レビュー
長寿シリーズの最新作は,ゲーム性をリアル方向に“シフト”
ニード・フォー・スピード シフト
» レースゲーム界の老舗,ニード・フォー・スピードシリーズの最新作は,ゲーム性をぐっとリアル寄りにシフトした,「ニード・フォー・スピード シフト」。とはいえ,カジュアルゲーマーにも十分楽しめる仕掛けがあちこちに用意されており,幅広い層が楽しめる作品に仕上がっている。そんなシフトを,4Gamer車両班班長を務めるライターのUHAUHA氏がレビューした。
レースゲーム界きっての長寿シリーズ
「ニード・フォー・スピード」に最新作が登場
エレクトロニック・アーツの看板タイトルにして長寿レーシングゲームシリーズの一つ,ニード・フォー・スピードシリーズ。1994年に登場した第一弾,「Road & Track Presents: The Need for Speed」から15年。「こちら」のニュースにもあるとおり,今年で全世界のシリーズ累計販売本数が一億本を突破したという由緒正しいシリーズなのだ。そんなシリーズの新作が,2009年11月12日にエレクトロニック・アーツから発売された「ニード・フォー・スピード シフト」(PlayStation 3/Xbox 360/PSP。以下,シフト)だ。今回は,そんなシフトのレビューをお届けしよう。ちなみに,プレイはXbox 360で行っている。
さて,最近のニード・フォー・スピードシリーズは,「一般道を市販車で走り抜けながらレースをする」という基本スタンスは変わらないものの,純粋に(?)ストリートレースを楽しむタイプ(「ニード・フォー・スピード プロストリート」など)とドラマチックなバックストーリーに沿って展開していくスタイル(「ニード・フォー・スピード アンダーカバー」など)がかわりばんこにリリースされているという印象で,今回のシフトは順番どおりだろう,純粋にレース(シフトでは“バトル”と呼ぶ)を楽しむスタイルに仕上がっている。
もともとはリアル系を求めてきたニード・フォー・スピードシリーズだったが,メインプラットフォームをコンシューマ機に移したあたりから,幅広い層に楽しんでもらうため,アーケード寄りの車の挙動特性に味つけされてきた。しかし,本作ではPC向けのコテコテのレースシミュレータ,「GT Legends」「GTR 2」などをスウェーデンのSimBinと共同開発したデベロッパ,Slightly Mad Studiosが開発に参加するなど,カジュアル向けの挙動でないことは,発売前から想像されていた。
どうだったかの結論から言ってしまえば,たしかにリアル系で難度は格段に上がっているものの,幅広い層の人がマシンをコントロールする楽しさを存分に味わえる一本に仕上がっている。
世界の有名サーキットやストリートで
熱いバトルを楽しもう
メインとなるゲームモードは,駆け出しの新人ドライバーとしてさまざまなレースイベント(バトルイベント)に挑戦する,「キャリアモード」である。レースで勝利を収め,手に入れた賞金で新たなマシンの購入やアップグレードを行い,さらに戦って経験を積み,最上位レベルのワールドツアーチャンピオンを目指していくのだ。
そのほか,コース,マシンなどを選択して手軽にレースを楽しめる「クイックバトル」と,オンラインに接続してマルチプレイが楽しめる「Xbox LIVE」の計三種類が用意されている。
レースのタイプは六つで,ライバルと競い合って最終ラップでトップでゴールすれば勝利となる「バトル」(Battle),ライバルと同時走行しながら制限時間内にライバルよりも速いラップを刻むことを目指す「タイムアタック」(Time Attack),3回の走行でドリフトポイントの合計が一番高いドライバーが勝利となる「ドリフト」(Drift),一対一で先行/後行で走行し,最初にゴール地点を通過するか,先行して相手に5秒のタイム差を付けると勝利となる「ドライバー・デュエル」(Driver Duel),単独走行で決められたラップ数のうちに規定タイムを上回ればクリアとなる「ホットラップ」(Hot Lap),そして設定された時間経過後に最後尾から脱落していき,最後まで残ったドライバーが勝利となる「タイム・エリミネーター」(Time Eliminator)だ。これらのレースに,キャリアモードやクイックバトルで挑戦していくことになる。
さらにデータを並べると,収録コースは実在のサーキットとして「スパ・フランコルシャン」「ドニントン・パーク」「ブランズ・ハッチ」「ラグナ・セカ」など,レースファンであればよくご存じのコースのほか,「オートポリス」「エビスサーキット」といった国内サーキットも収録されている。富士スピードウェイや鈴鹿サーキットじゃないところが,なんとなくマニアックだ。
架空のサーキットとしては,前々作プロストリートにも登場した東京を舞台としたストリートコースが引き続き収録されており,実在,架空合わせて計18コース,バリエーションの違いなど合わせると30種類以上のコースが収録されている計算になって,お得な気分。
とはいえ,どちらかというと実在サーキットが多い印象で,リアリティは高いものの,ニード・フォー・スピードシリーズらしいストリートコースがもうちょっとほしかったと思う。
正確な走りか,攻撃的な走りか
両方のドライビングスタイルを求められる斬新なシステム
メインとなるキャリアモードにおいて,プレイヤーは大量のレースイベントに挑戦していくことになる。レースイベントは,さまざまなタイプのレースの組み合わせで構成されており,全部で五つのレベルがある。最初はレベル1の一部のレースイベントにのみ参戦できるだけだが,レースで獲得したスター(評価)によって新たなレースイベントや同じイベントの別のレースがアンロックされる仕掛けだ。さらに走り続けて経験を積むことで,上位レベルのレースイベントもアンロックされていくので,これを繰り返して頂点を目指していくことになるのだ。
というわけで,レースでいかに多くの「スター」と「ポイント」を獲得できるかが,キャリアモードを進めるうえで重要となるのだ。レースごとに“評価目標”と呼ばれる三つの達成すべき目標があり,これらを達成することで1レースにつき最大六つのスターが獲得できるわけだが,個人的にこれが異様に燃える。
スター獲得の条件はトップ3に入賞することで,優勝で三つ,2位で二つ,3位で一つのスターが獲得できるから,毎回優勝しておけば間違いはない。
また,レースごとに得られるポイントによっても最大二つのスターが獲得できる。ポイントについては後述するが,レースごとに例えば480ポイントと960ポイントが設定されており,480ポイント達成でスター一つ,960ポイントで二つという具合だ。
さらに,「所定のラップタイムを切る」「他車との接触やコースアウトをせずに完走する」「規定値以上のスピード出す」など,レースごとに設定された固有目標を達成することでもスターを一つ獲得できる。これで合計六つになるわけだが,固有目標には簡単には達成できないものもあり,全スター獲得には気合を入れてかからなければならない。
さて,問題の「ポイント」だ。ほかのレースゲームにはない,本作独特の要素としてあるのが,ドライビングの正確さ(PRECISION)とアグレッシブさ(AGGRESSIVE)という走りのスタイルによってポイントが得られる仕組みだ。正確さは,「レコードラインに沿って走る」「リアをスライドさせずにコーナーを抜ける」といったことで加算され,アグレッシブさは「ライバルをブロック/スピン/追突させる」「スリップストリームを使う」といったことで加算されていく。
ポイントの加算状況は画面上部中央の,プロフィールポイントメーターで分かり,ポイントを稼いでバーが満タンになると,それ以降のポイントは倍増され,より多くのポイントが稼げる。そして,稼いだポイントは累積され,これが溜まることでレベルアップしていくのだ。
一般的なレースゲームではアグレッシブな走りは御法度だが,こうした走りが評価として認められるところが面白い。コーナーをトレースするような正確な走りや,クリーンなレースを好むプレイヤーだけでなく,多少強引でも果敢にコーナーを攻めたり,他車と激しいバトルを繰り広げたりしたいプレイヤーにも対応したゲームシステムになっているといえるだろう。
とはいえ,ライバルにマシンをぶつけてスピンさせるという固有目標があるせいか,他車の動きはかなりアグレッシブだ。ライバルはあまりお利口ではない印象だが,追突や強引な幅寄せなど凶悪な走りをかましてくれる。そのため,クリーンに走りたい場合にはライバルに邪魔されてイラッとくることが多い。また,最近のレースゲームでハヤリのフラッシュバック機能(ミスを“なかった”ことにしてくれる)が用意されておらず,リスタートはレースを最初からやり直すことになる。これは少々辛い。
キャリアモードではレースの優勝を目指すだけでなく,多くのスターやポイントを稼ぐ走りをしていくことが,最上位レベルへ向かう近道だ。評価目標という要素を設けたことで,単なる順位争いだけでなくなり,不思議なほどテンションも高まる。レースイベントもかなりの数が用意されているので,アンロックされたものから順番に挑戦していこう。
一度クリアしたレースイベントに何度でも挑戦できるので,お気に入りのレースでスターとポイント,そして賞金を稼いで新たなマシンを手に入れたりアップグレードさせたりして,ワールドツアーチャンピオンを目指そう!
追求されたリアルな挙動
マシンごとの特性を感じながら走れ
本作には,往年の名車から最新スポーツカーまで60車種以上がメーカー,車名ともにすべてて実名で収録されている。アウディ,ロータス,ポルシェ,メルセデスベンツ,フォード,ルノー,ランボルギーニといった世界的におなじみのメーカーのほか,トヨタ(レクサス),ニッサン,ホンダ,マツダといった日本車の割合が高いのは嬉しいところだ。
登場する車種はすべて市販車で,往年の名車から身近な車,逆立ちしても手に入らないスーパーカーまで60種類以上の車種が登場する。もちろん,カーモデリングからコクピット内部,挙動特性に至るまでかなり忠実に再現されている |
Nissan Skyline 2000GT-R,1986 Toyota Corolla GTS(AE86 Trueno)などの懐かしの車や,Audi R8,Lamborghini Reventon,Lexus LF-A,McLaren F1など,普通の人ではなかなか手に入れにくい車でレースが楽しめるし,しかもそれらをボコボコにぶつけまくれるのがたまらない。ぜひ,いろいろなマシンを手に入れ,思う存分に乗り回してほしい。
フェラーリが収録されていないのが個人的に残念だが,ダウンロードコンテンツとして今後もさまざまなマシンの追加がある模様なので,楽しみにしていよう。
ゲームに登場する車は,車種ごとにトップスピード,加速,ハンドリング,ブレーキング,駆動方式などが異なり,パフォーマンスによって,レベル1〜4にクラス分けされている。最初は一部のマシンしか使用できないが,キャリアモードでプレイヤーのレベルが上がれば,いい車がマシンがアンロックされていくという,お約束の流れだ。
ここ数年のニード・フォー・スピードシリーズは,マシンの挙動特性がアーケード寄りで誰もが熱いレースバトルを楽しめるような味付けだった。しかし,本作では冒頭でも触れたとおり,定評あるレースシムを開発してきたSlightly Mad Studiosのメンバーが参加していることもあり,比較的リアル系の挙動になっている。
具体的には路面状況や荷重移動によって車の動きが変化するところなどが,きっちりと再現されている。挙動特性は非常にクイックで,乱暴なハンドル操作をすればすぐにコントロールを乱してしまう。そのため,ハンドル,アクセル,ブレーキの微妙な操作が必要になるわけだ。ぶっちゃけ,最初にプレイしたときは,「これは手強いぞ」と思った。暴れん坊な車の動きに,少々戸惑いを感じてしまったのだ。
だが,ゲームパッドを「Xbox 360 ワイヤレス レーシング ホイール」に切り替えてプレイすると,俄然走りやすくなった(関連記事)。やはりパッドと比べて操作性の良さは歴然で,突然の動きの変化にも柔軟に対応でき,ハンドル,アクセル,ブレーキの微妙な操作も直感的に素早く行える。というわけで,可能であればレーシングホイールでのプレイを強くオススメしておきたい。
初心者から上級者まで楽しめる
カスタマイズ&アシスト機能
シリーズ恒例だが,エンジンチューン用のパーツからエアロパーツまで,さまざまなカスタマイズパーツを装着したり,改造を施したりして自分の車をアップグレードできる。各パーツは売買が可能なので,いろいろなパーツを取っ替え引っ替えして,自分なりのマシンを作れるのが楽しい部分だ。
ただし,高性能なパーツで固めたり,高価な改造をしても,それだけで速く走れるわけではなく,たいていは妙に走りにくいマシンになってしまう。車が高性能でも,扱う人間の腕がよくなければ速くは走れないわけで,自分のテクニックに見合ったカスタマイズをしなければならない。
さまざまなカスタマイズ用パーツを装着してマシンをアップグレードできる。お金をかけてハイスペックマシンにすることもできるが,乗りこなせる腕がないと満足に走らせられない。バイナルなども貼り替えられるので,自分なりのカスタマイズを楽しもう |
そんなカスタマイズを生かすため,あるいは車の挙動を大きく変えるためには,マシンのチューニング(セッティング)が必要だ。
チューニングの方法は,ステアレシオ,ギア比,バランス,そしてダウンフォースの4種類をスライダで調整するだけの「クイックチューン」と,部位/パーツごとに細かくチューンできる「アドバンスチューニング」の二つが用意されている。とくにアドバンスチューニングではマニアックなほど細かく調整できるので,このへんを徹底的に凝ってみるのも面白い。
幅広い層のプレイヤーがいるコンシューマ機がメインということもあり,ライバルカーの速さを3段階に調整できるほか,充実したアシスト機能が用意されている。アシスト機能の設定には「ビギナー」「ノーマル」「ハード」,そして「プロ」があり,レベルが上がるにつれて,タイヤのグリップ率が変化し,使用できるアシスト機能が限定されていく。
そのアシスト機能としては,ステアアシスト,減速アシスト,ABS(アンチロック・ブレーキ),TCS(トラクション・コントロール),ESC(横滑り防止装置:エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)がある。
リアル系とはいえ,ステアアシストを有効にすればハンドル操作がサポートされるし,減速アシストを有効にすればコーナーで自動ブレーキが働くといった具合で,これなら,レースゲームビギナーでもスムースに走れるだろう。操作に慣れてきたらアシスト機能を順に外し,自分なりの走りを楽しんでいくのがリアル系レースゲームの遊び方だ。
コクピットに座っていると錯覚させる
G(加速度)の再現
リアリティある挙動を再現してくれるシフトだが。とくに筆者が気に入ったのがG(加速度)の再現。アクセルを踏み込めはシートに押しつけられるように画面が動き,ブレーキを踏めば頭が前につんのめったかのように視点が動く。
こうした見事な演出に,マシンごとに異なるリアルなエンジン音と,本物らしい車の動きがシンクロし,実際にマシンを走らせているようなリアリティを体験できるのだ。
視点はバンパー視点,ボンネット視点,コクピット視点,外部視点の四つが用意されており,どの場合もGが再現されるものの,やっぱりコクピット視点がオススメである。シグナルがグリーンに変わった瞬間から,熱くなること間違いなしだ。
コクピット視点でプレイすると,高速走行で視野が狭まり,ダッシュボードすら見えにくくなる。クラッシュすれば視野がボヤけて,激しい息づかいが聞こえてくる。これは,あまり見たくないが,おそらくイヤというほど見ることになるだろう。
全ゲームモードに共通するやりこみ要素もある。すべてのコースのいくつかのコーナーに,的確なスピードと正確なライン取りで通過したかを示すチェックボックスが用意されており,それらのチェックボックスをクリアしていく楽しみもある。ニュルブルクリンク一周では37か所のコーナーにチェックボックスが用意されているので,すべてをクリアするのは相当苦労するはずだ。
また,「ぶつからずにライバルを抜く」「キャリアモードで10回連続で3位以内に入る」といった獲得条件を規定数満たしていくことでブロンズ,シルバー,ゴールド,エピックいずれかのピン(メダルのようなもの)が獲得できる。普通に走り込んでさえいれば獲得できるものから,気合を入れて狙わないと不可能なものまで,さまざまなピンが用意されており,Xbox 360版なら実績,PlayStation 3版ならトロフィーを獲得するためにプロフィールピンが必要になる。なるべく多くのピンを獲得できる走りをしたい。
最近のニード・フォー・スピードシリーズの世界的な評価がいまいちだった理由の一つとして,本来の“走り”という部分より,ストーリーやドラマ展開に力を入れすぎてきたことが挙げられると思う。個人的には物語がドラマチックに展開したり,美女が登場したりするのは大歓迎なのだが,レースゲームのキモである肝心の走りの部分の力の入れ方が薄く感じられ,ストーリーを進めるための手順として使われているという印象を受けていた。
今回のシフトでは,そうした部分を徹底的に排除し,ライバルとの熱いレースを楽しんだり,あるいは自分なりの走りを極めたりなど,最近のシリーズ作品で薄れていた部分を大幅に“改善”しており,ゲーム性を完全に「シフト」させたというのがピッタリくる。
「このレースは面白かったから,もう一度走ろう」「もっとうまく走れそうだから再挑戦してみよう」というレースが多く,とことん走る楽しさを味わえる,そんな仕上がりになっている。Gもすごいよ。
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ニード・フォー・スピード シフト
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