レビュー
Phenom II X4初のTurbo CORE対応モデルを検証する
Phenom II X4 960T Black Edition/3.0GHz
Phenom II X6シリーズが発表された2010年4月下旬の時点でその存在が明らかになっており,海外の一部メディアでは性能検証が行われたりもしていたTurbo CORE対応のクアッドコアCPUが,Fusion APU「AMD A-Series」の発表後というタイミングで登場してきたことになる。
ある意味,満を持しての登場になったともいえるが,果たしてX4 960Tに存在意義はあるのか。ベンチマークテストから,その立ち位置を探ってみたい。
6コアのThubanから2コアを無効化したモデル
X4 965と比べて定格クロックは400MHz低い
「Thuban」(トゥーバン)コアのPhenom II X6で初めて採用された本機能。技術的な詳細は,2010年5月22日掲載のテストレポートをチェックしてもらえればと思うが,Phenom II X6では最大3コアまでが自動クロックアップの対象なのに対し,Thubanコアをベースに2コアを無効化した「Zosma」(ゾスマ)コアを採用するX4 960Tでは,4コア中,最大2コアまでになっているのが大きな違いである。
X4 960Tの定格動作クロックは,冒頭でもお伝えしたとおり3.0GHz。これは「Phenom II X4 955/3.2GHz」より低いことになるが,Turbo COREにより,1コアのみに負荷がかかった状態では3.4GHz,2コアに負荷がかかった状態では3.3GHzまで上がる仕様になっているため,それを加味したモデルナンバーになっているということなのだろう。
実際,複数のコアでそれぞれπ計算を行えるソフトウェア「Hyper π」を用いてテストしてみたところ,実行時に使用するコアを1コアのみに絞ったときに,3.4GHzで動作することがあるのを確認済みだ。
もちろん有効化できるかどうかは個体差があるうえ,事情があって無効化されている以上,6コアで常用すると不具合の原因になる可能性も否定はできないが,「6コア化できる可能性がある」というのは,コストパフォーマンスを追求するユーザーにとって,看過できないポイントだろう。
なお,表1は,そんなX4 960Tの主なスペックをまとめたもの。ステッピングも加味すると,基本的にはThubanコアのTDP 95Wモデルに近い仕様だとまとめてよさそうだ。
※注意
CPUのコア数アンロックは,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。すべての個体で可能であるとは限りませんし,場合によっては,CPUやマザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
Turbo COREのON/OFFの両方のテストを実施
さらに6コア化した場合のパフォーマンスも検証
というわけで,X4 960Tのパフォーマンスを見ていきたい。今回比較対象として用意したのは,Turbo CORE適用時の最高クロックがX4 960Tと同じ3.4GHzのX6 1065Tと,その3.4GHzが定格クロックの「Phenom II X4 965 Black Edition/3.4GHz」(以下,X4 965)だ。
ただし,機材調達の都合上,X4 965は「Phenom II X4 975 Black Edition/3.6GHz」(以下,X4 975)の動作クロックを引き下げて,それ相当として使用していることをお断りしておきたい。そのほか,下に記した表2のテスト環境で,X4 960Tのパフォーマンス計測していく。また,テストタイミングの都合上,ドライバは最新の「Catalyst 11.6」ではなく,「Catalyst 11.5」になっているので,この点もご注意を。
テスト方法は,4Gamerのベンチマークレギュレーション11.0に準拠。ただし,時間の都合で,「3DMark 11」(Build 1.0.2)と「Just Cause 2」,「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)の3つにテストを絞っている。そのうえで,16:9のディスプレイが増えてきている現状と,GPU依存になりがちな高解像度を避けるといった意味合いから,解像度は1280×720ドットと1600×900ドットの2つを用いた。
また,GPU依存になりがちな設定を避ける理由から「高負荷設定」は使用せず,「標準設定」もしくは「低負荷設定」のテストのみを実行している。
なお,Turbo COREに対応したモデルでは,Turbo COREがベンチマークテスト結果に与える影響を確認すべく,有効時,無効時のそれぞれでテストを行うことにした。以下本稿では文中,グラフ中とも,CPU名に「(TC有効)」「(TC無効)」と付記して区別する。
さらに,6コア化が可能だったX4 960Tでは,Turbo COREを有効化しつつ,「X4 960T(6コア動作)」としてテストを行うことにした。
従来どおりTurbo COREのメリットは薄い
6コア化でパフォーマンスが大きく向上する場面も
それではテスト結果の考察に移ろう。グラフ1,2は3DMark 11の結果となる。
まず,総合スコアをまとめたグラフ1を見ると,X4 960T(TC有効)のスコアが,X4 965とX6 1065T(TC有効)に届いていないのが分かるだろう。Turbo COREでの最大3.4GHzよりも,定格3.4GHzのほうが有利であり,また,マルチスレッドへの対応が進んでいる3DMark 11では4コアより6コアのほうが有利であるという,いずれも当たり前のことが,はっきり確認できたわけだ。
続いてTurbo CORE機能の有無に注目すると,X4 960T(TC無効)のスコアは,Perfomance設定だとX4 960T(TC有効)にわずかながら及ばないものの,CPUへの依存度がより大きくなるEntry設定だと逆に上回った。これは,かつて行ったテストレポートと同様の傾向だ。
また,X4 960Tを6コア化した場合は,コア数のメリットが大きく表れており,X6 1065T(TC有効)を上回るスコアを示している。
グラフ2は,3DMark 11のテストから「Physics Score」と「Combined Score」とを抽出したもの。数値に差こそあれど,全体的には総合スコアとほぼ同じ傾向といっていいだろう。
Just Cause 2の結果をまとめたグラフ3では,Turbo CORE有効/無効に関わらず,X4 960TのフレームレートがX6 1065T以上X4 965以下になった。動作クロックが2.9GHz固定か,3.0〜3.4GHzか,3.4GHzかという違いが分かりやすく出た印象だ。
そしてこれは,Just Cause 2においては,Turbo COREも6コアも恩恵がほとんどないというのと同義でもある。
Civ 5においてX4 960T(TC有効)は,X4 965やX6 1065T(TC有効)のフレームレートに届いていない。また,Just Cause 2と同様にTurbo COREの恩恵も皆無といっていいほどだ(グラフ4)。
Civ 5はマルチスレッド処理能力がスコアを左右しやすいタイトルなので,X4 960T(6コア動作)のスコアに着目すると,6コアCPUのメリットを感じられるが,それ以上に動作クロックのほうが“効いている”のもまた確かだ。
高負荷時の消費電力はDenebから大きく低下
逆にアイドル時は消費電力が増加
テストにあたっては,OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,CPUに負荷を掛けるストレスソフト「OCCT」(Version 3.1.0)を30分間連続実行した時点を「高負荷時」としている。
その結果をまとめたものがグラフ5だが,まず気づくのは,X4 960Tのアイドル時が高めに出ていること。少なくとも,ZosmaコアがThubanコアから2コアを削減しただけならば,消費電力も近い値になるはずなのだが,そうなってはいない。
その原因は,おそらくアイドル時の動作電圧だ。上に示した表1で示したとおり,アイドル時の動作電圧はX6 1065Tが1.000Vなのに対して,X4 960Tは1.05V。この違いが,アイドル時の消費電力を増やしてしまっているのではなかろうか。
一方,高負荷時だと,X4 960TはX6 1065Tより低いが,これは6コア中2コアが駆動していないので,ある意味順当な結果といえる。6コア化したX4 960T(6コア動作)でX6 1065Tとほぼ同じ結果になっているのも納得できるところだ。
クアッドコアCPU同士で比較してみると,さすがにTDP 125WのX4 965と比べ,X4 960Tの消費電力は低い。今回テストしているX4 965はX4 975からの倍率変更なので,実際の差はもう少し縮まるかもしれないが,X4 960TがTDP 95W版プロセッサらしい消費電力に収まっているのは間違いないところだ。これはZosmaコアのDenebコアに対する優位性といっていいだろう。
なお,X4 960T(TC有効)とX4 960T(TC無効)で消費電力にほとんど差がないのは,OCCTが全コアに対して均等に負荷を掛ける仕様上,Turbo COREが機能しないためである。
最後にCPUの温度を確認しておこう。
今回は,テスト用のシステムをバラック状態のまま室温20℃の環境に置き,アイドル時と高負荷時のそれぞれについて測定を行っている。スコアは,モニタリングソフト「HWMonitor Pro」(Version 1.11)を用いて測定した各コアの温度の平均を採用した。
温度計測時に使用したCPUクーラーは,Socket AM3&AM2共通のリファレンス品(※今回はWindsorコアの「Athlon 64 X2 6000+/3.0GHz」に付属していたもの)だ。
というわけで,結果はグラフ6のとおり。X4 960TのCPU温度は,高負荷時でX6 1065Tより低いものの,アイドル時にX6 1065Tより高くなってしまうという消費電力どおりの結果になった。なお,X4 960T(6コア動作)がN/Aなのは,6コア化したことによりHWMonitor ProがCPU温度を取得できなかったためである。
常識的に考えれば次世代CPU待ちだが
6コア前提なら1万円台前半の価格設定は悪くない
以上,X4 960Tを見てきた。
まず,絶対的に確かなのは,新型Fusion APUたるAMD A-SeriesのデスクトップPC向けモデルが近づいてきているこのタイミングで登場しても,市場の注目はほとんど集めないということだ。
夏の終わり頃になりそうな次世代ハイエンドCPU「Zambezi」(ザンベジ,開発コードネーム)こと「AMD FX-Series」の登場を待つかどうかはともかく,デスクトップPC向けAMD A-Seriesの評価が定まってからでも,X4 960Tの取捨選択をするのは遅くないだろう。
ただ,日本AMDによるX4 960Tの店頭想定売価が1万2980円前後になっている点は憶えておきたいところだ。これは,X4 965の実勢価格(※2011年6月23日現在)とほぼ同じだが,X4 960Tには,消費電力面でメリットがあり,かつ,うまくいけば6コア化の期待も持てるわけで,その部分に魅力を感じるコアな人達にとっては,なかなか面白い存在といえるかもしれない。
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