業界動向
Access Accepted第419回:またかよデューク〜再び起きた「Duke Nukem」の権利問題
エイリアンの大軍勢にたった1人で立ち向かう男,デューク・ニューケム。まさに「地球最後の希望」だが,そんな彼でも版権問題はあまり得意ではないようだ。FPSのカリスマ的ブランドとしてファンに愛されてきた「Duke Nukem」だが,IP(知的財産権)にまつわる問題が,再びややこしいことになってきたという。
デューク・ニューケムの知的財産権が再び裁判に発展
「Rise of the Triad」のリメイク作品を開発したことで知られるデンマークのゲームメーカーInterceptor Entertainmentが,「NoGumNeeded.com」というティザーサイトを公開し,「Duke Nukem」シリーズの新作発表に向けたと思われるカウントダウンを開始した。新作のタイトルは,以前開発がアナウンスされた「Duke Nukem: Mass Destruction」らしいが,この発表に関していろいろとまた,ややこしい事が起きているのだ。
事の起こりは2014年2月1日,Interceptorが上記のサイト名「NoGumNeeded.com」(チューイングガムなんていらないよ)の元ネタともいえる「AlloutofGum.com」(チューイングガムが切れてしまった)というティザーサイトを公開したことだ。掲載されたアートに,シリーズの主人公であるデューク・ニューケムの得意のセリフ“Kick-Ass”が確認できたほか,エイリアン文字で「Duke Nukem: Mass Destruction」の名前が書かれており,そのため,いよいよ公開されるのではないかという情報が欧米ファンの間を駆け巡ったのだ。
ただし,2011年に「Duke Nukem Forever」をリリースしたGearbox Softwareからの抗議があったらしく,このサイトは数日後に閉鎖されている。
大人気となった「Duke Nukem 3D」がリリースされたのは1996年で,すでに20年近く前の話になる。当時,続編として発表された「Duke Nukem Forever」の難産とドタバタについては,2009年5月に掲載した本連載の第218回「さよならデューク 〜 Duke Nukem Foreverの歴史」と第219回「どうなるデューク 〜 マッチョヒーローを巡る攻防戦が泥沼化」で詳しく書いたとおりだ。
Take-Two Interactiveが3D Realmsを訴えた裁判の結果,「Duke Nukem」シリーズのIP(知的財産権)と「Duke Nukem Forever」の開発権はGearboxのものとなり,2011年(日本では2012年),同作はTake-Two Interactive傘下の2K Gamesをパブリッシャとしてリリースされた。
さて,以下は複数の会社が出てくる話になるので,登場するメーカーを簡単に整理しておこう。
・3D Realms
Apogee Softwareの子会社で,「Duke Nukem」から「Duke Nukem 3D」までを開発した。代表は,スコット・ミラー(Scott Miller)氏。
・Interceptor Entertainment
2010年,デンマークのアーボルグに設立されたデベロッパ。「Unreal Engine 3」を利用した「Duke Nukem 3D: Reloaded」というアマチュアプロジェクトを進めていた。CEOは,フレデリック・シュレイバー(Frederik Schreiber)氏。
・Take-Two Interactive
北米の大手パブリッシャ。「Duke Nukem Forever」開発が遅れているとして3D Realmsを提訴した。「Duke Nukem Forever」をリリースした2K Gamesは同社の傘下。
・Gearbox Software
「Duke Nukem」シリーズのIPを手に入れ,制作が止まっていた「Duke Nukem Forever」の開発を担当したゲームメーカー。CEOは,3D Realms時代に「Duke Nukem 3D」のレベルデザイナーを務めたランディ・ピッチフォード(Randy Pitchford)氏。
ティザーサイト第1弾「AlloutofGum.com」が閉鎖されてから数日後の北米時間2月13日,Gearbox Softwareは,3D Realmsのスコット・ミラー氏を提訴した。
北米のゲームサイトPolygonに,Gearboxから3D Realmsにあてた訴状(Cease and Desist letter)とされるものが掲載されているが,そこでGearboxは,「3D Realmsは,Duke NukemのIPをGearboxに売却したあと,無断で新作のDuke Nukemプロジェクトを進めている」と非難している。
またピッチフォード氏はかつて,北米のゲームサイトJoystiqのインタビューで「Duke NukemのIPを購入した」と語っており,要するに,シリーズの新作を作ることができるのはGearboxだけであり,「Duke Nukem: Mass Destruction」の開発を続けてはいけないと警告しているのだ。
新作の名前は「Duke Nukem: Survivor」
しかし2014年3月,投資会社のSDN Investが,Apogee Softwareと3D Realmsを買収し,投資先の1つであったInterceptorと合併させたことから,話がややこしくなってきた。スコット・ミラー氏に変わって,マイク・ニールセン(Mike Nielsen)氏という人物がApogeeおよび3D Realmsの新たなCEOに就任したが,同氏は2013年10月以来,SDN InvestからInterceptortへ出向していたという。つまり,実質的に3D Realmsが「Duke Nukem」シリーズの新作を制作するのとあまり変わらない状況になったわけだ。
ちなみに,Apogeeの社長であるテリー・ナギー(Terry Nagy)氏はこの件について,「Apogeeと『Rise of the Triad』の版権は買収されていない」と同社の独立性を主張しており,今のところ,このあたりの事実関係はよく分からない。
Apogeeはまた,2K Gamesや3D Realmsとは関係なくニンテンドー3DS向けの「Duke Nukem: Critical Mass」を2011年,Deep Silverからリリースしているが,Apogeeが3D RealmsやGearboxから訴えられたという事実はない。権利関係は,かなり複雑であるようだ。
「Duke Nukem: Mass Destruction」の公式Facebookページに記載された断片的な情報によると,同作はPCとPlayStation 4向けに開発が進められており,「Diablo」を思わせる斜め見下ろし視点のアクションRPGとなり,大統領を誘拐しようと押し寄せるエイリアンをなぎ倒していくストーリーが展開されるという。
3月26日には,ミラー氏がPolygonにメールを寄せており,それによると「Duke Nukem: Mass Destruction」は仮称で,正式タイトルは「Duke Nukem: Survivor」になるとのこと。そのうえで,Gearboxが「Duke Nukem Forever」のIPを得た際,3D Realmsから不法に権利を奪ったとも主張しており,この「Duke Nukem: Survivor」のライセンス契約は,GearboxがIPを取得する以前に行われていたとしている。
ミラー氏は,「AlloutofGum.com」のティザーサイトを非公開にしたのは,相手の立場を尊重したからだとしており,Gearboxからの警告に対してはすでに回答したという。それが新しい「NoGumNeeded.com」の公開につながったと思われ,「Duke Nukem: Survivor」の発表を行おうとする強い意欲が感じられる。
今のところ,Gearboxは,この件に関してコメントを出していないが,Gearboxで「Aliens: Colonial Marines」の開発を終えたチームが,2013年末から「Duke Nukem: Begins」という,デュークの過去を描く,いわゆるオリジンストーリーの新作を制作中だという未確認情報もある。別のメーカーから同じブランドのゲームがリリースされるのは好ましいことではないので,今回,提訴に踏み切ったのもそのあたりが理由かもしれない。
「Duke Nukem 3D」が発売された1990年代後半,それが「DOOM」や「Quake」と並ぶ人気作であったのは間違いないが,現在,そこまでこだわるほどの名前であるとは,正直,筆者には思えない。FPSの黎明期を支えたビッグタイトルだったのは疑いないが,長い期間を経てリリースされた「Duke Nukem Forever」の評価は必ずしも高くなく,最近のゲーマーの心に訴えるかどうかはよく分からない。
思わず「またかよデューク」と言いたくなってしまう今回の出来事。見下ろし型のアクションRPGになるという「Duke Nukem: Survivor」がゲーマーを再び“Kick-Ass”するのか,それともリリース見送りになるのかは,近日中にハッキリするだろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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