テストレポート
B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
TLBエラッタ問題に揺れたB2ステップ版Phenomの発表から4か月強が経過した2008年3月27日1:01PM,AMDはこの問題を解決した「B3ステップ」(B3 Stepping)と呼ばれるバージョンのPhenomを,新製品としてあらためて発表した。
エラッタ(Errata)に関しては2007年12月26日の記事「Phenom徹底分析(中):B2ステッピングのエラッタで何が起こるのか」が詳しいので,興味のある人はぜひ参考にしてほしいが,簡単にいえばエラッタとはCPUのバグだ。B2ステップ版Phenomのバグは,発生頻度が高くないものだったが,ソフトウェア的に修正を行うとパフォーマンスが大きく低下する問題を抱え,新世代CPUに暗い影を落としていた。B3ステップはこのバグをハードウェア的に修正したバージョンで,まさに待望の新リビジョン(Revision,改訂の意)となる。
最上位モデルは2.5GHz動作のBlack Edition
一般小売り市場へはクアッドコアCPUの出荷を優先
とくに最上位モデルの「Phenom X4 9850 Black Edition/2.5GHz」(以下9850 BE/2.5GHz)は,Black Editionということで倍率ロックフリーとなるほか,HyperTransport 3.0クロックが片方向200MHz引き上げられた2000MHzとなり,プレミアムモデルらしい佇まいを見せている。
TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は,9850 BE/2.5GHzが125Wで,「Phenom X4 9750/2.4GHz」(以下9750/2.4GHz)は125W/95W(※詳細は後述)。それ以下は基本的に95Wで,省電力版であることを示す「e」の文字が付与された「Phenom X4 9100e/1.8GHz」のみ65Wとなる。
L2キャッシュ容量が1コア当たり512KBであることや,共有L3キャッシュ容量が2MBであることなどは既存のPhenomと同じ。B3ステップ化と動作クロックの引き上げ,トリプルコア並びに低電圧版の追加といったラインナップの拡充が行われた一方,アーキテクチャレベルでの大幅な変更はない。
また,「今回のモデルナンバーで『xx50』は,B3ステッピングを表す」(日本AMD)とのことで,省電力版Phenom X4およびトリプルコアのPhenom X3は,しばらくB2ステップの製品が出荷される。同社によると,一般小売市場へ出荷するときにはすべてB3ステップとなるそうなので,(いつかは分からないが)いずれB3ステップの“9150e”“8650”“8450”が登場するのだろう。
Phenom 9600&“Core 2 Quad Q9450相当”と比較
Phenom X4 9850はオーバー/アンダークロックも検証
M3A32-MVP Deluxe/WiFi-AP 4-way CrossFireX対応のハイエンドマザー メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:3万3000円前後(2008年3月27日現在) |
Maximus Formula Special Edition X38でDDR2対応のゲーマー向けモデル メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:4万円前後(2008年3月27日現在) |
オーバークロック検証に当たっても,時間の都合で厳密な“詰め”は行えなかったが,ASUSTeK Computer製の「AMD 790FX」搭載マザーボード「M3A32-MVP Deluxe/WiFi-AP」のBIOSから電圧設定をすべて「Auto」にした状態で倍率設定13.5倍の2.7GHz動作を確認できたので,これを以下9850 BE@2.7GHzとしてテストを行う。
……さらりと書いたが,9850 BE@2.7GHzの安定度は大したもので,かつてのPhenom 9900エンジニアリングのテスト時と比べると,安定感がかなり増した印象を受けたことは付記しておきたい。
オーバークロックは自己責任で行うものであり,オーバークロック設定の結果,いかなる問題が生じたとしても,AMDおよび販売店,4Gamer編集部,筆者とも,いっさいの責任を負いません。また,2.7GHzで動作したのはあくまで筆者が試した個体,試した環境においてのものであり,すべての9850 BE/2.5GHzが2.7GHzまでオーバークロック可能であると保証するものではありません。
なお,比較用となるIntel製のクアッドコアCPUというと,急な話ということもあって手元には「Core 2 Extreme QX9650/3GHz」以外になかった。そこで今回は同CPUの動作倍率を落とし,9850 BE@2.7GHzと近い動作クロックの“「Core 2 Quad Q9450/2.66GHz」相当”にした状態(以下,QX9650@2.66GHz)のスコアを,参考までに取得することとした。整理しておくと,今回テストに用いた設定は表2のような感じになる。
Phenomのメモリアクセス方式は「Ganged」に固定。PhenomファミリーはDDR-1066対応のメモリコントローラを搭載しているが,今回はPC2-6400 DDR2 SDRAM DIMMを利用する。このほかテスト環境は表3のとおりだ。
テスト期間の都合により,テスト対象は「3DMark Build 1.1.0」(以下,3DMark06)と「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)に絞る。テスト手順は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2準拠だが,CPUテストなので,グラフィックスカードの性能に依存した結果が出やすい「高負荷設定」を省略して「標準設定」の検証のみとし,さらに解像度も1024×768/1280×1024/1600×1200ドットに限定している。
B3リビジョンでパフォーマンスはわずかに向上
可能性を感じる2.7GHz動作時のスコア
さっそくテスト結果を見てみよう。グラフ1は3DMark06の結果だ。同一クロックで比較すると,9850 BE/2.3GHzと9600/2.3GHzの間に違いはほとんどないが,まったくないわけではなく,若干の改善が見て取れる。また,9600/2.3GHzと定格クロックの9850 BE/2.5GHzでは,1024×768ドット時に約7%のパフォーマンス向上を確認できた。
オーバークロック時となる9850BE@2.7GHzのスコアはほぼCore 2 Quad Q9450相当……とまではいえないものの,9600/2.3GHz比では1024×768ドットで約12%と,おおむねクロックの上昇に比例したスコアの上昇を見せている点は歓迎したい。
CPU Scoreをピックアップした結果も,総合スコアと同様だ(グラフ2)。
次は,マルチスレッド処理に最適化されたロスト プラネットだ(グラフ3,4)。
より実際のゲームプレイに近いスコアが出やすいSnowでは,CPUによる違いがほとんどないものの,CPUベンチマークの色が濃いCaveだと,3DMark06と似たような傾向を示している。ゲームタイトルを用いたCPUベンチマークではL2キャッシュやL3キャッシュ容量がスコアを左右しやすいこともあってPhenom X4はやや不利だが,それでも1280×1024ドット時のスコアなどを見るに,9850 BE/2.5GHzのポテンシャルにはかなりポジティブなものが感じられよう。
高めのVIDが災いか?
温度と消費電力は依然高い
デスクトップPC向けCPUとしては高めとなる125WのTDPは,消費電力にどのような影響を与えているだろうか。Windows XPの起動後,30分間放置した直後を「アイドル時」,CPUのみに負荷をかけるべく,MP3エンコードソフト「午後のこ〜だ」をベースとしたベンチマークソフト「午後べんち」の耐久テストを30分間実行し,最も消費電力の高い時点を「高負荷時」として,ワットチェッカーからシステム全体の消費電力を計測した結果をまとめたのがグラフ5だ。今回は倍率の手動設定を多数行っている関係で,省電力機能有効時のスコアは取得していない。
またあらかじめお断りしておくと,先の表2で言及しているとおり,9850 BE@2.3GHzとQX9650@2.66GHzはそれぞれPhenom X4 9650およびCore 2 Quad Q9450を想定した倍率設定を行っているが,実機そのものではない。この二つの結果は(色も変えてあるが)あくまで参考程度に捉えてほしい。
というわけで残る三つを見ていくが,さすがにTDP 125Wということもあり,9850 BE/2.5GHzおよび9850 BE@2.7GHzの消費電力は高い。9600/2.3GHz比べてアイドル時,高負荷時ともその差は50W前後だ。
ここまで差がついている理由は,おそらくVIDの違いだろう。CPUID製モニタリングソフト「HWMonitor」(Version 1.08)でチェックすると,9600/2.3GHzが1.25Vなのに対して9850 BE/2.5GHz(および9850 BE@2.7GHz)は1.30V。これが動作クロックとの相乗効果で,消費電力を増やしていると考えられる。
続いてグラフ5の各時点におけるCPUの温度を見てみよう。バラックの状態にあるテスト環境におけるCPU各コアの温度をHWMonitorで計測し,平均値をスコアとしてまとめたのがグラフ6となるが,やはりここでも9850 BE/2.5GHzと9850 BE@2.7GHzのCPU温度が9600/2.3GHzを大きく引き離している。冷却にはかなり気を配る必要がありそうだ。
クロック上昇でぐっと魅力的になったPhenom X4
45nmプロセス版Core 2 Quad“不在”の今がチャンスか?
消費電力の高さだけはどうにもならず,解決には2008年第4四半期とされる45nmプロセスへの移行を待つほかない。また,4Gamerでこれまで繰り返してきているとおり,現時点でよりゲーム向きなのは高クロックのデュアルコアCPUなので,100%ゲームのことを考えるのであれば,今のところデュアルコアのほうが正しい選択であることは憶えておく必要がある。しかし,動作クロックの引き上げと重要なエラッタの修正により,Phenom X4がPCゲーマーの選択肢の一つとして浮上してきたのは間違いない。
ライバルとなる45nmプロセス世代のCore 2 Quad 9000番台が極端な品不足にある現在,小売市場への流通量さえ確保できれば,そのコストパフォーマンスを武器に,一定の立ち位置を確保できそうだ。Phenomは今度こそ,無事に離陸しそうである。
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Phenom
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