきたい」といった気分になる人もいると思うんですよ。
4Gamer:
AIONよりの前の世代のMMORPG,例えば「リネージュ」などは,レベル上げそのものがメインコンテンツでした。さすがに,今の時代のプレイヤーにそれを強いるのはキツそうですね。
坂本氏:
ええ,そうですね。
ちなみに,レベルアップに必要な経験値量は,AIONのサービス初期の印象と変わりません。当時の経験者なら,仮にディーヴァパスが無くても同じ感覚でレベルを上げられるのでご安心ください。
4Gamer:
ひとつ気になっているのが,魔族の外見に関してです。
サービス初期の魔族の外見はアクが強く,これに起因する天族と魔族の人数差は,AIONの日本語版において長らく問題視されてきました。アップデートを経て,このアクの強さは次第に緩和されていますが,クラシックサービスではどうなりますか?
坂本氏:
サービス初期のまま実装されます。つまり,目は赤く光り,背中のたてがみは消せません。肌色などのカラーパレットも全体的に暗い,“あの”魔族です。
4Gamer:
その気になれば,緩和された状態の魔族をクラシックサービスに実装することもできたと思うんです。けれど,あえてしていない,と。
坂本氏:
繰り返しにはなりますが,AIONの初期サービスを再現するのがクラシックサービスのコンセプトです。あの魔族の外見のアクの強さも,欠かせない要素と言えます。そしてもうひとつ,現在はプレイヤーキャラに対する趣向や思い入れなどが変化しており,とくに不安視はしていません。
4Gamer:
と言いますと?
坂本氏:
12年前は,アニメでも漫画でも勧善懲悪の作品や,どちらかというとベイビーフェイスの人気が高かったと感じています。しかし近年は,ぱっと見だとアクが強くても,よくよく見ると深みを感じさせるようなキャラや作品も人気を博しています。
4Gamer:
主人公が魔物そのものだったりもしますよね。
坂本氏:
サービス初期において,天族と魔族の人数差が大きかった記憶はあります。ただ12年を経て,魔族の外見が受け入れられる土壌は日本にもできているのかなと感じています。
今後のアップデート予定について
4Gamer:
サービス開始後ですが,クラシックサービスでもアップデートは行われるのでしょうか。その場合,どのようなスタンスになるのでしょう。急いで次々とアップデートをするのは,初期サービスを再現するコンセプトから外れてしまいますよね。
坂本氏:
アップデートは行います。我々としては,できるだけ初期のAIONを楽しんでほしいという思いがあり,2009年正式サービス時と同じコンテンツがEpisode 1.2の状態でスタートします。しかし,MMORPGとしてのAIONの完成度という意味では,「Episode 1.5」が最盛期という認識を持っています。
実際にサービスを開始して,プレイヤーの成長スピード等を見ながらの判断になりますが,できるだけ早期にEpisode 1.5を実装したいですね。
4Gamer:
なるほど。Episode 1.5と言えば,「ドレドギオン」や「暗黒のポエタ」あたりが目玉コンテンツになるのでしょうか。
坂本氏:
そうですね。ドレドギオンは,天族と魔族がヨーイドンで突入し,狭いエリアの内部でポイントを取り合いながら激突します。それまでのAIONのPvPは,いつバトルが発生するか分からない偶発的な部分が大きかったですが,ドレドギオンはスポーツライクなPvPで,当時非常に盛り上がったコンテンツです。
一方の暗黒のポエタはPvE系のIDで,道中の獲得ポイントに応じてラスボスが変化するため,最初から最後まで気が抜けません。報酬面も,“タハバタ装備”や“アヌハルト装備”などが突出しており,AIONのサービス全体を振り返っても屈指のIDと言えるでしょう。
「ドレドギオン」 |
「暗黒のポエタ」 |
4Gamer:
そのほかのEpisode 1.5の見どころなどがあればお願いします。
坂本氏:
個人的には“Lv50ディーヴァニオンクエスト”(公式ウィキページ)も推したいですね。
製作のエンドコンテンツでもあり,ハードルは非常に高いですが,コツコツと積み上げるのが好きなプレイヤーにとっては大きなやりがいがあると思います。
4Gamer:
韓国語版のAIONでは,クラシックサービスが2020年11月11日に始まっており,約7か月が経過しています。向こうでは,このクラシックサービスはどのように盛り上がっていますか。
坂本氏:
予想を遙かに超える反響ですね。現在も時間帯によってはログイン待ちが発生しているほどです。
4Gamer:
こういったサービスが実際に受け入れられているのは,昔ながらのMMORPGを知っている者として嬉しいですね。
また,ワールドワイドで見れば,AION以外のタイトルでもクラシックサービスに似た試みは受け入れられていますし,日本でもぜひ盛り上がってほしいと思います。
坂本氏:
もしかすると,このクラシックサービスは,日本におけるMMORPGのトレンドに一石を投じることができるかもしれません。韓国語版での盛り上がりを見ていると,思わずそんなことを考えてしまいますね。
4Gamer:
そこまでの意気込みでしたか。個人的にも,サービス初期のAIONやMMORPGの本質を理解している方が,こうやってクラシックサービスを担当されていて,非常に心強く思いました。
そろそろお時間のようなので,最後に読者に向けてひとことお願いします。
坂本氏:
現在のMMORPGジャンルを見渡すと,ゲームのシステムの分かりやすさや,見るからに可愛らしいキャラクターの魅力を前面に出したタイトルがゴマンとあります。もちろん,人々のライフスタイルも変化し続けていますし,それが時代の流れでもあるので,否定するつもりは一切ありません。
ですが,昔ながらのMMORPGを好む人もいるでしょう。また,そういった人は,昨今のトレンドに対し息苦しさを感じてはいないでしょうか。MMORPGの黎明期から,このジャンルと共に歩んできたエヌシージャパンとしても,「それが,みんなが求めているMMORPGなの?」「実は,こういう遊び方を求めてる人もいるんじゃないの?」という思いがあります。
もし,皆さんが最新のMMORPGに対する違和感を覚えていたら,ぜひクラシックサービスに参加してみてほしいです。我々がこだわり続けて,実際に受け入れられて,そして昨今ではあまり見られなくなった昔ながらのMMORPGの醍醐味を,きっと味わえると思います。
4Gamer:
個人的にも期待しています。本日はありがとうございました。
「The Tower of AION」公式サイト
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