レビュー
完成度の高さと「Sonar」の音響効果で現状最高のヘッドセット
SteelSeries Arctis Nova Pro Wireless
2022年は,メーカー各社からハイエンドクラスのゲーマー向けヘッドセットが続々登場した年だった。本稿では,その中でもトップクラスの機能と価格を持つSteelSeriesの「Arctis Nova Pro Wireless」(以下,Nova Pro Wireless)を取り上げよう。
Nova Pro Wirelessにおける注目すべきポイントは,使いやすくするためにさまざまな工夫を施したハードウェアと,新しい音響処理ソフトウェア「Sonar」だ。詳しく見ていこう。
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SteelSeriesのArctis Nova Pro Wireless製品情報ページ
ワイヤレスベースステーションを生かしたアイデアがてんこもりのハードウェア
Nova Pro Wirelessは,2.4GHz帯の電波を利用してPCやゲーム機に接続する「ワイヤレスベースステーション」と,ワイヤレスヘッドセット本体からなるワイヤレスオーディオシステムだ。
ヘッドセットは,ワイヤレスベースステーションを経由することなく,単体でBluetooth 5.0ワイヤレス接続,またはアナログ有線接続でも使用可能だ。2.4GHzとBluetoothは同時に接続できるので,PCとワイヤレスベースステーションを接続して2.4GHzワイヤレス接続しつつ,同時にスマートフォンをBluetooth接続,といった使い方もできる。
まずは,ヘッドセット本体から見ていこう。ガンメタル色と黒色のモノトーンに身を包んだコンパクトな筐体は,Arctisシリーズらしいミニマルな印象だ。
エンクロージャ(=イヤーキャップ)は,イヤーパッド部分含めて,サイズは実測85(W)×52(D)×100(H)mmと,ゲーマー向けヘッドセットとしては明らかに小さめだ。
左側のスピーカープレートを取り外すと,内部にはUSB Type-Cポートが用意されていた。このポートにUSB ACアダプターやモバイルバッテリーなどを接続すれば,直接充電できる仕組みだ。
ツヤ消し黒色の左イヤーキャップ下側には,装着状態の前側から音量調整ダイヤル,マイクミュートボタン,電源ボタン,接続状態を示すLEDが並ぶ。3.5mmミニピンのアナログ接続端子や,完全に収納可能なマイクブームも左イヤーキャップ側にある。
電源のオン/オフは,電源ボタンを1秒以上長押しするのだが,電源が入ると,その上のLEDが常時ゆっくり点滅していた。
音量調整ダイヤルは,回すと音量を変更,押し込むとゲーム/チャットミックスバランスを変更するモードに切り替わる。モード変更後にダイヤルを回すと,ゲームサウンドとマイク音声のバランスを調整できる。
右イヤーキャップの後ろ側には,Bluetoothボタンがあるだけだ。1秒長押しで接続して,接続中はBluetoothボタン隣のLEDが,ゆっくりと青く点滅する。
なお,Bluetoothボタンは4秒間の長押しでペアリング,一度短く押すと通話応答/終了,または音楽再生時は再生/一時停止になる。さらに,二度短く押すと次のトラックを再生,三度押すと前のトラックを再生といった具合に,Bluetoothオーディオ機器でお馴染みの操作が可能だ。
そのほかに,左右イヤーキャップそれぞれの上部には,多数の空気孔が開いたパーツが組み込まれている。この中には,後述する「Active Noise Cancellation」(以下ANC)で用いる外部環境音を集音するマイクがあるのだ。
ANCは,電源ボタンを短く押すと切り替わる仕組みで,押してビープ音が1回鳴るとANCオフ,2回なるとANCオンとなる。ソフトウェアやワイヤレスベースステーションにいちいちアクセスすることなく,ヘッドセット本体でオン/オフできるのは大変良い。
イヤーキャップ内側のイヤーパッドは,ユーザーによる取り外しは考慮していないようだ。厚みは実測約25mmで,内側の広さは,実測約55×43mmくらいだった。クッションは非常に柔らかく,それを覆うクッションカバーは合皮製が,どういう意図かは分からないがものの,内側とそれ以外で素材が異なる。
スピーカーグリルは薄いストッキング素材で,中央付近に触ってすぐ分かる突起がある。
イヤーキャップ内部のスピーカードライバーは,ネオジム合金素材で直径約40mmとのこと。公称周波数特性は,有線接続で10Hz〜40kHz,ワイヤレス接続で10Hz〜22kHzとなっている。
イヤーキャップとアームは,一点接続でイヤーキャップ後方に留められている。目視で前方に約20度,後方に約100度くらい開いて,置きやすい開きになる構造だ。
ヘッドバンドの内側には,Arctis伝統のデザインが施された,交換可能なゴムバンドが両端に取り付けられており,簡単に装着/脱着できる。このゴムバンドが頭部に接触,伸縮することでフィットするわけだ。なお,ゴムバンドを取り付ける部分は3か所あり,取り付け位置を変えることでゴムバンドの長さを調整できる。
左イヤーキャップ内に完全収納可能なマイクブームは,マイク部分のサイズが実測約25×15×7mmで,先端のマイクを除いたブーム部分の長さは,実測約105mmだ。ブームは,SteelSeriesらしい柔らかく取り回しのいいタイプで,狙ったところにマイクを持ってこれるので扱いやすい。
マイク性能は,公称周波数特性が100Hz〜6.5kHzで,双方向性ノイズキャンセリング,つまり両指向性マイクとある。マイク部分には実測で直径約8mmの空気孔が内側と外側両方に用意されていて,内外の両方から集音するのが分かる。両指向性マイクなので,ソフトウェアによるノイズ低減処理なしでもある程度(公称では−25dB)はルームノイズを減らすという。要はアクティブノイズリダクションを行うわけだ。
付属のアナログケーブルは,両端とも3.5mmミニピン4極ピン端子となっており,ヘッドセット側はストレート端子,PC側はL字に近い鈎型の端子となっている。ケーブルはごく普通のビニール素材でシールドされた実測の直径が約2mm程度でもので,長さは実測約121cmであった。
なお,実機で確認したところ,アナログケーブルをヘッドセットに接続すると,自動で2.4GHzとBluetooth接続両方の電源がオフになる。つまり,アナログ接続時は完全なアナログヘッドセットとして動作するようだ。
重量はそれなりにある本機だが,装着してみるとバランスがいいのか,重いとは感じられない。ゴムバンドを利用したヘッドバンドと非常に柔らかいクッションのお陰で頭頂部にストレスは感じられず,側圧も気にならない。合皮なので真夏は汗が気になるかもしれないが,今回テストのため長時間装着していても不快に感じることはなかった。
ワイヤレスベースステーションも見てみよう。
ワイヤレスベースステーションは,艶消し黒色の本体にガンメタル色のダイヤルが付いた小さな機器で,サイズは実測で115(W)×81(D)×40(H)mm,重量は実測約184gだった。2018年に登場したSteelSeriesの「Arctis Pro Wireless」に付属していたワイヤレスベースステーションと似た形状で,ダイヤルとボタンで操作するインタフェースは,ワイヤードモデルに付属する「GameDAC Gen 2」と同じだ。
本体前面左側の有機ELパネルに各種の情報が表示され,右の大きなダイヤルを左右に回して選択,押し込んで決定となる。ダイヤル左下に見える丸い部分は,センサー式のタッチボタンになっていて,「戻る」ボタンの役目を果たす。メニューから出るときや,メニュー階層をさかのぼる場合は,ボタンに触れる。
背面には端子類が用意されていて,向かって左から3極3.5mmミニピンアナログオーディオ入力(LINE IN),同形状のオーディオ出力(LINE OUT),そしてUSB Type-CポートのUSB 1,USB 2となっている。
アナログ入出力端子を用意するのはSteelSeriesらしいが,USBポートが2つあるのは珍しい。たとえば,USB 1にPCを,USB 2にPlayStation 5/4を接続して,前面のダイヤルで再生機器をさっと切り替えるといった使い方ができる。いちいち接続デバイスのケーブルをつなぎ直さなくていいし,デバイス切替時にPCを操作する必要もないので,とても便利だ。PCとゲーム機の二刀流ユーザーにお勧めだ。
Nova Pro Wirelessで肝になっているのは,最初からバッテリーパックが2つ付属していることだ。バッテリーのひとつをヘッドセット本体に装着してワイヤレスで使いながら,もうひとつはワイヤレスベースステーションに装着して充電できる。
さらに,公称では約8秒間のうちにバッテリーを取り替えれば,ヘッドセットの電源を切ることなく,そのままプレイが続けられるのだ。SteelSeriesが「Infinity Power System」と呼んでいるとおり,ワイヤレスヘッドセットなのに時間無制限でプレイできるわけだ。アナログな解決策で力業と言えばそのとおりだが,ワイヤレスヘッドセットなのにバッテリー残量を気にせずプレイできるので,実用性は極めて高い。
しかも,たとえば外出中にBluetooth接続で使っていて,ワイヤレスベースステーションが手元にない場合は,先述のとおり左イヤーキャップのUSB Type-Cポートにモバイルバッテリーなどをつなげば,直接充電できる。機器との接続や接続切替だけでなく,バッテリーに関しても使い勝手をよく考えた製品だと言えよう。
ちなみに,バッテリーを2個使って2.4GHz接続の場合,バッテリー駆動時間は公称値で最大44時間,バッテリー1個では最大22時間だ。2.4GHzとBluetoothの同時接続の場合,バッテリー2個で最大36時間,1個では最大18時間となっている。また,約15分の充電で3時間動作する急速充電にも対応するそうだ。
外観紹介の最後に,Nova Pro Wirelessのスペックもまとめておこう。
●Nova Pro Wirelessの主なスペック
- 基本仕様:2.4GHz帯独自方式ワイヤレス,およびBluetooth 5.0接続対応,密閉型エンクロージャ採用
- 公称本体サイズ:未公開
- 公称本体重量:未公開
- 公称ケーブル長:約150cm
- 接続インタフェース:USB Type-A(ワイヤレスベースステーション),USB Type-C(充電用),4極3.5mmミニピンアナログ
- 搭載ボタン/スイッチ:電源ボタン,マイクミュートボタン,Bluetoothボタン,音量調整ダイヤルなど
- バッテリー駆動時間:最大44時間(ワイヤレスベースステーション使用時)
- スピーカードライバー:40mm ネオジムドライバー
- 周波数特性:10Hz〜22kHz(ワイヤレスベースステーション使用時),10Hz〜40kHz(アナログ接続時)
- インピーダンス:38Ω
- 出力音圧レベル:93dBSPL
- 方式:未公開
- 周波数特性:100Hz〜6.5kHz
- 感度:−38dBV/Pa
- インピーダンス:2.2kΩ
- S/N比:未公開
- 指向性:双方向
- ノイズキャンセリング機能:搭載
新登場の音響処理ソフトウェアSonarで,よりリッチな音響処理が行える
SteelSeriesのゲーマー向け製品用統合設定ソフトは,「SteelSeries GG」というソフトウエアに一元化されており,従来の設定ソフト「SteelSeries Engine」も,ここに含まれている。Engineで設定できる機能も含め,Nova Pro Wirelessの設定変更は,ワイヤレスベースステーション本体だけでも可能だが,GGはWindows 11/10のみの対応となる,
GGでは,新しく実装された「Sonar」というオーディオソフトウェアスイートを利用することで,今まで以上にリッチな音響処理が可能となった。SonarはCPU処理のようで(※Engineの処理はワイヤレスベースステーション内のDSPで行われている),Engine同様に,GGから呼び出して設定する。
重要なのはEngineとSonarなので,この2つを見ていこう。
EngineでアクセスするNova Pro Wirelessの設定画面には,2つのタブがある。「オーディオ」タブにある設定は,すべてワイヤレスベースステーション本体側でも設定可能だ。
「設定」タブの内容も,ワイヤレスベースステーションの「SYSTEM SETTINGS」で変更できる。ただ,バーチャルサラウンドサウンド機能は,ワイヤレスベースステーションだけでは利用できず,Sonarが必要だ。
オーディオタブ |
設定タブ |
設定タブの内容を簡単に説明をしておこう。
まず,「イコライザー」はいつもどおりのイコライザーで,10バンドを好きに調整できるほか,プリセットを呼び出して変更することもできる。
「マイク音量」はマイク入力レベルで,デフォルトでは最大になっていた。
「ゲイン」は,ヘッドセットの出力レベルを低くするか高くするか選択する設定だ。初期値は「高」だ。
「マイク・サイドトーン」は,マイクで集音した音をヘッドセットでモニターする機能である。初期値は「低」だ。
これらはいずれも,ワイヤレスベースステーションの「AUDIO OPTIONS」でも設定できる。
「出力」は,「ストリーミング」と「スピーカー」の選択と,ストリーミングのオーディオミキサーでPCからの音(Main),LINE INからの音(Aux),ヘッドセットマイクからの音(Mic)のバランスを変更できる。
ここでいうスピーカーとは何なのかだが,基本はLINE OUTで,スピーカーの設定では,このバランス調整はできない。ヘッドセットの電源をオフにしないと音は再生されないので,ヘッドセットとの排他利用というわけだ。なお,ストリーミングの設定は,ヘッドセットと同時利用できる。
新登場のSonarは,オーディオソリューション企業であるCakewalkのソフトウェア「Sonar」をベースにした機能だが,Windowsへの組み込み方が少し特殊なので注意が必要だ。
Windowsのサウンドコントロールパネルの「再生」タブを見ると,Nova Pro Wirelessのデバイス(Endpoint)は,「Arctis Nova Pro Wireless」と「SteelSeries Sonar - Gaming」,「SteelSeries Sonar - Chat」(以下,ハイフンは省略)などが用意されている。Sonarによる音響処理は,SteelSeries Sonar GamingかSteelSeries Sonar Chatのどちらかを経由したうえで,Arctis Nova Pro Wirelessから出力されるというオーディオ信号フローになっている。
従って,「既定のデバイス」にSteelSeries Sonar Gamingを,「既定の通信デバイス」にSteelSeries Sonar Chatを設定する必要がある。
何らかの理由でSonarを使いたくない場合,Nova Pro Wirelessを既定のデバイス/既定の通信デバイスに設定すればよい。「録音」デバイスも同様で,Arctis Nova Pro Wirelessと「SteelSeries Sonar - Microphone」があり,Sonarで音響処理するには,後者を既定のデバイスに設定する必要がある。
これだけ聞くと,「設定がいちいち面倒臭い」と思うかもしれないが,そこはよく考えられている。Sonarデバイスが設定されていないと,後述する「ミキサー」画面にダイアログが出るので,「クリックしてデフォルトを自動設定」をクリックするだけで,再生/録音両方のデバイスをSonarデバイスに設定してくれる。実際の設定は非常に楽だ。
話をSonarに戻そう。Sonarの設定は,GG内に統合されており,4種類のタブがある。
「ミキサー」設定では,全体の音量である「マスター」,ゲーム内のサウンドを再生する「ゲーミング」,ネットワーク越しに他のプレーヤーがしゃべる音声「チャット」,そして自分のマイク入力である「マイク」の音量バランスを変更できる。
各スライダーの下にあるスピーカーアイコンをクリックすると,その音がミュートされる。ゲーミングとチャットの下には,「ChatMix」スライダーがあり,ゲームサウンドとチャット音声のバランスを変更可能だ。
重要な点は,マスター以外には「再生」というプルダウンメニューが用意されており,ゲーミングとチャットは「ヘッドフォン(Arctis Nova Pro Wireless)」を,マイクは「マイク(Arctis Nova Pro Wireless)」を選択しなければならない点である。Sonarオンで音が出ない場合,ここが別のサウンドデバイスになっている可能性が高いので,問題が生じたら確認するといい。
次は「ゲーミング」タブだ。
ゲーミングタブのすぐ下にある「設定」は,プルダウンのプリセットマネージャーで,さまざまなゲーム名を冠したプリセットが用意されていた。その右横にある(…)のアイコンをクリックするとメニューが現れて,プリセットの追加や削除,複製や初期化などを行える。
設定の右にある「テスト音声」は,文字どおりテスト音声を流す項目だ。選んだテスト音声を,選択項目左にある再生ボタンを押して聞きながら,設定を追い込んでいける。テスト音声には,「Gaming」と「Spatial」の2種類があり,GamingはFPS風のゲームサウンド,Spatialは,7.1chサラウンドの信号チェックテスト用サウンドだ。
「イコライザー」や「Spatial Audio」,「スマートボリューム」の各設定は,設定名の左にあるスライドスイッチをクリックすると有効になる。設定名列の右端にある点3つのアイコンは,各設定で変更した値を初期値へリセットするものだ。
Engineの10バンドイコライザーとは異なり,CPU上で動作するSonarのイコライザーは,5バンドパラメトリックイコライザーとなっている。各バンドを表す点を掴んで左右にドラッグすると,ピーク周波数を変更でき,上下にドラッグするとブースト/カットレベルを増減できる。さらに,各点を一度クリックすると,短めの水平線が現れるので,両端のどちらでもいいので水平線の端を左右にドラッグすると,イコライザーが適用される帯域幅(Q)を調整できるというものだ。
もっとも,そのような調整が煩わしいという人向けに,周波数グラフの下に「ベース」「ボイス」「高音」と書かれたスライダーが3つ用意されている。これらは順に低域,中域,高域を決められた周波数と帯域幅のまま,単純にレベルだけ増減する簡易イコライザーとなっている。「音質傾向を少し変えたい」というのであれば,こちらを利用するのもありだ。
イコライザー欄の下にあるのが,Sonarの目玉のひとつ「Spatial Audio」だ。これは,いわゆるバーチャルサラウンドプロセッサで,ヘッドフォン用の「ヘッドフォンモード」と,スピーカー用の「スピーカーモード」が用意されている。切り換えはトグルスイッチで行う。
モード切り替え以外の設定項目は,「パフォーマンス〜没入感」スライダーと「距離」スライダーの2つだ。あくまで筆者の推測だが,前者は初期反射の量を増やす(没入感)か減らす(パフォーマンス)か,後者はサラウンドリバーブ(残響音)の量が少ない(0)か,多い(100)かではないか。ひとまずは初期値から始めることをお勧めする。
その左下の「ゲイン」は,スライダーを右に動かすと,文字どおり出力レベルが大きくなる。その右隣の「スマートボリューム」は,いわゆる「AGC」(Auto Gain Control)や「DRC」(Dynamic Range Controller)で,小さな音をより大きく,大きな音を抑えるボリュームコントローラーだ。こちらも,スライダーを右にするほど効果が大きくなる。ただ,やり過ぎると不自然になるので注意が必要だ。
チャットタブとマイクタブは,テスト音声の項目のみ異なり,他は同じだ。
チャットタブとマイクタブの違いは,ネットワーク越しにしゃべる他者の音声(チャット)に適用するか,自分の音声(マイク)だけに適用するかの違いである。従って,チャットのテスト音声はメニューで選択するのに対し,マイクの「マイクテスト」は自分の声を録音してから(赤丸アイコン),それを再生して確認する(その右の再生アイコン)方式になっている。
イコライザーはゲーミングタブとは異なり,10バンドのグラフィックイコライザーになっている。各帯域を増減させるだけのシンプルな操作性だ。
チャット/マイクの目玉機能は,AIを用いたインテリジェントなノイズキャンセリング機能「ClearCast Noise Cancellation」(以下,ClearCast)だ。ただ,画面に「EARLY ACCESS」とあるので,まだβ段階なのかもしれない。
設定項目は,最小〜最大のスライダーひとつだけで,ノイズキャンセルをどのくらい強くするかをここで決める。まずは初期値から始めるといいだろう。
その下にある「ノイズ除去」と「ノイズゲート」は,ClearCastと排他利用の項目だ。ノイズ除去にある「バックグラウンド」は,右にスライダーを動かすとノイズ除去量が大きくなる。「インパクト」はキーボードのタイプノイズやクリック音を軽減するもので,右にスライダーを動かすと,適用量が増える。
ノイズゲートは,音量がしきい値以下のときに,音をミュートするオートミュートのような機能で,「しきい値」スライダーを右にすると,より大きな音量までミュートするものだ。その下のチェックボックスにチェックを入れると,スライダーは無効になり,しきい値は自動設定される。
ノイズ除去の下にある「スマートボイス」は,ゲーミングタブにあったスマートボリュームと同じくAGC/DRCの一種だ。右にスライダーを動かすほど音量調整効果は大きくなる。
周波数バランスがよいハードウェアと効果抜群のSpatial Audio
ここまでの紹介を踏まえて,Nova Pro Wirelessをテストしていこう。
Nova Pro Wirelessはワイヤレス接続ヘッドセットなので,計測テストは,いつもどおりPCで行っている。そのため,リファレンス機材となるデスクトップPCにNova Pro Wirelessのワイヤレスベースステーションを接続して,2種類の検証を行うことになる。
- ヘッドフォン出力テスト:ダミーヘッドによるヘッドフォン出力の周波数特性計測と試聴
- マイク入力テスト:マイク入力の周波数特性および位相計測と試聴
ヘッドフォン出力時の測定対象は,周波数特性と出力遅延の2点で,具体的なテスト方法は,これまでどおり「4Gamerのヘッドセットレビューなどにおけるヘッドフォン出力テスト方法」で示しているので,そちらを参照してほしい。
出力遅延のテストに用いるオーディオ録音&編集用ソフト「Audacity」は,バージョン2.3.3を使用しているのだが,こちらも過去のテストと同様に,WASAPI排他モードでテストするとテスト時エラーが出て計測できない問題があるため,今回もDirectSound APIを用いたテストのみとなる。
また,マイク入力の測定対象は,周波数特性と位相特性で,こちらも具体的なテスト方法は「4Gamerのヘッドセットレビューなどにおけるマイクテスト方法」にまとめたとおりだ。
まずは,ワイヤレス接続型ヘッドセットで気になる遅延の計測結果からだが,ソニーのワイヤレスヘッドセット「INZONE H9」のテストと同様に,以前とは少しやり方を変えて,独RME製オーディオインタフェース「Fireface UCX」の設定で内部遅延を変更して,一番速い結果が得られる値に設定したうえで計測を行った。そのため,従来のテスト結果と単純比較はできないことをお断りしておく。
さて今回は,EPOSのゲーマー向けアナログ接続型ヘッドセットである「GSP 600」をFireface UCXとアナログ接続した状態と,Nova Pro Wirelessの遅延を比較する。Fireface UCXで設定した内部遅延は,Nova Pro WirelessとGSP600+UCXのどちらも48samplesに設定した。ちなみに,Engineで「2.4Gモード」は「スピード」に設定している。
その比較結果を表で示す。
結果は,Sonarをオフにした状態で28ms。すべてのプロセッサを無効にしてSonarを経由させた場合は,52msだった。Sonarオフの数値はまずまずだと思うが,Sonarオンだと20ms以上遅延が上乗せされるのは,デバイスを2つ経由しているからだろうか。
一方で,Sonarの有無に関わらず,2.4GHz接続時は30回のテストすべてで同じ値を記録しているということは,接続は安定していることを示し,かなり実用的と言える。
ワイヤレスベースステーションを経由しないBluetooth接続は,約232msも遅延があった。接続機器側のBluetooth環境が異なれば,これより速くも遅くもなる可能性もあろう。とはいえ,ゲームで使えるほど低遅延ではない。やはり本機のBluetooth接続は,チャットや音楽再生などの用途に限られるだろう。
差分画像の最上段にある色分けは,以下のような音域を左から順に示したものだ。
- 重低域:60Hz未満,紺
- 低域:60〜150Hzあたり,青
- 中低域:150〜700Hzあたり,水
- 中域:700Hz〜1.4kHzあたり,緑
- 中高域:1.4〜4kHzあたり,黄
- 高域:4〜8kHzあたり,橙
- 超高域:8kHzより上,赤
テストに用いた設定は,Engine,Sonarともにイコライザはオフ。SonarのSpatial Audioやゲイン,スマートボリュームもすべてオフの状態で計測を行った。先述のとおり,Nova Pro Wirelessは2.4GHz接続時,Sonarのサウンドデバイスを経由する接続と経由しない接続があるので,この2つから見ていこう。
まずはSonarを経由しない周波数特性がこちらになる。
グラフだとドンシャリっぽく見えるが,差分を見ると4kHzくらいまではフラットとまでは言わないが,凸凹は少なく,中域もしっかり存在していることが分かる。高域は,4kHzから8kHzにかけて一番高い山があり,そこから超高域にかけて落ち込む。低域は重低域まで落ち込まないので,低弱とは言えず,少しだけ高強といった形状だ。
次に,Sonarを経由した周波数特性は以下のとおり。
Sonarを経由しない時とかなり似ていて,言われないとどちらか分からない。特性はSonarオフとほぼ同じと考えていい。
SonarオフとSonarオンの差分を取ってみた。
多少の乖離はあるものの,ほぼ同じ形状で目立った差は見られない。音響処理を行わない状態のSonarオンと,オフの音質傾向に大きな差はないと言っていいだろう。
次にアナログ接続時の周波数特性を見てみよう。ワイヤレスベースステーションにはアナログヘッドフォン接続がないので,「Sound Blaster ZxR」に接続して計測を行った。
2.4GHz接続と似ているが,低域の出方が異なり,90Hz付近から重低域に向かってなだらかに下がっている。差分を見ると,250Hz〜3kHz付近は2kHz付近が谷になった軽いドンシャリだ。一番高い山が4kHzくらいから8kHz付近で,そこから急激に落ち込んでいくのは,2.4GHz接続時と同様だ。
2.4GHz接続でSonarオフのグラフと差分を取って見ると,少し乖離が見られることが分かる。
一番大きいのは,アナログ接続時は200Hzくらいが強く,それほど大きくはないが山になっているところと,60Hz以下がなだらかに下がっていくところであろう。2.4GHzに比べると,ややドンシャリっぽい低弱高強の特性だ。
本稿では,それぞれを「ヘッドフォン」「ヘッドセット」と呼び,周波数帯域を計測した。まずはヘッドフォン時の特性から見てみよう。
2.4GHz接続と似ているが,差分を見るとそれなりに違いはある。4kHz以上のグラフ形状はほぼ共通だが,140Hz〜5kHzくらいが少し弱く広い谷になっていて,2kHz弱のところが底になっている。アナログ接続と少し似ていて,低域は90Hzくらいにピークがあり,そこからなだらかに下がっていく。ただアナログ接続ほど顕著に下がってはいない。
2.4GHz接続Sonarオフのグラフと差分を取ってみよう。
Bluetooth接続は90Hz付近と30Hz以下が2.4GHz接続と比べてわずかに強く,250Hz〜6kHzくらいはやや弱い。ただ,見てのとおり極端な乖離はない。
続いてBluetooth接続ヘッドセット時の特性はどうだろう。
ご覧のとおり,Bluetoothヘッドセット接続時の帯域制限によって,8kHzのピークを待たず,7kHz付近からほぼ一直線に落ち込んでいる。また,40Hz以下の重低域も下がっている。
次に,ワイヤレスベースステーションのLINE OUTをストリーミングにした場合と,スピーカーにした場合も計測してみた。こちらはライン出力なので,位相も掲載する。
ストリーミング時は,Main/Aux/Micすべてフル出力の状態で計測している。
差分を見ると分かるが,40Hz付近がやや強く,そこから少し重低域に向かって下がる。それ以外はほぼ乖離無しだろう。位相は完璧だ。
スピーカーを有効にするため,ヘッドセットの電源はオフにして計測している。
若干形状は異なるが,40Hz付近がやや強く,それ以下が下がるのはストリーミング時と同様で,それ以外に大きな乖離はない。こちらも位相は完璧だ。
ストリーミングとスピーカーの差分を取って見ると,ほぼ乖離はないが,強いて言えば60Hzくらいが若干異なる。大きな差はないと言っていいだろう。
テストをしていて,ひとつ気になったのは,筆者の環境ではなぜかストリーミング,スピーカーともに同じ種類のノイズが乗っていた点だ。環境によっては大丈夫かもしれないが,注意してほしい。
以上の結果を踏まえて,試聴テストに移ろう。まずはステレオ音楽試聴から。Sonarの音響処理はオールバイパスで,有効にした場合はその都度言及する。また,Sonarのチャットタブは,基本的にマイクタブの機能と同じなので,後段の入力テストでまとめて確認する。
さて,2.4GHz接続時は,全周波数帯域でバランス良く音を再生できる。ドンシャリ系ではないので中域もしっかり聞こえるし,重低音まで存在するが必要以上に強くないので,とても快適に音楽が楽しめる。4〜8kHzが強いので定位感もしっかり把握できる。ゲーマー向けヘッドセットというか,出来のいいホームオーディオ用ヘッドフォンといった感じだ。
Arctisシリーズは,最初の製品から一貫してヘッドフォン出力が優秀であるが,本機もそれを継承していると言っていいだろう。
次に,アクティブノイズキャンセリングを有効にしてみる。もちろん,環境によってキャンセリングの効果は異なるであろうが,筆者の環境では,空調ノイズやPCのファンノイズなどがすっといなくなり,外界ノイズが完全に消えて没入感が高まった。アクティブノイズキャンセリングは簡単にオン/オフできるが,出力音質に影響はないので,オンのままでいいかもしれない。
Sonarのゲーミングタブから,目玉機能のひとつであるバーチャルサラウンドプロセッサのSpatial Audioを有効にしてみよう。当然,ヘッドフォンモードでヘッドセット本体での試聴だ。
ステレオ音楽再生時には,聞くにたえない音質傾向のプロセッサも多いが,このSpatial Audioはかなり自然で,有効にしたままでもいい。Spatial Audioがオフの状態では,左右の真横から音が聞こえるのだが,オンにすると少し前方から音が聞こえるようになり,低音を中心に少し音圧も上がる。
ここで,「没入感」方向にスライダーを動かしてみると,やはり初期反射が増える印象だ。距離スライダーを左に動かすと,音がドライになるので,この設定では,おそらくサラウンドリバーブの量を調整できるのだと思われる。加えて,画面左の円形UIで,バーチャルなスピーカー位置を手動でドラッグして調整することも可能だ。
ちなみに,スピーカーモードでLINE OUT出力を筆者の音楽制作用システムに接続してあるADAM製スピーカー「S3A」につないで再生してみたところ,サラウンド感というよりは,リバーブ(残響音)が付加されたように聞こえた。しかし効果を強くし過ぎなければひどい音にはならないので,興味がある人は試してみるといい。
Sonarのゲイン設定は,上げすぎると音が圧縮されて波打ち始めるので,これを強い設定で使用することはお勧めしない。スマートボリュームは,音楽だとすでに十分に音圧が上がっているせいか,あまり効果は感じられない。
Bluetooth接続はどうだろう。広帯域接続の「ヘッドフォン」でPCと接続し,音楽を再生してみたが,周波数特性の差分からも推測できるとおり,顕著な音質差は生じない。強いて言えば,2.4GHzのほうが高周波の再生は強く,開放感が感じられる印象だ。とはいえ,聞き分けられるかどうか怪しいレベルではある。
Nova Pro WirelessをSound Blaster ZxRに接続したアナログ接続も試聴してみた。90Hz以下が少し落ち込んだ軽いドンシャリという周波数特性の計測結果どおり,一番低弱高強に感じられる。ただ,低域と高域のバランスが変わって,若干高域寄りになったという程度だ。ピュアアナログ接続でも,Nova Pro Wirelessの再生能力は高いと言っていいだろう。
さて,いよいよサラウンドゲームタイトルを用いた2.4GHz接続サラウンドサウンドの試聴に入ろう。設定はイコライザーはオフ,Spatial Audioがオンで,もちろんヘッドフォンモード。設定も初期値のままだ。アクティブノイズキャンセリングはオンにして,ゲインとスマートボリュームはとくに断りがない限りオフにしている。
まずは「Fallout 4」から。Engineのゲイン設定が「高」になっているからというのもあるだろうが,ヘッドセットの音量を上げると,平均音圧レベルが非常に低い本タイトルを,かなりの音量で再生できる。USB接続やワイヤレス接続のヘッドセットで,この音量はこれまででトップクラスといってもいいかもしれない。
例によってヘリの前でぐるぐる回ってローター音の定位感を確認してみたが,非常に把握しやすい。真後ろは若干籠もって聞こえるリアルな仕様で,フライト後,画面右上に見えるローターの音は,きちんと前方右側に定位し,リアチャンネルで鳴っているエンジン音も後方に定位する。着陸時に後方から聞こえる金属的な効果音も,軽すぎず大きすぎず,適切な音量でしっかり後方から聞こえる。サラウンド感も周波数バランスも非常に良好という印象だ。
Spatial Audioのパフォーマンス〜没入感スライダーを右いっぱいの最大に設定して,距離スライダーを100にした状態で無線通信の音声に注意を払うと分かりやすいが,結構残響が強くなる印象だ。一方前者を最小,距離を0で試聴すると,かなりドライでデッドになり,音量も上がる。タイトルによって,デッドな音場がよいものとライブな方がよいものがあると思うので,この2つのスライダーで調整するといい。とはいえ,基本は初期値を推奨する。
加えて「出色だな」と思ったのは,前方や後方で敵車が近づいたり遠ざかったりするのが手に取るように把握できること。もちろん横の敵車とすれ違う時の音の移動もスムーズだ。距離感をこのように把握できた経験はこれまであまりなかったので驚いた。もちろんNova Pro Wirelessのハードウェア性能が高いのもこの試聴結果に貢献しているのだが,Spatial Audioは後発だけあって,最近のバーチャルサラウンドプロセッサの中でもかなりレベルが高いかもしれない。周波数バランスもいいので,ワイパー音や縁石に乗り上げた時の音もうるさくない。
「MONSTER HUNTER: WORLD」(以下,MHW)で村の中を歩き回ってみても,定位感の良さは実感できる。巨大水車の前でぐるぐる回ると,鎖の音をピンポイントで把握できるのだ。前後左右の定位も把握しやすく,定位が難しい真正面の音も,きちんと真正面に定位していると認識できる。周波数バランスがよいので,足音がむやみにドスドス鳴ったりもしない。
音の距離感については,MHWのようなフィールドを移動するタイプのゲームでは,音源に近づいたときだけそれに関連した効果音が鳴り,離れると効果音再生が止まる仕組みなので,Project CARS 2のように距離感がシームレスに変わるような挙動は確認できない。それでも音の聞き分け,定位感の把握はとてもしやすいと感じた。
PlayStation 4(以下,PS4)版MHWではどうだろう。Nova Pro Wirelessは,PlayStation 5の「Tempest 3D Audio」と互換性があるということだが,PS4には,そもそもシステムレベルのサラウンドプロセッサがないので,ゲーム内で有効にできるMHW専用のバーチャルサラウンドプロセッサを使用した。また,先述のとおり音量は十分なので,ダイナミックレンジは「ワイド」のまま試聴している。
ちなみに,SonarのSpatial Audioは,PCのCPUで処理を行うため利用できないが,アクティブノイズキャンセリングは,Engineで設定しておけばワイヤレスベースステーションのDSPで動作するので,PS4利用時でも有効にでき,没入感を高められる。
試聴して意外だったのは,PS4版MHWでは,真正面の定位がぼんやりすることも多いのだが,Nova Pro Wirelessではこれがきちんと把握できる点だ。波の音なども,ちゃんと広大に聞こえる。PC版とPS4版は,音響的な差が顕著になることが多いのだが,Nova Pro Wirelessではそれほどでもなかった。ハードウェアの品質が高いので,バーチャルサラウンドプロセッサがSonarのSpatial Audioでなくてもきちんと動作するのかもしれない。
今回の試聴では,ワイヤレスベースステーションのUSB 1をPCに,USB 2をPS4に接続したのだが,ベースステーション本体を操作してケーブルのつなぎ替えなしで音源を切り替えられるのは,やはりとても便利だ。バッテリーといい,音源の切り替えといい,アクティブノイズキャンセリングといい,DSP内蔵のワイヤレスベースステーションがあることが前提の設計で工夫がこらされている。いくつかの機能は力業と言えなくもないが,実際使ってみると快適に感じられる。Nova Pro Wirelessは,率直に言ってよくできている。
SonarのAIを使用したノイズキャンセラーClear Castが秀逸
なお,製品情報ページの仕様を見ると,マイク入力の有効周波数帯域は100Hz〜6.5kHzとなっていた。ワイヤレス接続時に,典型的なサンプリングレートの制約が高域側に見られる。後述するが,アナログ接続時に,この制約はない。低域の周波数下限が高いのは,低周波ノイズを減らしながら明瞭度を上げるために,ハイパスフィルターで低周波をカットしているからだと思われる。
またマイクの指向性は,「双方向性ノイズキャンセリング」とあるので,空気孔の場所からして,外側と内側(口の側)の音を拾っているわけだ。
まずは,Sonarを使わない2.4GHz接続時のマイクによる周波数特性を確認しよう。
低域の60Hzと高域の4〜7kHzの山でできたドンシャリ型の周波数特性で,250Hz〜1.8kHzくらいが谷になっている。高域の山が一番高いが,仕様にほぼ近い7kHz付近で,ワイヤレスの制約が発生して急激に高域がカットされた。一方で,下限は100Hz以下も存在しており,落ち込み始めるのは60Hz以下くらいからである。1.4kHzくらいの落ち込みは,スピーカーの特性によるものなので気にしなくていい。位相は完璧だ。
次にSonarオンで2.4GHz接続時のマイク周波数特性を見てみる。
Sonarオフと大きく異なるのは,60Hz以下の低周波だ。それ以外はSonarオフ時の特性と似ている。ここだけ見ると,Sonarオン時には低域が強いように見えるが実際どう聞こえるかは試聴して確認しよう。位相はこちらも完璧だ。
Sonarオフと経由時の差分を取ってみた。
Sonarオン時は,900Hz〜2.5kHzくらいがオフ時よりも若干強く,先述のとおり,60Hz以下はオフ時よりかなり強い。
Bluetooth接続時のマイク入力特性も見てみよう。
基本的には2.4GHz接続と似た周波数特性だが,4〜8kHzがほぼ水平だったり,60Hz以下の形状がやや異なったりする。
Sonarオフ時とBluetooth接続の差分も取って見た。
グラフ線の形状が一番乖離しているのは20Hz付近で,次に大きい乖離は5〜7kHz付近だろうか。そのほかはところどころ少し乖離が生じているが,おおむね周波数特性は似ていると言っていいだろう。
最後に,Sound Blaster ZxRにNova Pro Wirelessをアナログ接続して,サウンドカード側のプロセッサはすべてオフにした状態で集音したマイクの周波数特性を見てみよう。ピュアアナログ接続なので,ここでは7kHzの制約がない。
アナログ接続時の周波数特性を見ると,7kHzの制約がない本来のマイク特性が分かる。7kHz以上も収録できるが,一番高い山はやはり4〜8kHzくらいで,そこからゆっくり落ち込んでいく。40〜100Hzくらいも結構強く,40Hz以下でゆるやかに落ち込んでいる。位相は完璧なので,マイク自体がモノラル受けだと分かる。
Sonarオフの2.4GHz接続とアナログ接続の差分も取っておいた。
一番異なるのは8kHz以上で,16Hz以下がそのまま落ち込んでいく部分も異なる。それ以外だと,800Hz〜2kHzくらいの乖離が大きい。
ちなみに,Nova Pro Wirelessのマイク感度は高いので,アナログ接続時にPC側のマイクゲイン(※またはマイクブーストレベル。マイク入力レベルではない)は0dBでいい。+12dBとかにすると,ノイジーになるので注意しよう。
以上を踏まえて,Nova Pro Wirelessで自分の声を録音して聴いてみた。2.4GHz接続とBluetooth接続は,7kHzの制約があるのでもっと鼻づまり気味の音声かと思ったら,4〜7kHzが一番強いドンシャリだからか,ことのほか自然に聞こえる。もちろん16kHzとかまで集音できるアナログ接続に比べるとレンジは狭いが,狭帯域のわりには聞き取りやすく自然な音質傾向である。
一方で,Sonarオンとオフ,Bluetooth接続で聞こえ方に顕著な差はない。ということは,周波数特性で確認された重低域の差分は,実用上大きな影響がないことになる。また,両指向性マイクのおかげか,Sonarを使わなくてもパッシブノイズリダクションが効いており,ノイズもそれほど大きくない。このままでも普通に使える印象だ。
その一方で,SonarのマイクタブにあるClearCastを使用すると,文字どおり音声をクリーンに保ったまま,バックグラウンドに存在するノイズをほぼ完全に取り除けるようになる。
マイクテストの録音ボタンをクリックして自分の声を録音し,隣の再生ボタンをクリックして再生しながら,ClearCastをオン,オフしてみれば,その効果のすごさが分かる。EARLY ACCESSとあるので,おそらくはβ版なのだろうが,すでにその威力は十分だ。機械学習ベースのAI処理で人間の声とそれ以外を学習させて,声の成分以外を分離,除去しているのであろう。通常のノイズキャンセリングやノイズリダクションは,声がケロったり訛ったりするが,ClearCastでは,それがまったくない。一度この機能をオンにしたらもうオフにはしたくなくなる。それくらい画期的なノイズ除去プロセッサだ。
ただし,スライダーは初期値のままをお勧めする。効果を強くするとやり過ぎになってしまう。
ClearCastとは排他利用になっている「ノイズ除去」はどうだろう。こちらは従来型のノイズリダクション機能のようで,有効にすると普通に声がケロったり訛ったりする。ClearCastと比較してみるとその違いに愕然とするほどだ。また,効果を強くし過ぎるのも禁物だ。背景ノイズを除去する「バックグラウンド」や,キーボードの打鍵音やマウスのクリック音を軽減する「インパクト」も,「0.3」くらいまでが限界だろう。
「スマートボイス」はAGC/DRCなので,早い話がオートボリュームコントロールだ。声の音量幅が大きい場合,有効にしておくのは一考だが,Nova Pro Wirelessのマイク感度は高く,小さい声もはっきり集音できるので,使用する必然性をあまり感じない。マイク自体も素直な音声収録ができるので,まずはClearCastを有効にしておくだけで十分だ。
以上の機能は,Nova Pro Wirelessを着用しているユーザーのマイク音声だけでなく,ネットワーク経由で届くほかのゲーマーがしゃべるチャット音声に適用することもできる。マイク同様,ClearCastをチャットで有効にしておくと,よれず訛らず話し相手のノイズをきれいに除去できるのだ。
チャット音声を音響調整する機能は,競合のヘッドセット製品でもほとんど見かけないうえ,強力なClearCastでノイズ除去を行えるのだから,本機を利用するときにはぜひ有効にしておこう。
ハードウェアの完成度が高く,Spatial AudioとClearCastでトップクラスのヘッドセットの一台に
とくにAI処理を行うClearCastは,今のところ競合が見当たらないので,マイク/チャットのノイズ除去はSonarが使えるSteelSeriesの独壇場だろう。
正直かなり高価格帯だとは思うが,その分音質以外も至れり尽くせりで,かゆいところに手が届く意欲的な製品となっている。予算さえ許せば,Nova Pro Wirelessはゲーマー向けワイヤレスヘッドセットの有力候補となるだろう。
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