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Intel,14nm世代のスマホ&タブレット向けAtom「Cherry Trail」を2014年後半に出荷。2015年には10nm世代でファウンドリビジネスに本格参入
今回は,Investor Meetingの中から,4Gamer読者にも感心がありそうな話題に絞ってレポートしてみよう。
2-in-1デバイスの低価格化を促進
1つめのトピックは,タブレットにもノートPCにもなる「2-in-1デバイス」向けのAtomに関するロードマップだ。Investor Meetingで披露された予測によると,今後2-in-1デバイスは低価格が進み,299ドル(約3万円)程度の価格で販売される「Value 2-in-1」というカテゴリができるという。タブレット端末に至っては,100ドルあたりまで低価格化が進むという予測も示された。
Investor Meetingで示されたスライドより。Value 2-in-1と呼ばれるカテゴリは299ドル程度,シンプルなタブレットは100ドル程度まで下がるとIntelでは予測していた。当然,それに対応するための製品群が必要となるわけだ |
この低価格化に対応すべく,IntelはAtomプロセッサをさらに拡充していくことを表明した。すでに発表済みの情報もあるが,登場時期順にまとめてみよう。
現在のAtomは,22nmプロセスで製造されるCPUマイクロアーキテクチャ「Silvermont」世代へ移行中である。よく知られている製品としては,タブレット向けSoC(System-on-a-Chip)である「Bay Trail-T」(ベイトレイル ティー,開発コードネーム)こと「Atom Z3000」シリーズがすでに提供中だ。また,サーバー向けの「Avoton」(アヴォトン,開発コードネーム)やネットワーク機器向けの「Rangeley」(ラングレイ,開発コードネーム)が,「Atom C2000」として製品化されている。
これらに続いて2014年前半には,スマートフォン向けの「Merrifield」(メリフィールド,開発コードネーム)が,後半にはその性能向上版となる「Moorefield」(ムーアフィールド,開発コードネーム)という2つのSoCがデビューを控えている。
さらに2014年の後半,おそらく遅い時期に,次世代の14nmプロセスで製造するタブレットや2-in-1向けSoC「Cherry Trail」(チェリートレイル,開発コードネーム)の投入を予定していることが,今回,新情報としては明らかになった。これは,Silvermontの後継として名前の挙がっていた14nm世代のCPUマイクロアーキテクチャ「Airmont」(エアモント,開発コードネーム)を採用する最初の製品となる見込みだ。
ただし,Cherry Trailは,Intelがいう「パフォーマンス&メインストリーム」,要するに中上位機種向けのSoCであり,先に触れたValue 2-in-1や100ドルタブレットに向けたものではない。
そこでIntelは「バリュー&エントリー」と呼ぶ価格帯のタブレットやスマートフォンに向けて,3Gモデム(HSPA+)機能を統合したSoC「SoFIA」(ソフィア,開発コードネーム)を,2014年の後半に投入することを明らかにした。
ちなみにSoFIAは,Intel自体が製造するのではなく,外部のファウンドリ(半導体製造事業者)に製造委託するのだそうだ。なお,「なぜIntelがSoFIAを製造しないのか」に関する具体的な理由は述べられなかった。
そのほかにもタブレットやスマートフォン向けSoCとしては,2015年中頃にパフォーマンス&メインストリーム向けの「Broxton」(ブロクストン,開発コードネーム)の提供が予定されているということも,今回明らかになった。
Broxtonでは,Airmontの後継となる14nm世代のCPUマイクロアーキテクチャ「Goldmont」(ゴールドモント,開発コードネーム)を採用するという。また,SoFIAのLTEモデム統合版も,2015年に提供開始とされている。
2015年の10nmプロセス世代で
ファウンドリビジネスに本格参入
今回のInvestor Meetingではもう1つ,半導体製造に関する驚くべき発表があった。Intelは2015年の10nmプロセス技術採用に合わせて,同プロセス技術を用いたファウンドリビジネスを本格的に開始するというのだ。
Intelという企業はこれまで,自社が有する製造能力のほとんどを,自社の半導体製品,つまりx86 CPUやチップセット,フラッシュメモリなどを製造するためだけに使っていた。ファウンドリビジネスをまったくやっていなかったというわけではないのだが,FPGAメーカー大手のAlteraといった,ごく限られた顧客だけを相手にした,ごく規模の小さいビジネスだけしか手かげていなかったのだ。
ところ今回の発表で,Intelは「あらゆる企業」からの受注を受けると発表し,ファウンドリビジネスに本格的に踏み出すこと宣言したのだから,これは大きな方針転換といえよう。
では,なぜIntelが,こうした方針転換をするのか? 理由の1つとして考えられるのは,半導体製造事業が抱えるリスクがどんどん大きくなっており,そのリスクを低減するために方針転換を迫られたという可能性だ。
Intelはこれまで,単価の高いPC用CPUを製造・販売することで世界トップの売り上げ高を確保し,その利益を最先端の製造プロセスを備えた大規模な製造設備に投資することで,半導体企業の頂点に君臨してきた。
しかし,4Gamer読者も耳にしたことがあるかもしれないが,半導体プロセスが微細化するにつれて,製造設備にかかるコストは大幅に増加している。Intelでさえも,コストの上がり続ける最先端プロセスへ投資し続けることは容易ではない。
おまけに,Intelのビジネスを支えてきたPC用CPUは,PC市場の縮小に合わせて売上高が減少に転じている。2-in-1デバイスがその代わりになるといっても,単価の低いAtomで,従来型のPC市場が縮小していくことによる穴を埋めるのは非常に難しいだろう。「自社設計の製品だけを自社工場で生産するというやり方では,今後も増大する製造設備にかかるコストをまかないきれなくなるのではないか」。Intelの経営幹部がそう予測したとしても不思議ではない。
もう1つ,理由として考えられるのは,多種多様なSoCを実現するためだ。成長が見込まれるスマートフォンやタブレット分野では,さまざまなSoCが利用されている。端末メーカーはそれぞれ独自の要求を持っており,半導体メーカーはそれに応じて,多数のSoCを設計しなくてはならない。
IntelのAtomシリーズは,1つの設計を基に,性能や機能が少し異なるバリエーションを用意するという,少品種でのビジネスを基本としている。だがこのやり方では,多くのSoCメーカーが多種多様なSoCを作るARM系プロセッサに対抗しうる品揃えは用意しきれない。それならば,Intelの技術が組み込まれたSoCを外部のメーカーに設計してもらい,それをIntelの設備で製造するほうがいいのではないか。そういう判断が下った可能性もある。
ただいずれにせよ,ファウンドリビジネスを立ち上げというのは,2013年5月にIntelのCEOに就任したBrian M. Krzanich(ブライアン・クルザニッチ)氏にとっては,最初の大仕事になりそうだ。果たしてIntelのファウンドリビジネスは,顧客を獲得して軌道に乗れるのだろうか。今後の動きに注目したい。
Intel Investor Meetingの情報ページ(英語)
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