インタビュー
[iPhone]昇竜拳が出せないなら開発しない! “ストIVらしさ”を徹底的に追求したiPhone/iPod touch用「ストリートファイターIV」開発プロデューサーインタビュー
「ヴィジュアルパッド」はチューニング次第でほとんどのアクションゲームに対応可能
それでは,新要素の道場について教えてください。これは,iPhone/iPod touch版で初めてストリートファイターIVをプレイするという人に向けたチュートリアルという位置づけですね。
手塚氏:
もともと私達もチュートリアルと呼んでいました。とはいえ,この言葉自体,ゲームに馴染みのある人向けの言葉なので,より分かりやすくするために道場と名づけました。海外版でもその点をアピールしたかったので,「DOJO」にしたんですよ。
4Gamer:
それでも内容的には,基本的な操作方法の紹介に留まっていませんよね。
手塚氏:
ストリートファイターに馴染みのない人は,「ジャンプ攻撃」「立ちガード」を用いずに遊んでしまうんです。また,各種の攻撃とガードのあいだのジャンケンのような関係も,説明されなければ当然分からないでしょう。それでは,格闘ゲームの本当の楽しさは理解できません。
これらの情報をきちんと伝えるための仕組みを用意したいと考えました。そのためには,取扱説明書やオンラインガイドみたいに「何となく分かってね」というものではなく,実際に遊びながら身に付けられるものにする必要があります。“How to Play”ではなく,“How to Fight”を提供したかったんです。
4Gamer:
道場には,キャラクターごとの対策まで盛り込まれていて,驚きました。これが本編じゃないかと思うくらい,ボリュームがありますね(関連記事)。
手塚氏:
まず,自分のキャラの特性を理解したうえで,敵キャラの攻撃にどうやって対応すべきかがつかめれば,格闘ゲームはもっと楽しく遊べるようになります。例えば私自身,かつて,「竜巻旋風脚」で「波動拳」を抜けられると教えてもらい,「今度,オレも使ってみよう!」と思った経験があります。戦いのコツが分かれば,たとえ負けても再び挑戦する気になるんじゃないでしょうか。
4Gamer:
道場を追加した背景がよく分かりました。それでは次に,苦心したというインタフェースに関して質問します。iPhone/iPod touch版では,ボタンが四つに変更されていますが,どの段階でこの仕様に決まったんですか?
手塚氏:
かなり早い段階で決定していました。6ボタン方式も試しましたが,多すぎてすべてを配置するのが難しく,配置できたとしてもかえって押しにくくなることが分かったからです。
4Gamer:
パンチ/キック/スペシャル/セービングアタックの組み合わせも,早くから決まっていたんでしょうか。
手塚氏:
これについては,長いあいだ試行錯誤しました。パンチとキックに,それぞれ二つずつ割り当てようという話もありました。
最終的には,必殺技の出しやすさや,セービングを使う面白さを気軽に楽しめることを重視し,現在の形に落ち着きました。またタッチスクリーンでは同時押しが難しいので,単独で機能する方式にせざるを得なかったという事情もあります。
4Gamer:
今回,ヴィジュアルパッドをストリートファイターIV用にチューニングしてみて,どのように感じましたか?
手塚氏:
ハードウェアキーがないからどうしようと思うことがなくなりましたね。どんなゲームであっても,チューニングさえすればどうにでもできるという手応えが得られました。今回,かなりハードルの高い格闘ゲームでも満足できるチューニングが行えたので,大抵のアクションゲームはいけるんじゃないかと考えています。
4Gamer:
これからヴィジュアルパッドがどのように進化を遂げるか楽しみです。ところで,画面表示のフレームレートは30fpsですか?
手塚氏:
具体的な数値は公開していませんが,おおむねその程度と考えてください。
4Gamer:
グラフィックスは2Dですよね。
手塚氏:
ええ。各キャラのアニメーションデータを修整/変換して用いています。取り込んだコマの数は膨大ですよ。iPhone/iPod touch上での見栄えをよりよくするために,ドット単位で修正しています。
最も力を注いだのは,iPhone/iPod touch市場で受け入れられる作品にすること
4Gamer:
これだけ高い評価を受け,ヒットを飛ばしたとなると,続編などに期待したくなります。
手塚氏:
実は,追加キャラを配信するんですよ。今回追加するキャラクターは,プレイヤーからのリクエストが多く寄せられていた「キャミィ」です(関連記事)。そのほかにも,皆さんがあっと驚く企画や仕掛けを用意していますので,楽しみにしてもらいたいと思います。
4Gamer:
追加キャラは,無料アップデートの形で提供されるんでしょうか。
手塚氏:
はい。ゲームがヒットしたことのお礼として,今回のアップデートについては無償で提供したいと思います。リリースまではまだしばらくかかりますが,プレイヤーの皆さんに喜んでもらえるようにがんばります。
4Gamer:
ストリートファイターIVを遊んでいるiPhone/iPod touchゲーマーにとっては朗報ですね。
手塚氏:
ちなみに,iPhone/iPod touch版ストリートファイターIVの価格を900円に設定したのは,私達がリリースしているそのほかのiPhone/iPod touchゲームより開発規模が明らかに大きく,開発に要した期間も長かったからです。とはいえ,それだけのバリューがあるものを提供できていると考えています。
4Gamer:
インタフェースに関する試行錯誤以外に,開発に時間がかかった要因はありますか?
手塚氏:
iPhone/iPod touch版の開発では,コンシューマゲームのプレイヤーと,iPhone/iPod touchゲームのプレイヤーが持っている“ゲームに対する意識”の違いに向き合うことをテーマの一つに掲げていました。
例えば,移植するということであれば,プラットフォーム間に差が生じないことが評価されます。技術的に可能かはさておき,“完全移植”は,企画としては楽なんですよ。まったく同じものを目指せばいいわけですから。
4Gamer:
なるほど。
けれど,iPhone/iPod touch版ストリートファイターIVについては,先ほど説明したように,そもそもコンシューマゲームに馴染みのない人にも遊んでもらいたいという前提がありました。それに向け,ゲームをどこまでカスタマイズできるかに挑戦したんです。
異なる特性を持つプレイヤーにも楽しんでもらうための改変をきちんと行えなければ,既存のファンのみに向けたゲームになってしまい,結局,一般のゲームファンには浸透しないでしょう。そういった点で今回は,ほかの作品よりも時間をかけて開発してきたんです。
4Gamer:
その結果,iPhone/iPod touchでは成功を収めるのが難しいとの声もある,いわゆる“ビッグタイトル”で大ヒットを飛ばしました。
手塚氏:
大作といわれるゲームは,プレイヤー層が違うことを認識し,“きちんと”作ることにコストをかけるべきです。「iPhone/iPod touchで大作を出すのはシンドい」といわれてるのは,この“きちんと”の意味を取り違えているためではないでしょうか。
4Gamer:
と,いいますと?
手塚氏:
つまり,従来のコンシューマゲームでいうところの大作を作ろうとするからしんどいわけです。私達は,iPhone/iPod touch市場でミートするゲームを目指し,そこにコストを費やしました。これが,一番大きな違いだと思います。
4Gamer:
今後もそのようなスタンスで,iPhone/iPod touchゲームの開発に取り組んでいく考えですか?
手塚氏:
そのように考えています。もちろん,「バイオハザードかくあるべし!」というようなスタンスもアリだと思いますが,それが通用するのは主にコンシューマゲームの括りの中での話です。iPhone/iPod touchゲーム市場においては,そのスタンスで大きな成功を収めるのは難しいかもしれません。
4Gamer:
iPhone/iPod touchゲーマーの一人として,ラインナップの拡充にも期待したいところです。
手塚氏:
ええ,2009年よりも多くの作品をリリースしていきますよ。
4Gamer:
これまでカプコンからは,ストリートファイター以外にも,人気ゲームをiPhone/iPod touch向けにアレンジした作品がリリースされています。それらのゲームを遊んで気に入った人が,コンシューマ版を購入するという流れが出てくると考えていますか?
手塚氏:
それは,私達も期待しているところです。まずはiPhone/iPod touchでゲームに触れてもらい,気に入ったらコンシューマ版を購入して本格的に取り組んでもらうのもいいと思います。iPhone/iPod touchゲームは,ゲーム市場全体の売り上げを底上げする要因の一つになり得るのではないでしょうか。
4Gamer:
それにしても,まさかiPhone/iPod touchでストリートファイターIVを遊べる日が来るとは思ってもみませんでした。
よく「昇竜拳は出せるんですか?」と聞かれますよ(笑)。私がいうのもなんですが,カプコンはいい加減なものは出しません。仮にiPhone/iPod touch版で昇竜拳が出せないと分かったら,その時点で開発を止めます。
また,ストリートファイターIVを選んだからこそ,これだけ大きな注目を集められたとも思うんです。仮にストリートファイターIIの完全移植だったとしても,このような状況にはならなかったでしょう。
4Gamer:
それでは最後に,iPhone/iPod touch版ストリートファイターIVに関心を持っている人や,4Gamer読者に向けてメッセージをお願いします。
手塚氏:
iPhone/iPod touchでも本格的なゲームを実現できることを証明したアプリだと自負しています。カプコンを信じて,ぜひ一度プレイしてみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
配信前は,「iPhone/iPod touchでストリートファイターIVをプレイできる」と聞いても,ピンと来なかったという人も多いのではないだろうか。
実際,手塚氏自身が「本当に作っているんですか?」と社内の人間に聞かれたことが何度もあったそうだし,インタビューで語られたように,本人でさえ実現できるかについては懐疑的だったという。
しかし,さまざまな試行錯誤の結果,ストリートファイターIVは完成し,世界中のファンにその出来栄えを認められている。
その背景には,難度や面白さだけでなく,“ストリートファイターらしさとは何か”を追求し,iPhone/iPod touchゲーマーの特性に合わせてカスタマイズしようとしてきた,手塚氏をはじめとする開発スタッフの尽力があった。
今回のインタビューから,その一端を読み取ってもらえれば幸いである。
「ストリートファイターIV」公式サイト
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