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[CEDEC 2009]今のゲーム業界にアンチテーゼを投げかけた「Demon\'s Souls」のゲームデザイン
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印刷2009/09/01 20:42

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[CEDEC 2009]今のゲーム業界にアンチテーゼを投げかけた「Demon's Souls」のゲームデザイン

画像集#029のサムネイル/[CEDEC 2009]今のゲーム業界にアンチテーゼを投げかけた「Demon's Souls」のゲームデザイン
 本日(9月1日),パシフィコ横浜で開催されたCEDEC 2009にて,「Demon's Soulsのゲームデザイン」と題された講演が行われた。登壇したのは,「Demon's Souls」(デモンズソウル)のプロデューサーであるソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)の梶井 健氏と,ディレクターを務めたフロム・ソフトウェアの宮崎英高氏の二人だ。

 改めて説明しておきたいが,Demon's Soulsは,2009年2月にSCEより発売された本格派のアクションRPG。ダークな世界設定に加え,最近では珍しいほどのマニアックさが話題を呼んだ作品だ。無名のオリジナルタイトルとして発売された本作だが,プレイヤーからの評価は非常に高く,クチコミでじわりじわりと売れ続けているタイトルでもある。

 以前4Gamerでもインタビューを行っているので,詳しくはそちらを参照してほしいが,今回の講演は,そんなデモンズソウルを作るうえでのコンセプト,あるいはゲームデザインの骨子について語るという内容。会場には,多くの業界関係者や学生が詰めかけ,立ち見が大勢出るほどだった。講演自体も,現在のゲームのあり方に疑問を投げかける,なかなか興味深い内容。早速その模様をお届けしよう。

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 最初に登壇したのは,SCEの梶井氏。Demon's Soulsを「プロデューサー」としての視点から語るという切り口で,近年のゲーム業界の動向,そしてそうした状況のなかで本作をどういう位置づけで企画していったかを説明した。
 梶井氏は,近年ゲームのハードウェアの性能が飛躍的に向上し表現力が増す一方,開発費が高騰するという,よく言われるゲーム業界の問題点を改めて説明しながら,「開発リスクが高まったことで,マーケティング主導の制作スタイルを余儀なくされる風潮があります」と指摘。そして「その結果として,制作側が“何を作りたいか”が重視されなくなってしまっているのではないか」と警鐘を鳴らす。

 要するに,開発リスクを軽減するという名の下に,続編,原作モノ,あるいは売れたタイトルの模倣のような企画の方が,プロジェクトとして走りやすいという話だ。とく新規性の高いものだと,その面白さを事前に証明することができず予算が付きにくいというのは,ゲーム業界の昔からの課題ではある。
 梶井氏はそうした状況に対して,「オリジナルで新規性の高い企画,チャレンジャブルな作品が制作しにくい状況にあり,これがゲーム制作者の斬新なアイデアを埋没させてしまっているのではないか」「そしてこうした風潮こそがゲームのマンネリ化を生むのではないか」と危機感を抱いていたのだという。

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 軽く補足をするならば,この手の話は,何もゲーム業界に限った問題ではない。同じエンターテインメント産業の映画業界などでも,この「マーケット主導」の制作スタイルは大きな問題になって来ており,「どう面白いものを作るか」よりも,「どうプロジェクトとしてのリスクを回避するか」が重視される。
 ゲーム業界にしても,何億,何十億というプロジェクトともなると,その成否以前に,まず制作のための予算を集めるために“分かりやすい説得材料(お金を出すのは,投資家や企業の上層部だからだ)”がどうしても必要になり,それを集めていくと,梶井氏が指摘するような方向性になってしまうという話は良く聞くところ。

 Demon's Soulsでは,そうした風潮にある種のアンチテーゼを投げかける意味で,ゲームの面白さを見直す「原点回帰」をコンセプトに,「時流に乗っている,売れそうなどという部分はひとまず置いて,面白いかどうかを重視する企画作りを始めた」「何よりも制作者達が作りたいと思えるものを作り込んだ」のだという。さらっと「売れそうという部分は置いて」と語っていたが,こうしたアプローチは,なかなか出来るものではないのは,上でも説明した通りだ。

 とはいえ,梶井氏によれば,こうした制作スタイルは決して平易なものではなかったようだ。単純に言えば,「売れるかどうか分からない不安,プレッシャーが,常に開発チームにのし掛かっていた」という。仕事として取り組む以上は結果を求められるし,リスクを意識しながらの開発は,やはり精神的にも負担は大きかったようだ。上層部からの「もっと売れ線を狙え」という要求や突っ込みも,少なからずあったことだろうと思われる。
 結果として,そうした近年の流行とは真逆のアプローチをしたことが,Demon's Soulsを際立たせることになったわけだが,本作がリスクが高いプロジェクトであるということは,プロデューサーである梶井氏自身が一番理解していたようだ。

 氏は,最後に「ゲームは,いろいろな作品があるからこそ楽しい。ゲーム業界が発展するためにも,リスクを恐れずにチャレンジしていく姿勢が必要なのではないか」とし,講演を締めくくった。

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 続いて,Demon's Soulsのゲームデザインを務めたディレクターの宮崎氏が登壇。氏は,「梶井さんにお話を頂いたとき,好きなゲームを作っていいってことだな,と解釈しました(笑)」と冗談めかしながら,Demon's Soulsのゲームデザインの具体的なアプローチ方法について話を進めた。

 宮崎氏の話は,基本的には以前4Gamerのインタビューで語っていたことを,分かりやすく説明していく……といった内容。Demon's Soulsのコンセプトもやはり「原点回帰」であり,ゲームが昔ながらに持つ面白さを再現しながらも,新しい刺激としてネットワーク要素を企画の柱として盛り込んだことなどが語られた。
 Demon's Soulsが実装するオンラインシステムの面白いところは,人と人とのコミュニケーションのあり方を分析し,その面白いところを“抽出”“簡略化”しているところなのだが,宮崎氏は,そうしたシステムを実装するに至った経緯,その考え方など説明する。
 曰く,「オンライン要素は,その先に“人”が見えるという意味で,ゲームに新しい刺激をもたらす要素だと思います。しかし半面,煩わしさや面倒さが大きなネック」としてあらわれるわけで,「そうした余計な要素を取り除いてあげれば,オンラインの良さだけを取り込めるのではと考えた」「企画当時,既存のオンラインゲームの多くは“同場性”を拡張することで,ゲームの可能性を広げた。けれど,“同時性”はそのままだったので,そこは負荷だと思っていた」という。

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 “同場性”“同時性”という聞き慣れない言葉が出てきてちょっと分かりにくいかもしれないが,これは,例えば昔のオンラインゲームの「売り文句」を想像すると分かりやすい。つまり,「家にいても友達と遊べる!」「家に居ながら世界中と対戦が!」など,ゲームでネットワークを売りとして使う場合,この“場所”の概念を拡張するという部分が大きな魅力だったということだ。
 ネットワークが無い時代は,それこそ友達の家などに集まって遊ぶしか「人と遊ぶ術」がなかったわけだが,ネットワークは,そうした“場”の概念を打ち崩すことで,ゲームの可能性を広げたという話である。
 しかし,場所の概念は無くなっても,対戦格闘ゲームやMMORPGなどは,プレイヤー同士が同じ時間にログインしていないと遊べない。つまりは,宮崎氏の言うところの「同場性は拡張されたけれど,同時性はそのままだった」というわけだ。

 Demon's Soulsでは,そうしたツール/メディアとしての可能性を広げることで,ゲームの可能性を広げられる……と考えていたらしい。これは以前の記事でも触れたことだが,ニコニコ動画などがある現代ならともかく,企画当時(4年くらい前?)にこの視点を持っていたのは,素直に凄いことである。

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 さて,一通りの講演が終わった後で,質疑応答が行われたのだが,その質問内容が筆者としてはとても興味深かった。どんな内容かというと,「どうやって社内調整をしたのか」「マーケや上層部からの反発をどう抑えたのか」など,Demon's Soulsのような企画がどうやって立ち上がりから完成までこぎ着けたのか? そんな部分を探る質問が数多く飛び出たからだ。
 言うまでもなく,Demon's Soulsは,近年では珍しいほどオリジナリティに溢れた作品である。CEDECの講演ということもあり,視聴者/質問者の中には業界関係者が多かったことと思うわけだが,上記のような質問は,「自分達もオリジナルタイトルを自由に作りたい!」という気持ちの表れだったのかも,と少し思った次第だ。

 ちなみに,気になるDemon's Soulsの続編についてだが,梶井氏曰く「もちろん,前向きに考えたい気持ちは強いですが,現時点ではありません」とのこと。しかしプレイヤーからの評価も高く,またこうした講演でも注目を集める本作だけに,今後,なんらかの動きを期待しところ。是非とも前向きに検討してほしい次第である。

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