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インディーズゲームの小部屋:Room#624「Through the Darkest of Times」
ロスリックでの使命を終えて,ロードランに舞い戻ってきた筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第624回は,Paintbucket Gamesが開発した「Through the Darkest of Times」を紹介する。本作は,ナチス政権下のベルリンでレジスタンス活動を行うというストラテジーゲームだ。次は原点回帰で,久しぶりにボーレタリアの地をのぞいてみようかな。
本作は,ヒトラーがドイツの首相に就任した1933年から,第二次世界大戦でドイツが無条件降伏をする1945年までを4つのチャプターで描いた,史実に基づくターン制のストラテジーゲーム。この期間を通しでプレイするのではなく,1933年,1936年,1940/1941年,1944/1945年の4つの時代をチャプターごとに体験する仕組みだ。
プレイヤーはベルリンに拠点を置く小さなレジスタンスグループのリーダーとなり,自分を含む最大5人のメンバーで反政府運動を行っていく。本作では1週間が1ターンとなっており,各メンバーを毎ターン1つの活動(ミッション)に割り当てられる。その内容は,危険度の低いものから高いものまでさまざまだが,最初のうちは壁にスローガンを落書きしたり,チラシをまいたりといった,比較的リスクが低いものがメインとなる。
ミッションには,複数人の参加や下準備が必要なものがある。例えば落書きをするためにはペンキが不可欠だし,チラシの作成は紙がなければ始まらない。そして,これらの準備と共に重要となるのが,チームのモラルの維持,支持者の獲得,そして活動資金の調達だ。それぞれのメンバーは「力」「共感」「読み書き能力」など5つの能力値と,「冷静」「無鉄砲」「暴力的」といった性格,「社会民主党員」「キリスト教自由主義者」「コミュニスト」などのさまざまな社会的/政治的立場を持っているので,誰にどのミッションを任せるか慎重に検討しよう。
始めのうちはゲシュタポ(秘密警察)にマークされていないため自由に動けるが,活動を続けていくと目撃されて監視の目が厳しくなり,自分やメンバーが逮捕されてしまうこともある。また,あるメンバーがほかのメンバーをナチスのスパイだと糾弾し始めるなど,ときには考えや性格の異なるメンバー同士でいさかいが起こったりもする。長期間活動しているメンバーはレベルが上がって能力値が向上するので,仲間を信じたい気持ちはあるが,チーム全体を危機にさらすわけにもいかない。こんなときにどう対応するか,リーダーとしての手腕の見せどころだ。
ターンが終わると新聞の見出しが大写しになり,そのとき世の中で何があったのかを知ることができる。もちろん,これらは史実に基づいたものだ。また,歴史的なイベントや主人公の周囲で起こった出来事が描かれることもある。どこにでもいる「ごく普通の人々」の代表のような近所の気のいいおばさんが,いつのまにかナチス党の熱心な支持者に変わっており,ナチスから仕事(それも強制収容所の監視員)を与えられたことを無邪気に喜んでいたときは,思わずゾッとしてしまった。
本作ではプレイヤーがどんなに頑張っても政府を転覆させたり,戦争の結末を変えたりすることはできないが,人々の心をつかみ,目の前にある命を救うために戦うことはできる。終始重苦しい,緊張感のあるゲームプレイを通じて,人類の歴史上で“最も暗い時代”を当事者として体験できる本作。これまで深く知ることがなかった,ドイツの悲惨な歴史を学べる機会でもあるので,興味を持った人はぜひどうぞ。そんな本作はSteamにて,1600円で発売中だ。
■「Through The Darkest of Times」公式サイト
https://paintbucket.de/en/ttdot- 関連タイトル:
Through the Darkest of Times
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