業界動向
スマホ向けから超大作までサポートするサウンドミドルウェア「Wwise」のAudiokineticが日本上陸
Wwiseのメインウインドウ。一般的なDAW(Digital Audio Workstation,コンピュータベースの統合音楽制作環境)に近い |
Wwiseが対応するプラットフォーム。現状で13ある |
ちなみに,Wwiseで何ができるのかについては,2012年4月9日の記事で,榎本 涼氏がサウンドデザイナーの立場から解説している。興味のある人はぜひそちらもチェックしてほしい。そのときAudiokineticは,2012年中に日本オフィスを開設すると予告して話題を集めていたが,当初の計画より若干遅れて,今回の日本法人設立に至ったというわけだ。
Audiokinetic自体が2000年にモントリオール市で設立された若い会社であり,Wwise自体も第1版がリリースされたのは2006年ということなので,知らない人が多いというのも納得だが,2012年には著名シリーズの最新作が相次いでWwiseをサウンド関連のミドルウェアとして採用していたりもした。そのため,ゲームの起動時,意識することなくWwiseのロゴを視界に入れていたという人も少なくないだろう。
Wwiseそのものの動作安定性と性能を高めるだけでなく,プラットフォームSDKの用意や,主要プラグインのサポートも積極的に行い,顧客の要望に応じたカスタム版を提供したり,顧客独自のゲームエンジンに統合したりといったカスタム開発を行ったりした結果,「Wwiseを使うタイトルはAAA級(≒全世界市場がターゲットとなる大作級)が300を超えた。すでにAudiokineticはサウンドミドルウェアのリーダーとして評価を受けるに至っている」(Klein氏)とのことだ。
「(Wwiseの第1版をリリースした)2006年くらいからマメに来日し,日本のデベロッパとは関係を深めてきた。そのなかですぐに気づいたのは,『サポートを提供しなければ使ってもらえない』ことだ」と述べたKlein氏は,日本のデベロッパにWwiseを使ってもらうため,2500ページ以上ものドキュメントと40ものトレーニングビデオ,Webサイト,サウンドデザイナーやサウンドプログラマー用のトレーニングツールなどを日本語で提供すべく,高い精度での日本語翻訳を実行に移し,「(おおむね)達成できた」と胸を張る。氏によれば,たとえばドキュメントは4分の3が完全に翻訳を完了し,今年6月末にも,当初の計画が達成されるとのことだ。
「ゲームデベロッパにとって,新しい技術を採用することはリスクがある。だから私達は,カスタマーサポートと安定性,性能の3つにフォーカスしてきた。私達のゴールはユーザーのニーズに応えるということ。Audiokineticが日本のデベロッパをサポートを提供をしていくうえで,今回の日本法人設立は大きなマイルストーンとなる。日本のデベロッパとの緊密な連携ができることは,私達の将来に向けて大きなできごとだ」(Klein氏)
Jacques Deveau氏(VP Sales & Business, Audiokinetic) |
Deveau氏が挙げた「Wwiseのメリット」 |
- ゲームの音を作るためのツールがすべて揃っていること
- 従来はプログラマー依存度が高かった問題からサウンドデザイナーを解放できること
- 実績が豊富で,導入リスクが低いこと
- 良質なカスタマーサポートが得られること
- ドキュメントが日本語化されていること
このなかでもとくにDeveau氏が強調していたのは,「これまでのゲームサウンド制作は,オーサリングにシミュレーション,インテグレーション,ミキシング,プロファイリングを順に行わねばならなかったため,サウンドプログラマーの負荷が高かったが,Wwiseではプログラマーに依存しない」という点である。
「プロファイリング情報を,ゲームと接続した状態でやりとりできる。パフォーマンスをモニタリングできる(から,極端にCPU負荷やメモリ負荷が大きいようなシーンでは音の数を減らすといった処理を,サウンドデザイナーの側で処理できるという)のは,大きい」(Deveau氏)。
Deveau氏の示したゲームサウンド制作のパイプライン |
Wwiseでできることの一覧 |
プラチナゲームズが導入事例を紹介
国内での勝算は?
また,開発者向けイベントでは,4月の公開が予定されている最新版「Wwise 2013.1」の情報も公開された。それによると,以下に挙げるような新機能などが追加されるとのことだ。
- 最大音量のサウンドが鳴るとき,最小音量のサウンドの音量を一時的に引き下げることで,より高いダイナミックレンジがあると認識させる技術「HDR Audio」
- ゲーム業界でも大きなテーマとなりつつあるラウドネスなどをチェックできる「Meter」や,ラウドネスのノーマライズ機能
- マルチチャネルサラウンドシステム向けのカスタマイズ機能
- サウンドソース編集機能
- 再生中のオブジェクトの音量モニタリング機能「Voice Monitor」
2012年4月の記事で榎本 涼氏が指摘しているように,国内の大手デベロッパ兼パブリッシャだと,たいていの場合,自社開発のサウンド開発環境を持っている。それを捨て,Wwiseを採用してもらうというのは相当に難しいのではないかということでKlein氏に聞いてみたところ,独自の開発環境を持っているからといって,それがWwiseを導入しない理由にはならない,という回答が返ってきた。いわく「AAA級のタイトルにしかWwiseは使えない(ほどコストが高い)というわけではない」「大手が,実験的なプロジェクトに,自社開発のツールではなくWwiseの利用を検討するというのはあり得るし,もちろん,中小のデベロッパがモバイル端末向けのゲームでWwiseを使うというのもある。あらゆるゲーム開発に利用できるのがWwiseの強みだ」とのことである。
確かに,入館時の受付で視界に入ってしまった来場者名簿には,「まったく疑いなく自社開発のサウンド開発環境を持っている」メーカーの名前が見て取れた。日本のゲームデベロッパが採用する可能性について,Audiokineticとしては相当に自信があるのだろう。
Klein氏は筆者の質問に対して「具体的な数も名前も言えないが,大小さまざまな日本のデベロッパが,Wwiseを評価中だったり,実際に導入していたりしている」とも述べていたので,2013年以降,ゲームの起動時にWwiseのロゴマークを見る機会は増えていくのかもしれない。
Audiokinetic日本語公式Webページ
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