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  • 発表日:2007/11/19
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B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
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印刷2008/03/27 13:01

テストレポート

B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報

新Phenomの製品ロゴ。コア数を示す「X+数字」が復活した
画像集#002のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
 ついに,“真のPhenom”が登場する。
 TLBエラッタ問題に揺れたB2ステップ版Phenomの発表から4か月強が経過した2008年3月27日1:01PM,AMDはこの問題を解決した「B3ステップ」(B3 Stepping)と呼ばれるバージョンのPhenomを,新製品としてあらためて発表した。

 エラッタ(Errata)に関しては2007年12月26日の記事「Phenom徹底分析(中):B2ステッピングのエラッタで何が起こるのか」が詳しいので,興味のある人はぜひ参考にしてほしいが,簡単にいえばエラッタとはCPUのバグだ。B2ステップ版Phenomのバグは,発生頻度が高くないものだったが,ソフトウェア的に修正を行うとパフォーマンスが大きく低下する問題を抱え,新世代CPUに暗い影を落としていた。B3ステップはこのバグをハードウェア的に修正したバージョンで,まさに待望の新リビジョン(Revision,改訂の意)となる。

「CPU-Z」(Version 1.44.1)実行結果
画像集#018のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
 さて,今回発表されたのはクアッドコアの「Phenom X4」5モデルおよび,x86互換CPUとしては世界初となるトリプルコアの「Phenom X3」2モデルの計7製品。「X4」の表記に見憶えのある読者もいるだろうが,コアの数を示す「X+数字」が,B3ステップへの移行とともに復活したことになる。デュアルGPUソリューション「ATI Radeon HD 3870 X2」と製品型番の共通化が図られた格好だが,初期Phenomのよくないイメージを,製品名のマイナーチェンジでなんとか払拭しようとするAMDの“いじらしさ”が感じられるネーミングともいえそうだ。


最上位モデルは2.5GHz動作のBlack Edition

一般小売り市場へはクアッドコアCPUの出荷を優先


Phenom X4 9850 Black Edition。(当たり前だが)AM2+となるCPUパッケージに変化はない。なおOPNは「HD985ZXAJ4BGH」となっている
画像集#003のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
 今回発表された新しいPhenomファミリーのラインナップと主なスペックは表1にまとめたとおり。Phenom X4 9000シリーズのうち,「Phenom X4 9650/2.3GHz」「Phenom X4 9550/2.2GHz」(順に以下9650/2.3GHz,9550/2.2GHz)はB2ステップ版Phenom(=「Phenom 9600/2.3GHz」および「Phenom 9500/2.2GHz」)を置き換え,“その上”に2製品が追加された格好だ。
 とくに最上位モデルの「Phenom X4 9850 Black Edition/2.5GHz」(以下9850 BE/2.5GHz)は,Black Editionということで倍率ロックフリーとなるほか,HyperTransport 3.0クロックが片方向200MHz引き上げられた2000MHzとなり,プレミアムモデルらしい佇まいを見せている。

 TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は,9850 BE/2.5GHzが125Wで,「Phenom X4 9750/2.4GHz」(以下9750/2.4GHz)は125W/95W(※詳細は後述)。それ以下は基本的に95Wで,省電力版であることを示す「e」の文字が付与された「Phenom X4 9100e/1.8GHz」のみ65Wとなる。
 L2キャッシュ容量が1コア当たり512KBであることや,共有L3キャッシュ容量が2MBであることなどは既存のPhenomと同じ。B3ステップ化と動作クロックの引き上げ,トリプルコア並びに低電圧版の追加といったラインナップの拡充が行われた一方,アーキテクチャレベルでの大幅な変更はない。

※発表時点において,9750/2.4GHzのTDP 125W版はチャネル(=一般小売市場)向け,TDP 95W版はOEM向けとなる。1000個ロット時価格215ドルというのはチャネル向けで,OEM向け価格は公開されていない
画像集#007のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報

参考:AMDによる2008年3月27日時点の製品ラインナップ
画像集#017のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
 表1を見て,いくつか気になった点がある人もいると思うが,少し整理しておこう。まず,2008年3月27日の発表時点において,「チャネル」(Channel)と呼ばれる一般小売市場へ出荷されるのは,9850 BE/2.5GHzおよび9750/2.4GHz,9550/2.2GHzの3モデル。TDP 125/95Wの2種類が用意される9750/2.4GHzだが,PCショップの店頭で入手できるのは当面の間TDP 125W版のみとなる。今のところ,95W版はAMDのOEM先となるPCメーカーに向けたラインナップなので,この点はご注意を。
 また,「今回のモデルナンバーで『xx50』は,B3ステッピングを表す」(日本AMD)とのことで,省電力版Phenom X4およびトリプルコアのPhenom X3は,しばらくB2ステップの製品が出荷される。同社によると,一般小売市場へ出荷するときにはすべてB3ステップとなるそうなので,(いつかは分からないが)いずれB3ステップの“9150e”“8650”“8450”が登場するのだろう。


Phenom 9600&“Core 2 Quad Q9450相当”と比較

Phenom X4 9850はオーバー/アンダークロックも検証


画像集#004のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
M3A32-MVP Deluxe/WiFi-AP
4-way CrossFireX対応のハイエンドマザー
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp
実勢価格:3万3000円前後(2008年3月27日現在)
画像集#005のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
Maximus Formula Special Edition
X38でDDR2対応のゲーマー向けモデル
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp
実勢価格:4万円前後(2008年3月27日現在)
 ところで,筆者はNDA(機密保持)契約に基づいて日本AMDから9850 BE/2.5GHzの貸し出しを受けたのだが,到着したのは2008年3月25日のことだ。システムのセットアップと原稿執筆時間を差し引いた,実質的なテスト時間は24時間以下であり,とても広範な検証を行うことはできない。そこで今回は,9850 BE/2.5GHzの純然たるポテンシャルと,オーバークロックの可能性,そして動作クロックをB2ステップ最上位となる「Phenom 9600/2.3GHz」(以下,9600/2.3GHz)に揃え,Hyper-Transportクロックも1.8GHzに下げたとき(以下,9850 BE@2.3GHz)の違いを中心に絞って検証を行うこととした。

 オーバークロック検証に当たっても,時間の都合で厳密な“詰め”は行えなかったが,ASUSTeK Computer製の「AMD 790FX」搭載マザーボード「M3A32-MVP Deluxe/WiFi-AP」のBIOSから電圧設定をすべて「Auto」にした状態で倍率設定13.5倍の2.7GHz動作を確認できたので,これを以下9850 BE@2.7GHzとしてテストを行う。
 ……さらりと書いたが,9850 BE@2.7GHzの安定度は大したもので,かつてのPhenom 9900エンジニアリングのテスト時と比べると,安定感がかなり増した印象を受けたことは付記しておきたい。

オーバークロックは自己責任で行うものであり,オーバークロック設定の結果,いかなる問題が生じたとしても,AMDおよび販売店,4Gamer編集部,筆者とも,いっさいの責任を負いません。また,2.7GHzで動作したのはあくまで筆者が試した個体,試した環境においてのものであり,すべての9850 BE/2.5GHzが2.7GHzまでオーバークロック可能であると保証するものではありません。

 なお,比較用となるIntel製のクアッドコアCPUというと,急な話ということもあって手元には「Core 2 Extreme QX9650/3GHz」以外になかった。そこで今回は同CPUの動作倍率を落とし,9850 BE@2.7GHzと近い動作クロックの“「Core 2 Quad Q9450/2.66GHz」相当”にした状態(以下,QX9650@2.66GHz)のスコアを,参考までに取得することとした。整理しておくと,今回テストに用いた設定は表2のような感じになる。

画像集#008のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報

 Phenomのメモリアクセス方式は「Ganged」に固定。PhenomファミリーはDDR-1066対応のメモリコントローラを搭載しているが,今回はPC2-6400 DDR2 SDRAM DIMMを利用する。このほかテスト環境は表3のとおりだ。

画像集#009のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報

 テスト期間の都合により,テスト対象は「3DMark Build 1.1.0」(以下,3DMark06)と「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)に絞る。テスト手順は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2準拠だが,CPUテストなので,グラフィックスカードの性能に依存した結果が出やすい「高負荷設定」を省略して「標準設定」の検証のみとし,さらに解像度も1024×768/1280×1024/1600×1200ドットに限定している。


B3リビジョンでパフォーマンスはわずかに向上

可能性を感じる2.7GHz動作時のスコア


 さっそくテスト結果を見てみよう。グラフ1は3DMark06の結果だ。同一クロックで比較すると,9850 BE/2.3GHzと9600/2.3GHzの間に違いはほとんどないが,まったくないわけではなく,若干の改善が見て取れる。また,9600/2.3GHzと定格クロックの9850 BE/2.5GHzでは,1024×768ドット時に約7%のパフォーマンス向上を確認できた。
 オーバークロック時となる9850BE@2.7GHzのスコアはほぼCore 2 Quad Q9450相当……とまではいえないものの,9600/2.3GHz比では1024×768ドットで約12%と,おおむねクロックの上昇に比例したスコアの上昇を見せている点は歓迎したい。
 CPU Scoreをピックアップした結果も,総合スコアと同様だ(グラフ2)。

画像集#010のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
画像集#011のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報

 次は,マルチスレッド処理に最適化されたロスト プラネットだ(グラフ3,4)。
 より実際のゲームプレイに近いスコアが出やすいSnowでは,CPUによる違いがほとんどないものの,CPUベンチマークの色が濃いCaveだと,3DMark06と似たような傾向を示している。ゲームタイトルを用いたCPUベンチマークではL2キャッシュやL3キャッシュ容量がスコアを左右しやすいこともあってPhenom X4はやや不利だが,それでも1280×1024ドット時のスコアなどを見るに,9850 BE/2.5GHzのポテンシャルにはかなりポジティブなものが感じられよう。

画像集#012のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
画像集#013のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報


高めのVIDが災いか?

温度と消費電力は依然高い


 デスクトップPC向けCPUとしては高めとなる125WのTDPは,消費電力にどのような影響を与えているだろうか。Windows XPの起動後,30分間放置した直後を「アイドル時」,CPUのみに負荷をかけるべく,MP3エンコードソフト「午後のこ〜だ」をベースとしたベンチマークソフト「午後べんち」の耐久テストを30分間実行し,最も消費電力の高い時点を「高負荷時」として,ワットチェッカーからシステム全体の消費電力を計測した結果をまとめたのがグラフ5だ。今回は倍率の手動設定を多数行っている関係で,省電力機能有効時のスコアは取得していない。
 またあらかじめお断りしておくと,先の表2で言及しているとおり,9850 BE@2.3GHzとQX9650@2.66GHzはそれぞれPhenom X4 9650およびCore 2 Quad Q9450を想定した倍率設定を行っているが,実機そのものではない。この二つの結果は(色も変えてあるが)あくまで参考程度に捉えてほしい。

 というわけで残る三つを見ていくが,さすがにTDP 125Wということもあり,9850 BE/2.5GHzおよび9850 BE@2.7GHzの消費電力は高い。9600/2.3GHz比べてアイドル時,高負荷時ともその差は50W前後だ。
 ここまで差がついている理由は,おそらくVIDの違いだろう。CPUID製モニタリングソフト「HWMonitor」(Version 1.08)でチェックすると,9600/2.3GHzが1.25Vなのに対して9850 BE/2.5GHz(および9850 BE@2.7GHz)は1.30V。これが動作クロックとの相乗効果で,消費電力を増やしていると考えられる。

画像集#014のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報

 続いてグラフ5の各時点におけるCPUの温度を見てみよう。バラックの状態にあるテスト環境におけるCPU各コアの温度をHWMonitorで計測し,平均値をスコアとしてまとめたのがグラフ6となるが,やはりここでも9850 BE/2.5GHzと9850 BE@2.7GHzのCPU温度が9600/2.3GHzを大きく引き離している。冷却にはかなり気を配る必要がありそうだ。

画像集#015のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報


クロック上昇でぐっと魅力的になったPhenom X4

45nmプロセス版Core 2 Quad“不在”の今がチャンスか?


画像集#006のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
 B2ステップ版Phenomは,「Core 2 Quad Q6600/2.40GHz」が持つコストパフォーマンスを前に敗れ去ったというか,TLBエラッタがオウンゴールとなった印象が強いが,B3ステップのPhenom X4は,そのマイナスイメージを払拭できるだけのポテンシャルを持っているといってよさそうである。
 消費電力の高さだけはどうにもならず,解決には2008年第4四半期とされる45nmプロセスへの移行を待つほかない。また,4Gamerでこれまで繰り返してきているとおり,現時点でよりゲーム向きなのは高クロックのデュアルコアCPUなので,100%ゲームのことを考えるのであれば,今のところデュアルコアのほうが正しい選択であることは憶えておく必要がある。しかし,動作クロックの引き上げと重要なエラッタの修正により,Phenom X4がPCゲーマーの選択肢の一つとして浮上してきたのは間違いない。

久しぶりに(?)希望の感じられる直近のロードマップ
画像集#016のサムネイル/B3ステップ離陸。「Phenom X4 9850 Black Edition」パフォーマンス速報
 原稿執筆時点で9850 BE/2.5GHzおよび9750/2.4GHz,9550/2.2GHzの正確な発売日は明らかになっていないが,秋葉原ショップ筋の情報によると,先行して上位2モデルが登場の見込み。3月末ギリギリのタイミングで,9850 BE/2.5GHzが3万円前後,9750/2.4GHzが2万8000円前後で店頭へ並ぶことになると思われる。
 ライバルとなる45nmプロセス世代のCore 2 Quad 9000番台が極端な品不足にある現在,小売市場への流通量さえ確保できれば,そのコストパフォーマンスを武器に,一定の立ち位置を確保できそうだ。Phenomは今度こそ,無事に離陸しそうである。
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