北米時間2012年9月13日,「Intel Developer Forum 2012 San Francisco」(以下,IDF 2012)最終日の基調講演に登壇したのは,CTO(Chief Technology Officer,最高技術責任者)の
Justin Rattner(ジャスティン・ラトナー)氏だ。
ニューロウェアの「necomimi」と思われるネコミミ型デバイスをつけて颯爽と(?)登場し,場内の爆笑を誘った氏は,「感情に合わせて耳が動く。パーセプチャル(perceptual,知覚)コンピューティングにおける大きな成果の1つだ」と紹介したうえで,Intelが取り組んでいる次世代技術の紹介を行った。
Justin Rattner氏(Vice President. Director, Intel Labs and Intel Chief Technology Officer. Intel Senior Fellow, Intel)。トークが面白く,笑いの取れるCTOとして知られるRattner氏だが,IDF 2012では見た目でも笑いを取りに来た
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氏いわく「基調講演で,技術的なことを『予測』しないように決めている。お見せできないことは語らない」。というわけで今回は,いずれも実際のデモを伴う形で披露されたのだが,今回はそのなかから,「デジタル無線」に関する話をピックアップしてお届けしたい。
無線技術のRF部分をデジタル化
「フルデジタル無線トランシーバ」へ進むIntel
2002年3月のIntel Developer Forumで,すべてのプロセッサに無線機能を統合すると宣言したPat Gelsinger CTO(※発表時点。現在はVMwareのCEO)。当時は「あまりにも無茶だ」と,Intelのワイヤレス部門から不満の声が上がったそうだ |
デジタル回路は微細化が進んでいく一方で,アナログ回路はそうならない。なので,アナログ回路をプロセッサに統合すると,微細化を妨げる要因となってしまう |
Intelは2002年3月の「Intel Developer Forum Spring 2002」において,2003年3月に正式立ち上げとなる「Intel Centrino Mobile Technology」に先駆ける形で,「すべてのプロセッサに無線機能を統合する」という構想「
Radio Free Intel」を発表していた。その後,進捗の発表はとんとなかったのだが,あれから10年。Intel Labsは「当時はファンタジーだった」(Rattner氏)というこの構想に関する研究を続けており,今回,ついにその一端が明らかになったのである。
さて,デジタル技術の進化が目覚ましいこの時代にあっても,無線技術,とくにトランシーバ(=レシーバ&トランスミッタ)のRF(Redio Frequency)技術部分はアナログ回路のままになっている。
デジタルであれば,プロセス技術の微細化に伴って回路設計を小型化することは容易なのだが,アナログだと,要求される機能に応じて回路サイズがある程度のところで固定化されるため,プロセッサに統合するのは極めて難しかった。スマートフォン用のSoC(System-on-a-Chip)の多くが無線機能を統合せず,別チップ化しているのはこれが理由だ。アナログ回路を統合しようとすると効率が悪いのである。
従来型の無線デバイス模式図。上段がレシーバ,下段がトランスミッタとなっているが,ベースバンド以外はほぼアナログ回路である
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RFシンセサイザとフェーズモジュレータのデジタル化を果たした
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それに対し,IDF 2012でRattner氏が公開したIntelの技術では,レシーバ側のRFシンセサイザ(発信器)を「
Digital Frequency Synthesizer」,トランスミッタ側のフェーズモジュレータ(位相変調器)を「
Digital Phase Modulator」として,それぞれデジタル化してきたのだ。
IDF 2012の時点におけるデジタル無線デバイスの模式図。デジタル部分がその割合を大きく増した
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アナログだと100nmプロセス技術を採用するのが一般的なところだが,たとえばDigital Frequency Synthesyzerでは32nm化に成功し,14nmへの微細化も予定されているのがポイントだとRattner氏。「ムーアの法則を無線技術にもたらす」ということから,このデジタル無線トランシーバには「
Moore's Law Radio」という名が与えられている。
Digital Frequency Synthesyzerは14nm化の道程が見えているとのこと |
32nm技術で製造されるデジタル無線トランシーバ,「ムーアの法則ラジオ」 |
デモのイメージ
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Rattner氏は,「パワーアンプなど,まだアナログの部分は残っているが,フルデジタル化に向けた道筋は見えてきた」として,デジタル無線チップで実際にデータを伝送するデモを披露。さらに,Moore's Law Radioを,Atomコア2基などと統合したSoCのプロトタイプ「
Rosepoint」(ローズポイント,開発コードネーム)を開発したとして,そのウェハも公開している。
トランスミッタ側のデータをレシーバ側で受けるというデモ。Rattner氏が手をかざして無線伝送をカットすると,少ししてビデオ再生が止まり,トランスミッタ側とレシーバ側で共通して採用されるMoore's Law Radioが確かに動作していると確認できた
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デモ用システム(左)と,デジタル無線トランシーバたるMoore's Law Radioに寄ったところ(右)
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Rosepoint。32nmプロセス技術を採用し,Atomコア2基と無線LANトランシーバを単一のダイに統合したSoCだ
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Rattner氏が公開したRosepointのウェハ
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Technology Showcaseの会場でもMoore's Law Radioはチェックできた。無線トランシーバを統合すると,プロセッサ内部クロックとの干渉が気になるかもしれないが,「相互干渉はデジタル的に回避・軽減できる」(Rattner氏)
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デジタル無線トランシーバのフルデジタル化には,まだ時間がかかる。それが具体的にどれくらいなのかRattner氏は言及しなかったため,おそらく,「次期スマートフォン/タブレット向けAtomや次期主力CPU『Haswell』(開発コードネーム)のSoC版が無線トランシーバを統合!」といった話にはならないだろう。
ただ,将来のフルデジタル無線トランシーバ,そして,それを統合することによって実現されるだろうプロセッサのさらなる低消費電力化に,大きな期待を抱かせてくれる発表だったのも確かだ。それが4Gamer読者の生活にどう影響するかは,最終製品の登場を待つ必要があるが,将来に向けて楽しみな話が聞けたとまとめておきたい。
なお基調講演ではそのほかにも,Intel Labsによる研究成果の一部が披露された。ゲームPCで意味がありそうな「ネットワークコントローラレベルのパケット取捨選択による低CPU負荷化(≒低消費電力化)」や,オンラインゲームのサーバーへも応用できそうなネットワーク負荷分散の話が出たので,以下,写真を中心にお届けしておこう。近々に機会があれば,このあたりもあらためてお伝えしたい。
通信系だけでなく,ディスプレイ出力やUSB,PCI Expressなども,干渉の少ない60GHz帯(IEEE 802.11ad)で,近場の周辺機器をワイヤレス接続させようという「WiGig」(Wireless Gigabit)(写真左)。Intelのスタッフが会長を務める業界団体が推進する規格だ。右の写真は,WiGigのルーターに接続されたHDD(NAS)のビデオデータを,同じくWiGigで接続されたノートPCで再生し,これをまたルーターに接続されたディスプレイで表示させるデモ
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「Intel Smart Connect Technology」を拡張する「Spring Meadow」(スプリングメドウ,開発コードネーム)。スリープ時にもメールやSNSの情報を受け取るのはもちろん,アクティブ時にも,ネットワークコントローラレベルでパケットの取捨選択を行い,必要なものを取るようにすることで,性能を犠牲にすることなく,CPU負荷を大幅に低減でき,バッテリー駆動時間を延ばせるという
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限られたネットワーク帯域幅のなかで,さまざまな端末に向けてビデオコンテンツを配信していくと,解像度などの違いから,ビデオ品質に満足できない人が出てくる。そこで,ビデオコンテンツを分析し,配信するビデオ品質の最適化を行おうという「Video Aware Wireless Networks」(VAWN)
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ユーザーをパスワード管理から解放する生体認証システム。OSやアプリケーションなどのログインには富士通の技術による静脈センサーを用い,加速度センサーと合わせ,「タブレット(など)がテーブルなどに固定されたら,ユーザーが離れたと判断して自動的にシステムをロックする」というデモが行われた。右下の写真でタブレットの脇に見えるのが静脈センサーだ
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携帯電話のネットワークで用いられるRAN(Radio Access Network,無線アクセスネットワーク)をクラウド化する「C-RAN」。Cは「Cloud」の略だ。China Mobile(中国移動)では,Intelと協力してデータセンター側で基地局を管理し,ネットワーク負荷状況に応じて基地局の有効/無効をリモートから切り替えることで,ネットワーク性能と電力消費の最適化を行っているという
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