「リーグ・オブ・レジェンド」のアニメ“Arcane”公開記念。Riot Games本社で開催されたプレミアイベントをレポート

　Riot Gamesが，「リーグ・オブ・レジェンド」の世界を舞台とするアニメシリーズ「Arcane （アーケイン）」の配信開始に合わせて，カリフォルニア州ロサンゼルスにある本社スタジオにてプレミアイベントを開催した。

「リーグ・オブ・レジェンド」の世界観をアニメ化した「Arcane 」。最初の3つのエピソードでは，戦乱で家族を失ったヴァイとジンクスの姉妹が成長していく姿が描かれる

　「リーグ・オブ・レジェンド」は，基本プレイ無料でプレイできるマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ（MOBA）ジャンルの作品として2009年にリリースされて以降，現在までにグローバルで1億2000万アカウントを記録するという，今も最もプレイされているPCゲームの1つである。5対5のチーム対戦を基本したeスポーツの定番タイトルでもあり，2019年の「2019 League of Legends World Championship」では4400万人の同時視聴者数を獲得した。

　そんな人気ゲームをアニメシリーズ化した「Arcane」は，ゲームの舞台であるファンタジー世界“ルーンテラ”の北方大陸である“ヴェロラン”にある姉妹都市としてファンにはお馴染みの，“ピルトーヴァー”と“ゾウン”を舞台にして物語が描かれる。
　全9エピソードのうち最初に公開されたのは，ゲーム中ではプレイヤーキャラクター（チャンピオン）であるヴァイとジンクスを主人公にした3つのエピソードだ。まだ彼女たちがストリートキッズとして生きるのにも必死な時代，ジェイスやエコー，ハイマーディンガーなどの他のチャンピオンの若き頃を絡めて描き上げている。彼女たちがどのような人生の葛藤を抱えていくのかという，コミックスでは“オリジンストーリー”とも呼ばれるゲームの前日譚にスポットライトが当てられている。

Riot Gamesの右から創設メンバーのマーク・メリル（Mark Merrill）氏，CEOのニコロ・ローレン（Nicolo Laurent）氏，そして創設メンバーのブランドン・ベック（Brandon Beck）氏

ファンなら気になる「Arcane 」の世界とは？

　ピルトーヴァーは，ゲームでは「進歩の街」というニックネームがあるように，ヴェロランの人々の持つ文化や工芸，そして科学と経済が集積された巨大なメトロポリスとして知られる。「Arcane」で描かれている時代においては，強権的な軍隊“エンフォーサー”を傘下に持つ科学集団“カウンシル”が統治している。ここに，近辺の砂漠地帯からもたらされた青い結晶体“ヘクス・クリスタル”の研究が進んで，科学と魔法のエッセンス“アーケイン”が融合に成功することによって，やがてはゲーム中におけるエネルギー源となる“ヘクス・テック”が完成し，ヴェロランの人々にとって重大な技術革命が起こる前夜を迎えている状況だ。


　一方のゾウンは，元々は渓谷地帯で発見された鉄鉱の採掘場としてひと足早く開拓が進められたが，渓谷の上部にピルトーヴァーが建設されていったことによって，昼間でもステンドグラス越しにしか光が差し込まないかのような，スラム化した町になっている。
　過去に何度も反乱を繰り返してきたものの，アニメシリーズの開始時には，問題を起こさない限りはカウンシルが手出しをしないという自治権を得ているが，その一方で再び戦乱を起こそうと目論む一派が，紫色の“シマー”と呼ばれる人体強化剤を生成し始め，両方の街に住む人々は微妙なバランスの中で生活しているという設定だ。


　「Arcane」は日本においても時間差なくスタートしているので，すでに視聴しているという人も多いだろうが，孤児であるヴァイとパウダーが，元々はゾウンの反乱軍の英雄であった巨漢のヴェンダーに庇護される形で育てられており，腕自慢のヴァイはそのティーンエイジャーたちの窃盗グループのリーダー格にのし上がっている。彼女の10歳にも満たない妹として登場するパウダーは，数年後には青髪のテロリストとしてピルトーヴァーを恐怖の底に陥れることになるジンクスである。
　ともかく，窃盗団のメンバーとして活動するためにはパウダーは幼すぎ，自分たちの実力を証明しようとピルトーヴァーの屋敷の一角に忍び込んだヴァイらの後ろにくっ付いて行動しているものの，何をやってもまだ上手く行かず，失敗ばかりで足を引っ張っている状態だ。しかし，パウダーがポケットに隠し持っていたヘクス・クリスタルが元で大きな事件が発生し，この謎の結晶体に絡む人々の人生が大きく変わっていく様子が描かれていることになる。


　2つの都市，2つの異なる階級，科学とテクノロジー，血縁関係はないとしても，共に育った2人の姉妹ヴァイとジンクス，そしてアニメシリーズのためのオリジナルキャラクターであり，同じ兄弟分でありながら対立するヴェンダーとシルコというキャラクターたちを中心にしたヒューマンドラマは，これまでゲームシリーズに興味がなかったという人でも楽しめるはずだ。

独特のアニメーション技法で描かれた世界をみっちり楽しもう

　まだ公式のNetflixチャンネルでは1週目の結果はアップデートされていないものの，視聴者数の統計データを算出するマーケティングサイト「FlixPatrol」(外部リンク)がまとめる同配信サービス上のテレビシリーズTOP10では，この「Arcane 」が1位を獲得するという偉業を達成。これは，現在大きな人気を博している「イカゲーム」だけでなく，「ナルコス: メキシコ」や「YOU」などの人気シリーズを大きく引き離す結果となっている。


　「Arcane」のプロダクションを担当するのは，フランスのパリを拠点にするFortiche Productionで，3年前にはロックグループのイマジン・ドラゴンズがRiot Gamesと協力した「WARRIORS」のミュージックビデオの制作でも，そのアニメーションを制作している。さらに2013年には，ジンクスを利用した「リーグ・オブ・レジェンド」のプロモーションビデオ「Get Jinxed (ft. Djerv)」，2014年にも「EKKO SECONDS」という2分半ほどの短編アニメ映像を制作しており，Riot Gamesとは関係が深いアニメスタジオと言える。
　Riot GamesのCEO ニコロ・ローレン（Nicolo Laurent）氏に話を聞いたところ，「Arcane」には企画から合わせて6〜7年をかけているというから，上記の短編アニメ映像で協力し合う中で，より壮大なシリーズの構想が練られていったようだ。「アメリカや日本のアニメにはないテイストを持つ，Fortiche Productionのデモを見て惚れ込んだ」と話していたが，映像から見られる独創的なクオリティには多くのファンが納得できるところかも知れない。


　「Arcane」のグラフィックスは2Dと3Dを併用しており，キャラクターは3Dモデルを使って表現されているものの，そのテクスチャーや背景などはオイルペイントのような風合いの手描きにしており，そこにパーティクルや照明効果を加えた非常に手の込んだアートワークとなっている。
　最近のAAA級のゲームのような，「パフォーマンス・キャプチャー」と呼ばれる，役者のモーションと表情，そして声の演技までを同時に3D映像に取り込むアニメーション技法が用いられているのかと思いきや，「Arcane」では全てを手作業で行うという細かい作業によって，このスタイルを実現しているのが凄い。


　そのためか，キャラクターの大袈裟目な表情でもあまり違和感がなく，とくにヴァイやヴェンダーによるフィストファイトアクションや，パンチをまともに受けたときの顔の歪みを，スローモーションを多用することで強調しているシーンの数々は見応えがある。当然，この手法であれば完全なリップシンクは実現できないものの，少なくとも英語版に関してはかなり良い線まで口の動きとセリフを近付けており，このあたりでも相当な労力と制作時間が費やされたアニメーションであることがうかがえる。

ローレン氏は，「このアニメシリーズはあくまでもファンたちのため」と筆者にコメントしてくれたが，ゲームをプレイしたことのなかった人でも興味が持てる世界観やストーリーが，独特のアニメーションスタイルで描かれている

Riot Gamesの敷地やゲストたちの様子を一気に紹介

　今回の「Arcane」プレミアイベントは，カリフォルニア州ロサンゼルス市西部にあるRiot Gamesの本社キャンパス内にある中庭にて行われた。関係者によると数週間もの時間をかけてドーム状の建物を設置し，その中に2面の巨大スクリーンを背中で合わせるように備えるという大掛かりな規模のものだ。それぞれのスクリーンには数段にわけた席が合計で500ほど用意されており，スタッフや招待客が試写を楽しんだ。

　オフィシャルゲストとして特別に設置されたランウェイを歩いたのは，本作の英語版の主要キャストに選ばれている，ハリウッド内外で活動する声優や俳優たち。彼らの多くは「リーグ・オブ・レジェンド」については聞いたことがあった程度か，オーディションを経て脚本を渡されるまではゲームを知らなかったという人がほとんどだったが，これからシリーズ化によって長く続きそうな作品だけに，彼らのそれぞれの担当キャラクターへの入れ込みようも相当なものだった。
　以下，ランウェイを歩く途中に聞いた彼らのコメントを紹介していこう。

Riot Games本社には，わりと地味めな看板があった。現在20支部に2500人という大所帯だが，ここがその総本山にあたる。右横側のビルは，映画制作会社など異なるオフィスと共有しているらしいが，看板の向こうに見える門から奥はすべてスタジオの敷地内で，いかにもキャンパス風な建物が並んでいた

“レッドカーペット”ならぬ“グリーンカーペット”が用意された敷地内

初回の3つのエピソードには登場しないが，成長した“ジンクス”の声優を務めるのはエラ・パーネル（Ella Purnell）さん。2021年春にNetflixで公開された「アーミー・オブ・ザ・デッド」では，真田広之さんとも共演している現在25歳の若手女優。ジンクスを演じるにあたっては，「テロリストというイメージ以外の深みを与えたい」と話していた

“パウダー”役のミア・シンクレア・ジェネスさんは，なんとまだ15歳。舞台の子役として全米公演も経験しているが，ディズニー・ジュニアで放映されたアニメシリーズ「ファンシー・ナンシー」で主役を務めるなど声優経験は豊富で，「リーグ・オブ・レジェンド」は弟に聞いてその存在を知ったらしい

“ジェイス”を演じるのは，TVシリーズ「ARROW / アロー」で，ブラザー・ブラッドを務めたことで知られるケヴィン・アレハンドロ（Kevin Alejandro）さん。これまでは警官役などでアクションものの映画/TVドラマの出演が多かったそうだが，声優は彼にとって新しいチャレンジ。オーディションを受けたときはゲームについて知らなかったそうだが，13歳の息子に必ず仕事を請けるよう諭されたという

ジェイスの相棒“ヴィクター”役は，最近ではラブコメ「As I Am」に出演している英国人俳優ハリー・ロイド（Harry Lloyd）さん。ジェイスを諭してヘクステックの研究を進めていくストイックなキャラクターについては，二コラ・テスラを連想して，少しチェコ語アクセントを勉強して挑んだとのこと

「Arcane」のオリジナルキャラクターとなるカウンシルの一員“メル”を演じるのは，ナイジェリア出身でノルウェー育ちというトクス・オラグンドエ（Toks Olagundoye）さん。最近でも「悪魔城ドラキュラ -キャッスルヴァニア-」や「わんぱくダック夢冒険」などに出演しており，豊かな経験を持つが，「Arcane」に関わったことで，「LoLファミリーの一員となれてうれしい」と謙虚に語っていた

メル同様に，アニメシリーズのオリジナルキャラクターである“シルコ”は，25年以上もアニメ，映画，そしてビデオゲームのベテラン声優として活動するジェイソン・スピサック（Jason Spisak）さん。プロのプログラマーでもあるという異色の才能の持ち主だが，そんな経歴を生かして難しそうな役どころを担う

展示されていた巨大なヘクステック・クリスタルで遊ぶミア・シンクレア・ジェネスさん（右）。双方が上手く呼吸を合わせて作動させると何かが起こるらしい。青い水晶体は「Arcane」にとっても重要なアイテムだ

Riot Gamesの中庭には，ドーム状の仮設ステージが設けられており，その中で「Arcane」のグローバル上映に合わせて視聴することができた。プロジェクションマッピングで，映像の要所要所で様々な光が照らされていたのが印象的だった

ドーム劇場の中。最前列に座る赤いドレスの女性は，バイオリストのリンジー・スターリングさん。数年前に，エレキバイオリンを使って荒野のガンマンならぬギタリストたちをなぎ倒したMVがバズって，3億回以上もの視聴数を獲得した

イベントに招待されていた数少ないコスプレイヤーが，ヴァイに扮したヴァレンティーナ・クリップ（Valentina Kryp @vkryp）さんと，ジンクスのナディア・ソニカ（Nadya Sonika @nadyasonika）さん。インスタグラムにそれぞれ43万人と28万人のフォロワーを持つラテンコンビだ

イベント会場から唯一見えたRiot Gamesオフィス内部が，社員専用のコーヒーショップ。カッコイイ

各国からインフルエンサーも参加していた「Arcane」のプレミアイベントだが，日本から参加していたのがストリーマーのbroooock氏（左）とJapaneseKoreanUG氏（右）。broooock氏は，「（メイジでプレイするので）ヴァイやジンクスはこれまで気に留めなかったけど，このアニメを機にゲームの世界観により興味を持つことができる」とゲームファンを代弁していた（写真はホテルのロビーにて）

　「Arcane」は，3章構成で，1章ずつ3つのエピソードが毎週公開されるという手法で、Netflixにて配信中。第2章となるエピソード4〜6は11月13日に，第3章のエピソード7〜9は11月20日に配信される予定だ。
　すでに，モバイルゲーム「リーグ・オブ・レジェンド：ワイルドリフト」（iOS / Android）においては，ジェイスと彼とは恋仲であるケイトリンが登場する新イベントも開始しており，ゲームとアニメの相乗効果も狙ったコンテンツもリリースされるなど，ファンにとっては楽しめる仕掛けも多そうだ。
　ジンクスとヴァイだけでなく，ジェイスやケイトリン，そしてヴィクターやエコー，さらにはハイマーディンガーといった，脇を固めるキャラクターたちがどのようにチャンピオンへと成長していくのか。気になる人は，ぜひとも「Arcane」チェックしてみてほしい。

「Arcane」公式サイト

「リーグ・オブ・レジェンド」公式サイト