インタビュー
日本主導で日本らしい作品に。「キノスワールド」のリニューアルを決めたGMO Gamesの代表取締役社長アンディ・クォン氏に話を聞いた
そんな状況の中,キノスワールドはなぜリスクの高い1年後のリニューアルを選択したのだろうか? GMO Games代表取締役社長のアンディ・クォン氏に話を聞いた。
大事にしたかったのはプレイヤーとの信頼関係
本日はよろしくお願いします。10月3日にキノスワールドのサービス一時休止,そして2009年秋の再開に向けてリニューアルを進めるとの発表がありましたが,その決定に至った経緯を教えてください。
アンディ・クォン氏(以下,クォン氏):
私はプレスカンファレンスで,日本独自展開やプレイヤーの方々をテスターにしないなど,プレイヤーの皆さんにいくつか約束をしました(関連記事)。ところが実際に7月11日からオープンβサービスを始めたところ,不具合の連続だったのです。自分でいうのもなんですが,11日からの3日間はずっと,私も当社のスタッフと一緒に徹夜で対応に務めました。
4Gamer:
どういう問題があったのでしょうか?
クォン氏:
我々の読みが甘かった部分があります。韓国の原作(「LUDIX ONLINE」)はすでにサービスを行っていますので,大丈夫だろうと踏んでいたのですが,キノスワールドを日本で展開するにあたってかなり仕様を変更していたため,予測できなかった不具合が次々に生じたのです。
4Gamer:
プレミアサービス(クローズドβテスト)でも発覚しなかった不具合が見つかっていったわけですね。
クォン氏:
その後,私は7月14日に韓国に向かい,当日夜遅くに開発元であるNFRONTのトップと会い,「とにかく急いで直してくれ」と相談しました。彼らがサーバ周辺から見直して,一とおり落ち着いたのが約1か月後でした。
4Gamer:
根本から見直す必要があったわけですか。
クォン氏:
ええ。私はその1か月の間,経営者として「このままじゃいけない」といろいろ考えていました。
まず思ったのは,せっかくキノスワールドに期待していたプレイヤーの方々を失望させてしまったことです。ブログなどを拝見すると怒りの声であふれていまして,ある方は,「社長のクォンを殴ってやりたい」とまで書いていたんです。
4Gamer:
暴力的な表現には問題がありますが,ともかく,プレイヤーはそれだけ不満をあらわにしていたわけですね。
そして,私にもその気持ちはよく分かるんです。というのも私自身,社内の誰よりもキノスワールドをやり込んで,自分のキャラクターをレベル50にしていました。コツコツと貯めたお金を使って露店で高価なアイテムを買った直後にサーバダウンしてパーになったりもしています。そのときの怒りは,いったいどこにぶつければいいのでしょう?
4Gamer:
いろいろ考えると自分自身にも返ってきてしまうわけですね。
クォン氏:
ともかく,これは一企業としても,10年近く業界にいる私個人としても恥ずかしいことだと強く感じました。不具合への対処は当然として,ゲームが目指す方向や目標についても考え直してみたのです。そこで,そもそも運営と開発とで哲学や見解の相違があったんじゃないか,という部分に思い至りました。
4Gamer:
運営と開発の間に齟齬があったと。
クォン氏:
経営者として,そのまま正式サービスに入り,可能な限り売り上げを出すという冷徹な判断もあるでしょう。しかし我々にそれはできなかったんです。
約束した義務を果たさずに売り上げだけを求めるのは違うだろうと。そこで私が,このままサービスを続けても誰にもいい結果は出ない,当初運営で考えていた方向に持って行こうと決断したのが7月末です。
4Gamer:
企業としては,大きなリスクを負う決断ですね。
クォン氏:
当然,経営的には相応のリスクを負います。しかし,企業としてやっていくには経営的な安定と同時に,信用も重要です。このままでは信用をますます失っていくだけですから,挽回しなければなりません。
それを踏まえて7月末から,もしGMO Gamesで開発を丸ごと引き取ったらどうだろうと,当社の取締役でキノスワールドのプロデューサーでもあるユンとずっと討議しました。
4Gamer:
なるほど。それがリリースの中にあった「GMO Games初の自社ブランドコンテンツとする準備のため」という文言につながるのですね。
クォン氏:
はい。8月末にNFRONTとの交渉が成立し,さらに9月いっぱいを使ってGMOインターネットグループ内での承認を得ました。なにぶん大きな話ですのでグループ内で話を通すのに時間がかかったのですが,運営スタッフの「我々の体力が続く限り,プレイヤーとの約束を果たすべき」という強い意志により,ようやくここまで漕ぎ着けたのです。
オンラインゲーム市場には
もっと多くの日本産タイトルが必要
私がキノスワールドを自社ブランドコンテンツにしようと思ったのには,もうひとつ大きな理由があります。
4Gamer:
ぜひお聞かせください。
クォン氏:
それは,日本のオンラインゲーム市場において国産タイトルが増えるべきだということです。ゲーム産業は,その国の文化と直結するものだと思っています。痒いところに手を届かせるには,その国の人でないと分からない部分があるでしょう。例えば今の中国オンラインゲーム市場は中国産タイトルであふれており,独自のテイストを楽しめます。
4Gamer:
中国も,数年前は韓国など外国産タイトルが多かったですけれども,この1〜2年で大きく変わりましたね。
クォン氏:
日本も同じだと思います。現状,日本のオンラインゲーム市場の大半は海外産タイトルで占められています。それが悪いというわけではないのですが,もっと日本独自のさまざまなテイストがあった方が楽しいでしょう。
ひいてはそれが,韓国などほかの国のオンラインゲーム市場にいい影響を与えるはずです。例えば北米のBlizzard Entertainmentが新作を発表すれば,世界中にものすごい影響を与えます。それと同じことが日本産タイトルにもできるはずだと思います。
4Gamer:
なるほど。
クォン氏:
私自身は韓国人ですから,きちんと把握できていない部分もあるんですが,日本の皆さんは4〜5年前から大手国産ゲームメーカーが作るオンラインゲームを楽しみにしていたんじゃないでしょうか。しかし現状は,当初考えられていたような結果にはなっておらず,盛り下がっているようにも思えます。
4Gamer:
少々耳の痛い話ですが,そのとおりかもしれません。
クォン氏:
韓国とは違うテイストの国産タイトルが増えることにより,プレイヤーにも選択の幅が出ます。そうした点を踏まえ,我々としても体力があるのであれば,日本の国産タイトルを出すべきだと強く考えています。
4Gamer:
なるほど。そこでまずはキノスワールドから,というわけですね。しかし事前にお話を聞いた限りでは,開発は日本国内ではなく,子会社にあたる韓国のGMO Games Koreaで行うそうですが。
クォン氏:
そうです。開発スタジオを韓国に置いて,当社から派遣した日本のスタッフが常駐する形になります。日本のGMO Gamesという枠の中で,開発していくとご理解ください。
4Gamer:
日本主導で企画を進めるという感じでしょうか?
クォン氏:
ええ,そうなんですが,はっきり役割を分けるというよりも,もっと全体的に一緒に作り上げていく感覚が強くなります。新しいキノスワールドをどこでサービスするかといえば,もちろん最初は日本ですから日本のプレイヤーに向けた仕様となります。
成功するために必要なのはキノスワールド独自の哲学
それではキノスワールドが具体的にどう変更されるのか,今お話いただける範囲で教えていただけますか?
クォン氏:
まだ検討中の部分が残っていまして,具体的には10月中に決定し,追って発表します。まず横スクロールシステムと平尾リョウさんのイラストに関しては変更ありません。
それ以外はゲーム構成やスキルの内容などゲームバランスが大きく変わると思います。そして最も変わるのは,このタイトルは何のためのゲームなのかという,いわば“ゲームの哲学”です。
4Gamer:
ゲームの哲学ですか。少々難しい言葉ですが。
クォン氏:
このゲームで何を訴えたいのか,プレイヤーは何をすればいいのかを明確に提示していきます。日本ではもともとコンシューマゲームの市場が大きく,中でもRPGが人気です。それはストーリーがあり,プレイヤーが何の役割をして何をすべきか目標がはっきりしているからだと思うんです。
実のところ,キノスワールドはPvEとPvPを軸に開発されました。韓国ではそれぞれのシステムが両立していて当たり前ですから。ところが日本のプレイヤーの受け取り方は違います。日本のプレイヤーはストーリーを重視して,それに無関係なPvPシステムは「何でこれが必要なの?」という疑問を感じる傾向が強いようです。
4Gamer:
ええ,確かに。もともと敵対する複数の勢力があって,プレイヤーはいずれかに所属して互いに戦うといった背景があれば別ですが,漠然とした対人戦には抵抗がある。というよりもなぜ戦うのか意味が分からない人も多いかもしれません。
クォン氏:
どんなに普遍的なシステムであっても,ゲームの目的に対して必要かどうかということをきちんと検討しなければなりません。MMORPGなんだから,レベル上げがあってレアアイテム集めがあってPvPがあって……というものではないことは,我々も承知しています。それを踏まえつつキノスワールドを作り上げていきます。
4Gamer:
冒頭でおっしゃられていた運営と開発との哲学や見解の相違が,そこですか。
クォン氏:
そうですね。あとはゲームバランスについての考え方などです。どうしても開発スタッフは,プレイヤーが自分達の理想どおりに動いてくれるものと考えがちなんですね。
「ここには一人でクリアできないパズル的な要素を用意して,パーティを組んでもらって皆で協力して切り抜けてもらう」とか。ところが実際には,さまざまな事情で常にパーティが組めるとは限りません。ほかにも「メイジは強すぎる」という話をしても,「数値上では,バランスよく割り振っているので問題ない」と返ってきたり。確かに数値ではその通りなのですが,実際にプレイした感覚は違います。
4Gamer:
よく聞く話ですね。
クォン氏:
そこを適切な形に持っていくためには感覚と経験,そして何のためのゲームなのかという哲学が必要になります。もちろん開発スタッフが間違っているというつもりはまったくありませんが,しかし我々の信ずる部分を大事にしていきたいという話し合いをしました。
初のオリジナルタイトルに対する
GMO Gamesスタッフの強い思い
ところで1年も休止するとなると,本当にサービスを再開するつもりがあるのかという懸念を抱くプレイヤーも多そうですが。
クォン氏:
正直なところ,我々のような小さな企業にとっては多大なコストのかかる大きなチャレンジです。さらに,せっかく来ていただいたプレイヤーの皆さんに疑いを抱かれてしまったり,忘れ去られてしまったりするのは大変怖いことです。
しかし,今はそれを覚悟したうえでやっています。というのは,今どう思われても,例え忘れられてしまっても,我々がいいタイトル作って1年後にいいサービスを提供できれば挽回できると思うからです。絶対に諦めずに,社運を賭けてやっていきます。今は誰からも期待されなくとも,1年後には驚かせてみせる……少なくとも,「まあ一度やってみようか」と思わせるくらいのものにはするつもりです。スタッフ一同,非常に高いモチベーションを持って臨んでいますよ。
4Gamer:
あるいは1年で済むのか,という声もありそうです。
クォン氏:
まず1年という期間を決めたのは,再開発だったからです。経営者として判断するなら,新作の場合もっと期間をかけてもいいのですが,再開発だと1年が限度であろうと。そう考えて開発と一緒に検討し,なんとか1年でいけるだろうという結論に達しました。まあ,そういうとき,開発は大抵嘘をいうんですけれども(笑)。
4Gamer:
おっと,それは困りますね。
クォン氏:
とはいえ,私も開発の経験がありますから,そのあたりのさじ加減は分かっています。まあ,私が余計な口を挟まずに済むなら大丈夫だろうという見込みはあります。
4Gamer:
何かプレイヤーに進捗状況を報告する予定はありますか?
クォン氏:
手始めに10月末には公式サイトをリニューアルして,開発ブログなどを設置し,方針や進捗状況など順次掲載していく予定です。年明けくらいからは,何かしら映像などをお見せできるんじゃないでしょうか。
ともかく,内部にいる我々が納得できないものを皆さんにお見せするわけにいかないと考えています。私以下,スタッフには業界経験の長い者が多いので,ただ流行っているからという理由で新しいものを取り入れるのではなく,プライドを賭けて我々のテイストを出していきたいと考えています。ご存知の通り,キノスワールドは大作ではありません。しかし世の中には大作以外にも,「Well-Made」と呼ばれるいいタイトルはたくさんあります。キノスワールドは,そんな風に「このゲームのこの部分は本当によくできている」といわれるようなタイトルを目指しています。
4Gamer:
分かりました。ところでクォン社長以下,スタッフにとって,全員が一丸となって取り組むキノスワールドの魅力とは一体何なのでしょう? 結局,IPを丸ごと買い取るという大きな決断も下しているわけですが。
どこでもそうだと思うのですが,一企業が手がける初のオリジナルタイトルというのは,スタッフにとって「しびれるもの」だと思うんですよ。それはプレイヤーの皆さんが考えるよりも,はるかに強い思いなんです。
また,これだけ不具合が重なり,ゲーム性にも限界があるにも関わらず,それでもキノスワールドを愛してくれるプレイヤーさんが少なからずいらっしゃいます。客観的に考えると,1年サービスを休止して作り直して再開というケースが成功する可能性は決して高くないですし,上手くいかなかったらどうしようと考えることもあります。しかしプレスカンファレンスでプレイヤーに約束したことを思い返せば,躊躇することなくこれが我々の仕事なんだと断言できます。
4Gamer:
キノスワールドの次に手がけるタイトルも,自社開発/自社ブランドになる予定ですか?
クォン氏:
いえ,ライセンス事業は別に動いています。なかなか条件に見合ったものがない……といってしまうと偉そうですが,正直なところ世界的な不況もあって,韓国でもヒットする見込みのあるタイトルが少ない状況なんです。
そういう時期に無理に決めてしまうよりは,中国や台湾などのタイトルも視野に入れてじっくり腰をすえて選んでいる状態です。
もちろんキノスワールドが軌道に乗れば,それを大事に育てて次につなげていくことも考えています。ゆくゆくは任天堂さんがそうして来たように,世代を超えて受け継がれるようなコンテンツにまで発展させられたらいいですね。
4Gamer:
なるほど,そこまでキノスワールドを大事に捉えていらっしゃるわけですね。それでは,最後になりますが,キノスワールドのプレイヤーに向けてメッセージをお願いします。
クォン氏:
今は皆さんに悪口をいわれても,がっかりされても,忘れられても仕方ないと思っています。皆さんに顔向けできない状態ですが,来年になったら,ぜひまたキノスワールドを見てください。本当に皆さんが楽しめる形でキノスワールドを提供します。そこで改めて評価していただけたらと思います。
4Gamer:
本日は,ありがとうございました。
一読していただければお分かりの通り,このインタビューを行った時点では,まだキノスワールドリニューアルの具体的な案がまとまっておらず,内容的には精神論と苦労話に留まっている。なぜクォン氏が具体案のない状態でインタビューに臨んだのかといえば,今回,大きな決断を発表するにあたり,まず代表取締役社長である自分がプレイヤーに謝罪し,何を考えているか伝えたいと感じたからだとのこと。
インタビュー中のキノスワールドの哲学云々というくだりでは,多忙な状況の中で一早く自身の思いを伝えたいという気持ちが単に感情的なものではなく,冷静に日本のゲームプレイヤーの傾向を踏まえたものであることが感じ取れるのではないだろうか。
また,10月末に公式サイトをリニューアルし,開発ブログなどをとおして開発方針や進捗状況などを順次公開していく予定とのこと。クォン氏を筆頭とするGMO Gamesスタッフの強い思いが,プレイヤーにストレートに届くような内容となっていることを期待したい。
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