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[GDC2008#36]ウワサの「Portal」開発者が,その成功を事後分析
ちなみに,Wolpaw氏はSwift氏の同級生ではなく,もともとは堅物の中年に扮して辛らつなゲーム批評を展開していた「Oldman Murray」というウェブサイトを運営する,別の学校の学生だったらしい。まだブログもなかった時代にOldman Murrayは閉鎖されたが,Wolpaw氏はその後Double Fine Studiosにライターとして雇用され,アクションアドベンチャー「Psychonauts」のストーリーを担当。やがてValveに移ってPortalチームに関わることになったという,異色の経歴を持つ。このSwift氏やWolpaw氏を含めても,Portalチームは最大時で10人を超えることもない非常に小さな開発部隊であったそうだ。
Wolpaw氏は,Swift氏をして「世界で一番面白い男」と評される人であるらしく,かなりウィットの利いたジョークを連発する。もちろん,これが理論などというほどの大袈裟なものではないのは,理屈っぽさで「クスッ」程度の笑いを誘う彼独特のギャグであるようだ。とにかく,このデルタ(溝)を狭くするほどゲームは面白くなるというのがこの“理論”であり,「過去に,良いStoryストーリーに押し潰されて失敗した作品はいくつもある」として,「Clive Barker’s Undying」の名を挙げていた。
このことから,PortalのStory-storyは,「贅肉のない状態」にしておき,プレイヤーが自分の体験からストーリーを脳裏に浮かべていくGameplay storyの比重を高めることにしたというのだ。
ここでKim Swift氏がバトンタッチし,このコンセプトを,ゲームにどのように生かしていくかに苦心することになったという。実際,Portalのストーリーはもともと随分と異なるものだったらしく,最初は主人公が登場する前の実験台となっていた人が途中で逃げ出し,GLaDOSに見つからないよう館内の屋根裏などをうろついている,RatmanというNPCの設定があったという。GLaDOS自身も,プレイヤーがレベルを通して持ち運ぶ箱として描かれ,「プレイヤーは,そのオブジェクトに友達のような感情を芽生えさせていく」というコンセプトになっていたようだ。
GLaDOSとの決戦も,どのようになるかはまったく決まっておらず,ジェームス・ボンド映画の悪役をイメージしてレーザービームによる攻撃をさせてみたり,モータル・コンバット風のアクションで1対1の死闘を演じたり,さらにはカーチェイスをイメージしたどこまでも追いかけてくるGLaDOSだったりと,エンディングは何度も変更やテストが繰り返されたという。同じ頃には「Half-Life 2: Episode Two」のエンディングシーンが社内でβテスト中だったらしく,「何匹ものストライダーとの壮絶な戦いを見せられた後で,焼却炉の話をするのは辛かった」とWolpaw氏は笑いを取っていた。
さまざまな案の中で,焼却炉に決定したのは,コアゲーマーやカジュアルゲーマーまで何度もプレイテストを繰り返したあとで,最も簡単なエンディングだったからだという。「それまでに積み上げてきたストーリーが大切なのであり,最後は笑って終われるような感じにしたかった」と,Swift氏はゲームデザインの意図を説明した。
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