業界動向
Access Accepted第353回:99ドルのコンシューマ機「OUYA」は成功するのか
2013年3月に欧米で正式に発売されるという「OUYA」は,「Ice Cream Sandwich」というコードネームで知られるAndroid 4.0をベースにした99ドルの据え置き型コンシューマ機だ。当初はキワモノハードと見る向きもあったが,このところ続けてゲーム関連メーカーとのパートナーシップを発表しており,今や,欧米ゲーム業界で最もホットな存在になった。今週は,そんなOUYAについてまとめてみよう。
世界中のゲーム関係者が注目するOUYA
クラウドファンディングサイト「Kickstarter」で,最も成功したプロジェクトの一つとなった「OUYA」は,Android 4.0をベースにした据え置き型コンシューマ機であり,現在,ゲーム業界やゲーマーの間で大きな話題になっている。CPUにNVIDIAのTegra 3を搭載し,1GBのメインメモリと8GBフラッシュストレージを実装したOUYAは,手のひらに乗る,ルービックキューブほどの小型ハードウェアだ。ハーマンミラーやプラダ,サムスン,ピューマなどのプロジェクトに関わってきた世界的に有名なデザイナー,Yves Behar氏がデザインを担当しており,スタイリッシュなコントローラにはタッチパッドまで用意される。
このプロジェクトを立ち上げたのは,北米の新興企業,Boxer8のCEOであるJulie Uhrman氏で,同社の役員には「Xbox四天王(の一人)」と呼ばれたEd Fries氏など,業界の著名人が名前を連ねている。Behar氏やFries氏など,公になる以前から綿密な計画が練られていたプロジェクトであるのは間違いなく,Kickstarterでの発表は,投資を集めることより,宣伝が主たる目的だったのではないかという気さえしてくる。
ともかく,2012年7月10日にKickstarterに企画が発表されるやいなや,わずか8時間で目標額の95万ドルをクリア。この記事の掲載時点でまだ数日を残しており,最終結果は分からないものの,約5万人から約650万ドルを超える資金を集めている。
OUYAへの協力を表明したゲームメーカーは,すでに80社を超えており,メジャーなところでは,早い段階で協賛を発表した「Minecraft」のMojangや,都市建設ゲーム「Triple Town」で知られるSpryFoxがある。具体的なタイトルとしては,Cliffhungerの「Shadowrun Online」や,Robotokiの新作「Human Element」の特別版がリリースされることが明らかになっており,さらに7月31日にはスクウェア・エニックスがローンチタイトルとして「ファイナル ファンタジー III」を提供することが発表された(関連記事)。
また,300タイトルを超えるライブラリを誇るクラウドゲーミングサービス「OnLive」とのパートナーシップに加え,ライブストリームの「Twitch.TV」やミュージックビデオ配信サービス「VEVO」との提携も発表され,ゲーム以外の楽しみも広がりそうだ。
これほど多くのメーカーの支持を得たのは,OUYAがロイヤリティフリーという立場をとっていることが大きい。OUYAでは,これまでプラットフォームホルダーに収めてきたロイヤリティが必要なくなり,アマチュアからプロまで,本体に同梱されたソフトウェア開発キット(SDK)を使って誰でも自由にゲームの制作/公開が行えるのだ。
こうした姿勢はハードウェアにも適用されており,ユーザーはOUYA本体を自由にカスタマイズでき,サードパーティが発売したパーツと交換したり,ケースを取り替えることができる。
OUYAは,画面のないAndroidタブレット?
これまで30年かけて積み上げられてきた据え置き型コンシューマ機のビジネスモデル,つまり「ハードウェアを安価に提供して市場に普及させ,ロイヤリティで利益を得る」というやり方を一気に壊してしまいそうな勢いのあるOUYAだが,果たしてこれが商業的な成功を収めることはできるだろうか。
また,99ドルで販売されるOUYAのハードウェアは「最新鋭」というほどではなく,そのためOUYAを「タッチスクリーンをテレビに置き換えたAndroidタブレット」と表現する人もいるほどだ。新鮮味はあるものの,ゲームそのものは「現在のモバイル機でプレイできるもの」と大差なく,魅力的で,かつ技術的にも“イノベーティブ”(革命的)なタイトルを作るためのハードルは高そうだ。
さらに,誰でも自由にゲームが制作できる「オープン」なプラットフォームでは,たとえ優れた作品が出てきても,あっという間に類似タイトルやコピー品の中に埋もれてしまうといった状況も考えられる。現在のビジネスモデルの話をすれば,ロイヤリティはプラットフォームホルダーの収益源であると同時に,低レベルな作品をふるいにかけるチェック機構としても働いている。同様な理由で,センサーシップにも不安が残る。
このような部分は確かにあるものの,多くのゲームメーカーがオープンな据え置き型コンシューマ機を長らく望んできたのも事実だろう。PCは最もオープンなプラットフォームだが,ハードウェアごとの違いが大きすぎ,また変化のスピードも速すぎるなどの理由で,現状,PCゲーム市場は縮小しつつある。ValveのCEOであるGabe Newell氏が「Windows 8はゲーム業界の望むものではない」と発言し,同社のデジタル配信サービス「Steam」のLinuxへの対応を急がせるなど,ゲームのPC離れを示す兆候さえある。
果たしてOUYAは成功するのか,それとも,音楽業界のあり方を変えたNapstarのように,業界を引っかき回して消えていくことになるのだろうか。そもそも,Boxer8がOUYAの「成功」をどのようにとらえているのかさえ分からないが,今後しばらくは,さまざまな話題を提供してくれそうだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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OUYA
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