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Access Accepted第757回:自由な二次創作で「くまのプーさん」がホラーな存在に
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印刷2023/05/15 08:00

業界動向

Access Accepted第757回:自由な二次創作で「くまのプーさん」がホラーな存在に

画像集 No.006のサムネイル画像 / Access Accepted第757回:自由な二次創作で「くまのプーさん」がホラーな存在に
 
 「不思議の国のアリス」や「ドラキュラ」など,かなり古めの小説ならゲームや映画になっても不思議に思わないかも知れないが,ここに来て黄色いクマの人気キャラクターがホラー映画やサバイバルホラーゲームとなって話題を集めている。それは,A・A・ミルン氏の原作小説が“パブリックドメイン”と言われる,誰でも利用できる公共物になったことが原因だ。今回は二次創作物の現状や,今後パブリックドメイン化するキャラクターにスポットライトを当ててみよう。


パブリックドメイン入りになった“くまのプーさん”


 当連載の読者であれば,先週発表された「Hundred Acre Wood」についてもチェック済みではないだろうか。本作は「100エーカーの森」,つまり1926年に発表されたA・A・ミルン氏の児童小説「くまのプーさん」(Winnie-the-Pooh)を題材に,失踪してしまったクリストファー・ロビンを救うため,ハチミツ好きの恐ろしいクマのぬいぐるみやその仲間たちと戦ったり,隠れたりしながらサバイバルしていくという一人称視点型のアクションゲームとなっている。

B21が制作を発表したサバイバルアクション「Hundred Acre Wood」は,銃器を携帯しているもののステルスやパズルなどが重視されている模様。夕陽を背にしたこのキャラクターは……?
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 ホラー仕立てのプーさんといえば,アメリカのホラー映画「プー あくまのくまさん」(原題「Winnie-the-Pooh: Blood and Honey」)が,2023年6月に日本でも劇場公開される予定となっている。子供の頃に,プーさんのアニメや絵本で育った人は,「どうしてこうなったんだ」と驚くかも知れないが,「くまのプーさん」の知的財産所有権は2021年末で切れており,現在は誰でも利用できる「パブリックドメイン」となっているのである。

1998年に制定された著作権延長法(Copyright Term Extension Act)は,ディズニーが盛んにロビー活動を展開したことから,「ミッキー・マウス保護法」などとも呼ばれた
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 日本語では「公有」と表記されるパブリックドメインについては,当連載の「第592回:クトゥルフ神話を題材にしたゲームが増える理由」でも紹介したことがあるが,こうした知的財産の所有権には,1976年に署名され1978年に施行された「1976年米国著作権法」(US Copyright Act of 1976)という法律が関係している。書籍だけでなく,絵画,映画,音楽,パントマイム,振り付け,建築など多岐にわたる分野が含まれ,「作品を複製する権利」「二次的著作物を作成する権利」「作品を配布・販売する権利」「作品を展示する権利」などが保護されている。

 さらに,上記の連載でも述べたように,ウォルト・ディズニー・カンパニーが盛んにロビー活動した結果として,1998年に制定された著作権延長法(Copyright Term Extension Act)が発効され,著作権は延長されて「1977年以前に発表された法人著作の保護期間が95年」「1978年以降の法人著作の保護期間は,著作権の保持者の死から70年,もしくは制作後120年のうちの短いほう」になった。

 また,映画だと1928年より以前の,つまりほぼすべての無声時代の作品はパブリックドメイン化しており,無料で視聴できるものも多い。オードリー・ヘップバーンさん主演の名作「シャレード」(1963年)のように,著作権延長の書類に不備があったまま改訂されなかったり,そもそも著作権の延長が行われなかったり,もしくは配給元や権利者の放棄によってパブリックドメイン入りしている1928年以降の作品も多い。

 「くまのプーさん」はパブリックドメイン化したことにより,誰でも二次制作物を作成して販売できるようになったわけだが,そんなプーさんが大好きなファンの夢を壊しかねない「プー あくまのくまさん」では今のところ,ディズニーによる訴訟は起こされていない。これは,パブリックドメイン化した創作物を利用した商業作品がどこまで許されるのかという,ある種のベンチマークになるだろう。そして,同じような目で「Hundred Acre Wood」を見ているゲーム業界関係者も多いはずだ。

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“ディズニーの原点”のパブリックドメイン入りで何か変わるのか?


 ディズニーは原題からハイフンを抜き取った「Winnie the Pooh」を商標登録しているので,くまのプーさんの二次創作を作るとしても,オリジナルの名称である「Winnie-the-Pooh」しか利用できない。また,原作では黄色いクマのぬいぐるみでしかないものに,赤いベストを着させているのもディズニー独自のデザインであるため,その辺りの権利もディズニーが保持していくことになる。

「プー あくまのくまさん」は6月23日から全国ロードショーだ
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 「プー あくまのくまさん」はそうしたきわどい部分に触れないよう,それなりに計算されて作られており,IMDB Ratingでは3.1/10点,Rotten Tomatoesに至っては3%と評価される,いわゆる“クソ映画”の部類であるにも関わらず,興行収入はワールドワイドで500万ドル(約6.7億円)に上っている。一般的に劇場公開される映画の評価としては大失敗に見えるが,映画の製作費は10万ドル(約1300万円)という低予算であり,すでに制作投資の50倍を回収したことになる。

 1920〜30年代は,トーキー映画,カラー映画,ミュージカル,コミックス,そしてSF小説や児童文学などの大衆文化が花開き始めた時期でもあるだけに,「バンビ」「ピーターパン」(小説),「シャーロック・ホームズ」(アーサー・ドイル版小説)などはすでにパブリックドメインになっている。キャラクターに限定しても,著作権の期間満了を迎える(とされている)創作物は,今後10年ほどの間でもいくつも存在する。

  • 蒸気船ウィリー (2024)
  • ティガー (2024)
  • プルート (2025)
  • ベティ・ブープ (2026)
  • ドナルド・ダック (2029)
  • スーパーマン (2033)
  • 「ホビット」の登場人物たち (2033)
  • ジェームズ・ボンド (2034)
  • バットマン (2034)
※括弧内はパブリックドメイン化する年

 1つ1つのキャラクターが実際にどのような状況にあるのか,どれだけの著作物がパブリックドメイン化するのかは書いてもキリがないが,直近では「くまのプーさん」シリーズとして1927年のミルン氏の小説に登場した“ティガー”がパブリックドメイン入りすることとなっている。ひょっとしたら,イーヨーやピグレット,クリストファー・ロビンが「Hundred Acre Wood」のDLCで登場する,なんてことはあるかも知れない。

 また,「蒸気船ウィリー」(Steamboat Willie)の“ウィリー”と言えば,ディズニーが最も大切にするキャラクターである“ミッキーマウス”の原型としてファンに知られるキャラクターだ。いくつかの差異はあるものの,「蒸気船ウィリー」を利用するならば慎重になるに越したことはないはずだ。

 というのも,ミッキーマウスの場合は商標が各国でディズニーよって登録されており,今もテーマパークやゲームなど,さまざまな物販品などでそのイメージや名称が利用されているからだ。商標(Trademark)は著作権(Copyright)と異なり,継続的に利用されて法的に登録が延長され続ける限り,永遠に所有権を主張できる。

 では,「蒸気船ウィリー」の何が公有になるかというと,1926年当時に公開された8分ほどの短編アニメーション映画だ。例えばそれをHDアップスケールしたうえでDVDにして販売するとか,音源をサンプリングするなど,その“映像作品自体”を利用することは可能になる。ディズニーもそれを見越してか,13年前にYouTubeで「蒸気船ウィリー」を公開している。

開発が発表された「Mouse」。Steamストアページでは発売予定日が公表されておらず,2024年にずれ込むことになれば二次創作も視野に……なんてことになるのだろうか
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 「蒸気船ウィリー」といえば,「Mouse」というゲームがポーランドのFumi Gamesにより正式にアナウンスされた。“マウス”というタイトルであることから,ディズニー作品をかなり意識したのは間違いなく,そのアートスタイルも「Cuphead」のようなキャラクターへのこだわりはそれほど感じさせず,1920〜30年代の白黒カートゥーンに限りなく寄せているのが分かる。

 もちろん,まだプロトタイプ段階なので今後はグラフィックス,そしてゲームプレイやデザインも大きく進化していくだろうが,「プー あくまのくまさん」同様に,どこかに“それっぽさ”を感じさせるだけでも,こうした二次創作が大好物なゲーマーの興味を惹くのは間違いない。また,こういった作品が商業的に成功すれば,それに追随する人達も増えるだろう。この流れは止められないだろうが,粗悪な二次創作であふれるというゲーム業界にとって最悪ともいえる未来の到来だけは,避けてほしいものだ。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。


※来週(5月22日)の週刊連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,著者取材のため休載します。次回の更新は5月29日を予定しています
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