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Access Accepted第627回:ポーランドのゲーム業界事情を現地の開発者たちに聞いてみた
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印刷2019/11/18 12:00

業界動向

Access Accepted第627回:ポーランドのゲーム業界事情を現地の開発者たちに聞いてみた

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 ポーランドでは,「Dying Light」や「ウィッチャー」シリーズなど,世界的なヒット作/話題作が数多く誕生している。また,東欧最大となるゲーム開発者会議「Game Industry Conference」やファンイベントの「Poznań Game Arena」が開催されるなど,ゲーム熱はかなり高まっている。そんなポーランドのゲーム産業について,同国を代表するデベロッパであるTechlandの開発者に話を聞いてきた。


次々と気になるヒット作を生み出すポーランドのゲーム業界


2019年10月17日から20日にかけて,ポーランドのポズナンにてゲーム開発者会議「Game Industry Conference Poznan 2019」と,ゲーム博覧会「Poznań Game Arena」が開催された
画像集 No.004のサムネイル画像 / Access Accepted第627回:ポーランドのゲーム業界事情を現地の開発者たちに聞いてみた
 2019年10月17日から20日にかけて,ポーランドのポズナンで,東欧最大となるゲーム開発者会議「Game Industry Conference」と,ファンイベントの「Poznań Game Arena」が開催された。海外からゲーム開発者を呼び基調講演を行うとか,新作が大々的に発表されるという場にまでは成長していないものの,その規模は年々大きくなっているイベントだ。

 ポーランドのゲーム会社と聞いてどんな名前を思い浮かべるだろうか? 海外ゲームに詳しい人であれば,「ウィッチャー」シリーズや「サイバーパンク 2077」のCD Projekt RED,「Sniper: Ghost Warrior」のCI Gamesや「Shadow Warrior」のFlying Wild Hog,「Painkiller」や「Bulletstorm」のPeople Can Fly,「Dead Island」や「Dying Light」で知られるTechland,ほかにもKlabaterやThe Farm 51などが頭に浮かぶのではないだろうか。

 インディーズメーカーにまで広げると,4Gamerで取り上げたことのあるタイトルの会社だけでも,以下に羅列したように錚々たる名前が並ぶ。

・11 bit Studios:「This War of Mine」「Frostpunk」
・Anshar Studios:「Gamedec」
・Acid Wizard Studio:「Darkwood」
・Bloober Team:「Layers of Fear」「Blair Witch」
・Creepy Jar:「Green Hell」
・IMGN.PRO:「Kholat」
・Layopi Games:「Devil’s Hunt」
・Madmind Studio:「Agony」
・Pixelated Milk:「Ragalia: Of Men and Monarchs」「WARSAW」
・Destructive Creations:「Hatred」
・PlayWay「Castle Flipper」
・Superhot Team:「SUPERHOT」
・Teyon:「Terminator: Resistance」
・The Astronauts:「The Vanishing of Ethan Carter」
・Ysbryd Games:「恐怖の世界」(World of Horror)

ポーランド国旗が掲げられたヴロツワフの街……ではなく,「ダイイングライト」の舞台となった架空都市ハラン。眼下にはゾンビがうろついている
画像集 No.003のサムネイル画像 / Access Accepted第627回:ポーランドのゲーム業界事情を現地の開発者たちに聞いてみた
 とはいえ,ポーランドのゲーム市場規模は5億5000万ドル(約600億円)ほどと見られており,15兆円といわれる世界全体の規模からするとそこまで大きくはない。産業の大きさでいうと世界24位と,GDPの世界ランキングと似たような数字になっている。Game Industry Conferenceの運営を統括するヤクブ・マルシャウコウスキ氏(Jakub Marszalkowski)氏とのインタビューでも話題にあがったように,3840万人ほどの人口で消費が少ないことや,大手パブリッシャが販売/開発拠点をポーランドに置いていないといったことが少なからず影響していると思われる。また,PCやコンシューマ機向けの作品が多く,“ドル箱”といわれるモバイルゲーム市場への参入が少ないことも影響しているようだ。

 その一方で,ゲーム業界の世界的な成長率が過去5年平均で6%なのに対し,ポーランドは9%というスピードで発展を続けている。上記した作品群を見ても感じられるように,アクションゲーム,RPG,ホラーアドベンチャー,サバイバル,シミュレーションなど,メインストリームと呼ばれるジャンルにおいては,「面白いことをやってるな」と感じられるものばかりなのだ。そのパワーとクリエイティビティの源泉は,いったいどこから来るのだろうか。

インタビューを受けてくれたTechlandのゲーム開発者


 そんな筆者の疑問が,一度のポーランド訪問ですべて解けるわけもないのだが,Game Industry Conferenceの会場で,ポーランドで十分な経験を持つデベロッパに,「ゲーム開発事情を解説してくれないか」とツテを辿って探し回ってみたところ,2人の開発者が名乗りを上げてくれた。それは,Techlandに在籍するシニア・レベルデザイナーのピョートル・ミスティガッシュ(Piotr Mistygacz)氏と,アニメーション・ディレクターのダヴィッド・ルブリカ(Dawid Lubryka)氏の2名で,現在同社が開発中の「Dying Light 2」や今後の方針といったことについては聞かない,という条件で,快く引き受けてくれた。

 Techlandはポズナンの南,ドイツやチェコの国境に近いポーランド南西部にあるヴロツワフ市に,1991年に設立されたデベロッパだ。それは,非共産主義政府のポーランド共和国が成立してから間もない頃で,東欧においては最古参のゲーム企業である。
 2003年にSF系FPS「Chrome」を開発して以降は自社エンジンにこだわり,「Call of Juarez」「Dead Island」「Dying Light」といった1人称視点のアクションゲームやアクションレーシングに絞った開発を続けている。そんなTechlandで,ミスティガッシュ氏とルブリカ氏の両名は,開発部隊をまとめるベテランといったところだという。

Techlandのシニア・レベルデザイナー,ピョートル・ミスティガッシュ氏(右)と,アニメーション・ディレクターのダヴィッド・ルブリカ氏のお二人
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4Gamer:
 本日は,インタビューを受けていただきありがとうございます。まずは,お二人の経歴を教えてください。

ミスティガッシュ氏:
 私がTechlandに入社したのは12年前のことで,私にとっては初めての就職先でした。「Warhound」というリリースされることのなかったアクションゲームが最初のプロジェクトになりましたが,その後は「Call of Juarez」のサポートに加わったのを機に,2009年にリリースされた「Call of Juarez: Bound in Blood」以降のプロジェクトにはほとんど関わっています。

ルブリカ氏:
 私はTechlandで働いて10年目です。もともと,ヴロツワフでは求人するほど大きなゲーム企業といえばTechlandくらいしかありませんから,長く在籍している人が多いですね。今でこそ別の会社で働いていた人が加わるようにもなりましたが,海外はもちろんポーランド国内においても,転職者の比率は低いと思います。「Chrome」の開発に関わった,我々よりも古参のメンバーもまだまだいますからね。

4Gamer:
 お二人が学生の頃は,ポーランドでゲーム会社に就職するという選択は一般的だったのでしょうか?

ミスティガッシュ氏:
 私はヴロツワフ工科大学でコンピューター関連の勉強をしていましたが,ゲーム会社で働くことになるなんて考えてもいなかったです。でも,地元にはそれほどIT企業があったわけでもなく,求人広告などを探していたとき,Techlandでゲームデザイナーのインターンシップが募集されていたんです。レベルデザインって言われても何のことかさっぱり分からなかったのですが,いくつかのプロジェクトを与えられて正規雇用されることになりました。そもそも,ポーランドにコンピューター関連の人材が多くいなかったのが幸いしたようです(笑)。

4Gamer:
 ルブリカさんはどうでしょう。

ルブリカ氏:
 私は幼い頃から3Dモデリングに興味があって,高校生の頃はCGアートの自作ばかりしていました。2Dよりも3Dに興味があって,夢はCG映画のアニメーターになることだったんです。ただ,ポーランドではまだコンピューターグラフィックスを勉強できるような場所がなかったのでイギリスの専門学校に行きました。運の悪いことに,ちょうど2008年から2009年にかけての世界金融危機でCG会社などに投資が回ってこなくなった時期で,雇用先が随分と減り,就職活動にはかなり苦労しました。
 そんな頃,ちょうど高校の同級生と話す機会があったのですが,彼がTechlandに就職していて,アニメーターとして働きに来てくれないかと言われたんです。私は当時からゲームでよく遊んでいて,高校生のときにTechlandへ社会見学にも行ったことがあったのに,なぜそれまでTechlandのことを考えなかったんだろうと思いました。

4Gamer:
 お二人とも出身は地元なんですね。

ルブリカ氏:
 そうです。地元以外からの人も会社の規模が大きくなるにつれて増えていきました。アート部門を拡大する際に人材確保を担当したのですが,ポーランド国内では見つからず,フランスのアーティストを雇ったのが,初めての外国人雇用者になりました。今はどの部門でも必ず複数人いますね。

ミスティガッシュ氏:
 Techlandには,無料の英語授業みたいなものがあって,必要だと思う人はレッスンを受けられます。そして,グループミーティングに1人でも海外出身者がいれば,そこでは英語で話します。とくに最近は上層部やチームリーダーにもポーランド人ではない人が増えているので,我々ポーランド人も英語を話せることが絶対条件になっているんです。

4Gamer:
 少し時間を巻き戻してお話をさせてもらいます。ポーランドが共産主義を脱した1988年から89年より以前は,ポーランドのゲーム市場はどのような状況だったのでしょうか。

Techlandが本格的に海外展開をしたのは,SFシューターの「Chrome」(2003年)で,続編もアナウンスされていたが開発中止となった。しかし,その伝統とテクノロジーは「Call of Juarez」や「Dying Light」といった同社のヒット作に受け継がれたという
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ルブリカ氏:
 ポーランドで知的財産権の保護法が出来たのが1992年なので,それまではまあ(笑)。そもそも,PCだけでなくAtariやCommodoreなどは,当時のポーランドでは高価過ぎて,本当に一部の人しか買えなかったのです。ですから,そうしたPCやゲーム機器の愛好家たちが寄り集まって,お互いが入手したゲームをコピーし合うとか,そういうレベルの“市場”だったんですね。

ミスティガッシュ氏:
 TechlandがPC向けに自社開発を行ったのは2000年の「Crime Cities」が初めてのことになりますが,それ以前からもゲームを開発するクリエイターがポーランドに存在していたことは間違いありません。ただ,1人で作っていたり,作ったことに満足して大きな展開を目指さなかったりと,ビジネスとして成立していたのかどうかは疑問です。1980年代からゲームを作っていた人は少数ですが今でも現役バリバリで,役員にまでなっている人もいれば,一匹狼として活動しているソス・ソソウスキー(Sos Sosowski)氏のような人もいます。彼らはポーランドゲーム業界の重鎮といえる人達ですね。

人材は豊富ながらも全く足りていないというお家事情


4Gamer:
 ゲーム会社としては,Techlandがポーランド国内最古のメーカーなのでしょうか。

ルブリカ氏:
 ええ,そうですよ。TechlandとCD Projektは元々ディストリビューターとして出発し,しばらくしてからゲーム開発に乗り出しました。1990年代から存続しているのは,この2つくらいですね。
 CI Games (旧City Interactive)は,1990年代に発足したいくつかのメーカーが合併して2002年に再起業した会社ですが,数百人規模の雇用者がいる企業はこの3つくらいだと思います。CD Projekt(約900人)が規模では群を抜いていますが。

ミスティガッシュ氏:
 1980年代にAmigaをいじっていたプログラマーたちの経験がTechlandの土台になっています。ゲーム開発のイロハから海外向けの展開まで,とにかく1990年代から2000年代にかけて,我々は多くのことを学びました。それほど大きくない業界ですから,そういう探求心が共有できているところが,今の活況の下地になっているのかも知れません。

4Gamer:
 なるほど。かなり実践的な学習といえますが,実際の教育現場も整備が進められているのでしょうか。

ミスティガッシュ氏:
 私は最近,ポーランド国内の学校で講義を請け負うようになりましたが,ほかのヨーロッパ諸国と比較すると十分と言えません。これまでお話ししてきたように,ポーランドのゲーム業界はまだ若くて現役で活動している人が多いので,教育現場にまで人が回っていないんです。
 とくに公立大学はダメで,専門学校のほうが情熱をもって取り組んでいるケースが多いですね。ただし,誰が教えるかによってクオリティがまったく変わってくるので,そこは難しいでしょう。結局,ボクら2人がそうだったように,ゲームを開発していく中で経験を積んでいくほうが早いんです。情報を共有できる仲間も周りにいますからね。

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ルブリカ氏:
 そうそう。今でもそんな状況ですから,2000年代なんて本当に何もない状態で模索していました。私も高校生の頃は3d Maxの愛好家たちが集うフォーラムをチェックしては,彼らとのコミュニケーションの中でツールの使い方を学んでいくしか方法がありませんでした。それより前になると,他国のゲームをお手本にして独学でやっていくくらいしかできなかったでしょうね。

4Gamer:
 お二人のお話しをうかがっていると,デモシーンの盛り上がりに近いものがありますね。

ミスティガッシュ氏:
 ああ,そうなんです。デモシーンやデモパーティと聞いてポーランドを連想する人はあまりいないかも知れませんが,質の高いプログラマーを中心にしたデモパーティは1980年代からポーランとにも存在していました。
 デモシーンで活躍するプログラマーがゲーム会社を設立したということが多くあり,私の知人が立ち上げたInfinite Dreamsというモバイルゲームのメーカーはその1つですね。デモシーンで育ったプログラマーたちは,学校で満遍なく学んだ人とはタイプの異なる,一芸に秀でたプログラミングスキルを持ち合わせているような人たちです。Techlandにも何人かデモシーンで活躍していたプログラマーがいるのですけど,海外メーカーの引き抜きの連絡が多いと聞きます。

ルブリカ氏:
 実際,ウチから大手半導体メーカーに引き抜かれたプログラマーもいましたね。当時の工科大学などの出身者にデモシーンに関わる有能な人物が多かったと聞いています。必ずしもゲーム開発が目的ではなく,銀行やサイバーセキュリティといった分野に進んだ人も多いでしょうが,これまでのポーランドのゲーム開発を支えてきたのがデモシーンのプログラマーたちだったという見解は正しいでしょう。

4Gamer:
 なるほど。Techlandが独自エンジンにこだわる理由も,そういうところにあるのかもしれませんね。「Dyling Light 2」では,「C-Engine」という独自エンジンが使われていますが,「Chrome Engine」とは違うものでしょうか。

Techlandの新作「Dying Light 2」は,2020年春にリリース予定で,前作より4倍も広大となる世界が舞台となる。彼らの手掛けたレベルデザインや3Dモデルに注目したい
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ルブリカ氏:
 2003年に「Chrome」のためのゲームエンジンを開発して以降,わが社ではずっとゲームエンジンを改良して使っているので,「C-Engine」は名称を変更したものです。前作「Dying Light」では第6世代でしたから,正式には第7世代のChromeエンジンということになりますね。独自のゲーム開発用技術を維持していくことは重要です。新規プロジェクトへの対応に効果的ということでもありますから。

4Gamer:
 グローバル展開しやすいのがゲームビジネスの優位性でもあると思いますが,海外でのヒットも考慮されていますか。

本文にあるデモシーン(デモパーティー)とは,グラフィックスアーティスト,ミュージシャン,プログラマーなど異なる分野の人達がチームを組み,より小さなファイルサイズで美しいCGミュージックビデオを作るといった,商業性を無視したイベントであり,ヨーロッパのゲーム開発のバックボーンとなった(画像はWikipediaより)
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ミスティガッシュ氏:
 2007年にXbox 360向けに移植した「Call of Juarez」は,ポーランドで初めてコンシューマ機でリリースされたタイトルで,国外にポーランドのゲーム開発を知らしめた作品だと思います。その直後に入社した私たちも随分と海外での評価や成功を意識するようになりました。ただ,マーケティングのことばかりを考えているわけではなく,何か新しいものを作るという気持ちはを大切にしています。

4Gamer:
 Techlandの作品には,西部劇やゾンビものがあり,国外の市場を狙ったマーケティングを行っているという印象があります。

ルブリカ氏:
 それはおっしゃるとおりですね。我々が関わったわけではないですが,「Chrome」も当時から在籍しているメンバーに話を聞くと,海外で評価されることを意識していたそうです。「Dying Light」にしても,ゾンビというテーマやメレーアクションというゲームシステムは,ポーランド国内ではそれほどポピュラーではありませんし。

4Gamer:
 最近では11 bit Studiosの「This War of Mine」だとか,Juggler Gamesの「My Memory of Us」,Polyslashの「We. The Revolution」というような,ヨーロッパに限定した非常にチャレンジングなゲームもポーランドから多数登場していますね。

ミスティガッシュ氏:
 歴史や文化を扱うゲームやアート作品にはEUから助成金が出るという制度がありますからね。まだ海外に打って出てから15年も経っていないですが,ポーランドのデベロッパたちはかなり自信をつけてきていると思います。
市内の大学で,開発者と学生たちが共同でゲームジャムを行うというイベントも実施された
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ポーランドの企業に見られる集団的向上心の高さ


4Gamer:
 ポーランド国内のデベロッパたちの間に競争心のようなものはあるのでしょうか。Techlandの国内ライバルというとCD Projektくらいしか思いつかないですが。

ピョートル・ミスティガッシュ氏。最近では国内の大学や専門学校,ゲーム開発者会議で登壇する機会が‘増えているという
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ミスティガッシュ氏:
 もちろん,開発者の視点から見て「ここは俺たちのほうがうまくできている」とか「ここは見習わなきゃいけない」という,ある種のライバル心はありますが,彼らのゲームをプレイするのが楽しみですし,本心から成功を願っています。誰かの成功は,我々の成功でもあるんですから。重要なのは,ポーランドという国をゲーム産業の大きなマップの中でしっかりと位置付けることであり,消費者から見て「ポーランド産のゲームだったらプレイする価値はある」と思ってもらえるような,“ブランド”を構築していくことだと思います。

ルブリカ氏:
 ポーランドのゲーム業界はまだまだ小さいですからね。どのメーカーにも友人はいますし,本当に成功を願っています。つまるところ,僕たちだってゲーマーですから,1年中自分たちの作りかけのゲームで遊んでいるわけではありません。ほかのメーカーのアーティストがどのような作品に仕上げてきているのかをチェックしながら,プレイするのは楽しいんです。

4Gamer:
 同じ国の仲間意識のようなものがあるわけですね。

ミスティガッシュ氏:
 そうなんです。市場を食い合っているのではなく,一緒に成長しているトモダチみたいな感じですね。2013年に「Let's Fish」というモバイルゲームで成功したTen Square Gamesというメーカーが近所にありますが,開発環境や生活水準も悪くないと,最近では中国人のメンバーが増えているそうです。ポーランドのゲーム産業が評価され始めていてうれしい限りです。

4Gamer:
 アメリカとかだとある程度の経験を積んで独立みたいな流れが多いですが,ポーランドの場合はいかがでしょう?

ルブリカ氏:
 人それぞれだとは思います。ポーランドの人材不足という状況を経営者から見ると,良い人材を自分のところに留めておきたいという意識が長く雇用されるのだと思います。開発者が多いという国内事情を作っているのだと思います。独立するための資本を用意するのは難しいですし,福祉手当などを考慮すると,少なくともある程度の年齢に達して家族を持った人なら,よほどの条件が整わない限りは再スタートを躊躇するでしょう。私も10年在籍していますからTechlandは家族のように思えますし,居心地が非常に良いのです。

Techlandがあるヴロツワフ市は,国内で最もスタートアップしやすい都市にと言われているらしい(Techland公式Twitterより)
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ミスティガッシュ氏:
 Techland,もしくはヴロツワフにあるメーカー群の社風のようなものかもしれませんが,シリーズ化されたゲーム作りに嫌気がさした人や,自分の考えているゲームプロジェクトをやってみたいという人がいれば,会社として独立や転職を後押しします。Techlandの回りにある小さなデベロッパを紹介したりしてね。そしてまたTechlandに戻ってくることもできます。別にネガティブな意味ではなく,しばらく“休憩”していた彼らが,新しいアイデアを持ち込んでくれることもありますから。

4Gamer:
 ゲーム開発の助成金のようなものがEUから出ているとのことですが,ポーランドの政府や投資会社はゲーム産業を重視しているのでしょうか。


GICにはプラチナゲームズもアウトソーシング先を求めて商用ブースを展開していたが,ポーランドの人件費は上昇傾向にあるという
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ルブリカ氏:
 国内ゲーム業界が注目され始めたのは2年ほど前,ちょうどワルシャワ証券取引所が開局したころで,そこでビジネスを広げるチャンスを得たメーカーもあるのは事実ですね。CD Projekt,CI Games,Bloober Teamあたりは上場していますし。政府に関して言えば,例えば国外のゲームイベントへの渡航費やブース費用を捻出してくれることはあっても,ゲーム開発費の助成はほとんどないですね。少し中途半端に感じます。
 とはいえ,クリエイターとしての立場からいえば,やはり規制に縛られるよりも自由にモノ作りをしたいですから,政府や投資家に口出しされたら,あまり気持ちよくはないですね。
 Techlandは,前作で得た利益を次の作品の開発に使ってきたので,ビジネスという意味では展開は早くないかも知れませんが,政府や投資家のことを意識することはほとんどありません。

ミスティガッシュ氏:
 少なくともポーランド国内においては,我々は最大の独立系デベロッパのままなんです(笑)。

4Gamer:
 ポーランドの平均給与などは,ドイツなどと比較すると少なくなってしまうようですが,国内で育った人材が海外に流出してしまうことは多いですか。

ミスティガッシュ氏:
 今のポーランド国内の経営者たちが,頭を悩ませている部分でしょうね。移動しやすいEUという枠内においては,給与と福祉手当は重要な条件です。もちろん,見識を広めるためにEU圏のほかの国やアメリカに渡る開発者もいますし,高い給与を提示されて移籍する人もいます。

4Gamer:
 有能な人材の国外流出は世界的な課題ですね。

ミスティガッシュ氏:
 ただ,大きな収入につられてしまっても,ポーランドの生活費の低さや子供の学業,国内で提供されている無料の医療などまでを考慮すると,家族のいる私のような場合では,相対的にはポーランド国内に残ることの優位性は高いんです。
 海外に出ていっても,ある段階で帰国する人が多いと感じます。外で経験値を上げて戻ってくるのですから,業界にとっては必ずしもマイナスとは言えないでしょう。

ルブリカ氏:
 私は実際,アメリカのアートディレクターの平均的な生活水準と,自分自身の状況を比較したことがありますが,大きな差はなかったです。やはり家賃や医療,税金までを含めるポーランドの生活コストの低さは魅力的です。

Techlandのキャンパスで企画された地元のゲーム企業やインディーズデベロッパのミートアップ
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4Gamer:
 ポーランドのゲーム業界の展望はいかがでしょう。

ルブリカ氏:
 天駆けるほどの勢いで成長していくと思いますよ(笑)。ポーランドと聞いて連想できるサブカルチャーはまだありませんが,ゲームは我々のクリエイティビティを表現できる分野になりつつあると確信しているので,ポーランドといえばゲームと言われるようにしたいです。
 「Dying Light」や「The Witcher」シリーズをプレイして,高い独自性とクオリティを持つゲームを作れる国だということを,海外のゲーマーたちにも徐々に理解してもらえていると思います。これからも業界の発展に貢献していきたいですね。

ミスティガッシュ氏:
 「Dying Light」のオリジナル版がリリースされたのが2015年4月,「The Witcher 3: Wild Hunt」がリリースされたのは2015年5月ですが,当時アメリカのゲーム系ポッドキャストを聞いていた私は,インディーズを含めたポーランド産のゲームばかりが注目作として取り上げられていることに,大きな誇りを感じました。メーカー数自体は500を超えているので,さらに投資が増えて成長していくことに期待しています。

4Gamer:
 ありがとうございました。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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