レビュー
これは秀作。「国盗り頭脳バトル 信長の野望」を遊びながら“対戦ゲーム”というものを考えてみる
» 編集スタッフの気分次第でいきなり更新されたりする不定期連載「極私的コンシューマゲームセレクション」。今回もまた,本連載の存続に一人執念(?)を燃やすTAITAIが執筆。紹介するタイトルは,対戦ゲームとして高い完成度を誇る秀作「国盗り頭脳バトル 信長の野望」だ
対戦に特化したシステムが光る,珠玉のボードストラテジー「国盗り頭脳バトル 信長の野望」
こんな話をすると年齢が知れようというものだが,読者の皆さんの中には,子供の頃に「信長の野望」を“友達みんなで”プレイしたことがある人はいないだろうか。一人用かつ時間のかかるシミュレーションゲームで対戦プレイなんて物好き極まりないのだが,実はチャレンジしたことがある。
もう20年近くも昔,生意気盛りの年齢だった筆者は,学校の友達を集めて,何度か「信長の野望 全国版」を使った対戦会を開いたことがあるのだ。たいてい,誰か一人が滅んだあたりで「あー,もうだるいな」と漫画を読み始める奴がいたり,ほかの遊びを始めたりする奴がいたりしてぐだぐだになって,一度として“決着”が付いたことはないわけだが。
「一度でいいから,ちゃんと最後まで遊んでみたい」
そんななし崩しの光景を目にしながら抱いた苦い思いは,今は懐かしい若き日(というか子供だ)の思い出である。
本作は,その名前からも分かる通り,戦国時代をテーマにしたストラテジーゲームだ。ただ,従来のかの有名な“信長の野望シリーズ”とは打って変わって,「簡単,短時間で遊べる」をコンセプトに,極限までシステムを簡略化。信長シリーズのテイストを残しながらも,対戦ゲームとして,あらゆる面を昇華させている点が大きな特徴だ。
簡略化されたとはいっても,移動や戦闘解決のルール/システム自体は非常に良く練り込まれており,将棋やチェスのような“詰めていく”面白さは特筆に値する。また対戦に必要なプレイ時間が,4人戦で10〜30分程度,どんなに長くても1時間ほどで決着するという設計も注目すべきポイントだろう。表現をちょっと変えると,本作は“ちゃんと決着がつく信長の野望”という内容なのである。
先にすっぱり結論から述べると,本作は,近年稀に見る秀逸なボードストラテジーゲームである。“傑作”といってもいいかもしれない。
古くは「Age of Empires」や「Warcraft 3」などの対戦型リアルタイムストラテジー(以下,RTS)を浴びるほどプレイし,最近では「三国志大戦」というアーケードの対戦ゲームをこれまた破産寸前まで遊び,この手のジャンルにはそれなりにウルサイつもりだが,本作は素直に面白いと思える作品に仕上がっている。「テンポの良さを突き詰めたシステム」や「戦力の差が付きづらいシステム」などの要素を鑑みると,オンライン対戦ゲームという意味では,ある種の“理想形”とさえ言ってよいと思う。
オンラインゲームはおろか,インターネットもない「信長の野望 全国版」の時代から早20年弱。ネットが普及し,コンピュータゲームにおいても「対戦」という遊び方が定着している昨今だが,新しいシステムを使って,かつ優れた対戦ゲームは,年に数本……いや,本当に「何度も遊べる」という意味では,数年に一本というのが実情だと思う。そんな中で,この国盗り頭脳バトルは,どう評価すべきタイトルだろうか。
前回に引き続き,またもレビューからはちょっと脱線してしまう部分が多いが,今回は,国盗り頭脳バトルという作品の魅力を紹介しながら,オンライン対戦ゲームについてあれこれと考えてみたい。
チェスのような面白さとカードゲーム的な面白さを融合させた革新的なシステム
「これってクイズゲームだよね?」
「あぁ,三枝の国盗りゲーム(※)? 」
※1977年から1986年にかけてテレビ朝日系列で放送されたクイズ番組
……というのが,筆者が知人に「このゲーム面白い!」と伝えたときに返ってきたリアクションなのだが,どうもパッケージの絵柄やそのタイトル名を見て,本作をクイズゲームだと勘違いする人が少なくないようだ。実は自分自身も,知人に「絶対買え」と勧められつつも,パッケージを手に取った段階で,買うのに躊躇してしまった経緯がある。いや,だって,パッケージを見ても内容がよく分からなかったというか……。パッケージやタイトル名で誤解を招きがちという意味では,本作は,「あつまれ!ピニャータ」に匹敵するケースかもしれない。
まずは,そんな本作のシステムを紹介しよう。
繰り返しになるが,本作は「信長の野望」をモチーフにしたボードストラテジーゲームである。明確で分かりやすいゲームルールに,タッチペンだけで行える簡単な操作など,シンプルかつ簡素なシステムが最大のウリ。プレイヤーは,「織田信長」「武田信玄」「上杉謙信」「伊達政宗」といった大名の中から一人を選び,天下統一をかけた戦いに身を投じることになる。
プレイヤーはまず自身が操作する大名を選び,それからその配下となる「武将」を選択していく。大名や武将には,「足軽」や「騎馬」といった兵科の概念のほかに,戦闘時に一定の確率で発動する「特技」や,ターンの開始時に特殊な効果をもたらす「切り札」といった能力が設定されており,それらを組み合わせることで,自分だけの軍団を編成していくわけだ。
各武将には,「知行」というコストの概念が設定されているのが特徴だ。強い武将はコストが高く,弱い武将はコストが低い。知行はマップごとに上限が設定されており,どんな武将を組み合わせて軍団を編成するかは,まさに千差万別。ここだけでも,まるでカードゲームのデッキ構築のような奥深さがある。
軍団を編成し終えた後は,勝利条件を目指しながら,マップ上の「駒」を動かしていく。本作では,内政などといったマネジメント要素はほとんど省かれており,基本的には,マップ上に置かれる駒を進軍させて,陣地の取り合いをするのみ。駒が移動した先に敵がいなければ,そのマス(領地)を自分の支配下に置けるというシンプルなシステムだ。毎ターン駒を動かしながら領地を拡張,一定の石高を達成して覇権(シナリオでは,特殊な条件の場合もある)を確立すれば,そのプレイヤーの勝利になるという具合である。
戦闘が非常にコンパクトにまとめられているのも,本作の見逃せないポイントだろう。駒が移動した先に敵の駒が配置されていると戦闘が起こるわけだが,戦闘解決は,「攻め込んだ側の戦力が防御側よりも多ければ勝ち」という,これまた非常にシンプルなシステムである。シンプルすぎて,言葉だけ聞くと心配になるくらいだ。駒には戦力を表す数値がそれぞれ表示されており,敵の駒がある領地に攻め込んだ時,その数値が敵のそれを上回っていれば,その敵を撃破(駒を排除)できるというわけだ。
……では,逆の場合(防御側が戦力が高い場合)はどうなるのか? そのときは,お互いに攻撃して戦力を削りあうことになる。駒には,「足軽」「騎馬」「鉄砲」の三種類があり,これら3種にいわゆる“三すくみ”の関係が設定されているのだが,攻撃時のダメージは,その相性によって大きく変化するのが特徴だ。それは例えば,騎馬では鉄砲にダメージを与えられないが,足軽には2倍のダメージを与えられる……といった具合。つまり,兵科との相性を考えながら攻撃を繰り返すことで,相手の戦力を一方的に削ることもできるわけだ。
ちなみに,先ほど「兵力が多ければ勝利」と書いたが,「だったら,大兵力でひたすら前進すればいいのか?」と思った人もいるかもしれない。いや普通に考えれば,まったくそのとおり。しかし嬉しいことに,本作のシステムはそんな単純なものではない。というのも,本作のシステムの中でもとくに肝となっている,「戦力の小さい駒から順に行動する」というルールが,非常に良い案配で機能しているからである。つまり,兵力が大きければ大きいほど移動の順番が遅いわけで,小部隊は小回りが効くが,大部隊になると小回りが効かないのだ。ある意味,リアル。
さて,少し考えればお分かりかと思うが,このルールがあることによって,大兵力には「先手を取られる」というリスクが常に付きまとうことになる。当たり前の話だが,やられると分かっている敵の小部隊が,そのまま何もせずに大部隊の前で待機するということは,基本的にはあり得ない。当然,先に逃げてしまうか,先手をとって攻撃をしかけ,兵力を削りに来るのが定石だ。
本作では,一つの駒だけで攻撃しても,攻撃判定がそのマスにいる全部隊に及ぶという,ちょっと変わったシステムを採用しているのだが,それを逆手に使われて,苦手な兵科の波状攻撃(一コマずつ攻撃を行う)を食らうと,どんな大部隊でもあっという間に壊滅してしまう危険性がある。単純に大兵力を集めれば有利というわけではないのだ。とはいえ,防御の要となる「城」は,一定の戦力がないと落とせないというルールもあり,小部隊ばかりを使えばいいというわけでもない。
兵力をどう分散し,またどのタイミングでどう集結させるか。その兼ね合いがなかなか面白く,非常によく出来ているのである。大部隊と小部隊を巧みに使い分けながら,敵の隙を突いていく面白さは,本作の最もユニークな点であり,また奥深さのゆえんだといえるだろう。
ターンベースなのにRTSのようなプレイ感覚
対人戦でも,基本的なルールはまったく変わらない。駒を動かして領地を拡張していき,一定の石高を達成したプレイヤーの勝利となる。唯一違うのは,行動選択に制限時間が設けられていて,短時間で意志決定と移動操作を行わなければならないという点だろう。最大4人までの同時プレイが可能だが,ゲーム開始前に同盟の設定などは不可。要するに,4人入り乱れてのバトルロイヤルが,本作における対戦の基本ルールである。プレイの雰囲気は,戦略ゲームというよりは「いただきストリート」や「モノポリー」などといったボードゲームに近いかもしれない。
そして,ターンベースのストラテジーゲームながらも,そのプレイ感覚(というか操作感覚?)は,「Age of Empires」や「Starcraft」などといったRTSに近い。対人戦では,短い時間でいろいろなものを決断する必要があり,またすぐに(数十秒後には)その結果が返ってくるのでそういった感覚に陥るのかもしれないが,なんというか,ターン性のゲームなのに,妙な“アクション性”というか“瞬発性”みたいなものが存在しているのである。戦いが佳境に入ると,あれやこれやとテンパって,「アドレナリンが出る」状態に近づいてくる。
普通にのんびりしてると思われがちなターン性のゲームで,ここまでの感覚を抱いたゲームは初めてだ。リアルタイム性がとても強い格闘ゲームやRTSでは不思議なことでもないが,ことボードゲームに対して「アクション性」だの「瞬発性」だのと言うのは,ちょっと筋違いの主張に見える。しかし,本作(の対戦モード)には,そういった感覚が確かにあるのだ。
これについては,ターン性ながらも極限まで追求された「テンポの良さ」が,その最たる理由だと思っている。ゲーム自体が10分で終わるというところから察してもらえるかもしれないが,本作は,それこそそこらのRTSよりもテンポ良く進行していくゲームなのである。
というか,本作はその細かいシステム一つ一つからして,「対戦」を念頭に置いて作られた作品であり,またそれに紐付いて「テンポを良くする工夫」「プレイ時間を短くする工夫」が随所に施されているのが特徴だ。実は筆者が勝手に思っているだけなので本当にそうなのかどうかは分からないが,明らかにそれを意図しているようにしか思えない。
細かい話をすれば,本作では「画面外の戦闘/移動」の処理をバックエンドで高速に行っている(画面上には表示されない)など,システムレベルの工夫も施されており,いかにテンポというものに配慮がなされているかは端々から容易に伺える。ルールこそアナログボードゲーム風な本作ではあるが,細かいシステム面に目を向ければ,コンピュータならではの快適さ,簡便さを駆使しており,そこが見逃せない大きな長所となっているといえるだろう。先ほど述べた「瞬発性」とは,そういった“コンピュータならではの快適性”によって実現されているのではないだろうか。
オンライン対戦ゲームというものを考える
オンライン対戦ゲームに重要な要素ってなんだろう?
冒頭で本作を「ある種の理想形」と書いたが,筆者がそう思う理由は,上記の「テンポの良さ」「プレイ時間の短さ」に起因するものだ。
というよりそもそも,個人的には「対戦ゲームはプレイ時間が短くあるべきだ」と思っている。それは,自分が散々繰り返した対戦ゲームの数々や,後述のブルース・シェリー氏との会話など,過去の体験からくるものが大きいのだが,裏を返せば,この「プレイ時間の短さ」というものは,対戦ゲームがいまよりさらに広い人々に受け入れられるための必須条件ではないか,とも感じている。
しかしながら,プレイ時間の短さ,ひいてはゲーム自体の簡略化とは,奥の深さ/底の浅さと密接な関係を持つファクターでもある。例えば,5分で終わるゲームに,将棋やチェスのような2手3手先を読む戦略性の高さを望むべくもないように,簡略化したゲームとは,ルール自体を味気のないものに変質させてしまう危険性を孕んでいるといってよい。
話は少し国盗り頭脳バトルから離れるが,思えば,かつて文字どおり浴びるほど遊んだAge of Empiresでさえ,そういった問題はあった。突き詰めれば「序盤のRush」でほとんどの試合があっさり終わってしまうようなゲーム性を含めて,「そんなに大味でいいの?」という対戦ゲームとしてのありように,常に疑問を抱いていた記憶があるのだ。
日頃そんなことを考えていたのだが,ある時,その「Age of Empires」の生みの親ブルース・シェリー氏本人にインタビューをする機会を得て,その中で「RTSって大味じゃないですか?」という趣旨のことをストレートに聞いてみたことがある。今思えば,なんとも不躾かつ失礼な質問であり,穴があったら入りたいくらい恐縮なのだが,そんな質問に対し,彼は丁寧に自身の考えを披露してくれた。
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思うんですけど,RTSって本質的には凄く大味なゲームだと感じませんか?
ブルース・シェリー氏(シェリー氏):
というと?
筆者:
序盤のRushなんかは良く言われる話だと思うんですが。
シェリー氏:
確かに序盤のRushをどの程度のバランスにするかは,RTSというシステムの大事な要素だね。
筆者:
例えば,序盤の小競り合いで負けてしまうとするじゃないですか。そうすると次の戦いでは,8:10ないし9:10といった戦力比で戦いを強いられるわけですよね。
シェリー氏:
そうだね。そのとおり。
筆者:
つまり,いわゆるランチェスター理論をベースに考えると,最初の小競り合いで負けると,次の戦い,さらにはその次の戦いで「負ける確率」が,雪だるま式に増えていくことを意味しているんじゃないかと思うんです。
最初は10:10だった条件が,負けると次の戦闘では8:10になる……つまり瞬間的な戦力比換算でいうと,二乗して64:100ですよね。圧倒的に負ける確率のほうが高いわけです。そしてそこでも負けると,今度は6:10……と,論理的に考えれば考えるほど,逆転の目なんていうのはないんじゃないかなと。
シェリー氏:
なるほど。
筆者:
要するにRTSというゲームは,本質的には最初の小競り合いですべてが決まってしまうゲームシステム/バランスなんじゃないか,そう感じてしまうことが多いんです。
シェリー氏:
確かにそういった側面はあると言える。
筆者:
そのあたりについて,あなたはどうお考えなのでしょうか。何か改善策みたいなものは考えているのでしょうか?
シェリー氏:
そうだな……まず攻防のバランス面に関して言えば,あなたが大味だというAge of Empiresのゲームバランスは,実は意図的なものなんだ。RTSというゲームの特性を考えたとき,ボードゲームに見られるような奥の深さと同列に,アクションゲーム的な爽快さや気持ちよさといった要素も,同様に重視すべきだと考えているんだ。
筆者:
それで攻撃側を有利に?
シェリー氏:
防御側があまりに有利だと,双方がなかなか動かない,つまらないゲームになってしまうと思わないかい? アグレッシブに攻め合ったほうが面白いと感じるプレイヤーが多いだろうと思ったし,RTSというシステムにはそっちのほうが都合が良いだろうと考えていた。
筆者:
でも逆転ができないという点に関してはどうでしょうか? それは対戦ゲームとしては致命的な部分なのでは?
シェリー氏:
あなたの言うことには一理ある。確かにゲームの内容(ルール)を複雑(細かく)にすれば,奥の深いゲームバランスというのは作りやすいかもしれないね。しかし,私はゲームの内容を複雑にしてまで,そういった要素(逆転)が必要だとは考えていない。序盤で負けなら負け,それはそれでいいのではないかと考えているんだ。
筆者:
といいますと?
シェリー氏:
要するに,負けなら負けで「さっさとゲームを終了させて,次のゲームに進む」というのも,そういった問題を解決する一つの方法ではないかと考えているからだ。
例えば,1回のプレイ時間を……そうだな,60分くらいに長くすれば,その中に10回前後の「駆け引き」を盛り込めるかもしれない。序盤のミスを挽回するというのは,システム的に言えばそういうことだろう? けれど,RTSというシステム,そしてオンライン対戦といったものの特性を考えていくと,私には,それが「より良い形」だとは思えないんだよ。むしろ,駆け引きを減らしてでもゲームのプレイ時間を20分前後にまとめ,それを3回遊んでもらうようなもののほうが,RTS……ひいては対戦ゲームのシステムとして正しいのではないか。そう感じているんだ。
筆者:
なるほど。
シェリー氏:
大味というのは,何も悪い要素だけではないんだ。それは分かりやすさや簡単さにも通じる部分だからね。もちろん,ここの扱いというか,味付けは非常に難しいし,繊細さを求められる部分だとは思うけど。
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……当時のやりとりはこんな感じだった。なんというか,このあたりの彼のしっかりとした考え方には,非常に感激した覚えがある。世界的なヒットシリーズを作ったという経歴は,やはり伊達ではなかったわけだ。
思うに,これはいろいろな示唆に富んでいる。
まず注目すべきなのは,プレイ時間やゲームをコンパクトにまとめるというくだりだろう。ちょっと考えれば納得できるのだが,例えばの話,1プレイに1時間もかかれば,プレイヤーが寝る前にプレイするのを躊躇するかもしれない。しかし,それが20分で遊べる内容であればどうだろうか。躊躇せずに,気軽に遊んで貰えるのではないだろうか。
対戦ゲームとは,当たり前だが,相手がいてこそ成立するゲームである。つまり,ゲームの人気……言い方を変えれば,ゲームの活気/回転率というのは,対戦ゲームにおける重要なファクターの一つだ。より手軽に遊べれば,ゲームの活気/回転率が上がり,結果として対戦の盛り上がり,マッチングの精度などにも影響するのは想像に難くない。そういう意味において,これは非常に重要な考え方なのではないか。
また二つめの面白い点は,ゲームバランスの調整,あるいはそれを誤魔化す手法として,狭義の意味での「ゲームルール外の要素」を用いるという考え方をしているところかもしれない。つまりシェリー氏は,「ゲームバランスが大味だ」という問題に対して,次から次へとどんどんプレイしていけるという,いわゆるマッチングシステムなど,ゲームルールの上位に位置する大枠の「システム」に解決を求めているという話だ。ゲームバランスが悪いという話になると,ゲームのルールの中(パラメータなど)でそれを調整する方向になりそうなものなのだが,シェリー氏は,そういう部分にのみとらわれず,広い視野で「対戦ゲーム」というものを捉えていたのである。
……さて,上記の話を踏まえたうえで,例えば,「いただきストリート」や「桃太郎電鉄」,あるいは「カルドセプト」といったゲームを思い浮かべてみてほしい。これらは,ルールとして非常に良くできた作品であり,実際対戦も大変面白い。売りの一つである“オンライン対戦”を楽しんでいる人も,きっと多いことだろう。
しかし,仮にこれらの作品をオンライン対戦ゲームとして見た場合には,これは果たして「理想の作品」だと言えるだろうか。正直なところ,筆者にはまだ「理想」とは思えない。少なくとも,“据え置き機そのままの内容”では,オンライン対戦ゲームとしてはいま一つである。どんなに面白くても,時間のかかるオンライン対戦ゲームというのは,ただそれだけでハードルが上がり,万人が楽しめるものではなくなってしまうと思うのだ。
そもそも,オンライン機能がない(弱い)据え置きゲーム機の時代というのは,知人とその場で一緒に遊ぶという環境が普通であったわけだが,友達と顔を合わせながらのプレイだからこそ,数時間というプレイ時間が許容できたという側面があったように思う。しかしオンラインで,しかも見知らずの他人とのプレイともなると,対戦ゲームの「遊び方,楽しみ方」それ自体が大きく変わってくる。おまけ程度のオンラインモードであればともかく,オンライン専用だとかそういう話になるのであれば,プレイ時間は,より慎重に考えなければならない,重要なファクターだと思うのである。
……って,なんだか随分と国盗り頭脳バトルの話から脱線してしまったような気がするが,ともあれ,そのあたりをつらつらと考えながら本作をプレイしてみると,大小さまざまなところで,本作がオンライン対戦ゲームというものを真剣に考えて作られているのがよく分かる。前述のゲームテンポの部分もそうなのだが,カードゲームのように軍団(デッキ)を組む要素(これは,戦略性をゲームプレイの「外」に出すことで,プレイ時間の短縮に一役買っている)や,駒がやられても2ターン後に復活するルール(※編注)など,それぞれが「対戦ゲーム」というものについて考え抜かれた末に実装されたルールだと,少なくとも筆者にはそう感じられる。
細かいルールを含めて,どれか一つでも調整に失敗していたなら,本作の持つ優れたゲーム性は実現しえなかったように思う。本作の持つ面白さとは,そのくらい繊細な調整の上に成り立っているもののような気がしてならない。
いずれにせよ,何度も繰り返すようで申し訳ないが,本作は,対戦ゲームとして非常に優れた作品である。それだけに,歴史ゲームという枠にとらわれず,ぜひいろんな人に遊んでみてほしいタイトルだといえるだろう。
Age of Empiresが歴史ファンだけのものではなかったように,あるいは三国志大戦が三国志ファン以外のプレイヤー層を楽しませたように,本作は,歴史ゲームというジャンルを超えた魅力……対戦ゲームとしてある種の普遍的な面白さを内包したタイトルに仕上がっている。「信長の野望」ブランドを冠するタイトルではあるが,本作は,ファンではないより多くのプレイヤーにこそお勧めしたい作品である。
「国盗り頭脳バトル 信長の野望」PC用体験版
「国盗り頭脳バトル 信長の野望」公式サイト
(※編注)
本作では,ユニット(駒)が壊滅しても,3ターン後に完全復活して蘇るわけだが,実はこれも,“対戦ゲーム”には重要な要素の一つである。これは,格闘ゲームを例にすれば分かりやすいかもしれない。例えば,現実であれば,殴られた方はケガをしたり意識が飛んだりと,「戦力」が低下するのが普通だ。しかし,多くの格闘ゲームでは,体力バーをお互い削り合いはするものの,それが「戦う力そのもの」に影響することはない。どんなに瀕死な状況でも「元気いっぱい」戦うことができる。つまり格闘ゲームとは,「常に5分の条件で駆け引きが楽しめる」ように上手く抽象化されたシステムなのだ。
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国盗り頭脳バトル 信長の野望
対応機種:ニンテンドーDSメーカー:コーエー
発売日:2008年6月26日
価格:5040円(税込)
CEROレーティング:A(全年齢対象)
公式サイト:http://www.gamecity.ne.jp/ds/kunitori/
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