連載
男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ:第288回「戦う理由」
簡単に説明すると,私は大学生の間,学生プロレスをヤっていたのね。これはちゃんと,100%純粋な自分の意志でヤっていたの。この時点では職業じゃないからね。まあ,部活感覚よ。で,大学を卒業して東京にヤって来たら,仕事先の人がきわめて小さい団体ではあったんだけど,プロレス関係者だったの。そこで「プロレスやってたんだったら,ウチの練習に来てみない?」って言われて。仕事先の人の話だから断りづらくてその練習に出てみたところ,気付いたら対戦カードが組まれていたという。そういうデビューの仕方だったのね。
最近では,ようやくプロレスラーの自覚が出てきているんだけど,このように私自身が志してこの職業に就いたわけではないから,どうしてプロレスラーになろうと思ったかなんて答えられないわよね。だから,今でも「プロになろうと思ったことはない」という気持ちのまま,ここまで来てるの。
ただね,だからといって自分の仕事に誇りを持てていないのか? と問われれば,それは否。あくまで結果論なんだけど,今,この仕事をヤれて良かったな,とは思っているわ。なぜなら,なんだかんだで人生を通してプロレス自体は好きだったし,人を楽しませる職業に就きたいなとは思っていたから,それはそれで叶ってるとも言えなくもないし。そして何より,こうやってゲイムの連載を持つことができているしね! もう今となっては,私はこの仕事しかできなかったんだろうな……という気すらする。
将来的には自分がどうなるのかなんて分からないけど,今のところはこの職業で行けるところまで行こうとは思うわ。まだプロレス界の甘い汁をすするところまで来てないしね。ここから投資分を回収せねばならん。問題は,何をもって回収なのかかが不透明な業界であるというところなんだけど。なので,まあ,私はそういうモチベーションで戦っているわけね。
フリーダムウォーズは,“奪還”マルチプレイアクションというジャンルみたいなんだけど,簡単にいうと最近のトレンドでもある,ミッションクリア型のアクションゲイム。いわゆるハンティングアクションの一つね。この作品ならではの要素としては,荊を使ったアクションがあるってところが挙げられるかしら。荊を利用した高低差のあるアクションが,なかなか爽快。
……と言いつつも,私はその部分について多くを語つるもりはないの。正直,私,この手のアクションゲイムはあんまりうまくないからね。だからアクション部分についてそれっぽく語っても,自分の中でしっくりこないのよ。それよりは,私なりにグッと来たところを掘り下げたほうが(ゲイレスラーだけに)ちゃんと語れる気がする。だから今回は,私が思うこのゲイムの優れた点,「目的意識の持たせ方」について述べさせていただくとするわ。
さて。大げさに風呂敷を広げたものの,シンプルに言ってしまえば世界観の話なのよ,私が言いたいのは。世界観の伝え方が非常に秀逸だ,と。そう感じたのね。
だって「懲役100万年」よ? もう,時間のインフレ。現代の平均寿命をおよそ80歳とするならば,1万2500回生きられる計算。どうすんだ,と。
でもまあ,このインフレにパンチがあるのは事実で,どうしようもない感じはゲイム開始早々に伝わってくるのね。で,ゲイムは主人公達に突き付けてくるの。「生きているだけで罪」であると。実際にゲイム開始直後に5歩歩いたら「勝手に5歩歩いたから懲役5年追加」となる。何の説明もなく。あまりの不意打ちに「うそーん!」ってなる。もう,この時点で世界観に引き込まれてるのよ。これがうまい。
要は,懲役を減らすために主人公は戦うんだけどね。戦う理由が懲役で表現されてるのよ。これが非常にフィクションならではで,それでいて目に見える目標が提示されているという現実性もあって,非常にフィットしているの。これには正直,ヤられたと思ったわ。
5歩以上歩いたら懲役があるほかにも,横になっても刑期が加算,5秒以上走っても刑期が加算,NPCに無駄に話しかけても刑期が加算。もう,罰則だらけ。しかも何の説明もなく。普通に考えたら不親切なはずなんだけど,その理不尽さと不親切さを設けることでプレイヤーに課せられた不自由を表現しているの。
もちろん,この不自由さはゲイムを進めていくと溜まる貢献ポイントを使って,自由に過ごせる権利を少しずつ獲得していくことによって払拭できるんだけど。まさにフリーダムウォーズ=自由の戦い。もっと言えば,自由への戦い。なぜ戦うのか。自由を得るため。これがハッキリしている。
戦う理由は平たく言えばプレイする理由でもあるわけで,このゲイムの何が凄いって,戦う理由をプレイヤーに分からせるために,ちゃんと逆算して作られているところだと思うのよ。作り手の立場になって考えてみましょうか。
↓
○ハンティングアクションはステージを何度も繰り返し遊ぶゲイム
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○何度もプレイヤーに遊んでもらうにはどうすればいいか
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○目に見える目標を設定しよう
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○数字が減っていけばいいのではないか
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○借金だとありふれている,では懲役ではどうか
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○懲役ということは,罪が必要
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○膨大な懲役を科すると,自由はないはず。
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○不自由さを表現するために,行動を制約しよう
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○自由に動こうとすると罪が増えてしまって不自由だ
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○だんだん自由になっていけば快感だし,成長と成果が感じられる
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○繰り返し遊ぶモチベーションになる
まあ,これは私が想像した範囲だから本当はもっと複雑な意図があるんだろうけど,逆に言うとズブの素人の私でも,ここまで想像できるくらいプレイヤーの心理を操れているのね。少なくとも私は,まんまと制作者の罠にはまってもうた。ゲイムがどうっていうのとは別の要素だけど,こういう手玉のとり方があるんだなっていうのは素直に感心したわ。
戦う理由。これすなわち,プレイヤーがプレイする理由。これってゲイムだけじゃなく,エンターテイメントにおいてけっこう無視できない要素なのかなって思うわ。エンターテイメントは「お客さんにメリットを提示する必要がある」っていうのが私の持論なんだけど,それにつながることである気がするわ。イヤ,本当に勉強になった。そういう意味でもプレイして良かった。こういうことがあるから,シリーズものじゃない新規タイトルも無視できないのよね。
これを読んでいる人の多くは別にプロレスラーでもなければエンターテイメント業界の人でもないだろうから,さほど参考にはならないだろうけど。でも,新しい何かを作ろうとする力を感じることはできると思うわよ。アクションゲイムがヘタな私は,アクションゲイム好きとしてオススメすることができないけど,単なる新しモノ好きとしては断然おススメ。ぜひに。
そういう感じで,私,プロレスのほうも自覚のないままこれからも戦い続けようと思っている次第です。別に私に言わせりゃ,いらないのよプロレスラーの自覚なんて。プロレスラーだろうがなんだろうが,必要なのは自分が提供するモノに金を払う人がいるっていう自覚。
人はそれをプロ意識と呼ぶんでしょうけどね。それは持っていると言い続けねばならん気がするわ。人前に出る以上は。たとえ本当は持ってなくても。自分なりの戦う理由も同様に。戦いは,対戦相手がいるものだけじゃないからね。みんな戦ってる。それは,エンターテイメントとか関係なく,生きてる以上はみんな。もちろん,あんたもね。
だから,嘘でも戦う理由を見つけなきゃ戦ってられないんですよ。とりあえず,来週の木曜日,この連載を書くまでは戦いましょうか。その程度でいいのよ。その繰り返しもまた一つの戦う理由。生きてるだけで丸儲け。ではまた来週。
今週のハマりゲイム
(文字通りゲイムスロットにハマっているゲイム)
PlayStation 4:「ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー」
PlayStation 3:「ワールドサッカー ウイニングイレブン 2014 蒼き侍の挑戦」
PlayStation Vita:「フリーダムウォーズ」
PSP:「サモンナイト5」
Wii U:「The Wonderful 101」
Wii:「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」
ニンテンドー3DS:「ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス」
Xbox 360:「剣の街の異邦人 〜白の王宮〜」
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- 関連タイトル:
フリーダムウォーズ
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