IDF 2010 Beijingの会場となる,中国国家会議中心(Beijing China National Convention Center)
楊叙氏(President, Intel China)が,中国市場の状況を説明
2009年のIT製品などの出荷実績と現在の中国市場規模。PCではすでに世界第2の市場に成長したが,13億人という人口から見れば,IT製品の普及はまだまだといったところ
2010年4月13〜14日にかけて,Intelは,中国・北京市で開発者向け会議
「Intel Developer Forum 2010 Beijing」 (以下,IDF 2010 Beijing)を開催中だ。これに先駆けて,“0日め”となる12日に,2009年10月に北京で設立された研究機関
「Intel Labs China」 (インテルラボ チャイナ)の取り組みが紹介されたので,本稿ではその模様を簡単にレポートしてみたい。
さて,前日説明会ではまず,Intel China総裁の楊叙(Ian Yang)氏が中国市場の概況を説明。昨年,中国国内では5260万台のPCと2億7400万台の携帯電話,2500万台の液晶テレビ,1364万台の自動車が普及しており,3億4600万戸がブロードバンドインターネットを利用するに至った。
しかし,中国の総人口13億4000万人,GDP 33兆5000億元,そして7億4700億戸の携帯電話利用者という市場規模を踏まえれば,まだまだ成長が見込める巨大市場ということができる(※中国ではプリペイドシステムによる携帯電話契約者が多いため,実際のユーザー数とは異なる可能性が高い)。そこで,Intelの技術力を活かした製品を開発・展開していくことが,Intel Labs Chinaの役割となるとのことだ。
Justin R. Rattner氏(Vice President, Director, Intel Labs and Intel Chief Technology Officer Intel Senior Fellow, Intel)は,Intel Labs Chinaの目的と概要を紹介
「そこでIntelは,Intel Labs China最初の6か月間を,今後の研究・開発の方向性を探るリサーチ期間に当てた」――こう説明するのは,Intel本社でIntel Labsを統括するJustin R. Rattner(ジャスティン・ラトナー)CTOである。その結果Intelは,クラウドコンピューティングやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC),カーコンピューティング,ゲームなどの分野で,中国市場における可能性を見い出すとともに,同市場における最重要課題として組み込みシステムに取り組んでいく決断をしたという。
Rattner氏によれば,Intel Labs Chinaが持つ強みは,システムアーキテクチャや通信,ソフトウェア開発などの分野にある。それらとIntelアーキテクチャを組み合わせて,「中国による,中国のための製品・技術開発を進めていく」とのことだ。
2009年9月に北京市で開設されたIntel Labs Chinaは,Justin Rattner CTO直轄の部門として,ほかの研究機関や連係しつつ,次世代Intel製品の基幹技術開発を担っていく
Intel Labs Chinaが注力する研究ジャンル。Intelは同研究所開設後,最初の6か月間を,中国市場において研究開発を進める価値のあるジャンルを探ることに費やしたという
Intel Labs Chinaを統括する方之煕博士(Managing Director of Intel Labs China)は,同研究所の取り組みを説明
続いて,Intel Labs Chinaを統括する方之煕博士(Dr.Jessie Fang)が,組み込み市場における取り組みを紹介した。
氏によると,2008年における全世界の家電市場は3352億ドル規模で,2016年まで5%の年平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)が見込まれるとのこと。そのなかでもとくに,3Dテレビやタブレット型コンピュータ,車載コンピュータ(IVI:In-Vehicle Infotainment),スマートフォンに,大規模な成長が予測されている。
対する中国市場はどうかというと,IPテレビ(※IPを利用したデジタル放送配信サービス)端末の年平均成長率が,全世界31%のところ中国は48%(2009〜2013年),IVIは全世界が9%に対して中国は26%(2010〜2016年),スマートフォンは全世界19%に対して中国が24.5%(2010〜2014年)と,他の地域に比べても急速な成長が見込まれているという。
全世界の家電市場と今後の成長予測。3Dテレビやタブレット端末,IVI,スマートフォンが堅調な成長を続けると見られている
中国市場においては,IPテレビ端末やIVI,スマートフォンが世界市場に比べても急速な成長を遂げると予測される
Intel Labs Chinaにおける組み込みシステム研究開発の柱となるのは,同社のCPUやSoC技術,ソフトウェアプラットフォームなど。これらを生かしながら,アプリケーションやプラットフォームの最適化を進めていく
「だが,組み込み市場は,消費者の多様なニーズに応える形で製品が細分化されている。また,消費者は,価格や消費電力に過敏な反応を示す傾向がある。さらに,製品サイクルが短く,競争力のある製品を短期間で開発&投入し続けることが,同市場を勝ち抜く上で不可欠となる」(方氏)。
そこでIntel Labs Chinaでは,同社のプロセッサやシステム技術を,組み込みシステムの具体的な用途ごとに最適化し,少量生産でも競争力が保てるコスト体系や省電力性能を持たせなければならないと分析。Intelが強みを持つハードウェアアーキテクチャやI/O技術,通信技術,システムソフトウェアに関する研究を進めることで,組み込みシステム市場における優位性を確立させる考えだ。
次世代の組み込みシステムでは,クライアントとクラウドとの,より密接なやりとりにより,ユーザーが求めるサービスを的確に提供できるようにしていくという姿勢が示された
具体的には,「顔認識やビデオ検索,3Dモデリング,クラウドコンピューティングを活用したテレビとの連係」などの研究を進めたり,より低消費電力で,高品位なビデオ機能を実装できるよう,メモリ利用の最適化や,ビデオ処理のハードウェア実装を進めているとのこと。その一例として紹介されたのが,「IPテレビの視聴番組履歴をユーザーごとに持たせることで,ユーザーが好みそうなジャンルの情報や広告を提供していくサービス」や,「IVIを使って歩行者や追い越し車両を認識し,より安全なドライビングをアシストする機能」「相方向インタフェースを用いて,よりインテリジェントに交通状況判断を行うナビゲーションシステム」といったあたりである。
IPテレビの分野では,ユーザーの試聴履歴を基にしたリコメンデーションシステムが開発中
IVIでは,より安全なドライブや効率的なナビを実現する試みがなされているという
顔認識技術を使って,オンラインキャラクターやアバターにプレイヤーの表情を動的に反映する研究や,3Dナビゲーションシステムの研究が進められているとのこと
「で,これのどこが4Gamer向きの話なのか」と思うかもしれない。その意味ではここからがゲーマー的な本題なのだが,Intel Labs Chinaでは,先ほど軽く触れたように,ゲームプレイ環境を改善する研究も進められている。
会場では,ビデオを使った3Dモデリングや,顔認識技術を応用して3Dキャラクターに表情を持たせるデモなどが披露されていたが,とくに注目したいのが後者だ。世界最大のオンラインゲーム市場へと成長した中国において,「3Dキャラクターに,プレイヤーの表情を通じて,プレイヤーの感情を反映させる」というのは,より円滑なコミュニケーションを実現するうえで,大いに期待される技術なのである。
こちらは,ユーザーの写真を3Dキャラクターに適用するデモ。ビデオをベースにした3Dモデリングの技術を応用すれば,オンラインゲームやソーシャルネットワークで,自分そっくりのキャラクターやアバターを使うこともできるようになるというわけである
今回披露されたデモは,「撮影済みのビデオから,笑顔のみを認識して,キャラクターに表情を持たせる」というもので,リアルタイムで表情をアバターに反映させるところまでは行っていないが,これは,Intel Labs Chinaが現在,スマートフォンやMID(Mobile Internet Device)といった組み込みシステムへの実装を想定した研究を行っているため。説明に当たった研究所の所員は「高性能なPCを使えば,(笑顔だけでなく)複数の表情をリアルタイムで反映させることも不可能ではない」としており,今後の展開に期待が高まるところだ。
※ムービーファイルへのリンク
※ムービーファイルへのリンク
IntelがNECと協力して開発を進めている,裸眼3D立体視を実現するディスプレイ
なお,説明会場にはこのほかにも,3Dモデリング技術を利用して,ユーザーの写真データから3Dキャラクターを生成したり,スマートフォンやMID向けのアプリケーションをPCで動かしたり,裸眼3D立体視が可能なディスプレイデバイスが展示されたりと,Intel Labs Chinaが,ゲーム分野においても積極的に研究開発を行っている姿勢が示されていた。